歴史・人名

初期王朝

エジプト史

初期王朝
(前3100年頃~前2700年頃、第1~2王朝)

第1王朝
アビュドスの王ナルメルが上下エジプトを統一したことで第1王朝が始まる。

エジプト第1王朝は世界初の領域国家である。領域国家とは、一つの都市とその周辺にしか支配が及ばない都市国家に対して、複数の都市や集落の政治勢力を一つに併合して支配を領土全体まで及ばせる国家のことである。

ナルメル以前にも、名前がよく分かってない「サソリ王(スコルピオン・キング)」なるファラオが上エジプトを統治していたらしい。(第0王朝と呼ばれる。)

前3世紀のエジプトの歴史家マネトや古代ギリシアのヘロドトスは、第1王朝の初代王はメネスであると記述していて、彼もまたエジプトを統一したとされる。しかし、アビュドス遺跡の発掘では「メネス」という名前は出てこない。なので、「メネス」 は特定の人物ではなく、初期王朝時代の複数のファラオを集合的に表しているという説もある。

マネトの記述では、メネスは軍を前線に率い、偉大な栄光を勝ち取ったという。あと、カバにさらわれて死んだとか。カバこわい。

ナルメルはリビア(エジプトのすぐ西の国)やパレスチナ方面にまで遠征を行って勢力を拡大した。

跡を継いだナルメルの子「アハ」は第1急端辺りまでを征服し、アハの子「ジェル」は更に第2急端辺りまで征服して、シナイ半島も征服した。

ジェルによってシナイ半島の銅山が王家の独占となり、王権が著しく強化された。

ジェルの子第4代「ジェト」の治世は記録が残っておらず、第5代「デン」の治世には上下エジプトを統べる王としての王権理念が確立され、官僚制の整備や徴税制度も確立された。

デンは「二国の王」という称号や、赤と白の二重の王冠「二重冠(プスケント)」を初めて用いた。また、デンの治世下にはシナイ半島でベドウィン(遊牧民)との戦争が行われた。

第6代「アネジイブ」と第7代「セメルケト」の間には何らかの確執があったらしい。

最後の王「カア」のことはよく分かっていないが、安定していたらしい。

第1王朝の滅亡理由はよく分かっていないが、第1王朝の王墓は継続してアビュドスの「ウム・アル=カーブ」に造営されていて、各王の記録も比較的良好に残されていることから、政治的に安定していたと推測される。

(歴代王)

ナルメル→アハ→ジェル→ジェト→デン→アネジイブ→セメルケト→カア

「ナルメルのパレット」

第2王朝
初代「ヘテプセケメイ」は、先王カアの娘と結婚することでファラオの地位についた。

第1王朝とはうって変わって記録資料が乏しい。王墓地も移動していることから、政治的に不安定であったことが推測されている。
首都はティニスで、第3代「ニネチェル」の治世には家畜調査などが繰り返されたことがわかっており、領内への統制を強めようとする王権の動きを見ることができる。
一方で、旧来の上エジプトの有力者達はこういった動きに反発し、第6代「ペルイブセン」の治世には何らかの混乱があったといわれている。
ペルイブセンは、即位した時はホルス名の「セケムイブ」を名乗っていたが、下エジプトのセト信者(上エジプトではホルス神、下エジプトではセト神の信仰が強かった)の勢いを恐れ、途中からセト名の「セト・ペルイブセン」に改名した。(セトはホルスの宿敵)
最後の王「カセケム」はペルイブセンの時代に起こった内乱を平定し、「二つの強いものの出現」という意味のホルス・セト名「カセケムイ」に改名した。
しかし、ホルス・セト名は次王にはセト名が消えてホルス名だけになるので、セト派の減衰が読み取れる。

(歴代王)
ヘテプセケムイ→ラネブ→ニネチェル→ウェネグ→セネド→セト・ペルイブセン(セケムイブ)→セケムイブ・ペルエンマート→カセケム(カセケムイ)
下しもエジプト

ナイル川の川下にあるから下エジプト。地中海に注ぐナイル川の河口は沢山の分流になっていて、三角州がめっちゃある。三角州とは、川が二つに分かれて海に注ぐ(「分流」という。)とき、二つの川と海の間にできる三角形の陸地のことである。ギリシア文字のΔ(デルタ)に似ていることから、デルタ(デルタ地帯)とも呼ばれる。そんなナイル川河口のデルタ地帯のことを下エジプトという。

上かみエジプト

ナイル川の川上にあるから上エジプト。下エジプトの付け根から第1急端あたりまでの地域。周りは砂漠。

ファラオ

古代エジプトの王の称号。正式な称号として採用されたのは第18王朝のトトメス3世が最初。「ファラオ」は「大きな家」という意味の古代エジプト語「ペル・アア」が語源で、大きな家とは即ち王宮そのものを指す。王宮などの建物がそのままそこに住む人を指すことは珍しくない。例えば「殿様」「お内裏様」など。

ファラオは即位すると五重名という5つの名前を持つようになる。

ホルス名(ホルスはエジプト神話の神で、天空と太陽とハヤブサの神。ホルスはエジプトの神々の中でも最も古く、偉大で、王の象徴であった。)

名前を表すヒエログリフ(古代エジプトの文字)をセレクという四角で囲む。(画像はツタンカーメンのホルス名「(ホル・)カーナクト・トゥト・メスウト」)

二女神名(ネブティ名ともいう。「二女神」は、下エジプトの守護女神で蛇の姿の「ウアジェト」と、上エジプトの守護女神でハゲワシの姿の「ネクベト」のこと。第1王朝セメルケトの称号から付けられるようになった。)

二女神を表すヒエログリフの後に、名前を表すヒエログリフを記す。囲いはない。(ツタンカーメンの二女神名「(ネブティ・)ネフェルヘプ・セゲレフタウィ・セヘテプネチェル・ネブゥ」)

黄金のホルス名(第3王朝ジェセルから使用。)

(ツタンカーメンの黄金のホルス名「(ホル・ネブウ・)ウチェスカウ・セヘテプネチェル」)

即位名(下エジプトのシンボルである「スゲ」(イネ目カヤツリグサ科の雑草)と、上エジプトのシンボルである「ミツバチ」を組み合わせたシンボルが付けられる名前。「上下エジプト王名」とも言われ、第4王朝からは最も重要な名前とされた。)

名前を表すヒエログリフを、"永遠"を意味するカルトゥーシュという囲いで囲む。(ツタンカーメンの即位名「(ネスウ・ビト・)ネブケペルウラー」)

誕生名(即位時ではなく、生まれた時につけられる、いわゆる本名。)

カルトゥーシュで囲む。(ツタンカーメンの誕生名「(サア・ラー・)ツタンカーテン」)

急端きゅうたん

「cataract」の訳。「瀑布ばくふ」とか「急流」とも。大きな滝や大きな川の、白く泡立つような急流部分のこと。

ナイル川には六つの急端があり、古くから交通の妨げになっていた。

赤冠 白冠 二重冠