[4]誓約のおはなし(スサノオ伝説)

古事記万物創世のおはなし
アマテラスとスサノオの誓約(うけい)
イザナギは、この三貴神の誕生を大変喜び、アマテラスには天の世界(高天原)を、ツクヨミには夜の世界を、スサノヲには海の世界(葦原中国)を統治するように命じました。しかし、海の統治を命じられたスサノヲは、全く仕事をせず、ひたすら泣いてばかり。その泣き声は、山を枯れさせ、海を干上がらせ、地上の世界は、その禍いによって、すっかり荒れ果ててしまいました。

		

すると、気になったイザナギは、スサノヲに、その理由を尋ねると、スサノヲは、こう答えました。「母であるイザナミに会いたくて、その母のいる世界に繋がる根の堅州国に行きたい」と。これを聞いたイザナギは、大層お怒りになり、スサノヲを葦原中国から追い出してしまうのでした。

ちなみに、それぞれの神の性質ですが、アマテラスは、ご存知の通り、『太陽』を司ります。太陽は、万物全てに光を与える存在であることから、その全てを包み、あらゆるお願いを聞き届けるという意味で、所願成就のご利益があるとされています。

ご利益を求め、どの神社に行けばいいのか分からなかったら、アマテラスの祀られている神社に行けば、先ずは間違いないなどと言われることもあります。代表的な神社に、伊勢の皇大神宮を始め、神明社や天祖神社などがあります。

続く、弟であるスサノヲは、乱暴者という前半の半生の意味も含め、『暴風雨』を司る神とされ、その力強さが転じて、厄をもなぎ払うという意味で、厄除のご利益があるとされています。主な神社としては、氷川神社、須佐神社、須賀神社、八坂神社、八雲神社など実に多くの神社で、その主祭神として祀られる人気の神さまとなります。

最後、ツクヨミは、三貴神の中では、一番マイナーな存在ではありますが、かつては、太陰暦(月の満ち欠けで暦を決める)が用いられてきたこともあり、『暦』を司るの神としての性質を持ち、また、人の運命、ツキ(運)を与えるという語呂合わせから、運気上昇のご利益が上がる意味に用いられることがあります。神社としては、月読神社を始め、月山神社、羽黒神社、鳥海山大物忌神社などで見ることができます。

	
		多賀大社(たがたいしゃ):滋賀県犬上郡多賀町多賀604

多賀大社は、スサノヲを葦原中国より追放した後に、そのイザナギが、この地で鎮まられたとされている場所です。御祭神には、イザナギとイザナミの両神を祀っています。このため、かつては、伊勢参りと同じくお多賀参りというものが流行し、「お伊勢参らばお多賀へ参れ お伊勢お多賀の子でござる」といった民謡も見られたようですが、これは、当然のことながら、アマテラスの親神が祀られているからという意味になります。

	

さて、葦原中国を追放されたスサノヲは、根の堅州国に向かうことを決意するのですが、その前に、姉神であるアマテラスに挨拶をして行こうと、高天原に訪れます。ところが、乱暴者のスサノヲが地上からやって来ると聞いたアマテラスは、これをスサノヲが攻め込んで来たのだと勘違いを起こし、弓矢を携え武装をしてスサノヲを出迎えます。これをみたスサノヲは、自分がそんな狙いがあって、姉元のところに来た訳ではないことを証明するために、「誓約(うけい)」をすることを提案します。

「誓約」とは一般には、誓いの儀式を表しますが、この場合の「誓約」とは、古代日本で行われた占いを表し、吉凶、正邪、成否のルールを予め設定し、その結果をみて判断するもので、一種の賭け事的占いのようなものでした。そして、ここでは、アマテラスとスサノヲが所有するものを交換し、そこから生まれ出た御子神の性別によって、自らに邪な気持ちがないことを証明すると提案しました。

