日子穂穂出見命

日子穂穂出見命

ひこほほでみのみこと
別:○山幸彦火遠理命(ほおりのみこと)、天津日高(あまつひこ)日子穂穂出見命彦火火出見尊
父:◇邇邇芸命の第3子
母:木花咲耶姫命
子:鵜葺草葺不合神(神武天皇の父)

神格:穀霊神、稲穂の神

日子穂穂出見命は、幼名を火遠理命、別名を山幸彦といい、有名な海幸彦山幸彦神話の主人公である。 実の兄、海幸彦の釣り針をなくしてしまった山幸彦は、兄によって家を追われたあと海神の宮へと赴き、海神の娘と結婚して霊力を授かり、陸地に戻って兄に復讐するという物語である。 神話の詳細は別項の海幸、山幸神話に述べたので省略する。 ここでの海幸、山幸の「幸」というのは、もともと狩猟採取時代に海や山の獲物を捕るための道具だった弓と矢、釣り針を意味している。 道具は、狩猟民や漁民にとって豊富な獲物を保証する霊力のしるしだったのである。 だから、この兄弟は海と山の恵みを司る神ということになる。

また、この物語は一種の英雄誕生説話である。 若者が海底の竜宮へ行って美しい姫に出会い、神秘的な呪力を得て弱者から強者へと変化、地上に戻って敵対者にうち勝って支配者となるというモチーフは、海洋民族系統の神話伝承として世界的な広がりを持つものである。 一般に馴染みのある山幸彦というのは、あくまでもこうした冒険とロマンの英雄像なのである。 しかし、このような面は神社の祭神としての日子穂穂出見命の一面でしかないといえるだろう。

日子穂穂出見命は、高天原から地上に降ってきた天孫邇邇芸命の三人の子供のうちの末子である。 これら三人の子供の名前にはいずれも火と穂を意味する「ホ」という字が使われている。 火が盛んに燃えるときの炎の様子が、稲穂のすくすくと成長し、実る姿と結びつけられたもので、末子の日子穂穂出見命の幼名である火遠理とは、炎が衰える様子、つまり稲穂が実って頭を垂れる姿を象徴している。

また、日子穂穂出見命は神話にあるように海神の庇護を受け、その娘の豊玉姫命と結婚する。 それだけでなく、海神から超能力的な偉大なパワーをも授かっている。 それは、日子穂穂出見命が海神的な霊力を継承していることを示すものである。 そもそも海幸、山幸神話には、古代の海人(アマ)族の伝承が含まれているともいわれている。 そのことから、古くからあった漁民集団の海神信仰と穀霊に対する信仰が結びついた、というのがこの神の原像と考えられているのである。 だからこの神は、農業の守護神であると同時に漁業の守護神でもあるという、ふたつの性格を持つ神ということになる。

なお、農業の守護神としての日子穂穂出見命は、民俗信仰では虫除けの神として崇められている。 稲を食い荒らすイナゴ、ウンカなどを退治する稲の守り神としても霊力を発揮しているのだ。 たとえば福井県武生市の大虫神社の祭文には、昔、国中に害虫が発生して人畜、作物に被害が出たとき、神威によってこれを駆除したと伝わっている。


饒速日尊
天火明神
邇邇芸命━━━日子穂穂出見命━┓
       豊玉姫命━━━━┻━鵜葺草葺不合神
                 玉依姫命


日本の神々


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