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神生み 1:最初に生れたのは威力の神

伊邪那岐神(いざなきのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)は国生みを終えたので、次に「神生み」を始めました。

最初に生んだ神は、威力の神である大事忍男神(おほことおしお)です。
天地初発の時と同じように、日本の神は物事が起こる時にその物事そのものが神になります。
そのためこれから神々を生むという大仕事をこなすため、最初に威力の神が生まれました。

続いて、住居に関わる6柱の神々を生みます。
これらの神々は「家宅六神」と呼びます。

 1 石土毘古神(いはつちびこのかみ)
  岩石と土の神です。

 2 石巣比売神(いはすひめのかみ)
  堅固な住居の女神です。

 3 大戸日別神(おほとひわけのかみ)
  偉大な家の出入口の神です。

 4 天之吹上男神(あめのふきおのかみ)
  屋根葺きの神です

 5 大屋毘古神(おおやびこのかみ)
  大きな家屋の神です。

家宅六神に続けて、風に持ちこたえる力の神である、風木津別之忍男神(かざもつわけのおしおのかみ)が生れました。

伊邪那岐神伊邪那美神が地上に降りてまず八尋殿(やひろどの)を造ったように、神々も住む場所が必要です。
だからこそ、最初に住居を守る神様が誕生したのでしょう。

このようにして、ふわふわと頼りなかった大地がしっかりと根を張り、家屋を掌る(つかさどる)神々が生まれたことで、神々達が住む土壌が出来上がりました。

次に、水に関わる神様が生れます。
まずは、偉大な海の神様である大綿津見神(おおわたつみのかみ)が生まれました。
この神は有名な海幸彦山幸彦の神話に出てくる、海に御殿を構える海神です。
この大綿津見神の娘が、後に天照大御神(あまてらすおおみかみ)のひ孫である山幸彦と結婚することになります。

海に続いて今度は、河口に関わる神様が生まれます。
勢いの早く盛んな河口の男神である水戸(みなと)の神で、速秋津日子神(はやあきつひこのかみ)。
勢いの早く盛んな、河口の女神である速秋津比売神(はやあきつひめのかみ)です。

速秋津日子神と速秋津比売神は後ほど結婚して、この2柱はさらに河と水に関わる多くの神々を生みます。
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神生み 2:自然に関わる神々の誕生

伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)は、さらに自然に関わる神々を生みます。

最初は風の神で、志那都比古神(しなつひこのかみ)です。
続いて木の神で、久久能智神(くくのちのかみ)です。

木の神を生んだことで、緑を豊かにする土台が出来上がりました。
そうして生まれたのが偉大な山の神で、大山津見神(おおやまつみのかみ)です。

大山津見神の子供と孫が、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の弟である建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)と結婚します
また富士山の神として有名な女神、木花之佐久夜毘売(このはやのさくやびめ)はこの大山津見神の娘です。

大山津見神の後、野の女神である鹿屋野比売神(かやのひめのかみ)が生まれます。
鹿屋野比売神は別名を持っていて、野椎神 (のづちのかみ)といいます。

大山津見神と野椎神は後ほど結婚して、山と野に関わる神々を生みます。

このようにして、海も河も、大地を覆う豊かな木々の緑も生れました。
広い大地を駆け巡るための、移動手段が必要となったのでしょう。

鳥のように軽快で固い楠造りの船の神、鳥之石楠船神(とりのいわくすふねのかみ)を生みました。
別名は、天鳥船(あめのとりふね)です。

この神様は、神様を運ぶ船の神です。
この後の日本神話に「国譲り」と呼ばれる、出雲の神々の元に高天原の神が訪れて、日本の国を統治するその権利を譲渡するよう交渉に訪れる場面があります。
猛々しい神を乗せて、鳥之石楠船神は高天原から地上への移動手段として活躍します。

農耕は生活の糧を築くものであり、神様への供物を作るものであり、古くからとても神聖な行為でした。
そのような農耕において、広い大地とその大地を縦横無尽に動き回る移動手段が出来たら、次に必要なのは作物の種です。

