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各日本語入力プログラムの特徴(MS-DOS時代)

各日本語入力プログラムの特徴(MS-DOS時代)
このページは、MS-DOS上で動作した日本語入力プログラムの特徴を、リコーの太田純さん提供の文章と画面写真紹介しています。

MS-DOS
PCの普及が始まったのはZ80などの8ビットCPU時代からだが、そのころのPCはせいぜい64KB程度のメモリーしか利用できず、日本語処理を行うにはまだ非力だった。8086などの16ビットCPUが登場するとようやくまともな日本語処理が可能になり、さまざまな日本語ワープロや日本語入力プログラムが登場した。それをささえたのがNECのPC-9801シリーズであり、またPC-9801の標準OSとなったMS-DOSだった。

MS-DOSは「マイクロソフトのディスクオペレーティングシステム」の略で、コマンド体系は8ビットPCのOSであったCP/M、OSとしての機能はUNIXに大きな影響を受けている。当時は640KB程度のメインメモリーと1.2MBフロッピー2台という構成が標準的だった、日本語入力プログラムも最大で128KB程度のメモリーとフロッピーに収まるサイズの辞書しか利用できず、変換精度もその制約の中で向上させるしかなかった。後期になると80286や80386といった32ビットCPUが登場し、EMSやXMSといった拡張メモリーの利用、ハードディスクの普及などによりこれらの制約は弱まったが、そのころには時代はWindowsに移り始めていた。

MS-DOS上の日本語入力プログラム
MS-DOS上の日本語入力プログラム
日本語入力フロント・プロセッサ VJE-Σ 1.20S (85-12-03以降?)
バックスがアスキーと共同開発し、OEM供給していたFEP。1文節最長一致法(簡易2文節最長一致法)を採用していた。バックスはVJE-86という連文節変換が可能なMS-DOS用FEPを販売していたが、その後改良されVJE-II、VJE-αとなった。VJE-ΣはVJE-αの辞書を文章入力用に強化した製品で、辞書についてはアスキーとの共同開発となっている。フロントプロセッサという名前(ひどい省略だ)を付けたのはVJEが最初で、その後松茸、WX、E1がこの名前を踏襲した。手もとで確認できるいちばん古いものは85-12-03のV1.03。画面は花王の生フロッピーに付属していたおまけソフトに含まれていたもの(88-11-30)。
自由文変換システム ATOK5 ver 1.1 (86-06-02)
ジャストシステムの「一太郎Ver.2」に付属。ジャストシステムの日本語入力プログラムはPC-100用のワープロJS-WORDに付属したKTIS、JS-WORDをPC-9801に移植したJS-WORD2のKTIS2、自社名義のワープロjX-WORD太郎のATOKJXW(ATOK3)、さらに一太郎のATOK4といった具合に進化してきたが、ATOK4からはFEPとして独立して利用できるようになった。ATOK5は一太郎の中でだけ逐次自動変換が可能だった。

日本語入力フロント・プロセッサ VJE-β 1.20R(86-10-01以降?)
VJE-Σを改良して完全な2文節最長一致法を採用し、さらにべた書き(逐次自動)変換を可能にしたFEP。「β」という名前はべた書きから来ているらしい。VJE-ΣもVJE-βも1.20以降でスペース変換が可能になった。手もとで確認できるいちばん古いものは86-10-01のV1.09。画面は花王の生フロッピーに付属していたおまけソフトに含まれていたもの(88-05-18)。
かな漢字変換システム Joker-III Ver. 1.00 (87-07-09)
マイクロニクスの表計算ソフト「カルチャート」に付属。いちおう連文節変換ではあるが、あまり賢くもなく、とくに評判になることもなく消えてしまった。

