貸倒引当金とは?仕訳(勘定科目・繰入・戻入)や計算方法を紹介

貸倒引当金とは?仕訳(勘定科目・繰入・戻入)や計算方法を紹介

貸倒引当金とは
貸倒引当金(読み方:かしだおれひきあてきん)とは、引当金のうち、金銭を受け取る権利である、金銭債権に対して設定される貸借対照表の表示科目です。
そもそも引当金とは、将来発生する可能性が高い特定の損失、また費用に対して設定するべきものとされており、引当金を貸借対照表に表示することで、投資家などに有用な情報が提供できるものと考えられています。
(※引当金に関しては、当期以前の事象に起因していること、金額を合理的に見積もれることも要件)
貸倒引当金も同じく、将来の金銭債権が取り立て不能になる可能性がある場合に設定することで、将来の損失の可能性を示す目的をもつものです。
ちなみに英文会計では、貸倒引当金をAllowance for doubtful accounts(読み方:アラウアンス・フォー・ダウトフル・アカウンツ)、またはBad debt reserve(読み方:バッド・デット・リザーブ)と表します。
対象となる債権
貸倒引当金の設定の対象となる債権は、以下のようなものです。資料は、国税庁の法人税上の取扱いのうち、「一括評価金銭債権」といって、債務超過や更生計画など問題のある会社の債権以外を示しています。
(※債務超過などの「個別評価金銭債権」に該当するケースでは、対象の債権の範囲が広くなる可能性があります)
(1)売掛金、貸付金
(2)未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等又は貸付金の未収利子で益金の額に算入されたもの
(3)他人のために立替払をした場合の立替金(次の2の(4)に当たるものを除きます。)
(4)未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
(5)保証債務を履行した場合の求償権
(6)売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形
(7)売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
(8)延払基準を適用している場合の割賦未収金等
(9)売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
(注)法人税法上のリース取引の内容については、コード5702「リース取引についての取扱いの概要(平成20年4月1日以後契約分)」を参照してください。
(10)工事進行基準を適用している場合のその工事の目的物を引き渡す前の工事未収金(平成20年4月1日以後に開始する事業年度)
引用:「No.5500一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」(国税庁)
対象となる債権はこのように複数ありますが、貸倒引当金の対象としてよく挙げられるのが、貸借対照表の流動資産に区分される、売掛金や受取手形といった売上債権(営業に関わる債権)。そして、1年以上先の返済であれば固定資産に区分される貸付金です(返済期限1年以内のものは流動資産)。
債権とみられないもの
貸倒引当金に設定すべき債権とみられないのは、以下のような金銭債権です。(国税庁の一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲より)内容を見ると、受け取る権利はあっても受取期日の到来していない配当金、費用の前払いなど、設定すべき金銭債権と違い、企業の営業活動に大きく影響しない債権が多いことが分かります。
(1)預貯金及びその未収利子、公社債の未収利子、未収配当その他これらに類する債権
(2)保証金、敷金、預け金その他これらに類する債権
(3)手付金、前渡金等のように資産の取得の代価又は費用の支出に充てるものとして支出した金額
(4)前払給料、概算払旅費、前渡交際費等のように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金等として経理されている金額
(5)金融機関における他店為替貸借の決済取引に伴う未決済為替貸勘定の金額
(6)証券会社又は証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額
(7)雇用保険法、雇用対策法、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定に基づき交付を受ける給付金等の未収金
(8)仕入割戻しの未収金
(9)保険会社における代理店貸勘定の金額
(10)法人税法第61条の5第1項(デリバティブ取引に係る利益相当額の益金算入等)に規定する未決済デリバティブ取引に係る差金勘定等の金額
(11)法人がいわゆる特定目的会社(SPC)を用いて売掛債権等の証券化を行った場合において、その特定目的会社の発行する証券等のうちその法人が保有することとなったもの
(12)工事進行基準を適用している場合のその工事の目的物を引き渡す前の工事未収金(平成20年3月31日までに開始する事業年度)
引用:「No.5500一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」(国税庁)
貸倒損失との違い
