在位年代推定の方法_(Historical)
4.在位年代推定の方法
さて、前述の通り、在位年数を算出する為には、即位時の年齢と退位時の年齢を用いて、
在位年数=退位時の年齢-即位時の年齢
のようにして求めることが出来る。ここで、「天皇が譲位をしない」という前提を設けよう。すると、以下のように書きかえることが出来る。
退位時の年齢=没年齢
即位時の年齢=先代の退位時の当代の年齢
=先代の没時の当代の年齢 =先代の没年齢-先代との年齢差・・・[先代との年齢差=先代の年齢-当代の年齢]
したがって、
在位年数=当代の没年齢-(先代の没年齢-先代との年齢差)
となる。
さて、これによって明らかになることは、以下である。
「在位年数」には「当代と先代の没年齢の差」が影響を及ぼすこと。 従って、「当代」もしくは「先代」の「没年齢」の単体はあまり影響が無いこと。(たとえば、両方とも若死にした場合は「在位年数」に及ぼす影響は少ないが、一方が若死にして、一方が長寿を保った場合、在位年数への影響は大きい、などのように、両者の関係が大事である) ゆえに、例えば「弥生時代の平均寿命は40~50歳くらいで、現代よりも短かった。だから、当時の在位年数も短かった」という類の推定は的を得ていないこと。(ただ、平均寿命が10歳などであれば、話は別である。なぜなら、このようなケースでは当然ながら、10年以上在位することは困難になるからである。→漢帝室など) かわって注目されるべきは、「先代との年齢差」である。これが大きければ、在位年数は伸び、小さければ在位年数は縮む。 天皇家の場合、「先代との年齢差」を示唆する、もっとも有力な史料として記紀に載せる「系図」があること。当然、親子なら何歳位の差、兄弟なら…といった具合に、年齢差の推定が可能になる。
先に天皇家や世界の諸王の例で挙げた実態との一致が伺えるだろう。これにより、古代の天皇家のように、「天皇は譲位せず、死没によってのみ交替する」という前提が可能な場合に限り、ここに示される各要素の推定を行うのが最も直接的であり、在位年数の平均による方法はこれよりも間接的な推定に過ぎない、と言うことが出来る。
さて、これによって古代の天皇の在位年数を推定してみよう。
ここでは、具体的には、「神武没年」から「用明即位」までとする。最初を「神武没年」とするのは、神武が天皇家の初代とされているからである。つまり、記紀の説話による限り、神武の即位年は、「神武東征によって、九州より大和の地に至り、そこに定住した時期」であって、先代との関係を何ら必要としないためである。従って「神武没年」とは実際は「第2代綏靖即位年」である(ただし、ここにも説話上、数年の空位が存在するようであるが)。最後を「用明即位年」とするのは、安本の基準に合わせただけである。ここにも、諸説によって変動のあり得ること、言うまでも無い。
今、n代目の天皇の在位年数を、
在位 n =没年齢 n -没年齢n-1+年齢差 n
在位n-1=没年齢n-1-没年齢n-2+年齢差n-1
:
在位 2 =没年齢 2 -没年齢 1 +年齢差 2
とあらわすと、
∑在位=(没年齢n-没年齢n-1+年齢差n)+(没年齢n-1-没年齢n-2+年齢差n-1)+…+(没年齢2-没年齢1+年齢差2)・・・[∑は2からnの合計]
となる。結局、強調部は全て相殺するから、
∑在位=没年齢n-没年齢1+∑年齢差・・・[∑は2からnの合計]
である。
今、n代に当たる天皇は用明の前代・敏達である。∑在位とは、結局、綏靖から敏達までの在位年数の合計である。同様に、∑年齢差とは、綏靖から敏達(用明の前代)までの「先代との年齢差」の合計である。また、没年齢nは、敏達の没年齢であり、没年齢1は神武の没年齢である。
∑年齢差を推定しよう。
まず、各天皇の先代との続柄を示す。
親子…綏靖、安寧、懿徳、孝昭、孝安、孝霊、孝元、開化、崇神、垂仁、景行、成務、応神、仁徳、履中、安康、清寧、武烈、安閑、敏達…計20人 兄弟…反正、允恭、雄略、仁賢、宣化、欽明…計6人 その他…仲哀(甥)、顕宗(従兄弟の子供同士)、継体(ほとんど血縁無し)
次にそれぞれの場合の年齢差を以下のように決める。
親子…20歳 兄弟…2歳 仲哀(甥。成務の兄・日本武尊の子)は親子関係より若干短いと考え、15とする。 顕宗は、清寧とほぼ同世代と考え、1とする。 継体も、武烈とほぼ同世代と考え、1とする。
従って、
∑年齢差=20×20+2×6+15+1+1=429
となる。
敏達の没年齢を48歳(「皇代記」による)とし、神武の没年齢を69歳(「2倍年暦」と「古事記」による)とすると、
∑在位=48-69+429=408
となる。
これを用いて、敏達の没年585年から408年前、つまり、177年頃が神武の没年に当たると考えられる。これは、あまりに大雑把な計算かもしれない。親子や兄弟の年齢差についても、各人の各事情を加味して数値を決めるべきであろうし、せめて、古代の「親子の年齢差の平均」等を用いて計算すべきかも知れぬ。だが、例えば「在位年数の平均」を用いるよりは、はるかに妥当性が勝っていると言える。