このような農耕を反映してか、次に生まれたのは穀物の神である大宜都比売神(おおげつひめのかみ)です。
粟の国の神(四国の徳島県の神)とは、同じ名前ですが別の神でしょう。

続いて伊邪那美命は火の神を生みます。
火の神を生んだことで、とんでもない出来事に見舞われてしまいます。
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神生み 3:火の神の誕生、そして伊邪那美命の死

伊邪那美命(いざなみのかみ)は火の神、火之夜芸速男神(ひのやぎはやおのかみ)を生みます。
この神は別名が2つあって、火之炫毘古神(ひのかがびこのかみ)と火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)です。

火之夜芸速男神は、火の勢いが盛んな様を表した名前です。
火之炫毘古神は、火が明るく輝く様を表した名前です。
火之迦具土神は、火がちらちらと燃える様を表した名前です。

異なる火の状態で、それぞれ名前が分かれているのです。

火の神を生んだことで、伊邪那美命は陰部に深刻な火傷を負ってしまい、病気になってしまいます。

病気に苦しむ伊邪那美命の排泄物から、様々な神が出現しました。

まず、嘔吐から鉱山の神が出現しました。
金山毘古神(かなやまびこのかみ)と金山毘売神(かなやまびめのかみ)です。

続いて、糞から粘土質な土の神が出現しました。
波邇夜須毘古神(はにやすびこのかみ)と波邇夜須毘売神(はにやすびめのかみ)です。

さらに尿から、彌都波能売神(みつはのめのかみ)と和久産巣日神(わくむすひのかみ)が出現しました。
彌都波能売神は灌漑用の水の神で、和久産巣日神は若々しい生命力の神です。

この和久産巣日神の子が、豊宇気毘売神(とようけびめのかみ)です。
豊宇気毘売神は、穀物の女神です。

火の神はいわば火山であり、火山によって刺激された土壌で鉱物が生まれます。
また火山の刺激は、栄養分を沢山含んだ土も生み出します。
そこに水が引かれることで、作物が育つ土が出来上がります。

栄養分をたっぷり含み、水の恵みに満ちた豊かな土に、若々しい生命力が宿ることで作物は育ちます。
そんな風にして金山毘古神から和久産巣日神までの誕生があって、穀物の女神が生まれます。
必要な段階を踏んで、生まれるべくして生まれた神様なのです。

この豊宇気毘売神は伊勢神宮の外宮に祀られている神で、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の食事係を担当している神です。
豊宇気毘売神の御神力により豊穣はもたらされ、私たちは毎日美味しいご飯が食べられるのです。

ここまで沢山の神々を生んできた伊邪那美神ですが、火の神を生んだことで負った火傷で、遂に命を落としてしまいます。

伊邪那美神を亡くした伊邪那岐神(いざなきのかみ)は、大変嘆き悲しみました。
「愛しい妻の命が、1柱の子供に代わるものか!」
と言って、伊邪那美神の枕元や足元に腹ばいになって涙に暮れたのです。

その涙から香具山(かぐやま)の畝尾尾(うねびお)の木本(このもと)にいる、泣沢女神(なきさわめのかみ)が出現しました。
奈良県橿原市木之本町に、今もこの神を御祭神として祀る泣沢神社があります。
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神生み 4:河口の男神と女神の結婚

伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)が生んだ水の神、速秋津日子と速秋津比売も夫婦になって、河と海に関わる神を生みました。

最初は水面に関わる神様が4柱生まれました。

河口の陸側の水面の神様である沫那藝神(あわなぎのかみ)で、水面が穏やかであることの神様です。
河口の海側の水面の神様である沫那美神(あわなみのかみ)で、水面が泡立っていることの神様です。

3柱目は、大変穏やかな水面の神である頬那藝神(つらなぎのかみ)です。
4柱目は、際立って泡立っている水面の神である頬那美神 (つらなみのかみ)です。

農耕民族である日本人にとって、水を引くためにかかせない河の状況を読むのは生活に必要な技でした。
だからこそ、水面の状態ひとつひとつに神様が宿ると考えられたのでしょう。