「貸倒引当金」に関連する科目に「貸倒損失」(費用)があります。「貸倒損失」は、金銭債権が回収不能になった時に使う科目で、貸倒引当金と少し似ています。違いは、貸倒損失は当期に回収不能なものと確定していることで、貸倒引当金は見積額であるのに対して、貸倒損失は確定額であることです。
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貸倒引当金の計算方法(法定繰入率)
会計基準では、貸倒引当金の計算を行うにあたって、対象の金銭債権を「一般債権」、「貸倒懸念債権」(債務弁済に重大な問題がある債権)、「破産更生債権等」(実質的も含め債務者が経営破綻している)に分け、計算します。税法上の制限もあり、一般債権と個別評価債権に区分し、それぞれ損金への繰入限度額が定められています。
<一般債権の計算方法>
原則法(貸倒実績率法)
過去3年の貸倒実績を債権全体又は同種・同類の債権ごとに見積もって計算する方法
(図1)
画像の説明
引用:No.5501一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定(国税庁)
特例(法定繰入率による計算)
資本金5億円以上の企業を親会社にもつ100%子会社などを除き、資本金1億円以下の中小企業、公益法人などは法定繰入率を使った計算も選択できます。法定繰入率を用いる場合は、まず、業種判定が必要です。
 (表) 
業種 割合
卸売業や小売業(飲食業含む) 1.0%
製造業 0.8%
金融業や保険業 0.3%
割賦販売小売業
個別信用購入・包括信用購入あっせん業 1.3%
その他 0.6%
 (表)
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参考:「No.5501一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」をもとに作成(国税庁)
※原則法、特例、いずれも、債務者から受け取った売上債権に関わる前受金、保証金などは差し引いて計算します。
<個別評価債権の計算方法>
財産内容評価法
担保の処分や保証金の回収見込みを控除し、債務者の経営状態や支払い能力に応じて貸倒引当金を計算する方法。(破産更生債権等に適用)
キャッシュ・フロー見積法
債権を現在価値で割り引いた額と帳簿価額との差額を引当金にする方法。
消費税の取扱い>
破産更生債権など、全額の回収が困難と思われる貸倒引当金の計算をする際は、貸倒に対応する消費税を、発生した期間の消費税から控除します。
<貸倒引当金設定の注意点>
税法上、特定の取引や特定の業種を除き、資本金5億円以上の大企業(大企業の100%子会社含む)は平成27年度以降、貸倒引当金の繰入が認められなくなりました。中小企業と異なり損金算入できないので、注意が必要です。個人事業主に関しては、青色申告の人に限り年末の帳簿価格の5.5%以下(金融業は3.3%以下)を一括評価として、一定の貸金のうち損失見込みの事由に応じた限度額まで個別評価として経費に含められます。
貸倒引当金の勘定科目
貸倒引当金の設定に関連する勘定科目を解説します。
貸倒引当金
売掛金などの売掛債権が将来、貸倒(回収不能など)に陥ることに備えて、貸倒引当金の勘定科目を使って将来の貸倒の見積り額を計上します。
貸倒引当金繰入
貸倒引当金(負債)を設定する場合の、借方にくる勘定科目で、当期の費用です。貸倒引当金繰入額ともいわれます。
仕訳例:一般債権1,000万円に対して、貸倒引当金1%を見積もった。
 (表)
借方 貸方
貸倒引当金繰入 100,000円 貸倒引当金 100,000円
 (表)
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貸倒引当金戻入
貸倒引当金の見積りを変更した場合などで貸倒引当金が過剰に計上されることになった場合、債務者の経営が好転して貸倒引当金の見積り額が下がった場合などでは、雑収入ではなく、貸倒引当金戻入(あるいは貸倒引当金戻入額、貸倒引当金戻入益)の勘定科目を使って貸倒引当金の額を調整します。
仕訳例:貸倒引当金50,000円を戻し入れた。
 (表)
借方 貸方
貸倒引当金 50,000円 貸倒引当金戻入 50,000円
 (表)
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貸倒引当金の仕訳方法
税法上、資本金が一定以下の中小企業や公益企業、個人で青色申告を選択している人などに認められるのが、貸倒引当金の繰入です。貸倒引当金繰入額の求め方と計算式は、先の見出しでも紹介したように税法上は縛りがあります。一般債権の繰入限度額を算出する場合、1カ月未満の端数を切り上げて1カ月とし、過去3年間の貸倒実績率で評価するのが原則です。
債権の種類や債務者の経営状態などは変化しますので、毎期あるいはその都度、貸倒引当金は見直します。貸倒引当金の見直しを期末に図る際の仕訳には、「差額補充法」と「洗替法」の2つの方法があり、使用する勘定科目が異なります。この項では、2つの方法の違いを、仕訳を中心に見ていきましょう。
差額補充法
差額補充法は、貸倒引当金の設定にあたり、不足している額を繰り入れる方法です。税法上、容認されています。
仕訳例:当期の見積りでは貸倒引当金は150,000円となった。
(前期末の貸倒引当金の残高は50,000円である。なお、当期において貸倒は発生していないものとする)
 (表)
借方 貸方
貸倒引当金繰入 100,000円 貸倒引当金 100,000円