自由文変換システム ATOK6 ver 1.2 (87-07-13)
ジャストシステムの「一太郎Ver.3」に付属。APIが公開され、さまざまな他社アプリケーションがATOK6のオン・オフなどを直接制御するようになった。ATOK7やATOK8でも7TO6.COM、8TO6.COMを常駐させるとAPIがATOK6互換になり、ATOK6対応の他社製品から利用できるというしくみが用意されていた。
逐次自動変換・郵便番号辞書 EGBridge Ver 2.01 (87-09-01)
エルゴソフトが開発した日本語入力FEP。エプソンのPC-9801互換機用MS-DOS3.1に付属していた。500文字までの一括入力・変換・編集が可能という当時としては珍しい設計思想をもった製品だった。

日本語入力フロントプロセッサ「松茸」 Ver 2.11 (87-11-25以降)
管理工学研究所のワープロ「新松」やDB管理ソフト「桐」に付属。松茸はATOKやVJEとともにMS-DOS用FEPの御三家と呼ばれた。2.11は1989年の日付だが、2.00は87-11-25に出ている。松茸の起源は非MS-DOS版の「日本語ワードプロセッサ」の組み込み日本語入力モジュールで、その後ワープロ「松」の登場とともに松茸86として独立し、その後管理工学研究所のアプリケーションとともに成長してきた。松茸86はT98-NEXTでも動くが変換画面が表示されない。
日本語入力プロセッサ FIXER Ver. 3.10 Rel. 2.1 (PC-9801用) (87-12-01)
日本マイコン販売のワープロ「テラ3世」に付属。開発元はシティソフトだが、FIXER3の著作権表示はSoftware Society Inc.名義になっている。当時としてはわりと賢く、ファンも多かった。

MGR2 Version 1.00 (88-01-27)
リード・レックスのワープロ「弘法II」に付属。前バージョンの弘法(FEPはMGRが付属)はPC-9801のCバスにセットするROM辞書とともに販売されていた。リード・レックスは「万葉」などを作っていた日本語ワープロソフトの老舗。
日本語フロントプロセッサ WX V.1.00 (88-02-05)
エー・アイ・ソフトのワープロ「創文α」に付属。「創文」の組み込み日本語入力機能をFEP化したもの。文字種文字幅トグル変換、同意語反意語変換など、機能的にもそれなりに独自性を打ち出していた。変換画面の色づかいはVJEシリーズに近い。

日本語入力インターフェース 『風』 第1.21版 (88-12-08)
当時北大にいた富樫雅文(とがしまさとも)氏が開発し、演算星組から販売されていた日本語入力プログラム。読みを入力してスペースを押すと画面に漢字候補が表示され、対応する位置のキーを押すとその漢字が入力される。画面は6面まであり、スペースで次々に移動できた。よく使われる漢字は押しやすい位置に配置され、しかも同じ漢字はどの読みでも同じ面の同じキーに割り当てられている。このような配列を求めるため、スーパーコンピューターをぶん回して解を求めたという。
日本語入力フロント・プロセッサ VJE-β 第2.00版 (89-03-24)
ひらがな変換後の再変換、アンドゥー、入力キャンセルなど操作性を大きく向上させたVJE-βの新バージョン。AX協議会で制定され、その後マイクロソフトが採用した日本語入力共通APIであるMS-KANJI APIに対応した。2.1からはEMSに対応し、常駐サイズが削減された。

日本語入力システム DFJ Ver 1.0 (89-06-20)
デービーソフトのワープロ「p1.EXE」に付属。新規参入製品の中では機能・性能ともにピカイチだったが、変換画面は白一色というきわめて地味なもの。開発元のデジタル・ファームはデービーソフトとビー・ユー・ジーが共同で作った子会社
日本語フロントプロセッサ WXP V.1.04c (89-06-26以降)
WXから同意語反意語変換などの付加機能を取り除いてフリーソフトとして公開された日本語入力FEP。当初公開されたバージョンはV1.03a(89-06-26)。常駐サイズも大きく変換速度もかなり遅かったが、変換精度は高く、WXシリーズのファンを増やした。