続いて、山に関わる水の神様が4柱生まれます。

まずは山から麓へと流れる水を分配する神で、天之水分神(あまのみくまりのかみ)。
続いて、麓から平地へと流れる水を分配する神で、国之水分神(くにのみくまりのかみ)。
降った雨が山中を川となって蛇行し、山麓へと流れゆく様が見えるようです。

さらに、山の水をくみ上げる神様で、天之久比奢母智神(あめのくひざもちのかみ)が生まれます。
続いて、地上の水をくみ上げる神様で国之久比奢母智神(くにのくひざもちのかみ)が生まれます。

山から流れてくる水は農耕に不可欠であり、それは生活に直結したものでした。
だからこそ氾濫が起きないように、また止まることがないように、そして恵みをもたらしてくれたら感謝を忘れないように、畏れ敬い大切にしたのでした。

沫那藝神から国之久比奢母智神まで、合わせて8柱の神を生みました。
これらの8柱の神は、伊邪那岐神伊邪那美神の孫にあたります。
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神生み 5:山の神と野の神の結婚

伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)が生んだ大地の神、大山津見神(おほやまつみ)と野椎神(のづち)も夫婦になって、山と野に関わる神を生みました。

最初は土地についての神様が生まれました。
山頂についての土地の神である天之狭土神(あめのさづちのかみ)と、地上に出来た土地の神である国之狭土神(くにのさづちのかみ)です。

さらに、霧についての神様が生まれました。
山頂に出来る霧の神である天之狭霧神(あめのさぎりのかみ)と、地上に出来る霧の神である国之狭霧神(くにのさぎりのかみ)です。

火山国日本は多くの山々を抱き、それらに密接した生活を送る古代日本人にとって、山の状況を読むことも生活に必要な技だったのでしょう。

大地も霧も、山頂と山麓では質が違います。
質の違いに異なる神を見る、日本人ならではの繊細な感性が伺えます。

続いて、山頂にほど近いところにある渓谷の神で、天之暗戸神(あめのくらとのかみ)が生れました。
さらに、地上にほど近いところにある狭谷の神で、国之闇戸神(くにのくらとのかみ)が生まれました。

道に迷わせる神様の、大戸惑子神(おほとまといこのかみ)と大戸惑女神(おほとまといめのかみ)が生れました。

現代でも山から谷に抜ける中、道を見失って帰って来られず遭難してしまう者がいます。
ましてや街灯などない古代においては、もっと沢山の遭難者が出ていたのではないかと思われますj。
そんな風に道を見誤り、迷ってしまうのも、神の業だと古代の人々は考えたのでしょう。

山は恵みを与えてくれる場所でもあり、また命を落とす危険な場所でもありました。
そんな山は神が鎮まる場所であり、神は慈しみを与えてくれる存在であると同時に、怒り祟る存在でした。
そんな自然への信仰心が、神様誕生の経緯にひっそりと潜んでいるのです。

天之狭土神から大戸惑女神まで、合わせて8柱の神です。
この8柱の神も、伊邪那岐神伊邪那美神の孫にあたります。
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神生み 6:虐殺された火の神 前編

火の神を生んだことが原因で、命を落としてしまった伊邪那美神(いざなみのかみ)。
その亡骸をそのままにしておくわけにいかず、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)は悲しみながらも出雲の国と伯伎(ほうき)の国の境にある比婆(ひば)の山に葬りました。

この比婆の山がどこに当たるのか、現時点では明確に定まっていません。
恐らくは、広島県庄原市から島根県仁多郡奥出雲町境にある比婆山であろうといわれています。

伊邪那美神を埋葬した後。
伊邪那美神を失った悲しみは怒りに変わり、怒りはやがて殺意に変わります。

伊邪那岐神は腰に差していた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜いて、自分の子供である迦具土神(かぐつち)の首を斬って殺してしまいます。

刀の先についた血が、ばっと湯津石村(ゆついはむら)に飛び散りました。
その血から、刀剣の神である石拆神(いわさくのかみ)、根拆神(ねさくのかみ)、石筒之男神(いわつつのおのかみ)の3柱が出現しました

