「ドリルじゃなくても穴は開く」を気付かせる質問とは?

「ドリルじゃなくても穴は開く」を気付かせる質問とは? (1/2)
「ドリルを買おうとしている人は、ドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのだ」――知りたい情報を聞き出すためには、相手にとって“気付き”のある質問をすることが重要だ。
[杉本吏,ITmedia]

 質問によって相手から効果的に情報を引き出すためには、2つのポイントに気を配る必要があることを、前回書いた。

 最初に「なぜあなたにこの質問をするのか」を伝える
 相手にとって“気付き”のある仮説を立て、それを検証する質問をする

→「なんでそんなこと俺に聞くの?」をなくそう

→共感のコツは「夫婦ゲンカの解決法」にあり

 では、相手にとって“気付き”のある質問とは、具体的にはどんな質問のことなのだろう。日立コンサルティングの芦辺洋司マネージングディレクターは、「自分がクライアントの気持ちになりきって考えれば、聞く価値のある質問が見えてくる」という。
「どんなドリルが欲しいんですか?」に“気付き”はない

 昨年、4分の1インチ・ドリルが100万個売れたが、これは人びとが4分の1インチ・ドリルを欲したからでなく、4分の1インチの穴を欲したからだ。

 この言葉は、ハーバードビジネススクールの名誉教授だったセオドア・レビット氏の著書『マーケティング発想法』からの引用だ。

 芦辺氏は言う。「ドリルを買おうとしている客がいたとする。ここで、うまくいかない営業、うまくいかないコンサルタントは、こう聞いてしまう」

 「どんなドリルが欲しいんですか? 大きさは? 素材は? 出せる価格は?」

 しかし、ドリルの価格の相場を知っている客など多くはないし、大きさや軽さについても「できるだけ小さくて軽い方がいいけれど……」くらいのことしか答えられないものだ。ドリルについて詳しくないからプロに相談しているのに、それをずばり聞いてしまっては仕方がない。

 コンサルタント側は「大体○○グラムくらいの重さで、価格はいくらからいくらまでで――」といった答えを期待しているため、客から「できるだけ軽くて、できるだけ安くて」といった答えをもらっても、「それはそうだけれど……」と詰まってしまう。

 そうではなく、まずは「ドリルを買おうとしている客は、ドリルが欲しいのではなく穴を開けたがっているのだ」というニーズをくみ取る。その上で、質問のターゲットを、「ドリル」ではなく「客」に替えるのだ。つまり、「どんなドリルが欲しいのですか?」ではなく、こう質問すればいい。

 「(あなたは)どこに穴を開けたいんですか? いくつ開けたいんですか? そもそもなぜ開けたいんですか?」

 こう尋ねると、客は「実は、机を自作したくて」だとか、「日曜大工だから、使っても週1回くらい」と言った答えを返すだろう。

 穴を開けたい素材によって、適したドリルの刃は違ってくる。1度しか使わないのなら、耐久度は低くてもいいから、安いものという選択肢もある。木や紙に穴を開けたいのなら、そもそもドリルを使わなくてもいいかもしれない。それどころか、「それは穴を開けなくても問題を解決できますよ。本当に穴を開ける必要がありますか?」という提案につながる可能性だってあるわけだ。

 「店頭でドリルを見ている客は、その可能性に気付いていない。そこを気付かせてあげるのがいい質問であり、いい提案」(芦辺氏)。そのために、自分が相手だったら――と考えて、相手が何をしたいのか、を考えるのだという。

「営業のセールストーク」と「コンサルタントのヒアリング」の違いとは?

 営業のセールストークとコンサルティングのインタビューはどう違うのかという質問に、「顧客に対して何かを提供するという意味では同じ」と日立コンサルティングの伊藤雅彦氏は答えた。「ただし、営業には3種類の人がいると考えている」

 「まずは、売れない営業。次に、自社の製品なら売れる営業。最後に、客のためになるなら、他社の製品でも売ってしまう営業」。伊藤氏によれば、コンサルタントの仕事は最後の「他社の製品でも売ってしまう営業」に最も近いという。

 先ほどの例で言えば、「とにかくドリルを売りたい、ドリルが売れさえすればいい」という営業は、「ドリルじゃなくても穴は開きますよ。そもそも穴を開けなくてもいいかもしれません」という提案はしないだろう。

 しかし、そこで本当に客の立場になって考えるならば、ドリル以外の製品を提案するという選択肢が出てくる。ドリルを売れず、そのとき大きな利益を得られなくても、それによって客と信頼関係が築ければ、長期的な付き合いからより大きな利益を上げられるというわけだ。

 「コンサルタントは、製品やサービスを売るのではなく、まず自分自身を売り込む」(芦辺氏)

 言葉や見た目の裏側にある、クライアントの“本当のニーズ”を想像する
 そのニーズを解決するための質問をして、クライアントと長期的な関係を築く

 この2つの手順を実践することで、相手に“気付き”を与える質問ができるわけだ。ただし、そのためには相手の立場になって考える必要がある。どうすれば顧客目線に立てるのか。相手の立場を理解するとは、具体的にどんな考え方をすればいいのか。次回は「夫婦喧嘩を収める方法」を例に、「手の立場になって考える」方法について紹介する。

http://bizmakoto.jp/bizid/articles/0812/05/news015_2.html