 (表)
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計算式:150,000円(当期の見積り)-(50,000円(前期の残高)-0円(当期の発生額)=100,000円
洗替法
大企業ではすでに廃止された貸倒引当金ですが、中小企業などでは税法上、繰入が認められています。法人税法上、貸倒引当金の繰入で原則とされているのが、洗替法です。洗替法では、前期の貸倒引当金をいったん取り崩し、当期の見積り額を新たに計上する仕訳を行います。
仕訳例:当期の見積りでは貸倒引当金は150,000円となった。
(前期末の貸倒引当金の残高は50,000円である。なお、当期において貸倒は発生していないものとする)
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 (表)
借方 貸方
貸倒引当金 50,000円 貸倒引当金戻入 50,000円
貸倒引当金繰入 150,000円 貸倒引当金 150,000円
 (表)
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「差額補充法」、「洗替法」いずれを選択する場合であっても、「貸倒引当金」の額は同じになりますので、選択する方法によって貸倒引当金の額に影響することはありません。
貸倒損失の要件と仕訳処理
大企業においては、税法上、貸倒引当金が廃止となったため、貸倒の可能性があっても、確定していない時点では損失を認識することができません。これは、経営者の恣意的な利益操作を排除するためであり、大企業においては中小企業よりも多額の利益操作が可能になると考えられているのです。
しかし、大企業であっても、貸倒が確実となった場合は、回収不能になった時期が含まれる事業年度に「貸倒損失」として計上することで、損金算入ができます。(中小企業や個人も、貸倒損失の計上で損金算入が認められます)
ただし、貸倒損失の損金算入にあたっては、一定の要件が定められているため注意が必要です。法人税法上は、以下のような金融債権が貸倒損失として認められる要件となっています。
 (表)
金銭債権が切り捨てられた (1)会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
(2)法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定及び行政機関や金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
(3)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して、書面で明らかにした債務免除額

引用:「No.5320貸倒損失として処理できる場合」(国税庁)

全額回収不能となった 債務者の支払い能力、資産状況などから、全額回収不能であることが明らかなとき
一定期間取引停止弁済がない (1)継続的な取引を行っていた債務者の資産状況、支払能力等が悪化したため、その債務者との取引を停止した場合において、その取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき
(ただし、その売掛債権について担保物のある場合は除きます)
なお、不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権については、この取扱いの適用はありません。
(2)同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がない場合

引用:「No.5320貸倒損失として処理できる場合」(国税庁)

 (表)
スクロールできます
貸倒損失では消費税を控除するため、以下のような仕訳が必要です。
<税込み処理の会社で貸倒になったとき>
仕訳例:売掛金のうち55万円が回収不能となった。貸倒引当金は45万円設定していた。
消費税は10%)
 (表)
借方 貸方
貸倒引当金 450,000円 売掛金 550,000円
貸倒損失 100,000円
 (表)
スクロールできます
<税抜き処理の会社で貸倒になったとき>
仕訳例:売掛金のうち55万円が全額回収不能となった。貸倒引当金は45万円設定していた。
消費税は10%)
 (表)
借方 貸方
貸倒引当金 450,000円 売掛金 550,000円
貸倒損失 50,000円
仮受消費税 50,000円