古代の人々は鉄鉱石を熱い火で燃して溶かして加工して、剣や矛を作りました。
そのため製鉄において火の存在は、絶対的に必要なものでした。

だからこそ、火の神と剣の神が縁深いのでしょう。
銑鉄が火に溶けて真っ赤になる様に、古代の人々は火の神の血によって出現する神を見たのかもしれません。

刀の手元についた血も、湯津石村に飛び散りました。
その血から、火の神である甕速日神(みかはやひのかみ)と樋速日神(ひはやひのかみ)、そして雷の神である建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)の3柱が出現しました。

建御雷之男神は別名が2つあり、建布都神(たけふつのかみ)と豊布都神(とよふつのかみ)です。

熱くなった金属は、叩くと固くなります。
「鉄は熱い内に打て」という言葉が生れるほどに、鉄剣を作る上で加工硬化は重要な過程でした。

加工硬化の際、刃を叩くたびにほとばしる火花。
そして凄まじい稲光を発して雷が落ちると、激しい火事が発生するなど。
火と雷を関連付けて、そこで見出された神様が建御雷之男神です。

この後建御雷之男神は、出雲の国譲りの交渉人として天下ります。
その際、海に突き出た剣の突先に座って現れます。

古代の人々は、いかに火と剣と雷を結び付けて考えたのかが伺えます。
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神生み 7:虐殺された火の神 後編

さらに刀の柄に溜まった血が、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)の指の間から溢れ出てきました。
その血から出現した神が、渓谷の水を司る竜神闇淤加美神(くらおみのかみ)と渓谷から流れ出る水の神闇御津羽神(くらみつはのかみ)です。

火と水は対比する関係としてやはり縁深く、だからこそ火の神から水の神が誕生しているのでしょう。
日本の神々はこのようにして、関連性の高い相対するものが出現することがあります。

殺された迦具土神(かぐつち)の亡骸からも、次々と山に関わる8柱の神様が出現します。

 頭:正鹿山津見神(まさかやまつみのかみ)
   山の神です。

 胸:淤縢山津見神(おどやまつみのかみ)
   正鹿山津見神の弟格にあたる山の神です。

 腹:奧山津見神(おくやまつみのかみ)
   山奥の神です。

 陰部:闇山津見神(くらやまつみのかみ)1
    渓谷の神です。

 左手:志芸山津見神(しざきやまつみのかみ)
    茂った山の神です。

 右手:羽山津見神(はやまつみのかみ)
    山の麓の神です。

 左足:原山津見神(はらやまつみのかみ)
    山裾の野原の神です。

 右足:戸山津見神(とやまつみのかみ)
    里近くの山の入り口の神です。

火の神の亡骸から山に関わる神様が出現したのは、日本が火山国であることと関係性があると思われます。
噴火のメカニズムなど知らない古代の人々にとって、火を噴いて爆発する山の姿に度肝を抜かれたことでしょう。

噴火した山から流れ出る火砕流のすさまじさに、火の神と山の神を強く結びつけることになったのではないでしょうか。
山に住まう神へ畏れが、同時に火の神への篤い信仰心を生みだしたのではないかと思われます。

日本の神様はこのような自然が神格化した神様だけではなく、剣なども神様となります。
迦具土神を斬った十拳剣は、天之尾羽張(あめのおはばり)という名のついた神様です。
これは、天上界の雄々しい大きな刀であることを意味します。

別名を伊都之尾羽張(いつのおはばり)といいます。
これは、威勢のあって雄々しい刀であることを意味します。

出雲の国譲りの章で、国譲りの交渉人として候補にあがった神様です。
しかし他の大事な任務中だったので、刀の手元についた血から出現した建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)が交渉人として出向くことになります

伊邪那美神(いざなみのかみ)が命を落としたことで、伊邪那岐神(いざなきのかみ)と伊邪那美神(いざなみのかみ)の2柱による「神生み」は出来なくなってしまいます。
そのため、この後も神様は出現しますが、2柱による「神生み」はここで終了となります。
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前のページは神生み 6:虐殺された火の神 前編
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