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【世界史】第18回 古典インド文明② 〜新しい宗教の誕生

【世界史】第18回 古典インド文明② 〜新しい宗教の誕生

カテゴリ:

   世界史
   先史・古代

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1.ヴァルナ制度とバラモン教
 まずは前回の復習から。古代インドでは紀元前1000年頃からアーリヤ人がガンジス川流域に移動し、そこでは鉄器が用いられるようになりました。牧畜の生活をしていたアーリヤ人が農耕生活を始めるようになるのです。すると、農業生産力が高まり、村落が大きくなって都市へと成長します。都市では働かなくてよい人々(生産物が余るようになるため)が武士や僧侶階級として力を持つようになりました。こういった流れを理解することが世界史ではただ用語を暗記するより大事かもしれませんね。

 この古代インドで生まれた階級制度をヴァルナ制度といいます。ヴァルナ制度では、主にバラモン(司祭)、クシャトリヤ(武士)、ヴァイシャ(農民、商人)、シュードラ(隷属民)の4つの身分に分かれます。現在のインドにもいまだに残っているカーストという身分制度はこのヴァルナ制度にジャーティ(職業)が結びついてできたものです。さらに、このカースト制度の外部には不可触民と呼ばれる最下層の人々がいます。このような身分差別が現代のインド社会の進展を妨げる要因になっているとも言われます。

 ヴァルナ制度で最上位のランクであったのがバラモンと呼ばれる聖職者たちです。アーリヤ人は自然を神とする信仰を作り、この信仰をバラモン教といいます(聖典は『ヴェーダ』。前回で紹介しましたね)。バラモン教は自然の神を信じてますから、どうにか自然の脅威を抑えてほしいと神にお祈りします。いわゆる祈祷や呪術、そして神への儀式を重んじる宗教です。この儀式や呪術の細かい作法を知っている司祭さん、つまりバラモンは人々にとって非常に重要な存在となっていきます。ゆえに身分の最上位にいるわけですね。

 しかし、バラモンたちが自分の権威を高めようと、あまりに儀式の形式ばかり重んじるので、人々は次第に疑問を抱くようになります。儀式中心のバラモン教を思索中心の宗教へと変えようとする動きが出てきました。そのなかで生まれたのがウパニシャッド哲学です。ウパニシャッドとは奥義書という意味。ヴェーダの付属文献の1つとして宗教哲学がまとめられています。その哲学の中身とは大変難しいのですが、一言で言えば梵我一如(ぼんがいちにょ)の境地。宇宙の根本原理であるブラフマン(梵)と自己であるアートマン(我)とは究極的に一体であるという境地を悟ることで私たちは苦しい生から解脱できるという教えです。

2.新しい宗教

 バラモン教への批判から紀元前5世紀頃に新しい宗教が生まれます。仏教とジャイナ教です。とはいえ、ともにバラモン教の思想を全く無視しているわけではありません。インドの豊潤な大地から多様な生命が生まれるという自然環境からは「輪廻」という思想が生まれていますが(私たち生きているものはたえず生と死を繰り返しているという考え)、その思想を両者ともに受け継いでいます。

 まず、仏教から。仏教を創始したガウタマ=シッダールタ(ゴウタマ=シッダッタ)はもともとクシャトリヤの王子でした。 彼は年少の頃からの様々な見聞、体験から、人生とは「苦」であるという境地に達して、家族を捨てて出家して修行の道に飛び込みます。当時のバラモン教の教えとは、出家して苦しい修業から悟りをひらくことで解脱できるというものでしたから、彼も苦しい修業を行います。ところが、死ぬ寸前までに追い込む修行を繰り返しても悟りの境地は得られない。彼は段々嫌になって、修業から逃げ出してしまいます。「こんなことして何になるんだっ!」と思ったのでしょうか。しかし、その命からがら逃げる道中で、一人の少女からミルクをもらい、菩提樹の下で静かに瞑想を行うことでとうとうシッダールタは悟りをひらくことができたのです。このときからブッダ(悟りを開いたもの)と呼ばれるようになります。

 彼は、「苦」である人生を克服するには、修行によって悟りを開くことではなく、正しい道を歩んで自分の欲望を捨てることによって解脱への道が開かれるという教えを人々に説きました。これまでのバラモン教の教えを否定したのです。80歳で死ぬまで、45年もの間、ブッダは教えを人々に説き続け、クシャトリヤ階級を中心にインド全土へと信仰が広まっていきました。余談ですが、インドでは現在、仏教を信じている人はほとんどいないようです。13世紀にイスラーム勢力に寺院を破壊されて消滅したのですが、その前から次第にヒンドゥー教におされていたようですね。

  そして、もう1つのジャイナ教についても触れておきましょう。ジャイナ教の創始者はヴァルダマーナという人物です。バラモン教の権威を否定し、苦行や不殺生を実践するよう説きました。不殺生とは生き物を殺さないようにすること。ジャイナ教はヴァイシャを中心に広まっていきます。仏教と違うのは、ジャイナ教は現在でもインドに多くの信者がいるということです。昔と変わらず、主に商人の人々が信仰する人々の中心らしいのですが何故なんでしょう。

 それは余計な不殺生をせずに済むからなんです。例えば、農業だと畑を耕す時に、虫を殺してしまったりするかもしれない。ジャイナ教の人々はマスクをして、小さな虫を口に入れないようにしてます。口に入れるのが気持ち悪いからとかではなくて、虫を殺さないようにするための配慮なんです。不殺生を守るためにここまでするんですよ。ジャイナ教の不殺生の教えをまもることは農業や牧畜業をやっている人には難しいのです。