 (表)スクロールできます

消費税額の計算上、貸倒れた売掛金に係る消費税額は貸し倒れに係る税額として課税標準額に対する消費税額から控除されます
その他の貸倒引当金に関する基本知識
貸倒引当金に関連するその他の基礎知識を解説します。
不良債権の計算方法(個別評価)
経営破綻で回収が難しい債権、経営破綻といかないまでも回収が遅延していて回収が懸念される不良債権は、税法上個別評価を行います。貸倒引当金の計算方法でも触れたように、個別評価で認められる計算方法が、財産評価法とキャッシュ・フロー見積法です。破産更生債権等と貸倒懸念債権で、計算のやり方をもう少し詳しく見ていきましょう。
<破産更生債権等>
破産更生債権等は、保有する債権のうち、実質も含め債務者が経営破綻に陥っている状態のものです。破産更生債権等は、財産評価法を用い、保有する破産更生債権等に区分される債権から担保の処分や保証の回収可能分を差し引いて計算します。
(計算例)
破産更生債権等に区分される債権の額50万円、回収可能な保証額は20万円
 50万円-20万円=30万円   30万円を貸倒引当金に設定
<貸倒懸念債権>
弁済が1年以上遅延しているなど、貸倒懸念債権に区分される債権は、財産評価法とキャッシュ・フロー見積法のいずれかで計算します。財産評価法を用いる場合は、金銭債権の額をそのまま用いるのではなく、債務者の支払い能力などを考慮して計算します。
(キャッシュ・フロー見積法の計算例)
キャッシュ・フロー見積法による貸倒懸念債権の現在価値は45万円、帳簿価格は50万円
 50万円-45万円=5万円  5万円を貸倒引当金に設定
貸借対照表の表示科目
貸倒引当金は負債ですが、貸借対照表に表示する際は、貸方の資産の控除科目として、マイナスの記号を付けて流動資産、または固定資産の項目の一番下に表示します。一般債権など、おおむね1年以内に回収の可能性がある債権は流動資産、破産更生債権等など1年を超える場合は固定資産にそれぞれ表示します。
貸借対照表の明細を表示する付属明細書を作成する際は、貸倒引当金を、当期増加額、当期減少額(目的使用、その他)、期首残高、期末残高に分けて詳細を表示します。当期減少額のうち目的使用とは、特定の目的のために取り崩した引当金のことです。
損益計算書の表示科目
「貸倒引当金繰入」のうち、営業に関わるものは「営業損益」、営業外のものは「営業外損益」、破産更生債権等などで臨時かつ多額のものは「特別損失」に表示します。洗替法による「貸倒引当金戻入」は、貸倒引当金繰入と相殺して、取崩益が出る場合、利益に区分します。
貸倒引当金は計上しない場合
貸倒引当金は、会計上は引当金の計上が要請されるものの、税法上は大企業で廃止されていることから分かるように、強制ではありません。法人税法上は任意に設定できます。これは、未実現の費用を貸倒引当金繰入として計上することで、赤字を増やすことになるためです。
しかし、税法上は計上しなくても良いといったものの、会計上は利害関係者への有用な情報を提供する目的で貸倒引当金を設定することとされています。会計上の扱いと、税法上の扱いが異なる点には注意しましょう。
まとめ
貸倒引当金は、企業の金銭債権の回収見込みを表す科目として重要な科目です。会計上は企業の規模を問わず、貸倒になると予想される見積額が計上されることになりますが、税法上は損金算入に制限があります。会計上と税法上の扱いが異なる科目ですので、貸倒引当金を計上する際は注意が必要です。
【参考】
国税庁 貸倒損失
国税庁 貸倒れに係る税額の調整
国税庁 《中小企業者等の貸倒引当金の特例》関係
国税庁 個別評価金銭債権に係る貸倒引当金

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金融口座の取引明細データが自動で取り込まれ、各取引の勘定科目も自動で仕訳される。以前はインストール型ソフトを利用していたので、それがクラウドに変わるとこれほど自動化されるものなのかと本当に驚きました。
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よくある質問
貸倒引当金とは?
引当金のうち、金銭を受け取る権利である金銭債権に対して設定される、貸借対照表の表示科目です。
貸倒引当金の計算方法は?
対象の金銭債権を「一般債権」「貸倒懸念債権」「破産更生債権等」に分けて計算します。詳しくはこちらをご覧ください。
貸倒引当金の仕訳方法は?
貸倒引当金の見直しを期末に図る際の仕訳には、「差額補充法」と「洗替法」の2つがあり、それぞれ使用する勘定科目が異なります。