宇摩志阿斯訶備比古遅神

宇摩志阿斯訶備比古遅神

うましあしかびこひつぢ
別:〇宇麻志阿斯訶備比古遅神可美葦牙彦舅尊(うまし あしかび ひこぢの みこと)

葦の芽のようにすくすくと育つ生命力の神様

日本神話の神で別天神。生命の根源を司る神とされる。宇麻志阿斯訶備比古遅神可美葦牙彦舅尊とも書かれる。「ヒコ」と名は付くが性別のない神である。
まだ大地(地球)が若くクラゲのように漂っていた時、葦の芽が萌えるように生まれ出たとされる。名前の「アシカビ」とは葦の若芽を意味する。
系図では神産巣日神(カミムスビノカミ)の下に書かれ、神産巣日神の子とされる。天之常立神(アメノトコタチノカミ)はこの神の子である。
別天神(コトアマツカミ)の五神のうち、四番目に現れた神。日本の神道における八百万の神のうち、生命の力強さそのものを司る神。地球・生命を司り、男神とされています。
記紀(古事記、日本書紀)等で語られる日本神話において、そもそもの宇宙の始まりの時点、天も地もなく混沌として、まだこの世界の形がなかったころのことです。初めて天と地、陰と陽がわかれ、高天原が創造され、それと同時にその中心に現れたのが天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)、次に高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)、次に神産巣日神(カムムスヒノカミ)が現れました。この三柱の神は、万物の創造を司る神であり、「造化三神」と称されています。天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)には性別がなく、高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)は男神、神産巣日神(カムムスヒノカミ)は女神と言われています。これに、宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコジノカミ)と、天之常立神(アメノトコタチノカミ)の二柱の神を加えて、別天神(コトアマツカミ)の五神と言います。
「宇摩志(うまし)」は敬称、「比古遅(ヒコジ)」は男性、「阿斯訶備(アシカビ)」は葦の芽を表しています。地上における生命の誕生を象徴し、ひいては、人類の誕生のルーツをも象徴する神です。「人間は考える葦である」という例えのように、葦は生命の象徴として古くから尊ばれて来ました。
古事記」においては、「天地開闢」の段でクラゲナスタダヨエルトキ(大地がクラゲのようにドロドロと定まっていなかったとき)、葦の芽が萌え出でるようにして生まれたのが宇摩志阿斯訶備比古遅神(ウマシアシカビヒコジノカミ)であるとされています。しかし、その後、あまり大きな事跡の記述はありません。「日本書紀」においては、名前が出てくる程度でほとんど記述がありません。全国の神社でもこの神を祭神とする所は珍しいです。

宇麻志阿斯訶備比古遅神


宇麻志阿斯訶備比古遅神

うましあしかびひこぢのかみ
別:〇宇摩志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびこひつぢ)、可美葦牙彦舅尊(うまし あしかび ひこぢの みこと)

萌え出る葦の芽のような生命力を象徴する男神。

「うまし」は美称です。よい、美しい、といった意味があります。「うまし国」「うまし御路(みち)」など、多くの用例があります。

あしかび、 葦牙。葦はイネ科の植物で、河川敷や湿地帯に群生し、成長すると2メートル以上にもなります。すだれの材料。

牙(かび)は芽という意味で、黴(カビ)と同じ語源です。かつての日本列島の海辺や川辺や湖畔は葦で一面に覆われていたようで、成長も早く、自分たちの背丈よりもずっと高くなる葦が、見渡す限りに繁茂している姿は、古代人にとっては見慣れたものであり、また自然の生命力の驚異を感じさせるものでもあったと考えられます。そのような葦の勢いよく芽吹く姿に、この宇宙の生命の生成する力そのものを託すことで生み出された神格が、ウマシアシカビヒコヂの神なのでしょう。

ひこは、男性の美称です。古代においては、高貴な立場の男性の名前につけられていることが多いようです。さらに分解すると、「ひ」(ムスヒのヒと同じ。超自然的な霊的な力)+「こ」(子、男子という意味)となります。対応する女性の美称は「ひめ」です。これは「ひ」+「め」(女子という意味)と分解できます。これが現代でも使われている「おヒメさま」の語源です。男性に対しては、「おヒコさま」とは言いませんが、人名にしばしば用いられています。

ひこぢのぢ、も男性の美称です。古くは父を「ち」と呼びました。ここでは連濁により「ぢ」となっています。親父・伯父・叔父の「ぢ」はすべてこの意味です。このことからウマシアシカビヒコヂは男神と考えられます。一方、大系紀補注のように、日本書紀の伝承におけるこの神と泥の観念との関わりから、このヒコヂはコヒヂ(泥の古語)の転訛であろう、とする説もあります(日本書紀には多くの神話伝承が載っていて、そのいくつかにこの神の名前が出てきます。

(河)



日本の神々


→ 日本の神 家・氏 系図


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