逐次自動かな漢字変換システム ACE Ver 2.15 (89-06-30)
大塚商会のワープロ「オーロラエース」に付属。実体はKatana2のOEM版で、違いはとくに見当たらない。オーロラエース体験版は雑誌の付録についていて、ACEを自由に取り出して使うことができた。
日本語変換システム Katana(刀)2 Ver 1.25 (89-07-24)
サムシンググッドのDB管理ソフト「Ninja3」などに付属。操作画面がカラフルで、わりと派手な印象がある。変換はそこそこ堅実で、FIXERあたりと人気を競っていた。サムシンググッドはその後アスキーサムシンググッドとなり、現在はアイフォーという会社になっている。

日本語入力プロセッサ FIXER Ver. 4.13 (PC-9801用) (89-10-26)
テラ3世の後継製品である「テラQUEEN」に付属。かなり強力なカスタマイズ機能を搭載していた。移植にも積極的で、シャープX68000版もあった。残念ながらWindowsには対応せず、消えていった。
日本語変換システム ATOK7 Ver 1.10 (89-11-24)
ジャストシステムの「一太郎Ver.4」に付属。1バイト英字からのローマ字漢字直接変換が可能だった。送り仮名を本則、送る、省くから選べるなど、日本語入力ツールの王道を行く意気込みが感じられた。

漢字変換プロセッサ VKJ Ver 1.31 デモ (90-09-21)
1991年ごろCマガジン編集部をひとりの男が訪れ、自作の日本語入力プログラムを記事にしないかと言い出した。いっそソースコードごと掲載してはどうかと編集者が提案すると、男は腹を立て、席を蹴って立ち去ったという。その日本語入力プログラムは画面上部に候補一覧を表示し、さまざまな英数字記号キーを操作に用いるといういっぷう変わったインターフェースをもっていた。
JJ Version 1.20 (90-03-01)
MGR2の後継製品であり、リード・レックスのデータ管理ソフト「F1 DATABOX」に付属していた。MGR2からユーザーインターフェースは一新されたが、変換の印象にそれほどの違いはない。

日本語フロントエンドプロセッサ DANGO Ver. 0.20 (90-05-11)
スズキ教育ソフトの統合ソフト「ハイパーキューブ」に付属。ドライバーがDANGO.DRVで辞書がKIBI.DIC。見た目や操作性はATOKに大きく影響を受けている。 ドライバーは28KB程度とかなり小さい。
AIかな漢字変換(MS-DOS3.3D) (90-07-12以降)
NEC AI変換はMS-DOS3.3で初めて搭載された(89-11-27)が、従来のNEC純正FEPの使いにくい操作をそのまま踏襲していた。しかしMS-DOS3.3Cで操作性などが一新され(90-07-12)、ようやくサードパーティー製品に見劣りしなくなった。画面はMS-DOS3.3Dのもの(91-11-08)。

AJIP1 日本語 F.E.P for PC-9801 Series (Ver 1.05) (90-08-28)
エイセルのワープロ「JWORD3」に付属。エイセルは当時ワープロメーカーの中堅であり、AJIP1もいちおう連文節変換だが、あまり賢くなかった。「for PC-9801 Series」と書かれているのをみると、他社PC用MS-DOS版があったのかもしれない。
エルゴソフト EGBridge バージョン 3.11 (90-10-05)
アシストのアシストワードなどにOEM搭載されていた。VJE-βとともに早くからMS-KANJI APIに対応している。エルゴソフトの軽量ワープロEGLight体験版にも付属し、そこから取り出して使うことができた。沖のif800に搭載されていたFEPEXもEGBridgeのOEM。

日本語入力フロントプロセッサ <E1> Version 1.05 (90-10-22)
イーストが単体販売していた日本語入力FEP。イーストはMS-DOSの初期のころから日本語ワープロEWを作っていた老舗だが、E1はエンドユーザー向けではなく、主としてOEM販売を目指していた製品であったらしい。技術系の雑誌にはメーカー向けにE1の技術をOEM販売する広告がよく掲載されていた。
日本語フロントプロセッサ WXII  Ver 1.50a (91-02-19)
WXPから生まれたユーザーコミュニティーの要望を大幅に取り入れて作られ、単体販売された製品。ソースコードは一から書き直され、EMSにも対応し、カスタマイズ機能や豊富な辞書ツールを搭載した。