先ずは、スサノヲは、自らが所有する「十拳剣(とつかのつるぎ)」をアマテラスに手渡します(この十拳剣は、イザナギがカグツチを斬った時に登場しましたね。覚えてます?)。受け取ったアマテラスは、それを噛み砕き、息を吹き出すと、その中から3柱の女神が生まれました。それが、宗像三女(ムナカタサンジョ)です。

続いて、アマテラスはスサノヲに、自身の身につけていた「八尺の勾玉の五百箇のみすまるの珠」を手渡します。受け取ったスサノヲも、これを噛み砕き、息を吹き出すと、その中から5柱の男神が生まれました。こうして、スサノヲは、自分の所有物である剣から心優しい女神が生まれたのは、自分に邪なことがなかったからであるとし、その身の潔白を伝え、アマテラスはそれを了承する形で、ひとまず、スサノヲは高天原に迎え入れられることになりました。
こうして生まれた8柱の神々ですが、この8柱の神々が全て祀られている神社というものもあります。それが八王子神社です。この八王子(正確には王女も含まれるはずですが)とは、正に、この誓約で生まれた神々を表します。ただ、八王子神社は、元々、牛頭天王(ごずてんのう)が生んだ八将神という仏教の守護神を意味しており、明治の神仏分離令を通じて、この8柱の神々に置き換えられたに過ぎません。

そのため、直接、この古事記に由緒を発することはできませんが、牛頭天王とスサノヲを同一視みることもあるので、その点では、親子関係での整合性は取れているとも言えます。ただし、この場合、8柱全てが、スサノヲの御子神として祀られているので、若干、本筋とは異なる祀られ方をしております。

そして、スサノヲの十拳剣から生まれた宗像三女は、宗像大社を代表として、厳島神社などにも祀られ、海の女神として、非常に人気のある女性神となります。ある意味、住吉三神の女性版といった感じで、航海安全や豊漁祈願といった水産業に関わるご神徳が求められています。そして、一説には、この後、この宗像三女神は、アマテラスの勅命によって、後の皇孫を守るべく、いち早く筑紫(福岡県)の地に遣わされたと言われます。

逆に、アマテラスの所有物から生まれた5柱の神々は、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(アサカツアカツカチハヤアメノオシホミミ)、通称、天之忍穂耳命(アメノオシホミミ)、天之菩卑能命(アメノホヒ)、天津日子根命(アマツヒコネ)、活津日子根命(イクツヒコネ)、熊野久須毘命(クマノクスビ)となり、何れもその性質はあまり定かではありません。

ただ、太陽の御子ということもあって、農業を代表とする農畜産業の神さまの色合いが強いと思われます。中でも、アメノオシホミミは、後に天孫降臨へと繋がる瓊瓊杵尊(ニニギ)を生んだことから、皇祖として、直系の神となるので、その点では、最も重要な神さまのひとつと言えるでしょう。

	
		宗像大社・辺津宮(むなかたたいしゃ・へつみや):福岡県宗像市田島2331

宗像大社・中津宮(むなかたたいしゃ・なかつみや):福岡県宗像市大島1811
宗像大社・沖津宮(むなかたたいしゃ・おきつみや):福岡県宗像市大島沖之島
宗像大社は、誓約によって生まれた宗像三女神が、アマテラスの勅命によって、皇孫を守るために遣わされた地と言われています。そして、こちら3女神を、3カ所の地に分け、市杵嶋姫命を辺津宮(へつみや)、田心姫神を沖津宮(沖ノ島)、湍津姫命を中津宮(大島:福岡県宗像市大島1811)それぞれに祀っています。とりわけ、、田心姫神を祀る沖ノ島は、未だに女人禁制の伝統を保ち、男性でも年に1回、200名限定と制限されていると聞きます。その制限は相当厳しく、海での禊ぎをしなければ上陸は許されず、船での寄港も原則許されないという現代の日本でも一般の人が滅多に入ることを許されない禁断の地として、非常に有名です。

	

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