雲をつかむ話 クラウドコンピューティング
雲をつかむ話 クラウドコンピューティング
ITの世界では、次々に新語が登場して広まってゆく。最初は何のことかわからなかった「Web2.0」も、今ではネット業界を語る最も重要なキーワードとなった。最近、あちこちで見られる「クラウドコンピューティング」も、その流れのなかで出てきた言葉だ。“雲をつかむような話”ではない。次の重要なキーワードかもしれない。
インターネットの“あちら側”
クラウドコンピューティングという言葉をよく使っているのはGoogleだ。同社のエリック・シュミットCEOは、よく、「“雲”にアクセスして、インターネットのサービスを使う」という表現をする。「サービスを提供する“雲”の中のデータセンター」「パソコン、携帯電話、新しいデバイスでアクセスする“雲”」――といったぐあいである。
米マサチューセッツ工科大学が支援する最新テクノロジー雑誌「MIT Technology Review」によると、クラウドコンピューティングとは「ウェブベースのアプリケーションと、インターネットの“雲”の中へのデータ保存というアイデア」であるという。雲という表現は、インターネットのネットワークの形を雲の図で表すことから来たものだそうだ。また「オンライン・デスクトップシステム」とも説明している。
つまりクラウドコンピューティングは、これまで手元のパソコンの中で行っていた計算処理やデータ保存が、ともにネットワークの向こう側に移行した状態を言う。Web2.0を象徴する言葉として流行した「インターネットの“あちら側”」というわけだ。クラウドコンピューティングは今脚光を浴びているSaaS(Software as a Service)を別の角度から見たとも言える。
続々と“雲”に移行中
コンピュータの歴史は、「計算を離れた場所で処理する」と「手元で処理する」の2つのやり方の間を行ったり来たりしている。かつてIBMのメインフレームや、DECのミニコンは、大勢のユーザーが時間を細かく割って計算パワーを共有しながら使う「タイムシェアリング」方式だった。その頃、コンピュータはどこにでもあるわけではなかった。電話回線で、遠隔地にあるコンピュータを、料金を払って“時間貸し”で使うのが当たり前で、1970年ごろのビル・ゲイツ少年もこうしてプログラミングに熱中していた。
だが、パーソナルコンピューターの登場でこの様は一変する。手元のマシンにデータを置いて、計算処理も行わせるようになり、同時にパソコンOSとパッケージソフトの時代を迎える。
それがクライアント/サーバーの時代となり、さらにクラウドコンピューティングへ向かっているのだ。クラウドコンピューティングが注目されるのには、巨大で強力なデータセンターを使うことが可能となり、同時にセキュリティやコストの面で有利になってきたことが背景にある。
ブラウザーだけでフルセットのオフィスソフトが使える「Google Docs」や、IBMの「Lotus Symphony」などがその例である。パッケージソフトで大きくなったMicrosoftも、この夏、クラウドコンピューティングに取り組んでいることを公式に認めた。さらにMicrosoft Officeのオンライン版ともいえる「Microsoft Office Live Workspace」を発表して本気を見せている。
まさに、コンピュータは雲の時代に入りつつある。