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■ 韓国が日本との通貨スワップ再開を懇願…今さら虫がよすぎるのではないか?2015.10.31

 「何を今さらムシのいい話を」「断固拒否すべきだ」−。

 韓国の経済団体、全国経済人連合会(全経連)が日本側に求めた「日韓通貨スワップ再開」に対し、日本のネット上でこんな書き込みが相次いでいる。それもそのはず、通貨スワップは、韓国側が「延長の必要がない」と言い出し、今年2月に終了したばかりだったのだ。韓国が慰安婦問題や竹島問題などで対日強硬姿勢を続けているのに、困ったときにだけ日本に泣きついてくる姿勢に「正直、あきれかえった」との書き込みもある。ただ、こんな状況の中でも、日本に頼らざるを得ないのは、韓国経済の悪化が深刻化していることが背景にある。11月2日に安倍晋三首相と朴槿恵大統領の日韓首脳会談が予定されているが、通貨スワップが話し合われるか、注目点のひとつになりそうだ。


麻生財務相にも要請?

 全経連が通貨スワップ再開を日本側に“懇願”したのは、今月26日に東京で開催された経団連との定期会合の場だった。マスコミに公開していた会合冒頭の許昌秀会長(GS会長)があいさつの中で、通貨スワップ再開要請に言及した。関係者によると、その後、マスコミを退場させて非公開の討議に入ったが、その場でも韓国企業のトップから、通貨スワップ再開の強い要請が、たびたびあったという。

 これに対し、経団連からは「特に話題にすることもない」(前述の関係者)状況で、韓国サイドだけが要請するだけで、日本側の反応はなかったという。

 さらに、この会合終了後に経団連、全経連などが主催のシンポジウムが開かれていたが、途中で全経連の首脳陣が退場し、その足で財務省を訪れ、麻生太郎財務相と懇談した。懇談の内容は非公開だが、当初15分間の予定が、大きくオーバーして30分程度となったという。ここで、麻生財務相にも直接、通貨スワップの再開を要請したのは想像にかたくない。


狙いは韓国の信用補強

 そもそも日韓通貨スワップは平成13年、両国が協定を結び、スタートした。通貨スワップ協定とは、自国が保有する外貨を相手国の緊急時に融通し合う国同士の契約のことだ。韓国は9年のアジア通貨危機で資金が流出し、国際通貨基金(IMF)からの資金支援を受けてしのいだ経験している。

 再び韓国が外貨不足に陥ると、アジア各国で通貨危機が再燃しかねない。その場合、世界経済だけでなく、日本経済にも大きなダメージを与える恐れがあるため、これを懸念した日本政府が協定を結んだのが発端だ。

 両国での相互融通だが、世界有数の対外純資産国である日本が「韓国への信用補強」しているという側面が強い。23年には欧州債務危機への対応などで融通枠が合計を700億ドルまで拡大した。

 しかし、24年に李明博韓国大統領(当時)が島根県・竹島に強行上陸し、両国関係は一気に悪化。その際、日本政府はさすがに融資枠を130億ドルに縮小した。25年には残っていた100億ドル分を延長せず、韓国側が「延長の必要がない」と言い出したこともあり、13年半に及んだスワップ協定を今年2月に終了した。

 日韓関係が悪化する中、韓国政府が日本からも支援ともとられる通貨スワップを終えたいという政治的判断もあったとみられている。

 ただ、全経連など韓国経済界は、通貨スワップの再開を求めてきた。今年5月にソウルで開催された全経連なども支援する「日韓経済人会議」でも、韓国財界人から、日韓通貨スワップを求める声が上がっていた。


経済危機に陥る懸念

 ただ、再開を要請する理由や背景は今回、微妙に異なってきた。5月の会合では、「日韓関係改善の象徴」としての通貨スワップ再開という提案だった。

 これに対し、今回の全経連の要請では「関係改善の側面は一切なかった」(会合出席者)。逆に通貨スワップの持つ本来の機能が必要と、強調するものばかりだったという。これは韓国経済界が自国経済に対し強い危機感、再び経済危機の陥る懸念を強めているためだ。

 韓国は、経済的な関係を強めていた中国経済の変調が明確になり、実体経済の悪化が深刻化している。これに加え、米国の利上げ方針を受け、韓国からの資本逃避が加速し、対ドルでウォンが暴落する可能性が強まっている。さらに、アベノミクスに伴う円安で韓国の輸出競争力が低下するなど、さまざまな悪材料が顕在化している。外貨準備高は9月末時点で3681億ドル(約44兆円)と、世界7位規模になったとされるが、実際に米国が利上げすれば、資金逃避は本格的なものになり、不安は尽きない。

 事実、韓国の崔●(=日の下に火)煥・経済副首相兼企画財政相は、韓国経済界の思いを反映してか、10月上旬の国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会で「多国間通貨スワップなどのセーフティーネットで金融危機を予防する必要がある」との声明を出すなど、今年2月に日本に対し、「通貨スワップ必要なし」と強硬な態度から一転した。

 経済危機の懸念が強まる中、朴槿恵政権の反日政策のため、経済界の苦悩が強まる構図が鮮明になった格好だ。

 全経連としては、11月2日に開催される予定の安倍首相と朴大統領の日韓首脳会談で、通貨スワップ再開が議題になることを切に願っているとみられる。韓国経済界が強い危機感の中で行った要請を、朴槿恵大統領がどう判断するか、注目を集めそうだ。(平尾孝)