日本語入力フロントプロセッサ「松茸」 Ver 3.01 (91-04-10以降)
管理工学研究所のワープロ「松Ver.5」などに付属。3.01は手もとで日付が確認できないが、3.00は91-04-10。松茸86や松茸V2では長い文章を変換させると遅かったが、松茸V3ではかなり高速になった。
日本語変換システム Katana(刀) Ver 4.01 (91-05-15)
Katana2の後継FEPであり、アスキーサムシンググッドのワープロ「Newオーロラエース」に付属していた。Katana3系列はWindows版だったので番号が飛んでいる。カスタマイズ機能や送り仮名基準などさまざまな改善が施されたが、残念ながらそれ以降生き残れなかった。

連続複合語変換αX-1 Version 1.04 (91-07-29)
応用電算技研の会計ソフト「大蔵大臣」に付属。すでに連文節変換が当たり前になっていた時代にわざわざ複合語変換のFEPを付属させていたのは、アプリケーションにはFEPが付きものというのがまだ常識だったからだろう。
日本語入力フロント・プロセッサ VJE-β 第3.00版 (91-11-15)
ファンクションガイドやステータス表示を一新し、カスタマイズ機能を搭載したVJE-βの新バージョン。1バイト英数字と2バイト漢字を混在させる「Rひら半」モードが追加されている。

MAC V1.00 (91-11-22)
モーリンの統合ソフト「モーリンワーク」に付属。操作設計や変換経過の画面などにFIXERの面影がある。モーリンワークは背景画面が白で表示されるので、標準の入力文字色は青、変換文字色は赤になっている。
日本語入力システム DFJ2 Ver1.00 (91-12-02)
p1.EXEの後継製品であるワープロ「アルガ」に付属。DFJ2もDFJの後継者だが、変換の味は似ているもののプログラムの作りも操作性もがらりと変わっている。著作権表示もデービーソフトになっており、どうやら一から作り直したものらしい。

おてもと(1.01版) (92-02-28)
おてもとは亀島産業(現エー・アイ・ロジック)の翻訳ソフト「E-J BANK」に搭載されていた日本語入力FEP。開発元の言語工学研究所は管理工学研究所をスピンアウトした松の開発メンバーが設立した会社。操作設計は改良されているものの松茸の面影が残る。組み込み時に画面をクリアしてしまうのは困りもの。
日本語フロントエンドプロセッサ WXII Ver 2.00F (92-03-03)
タイトルはWXIIだが製品としてはWXII+という名前。このバージョンから「フロントプロセッサ」という名前が「フロントエンドプロセッサ」に変更されている。WXIIの発展形であり、マルチUI、マルチAPIを搭載した。これはATOK6/7、松茸、VJEの操作性や画面を模倣し、アプリケーションからもそれらの製品と同じ方法で制御できるという横紙破りの機能だった。

WPFEPVersion 1.00 (92-03-19)
WordPerfect 5.1Jに付属していた日本語入力FEP。EGBridge3.x(ひょっとしたら4.x?)のOEM製品だが、ユーザーインターフェースは独自設計になっている。Windows版のWPIMEという製品も用意されるなど、それなりに独自の改良を目指していたらしい。
日本語変換システムATOK8 Ver 1.0 /R.1 for PC-9800 (93-05-18)
ジャストシステムの「一太郎Ver.5」に付属。ATOK7から3年半の年月を費やして開発された、本格的AI変換を初めて搭載した日本語入力FEP。MS-KANJI APIにも対応したが、ジャストシステムではそのことをマニュアルには明記していない。

日本語フロントエンドプロセッサ WXIII Ver 3.00 (95-01-11)
WXシリーズで初めてAI変換を搭載したバージョン。操作性や画面設計ではWXIIをほぼそのまま踏襲している。MS-DOS用FEPではWXIIIが最終バージョンとなった。

http://www4.airnet.ne.jp/koabe/com_inet/im/feature3.html