歴史・人名

安本氏の方法(Historical)

在位年代推定の方法(Historical)

2.安本氏の方法

次に、安本美典の行った方法を紹介しよう。彼は「後の天皇の在位年数の平均」と「世界の諸王の在位年数の平均」を用い、これによって日本古代の天皇の在位年数の平均を推定した(安本美典『卑弥呼の謎』、『神武東遷』、『邪馬台国への道』等参照)。数理文献学の提唱者である彼得意の統計的手法に則っており、この方法は手堅いものといえよう。(最も、安本によれば、栗山周一が既に同じ方法で在位年代推定を行っていた)その際に使用したデータと彼の算出した結果を以下に示そう(以下、表及びグラフは安本『邪馬台国への道』等より、かわにし作成)。

まず、即位退位の時期などを歴史的な事実として信頼できるものは、第31代用明以後であるとして、大正天皇に至る98天皇の在位年数をまとめたのが、表1である。

天皇名 即位した年 在位年数
31 用明天皇 585 2
32 崇峻天皇 587 5
33 推古天皇 592 36
34 舒明天皇 629 13
35 皇極天皇 642 3
36 孝徳天皇 645 10
37 斉明天皇 655 7
38 天智天皇 661 10
39 弘文天皇 671 (8ヶ月)
40 天武天皇 673 15
41 持統天皇 686 11
42 文武天皇 697 10
43 元明天皇 707 8
44 元正天皇 715 9
45 聖武天皇 724 25
46 孝謙天皇 749 9
47 淳仁天皇 758 6
48 称徳天皇 764 6
49 光仁天皇 770 11
50 桓武天皇 781 25
51 平城天皇 806 3
52 嵯峨天皇 809 14
53 淳和天皇 823 10
54 仁明天皇 833 17
55 文徳天皇 850 8
56 清和天皇 858 18
57 陽成天皇 876 8
58 光孝天皇 884 3
59 宇多天皇 887 10
60 醍醐天皇 897 33
61 朱雀天皇 930 16
62 村上天皇 946 21
63 冷泉天皇 967 2
64 円融天皇 969 15
65 花山天皇 984 2
66 一条天皇 986 25
67 三条天皇 1011 5
68 後一条天皇 1016 20
69 後朱雀天皇 1036 9
70 後冷泉天皇 1045 23
71 後三条天皇 1068 4
72 白河天皇 1072 14
73 堀河天皇 1086 21
74 鳥羽天皇 1107 16
75 崇徳天皇 1123 18
76 近衛天皇 1141 14
77 後白河天皇 1155 3
78 二条天皇 1158 7
79 六条天皇 1165 3
80 高倉天皇 1168 12
81 安徳天皇 1180 5
82 後鳥羽天皇 1183 13
83 土御門天皇 1198 12
84 順徳天皇 1210 11
85 仲恭天皇 1221 (3ヶ月)
86 後堀河天皇 1221 11
87 四条天皇 1232 10
88 後嵯峨天皇 1242 4
89 後深草天皇 1246 13
90 亀山天皇 1259 15
91 後宇多天皇 1274 13
92 伏見天皇 1287 11
93 後伏見天皇 1297 3
94 後二条天皇 1301 7
95 花園天皇 1308 10
96 後醍醐天皇 1318 21
97 後村上天皇 1339 29
98 長慶天皇 1368 15
99 後亀山天皇 1383 10
100 光厳天皇 1331 5
101 光明天皇 1336 12
102 崇光天皇 1348 4
103 後光厳天皇 1352 19
104 後円融天皇 1371 11
105 後小松天皇 1382 20
106 称光天皇 1412 16
107 後花園天皇 1428 36
108 後土御門天皇 1464 36
109 後柏原天皇 1500 26
110 後奈良天皇 1526 31
111 正親町天皇 1557 29
112 後陽成天皇 1586 25
113 後水尾天皇 1611 18
114 明正天皇 1629 14
115 後光明天皇 1643 11
116 後西天皇 1654 9
117 霊元天皇 1663 24
118 東山天皇 1687 22
119 中御門天皇 1709 25
120 桜町天皇 1735 12
121 桃園天皇 1747 15
122 後桜町天皇 1762 8
123 後桃園天皇 1770 9
124 光格天皇 1779 38
125 仁孝天皇 1817 29
126 孝明天皇 1846 21
127 明治天皇 1867 45
128 大正天皇 1912 15
129 昭和天皇 1926 -

ここから、天皇の平均在位年数は14.22年である。次に各時代別・世紀別に平均在位年数を算出してみたのが、グラフ1及び2である。

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グラフ1 時代別天皇平均在位年数 グラフ2 世紀別天皇平均在位年数

グラフ1によれば、在位年数を信頼できるものとした用明以後(飛鳥・奈良時代以後)は時代を遡るにつれ天皇の在位年数が少なくなっているのがわかる。グラフ2についても同様である。

同様にして、西暦元年以後の全世界の、歴史的に在位期間が確実な王(1695王)の世紀別平均在位年数を以下に示す。
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グラフ3 全世界の王の世紀別平均在位年数

ここでも同じ傾向が認められるのである。これらのデータによる時、古代の天皇の在位年数の平均は、10~14年程度と見るべきであることが判るのである。

この年代論を、安本は卑弥呼天照大神説の根拠の一つに挙げている(平均を10年程度に見れば、卑弥呼の年代は天照大神に当たる)。

さて、安本説を含め、卑弥呼を誰に比定するかという諸説を比較する。横軸に天皇の「代」をとり、縦軸にその天皇の即位した年をとる。これを第70代後冷泉天皇までプロットしたグラフが以下だ。
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グラフ4 諸説一覧図

これをみれば、「478年の倭王武=雄略の宋への上表」「425年の倭王讃=応神或は仁徳の宋への遣使」「卑弥呼天照大神」が、きわめて自然につながっているのが読み取れる。(安本は、倭王武については通説通り雄略に比定。倭王讃については応神に比定している。安本『倭の五王の謎』)これに対し、他の諸説(卑弥呼=神功皇后説、卑弥呼=倭姫説、卑弥呼=倭迹迹日百襲姫説)は、第17代履中のあたりから急激に下に曲がる。年代の延長が見て取れるのである。また、平山朝治の説(『季刊邪馬台国』16号、最小自乗法)を紹介して、卑弥呼天照大神説が歴代天皇の在位年数から言って、最もふさわしいことを力説している。