2019/07/01 温暖化の政策科学 杉山 大志 印刷用ページ 地球温暖化問題というと、以下の「物語」が共有されている。「地球温暖化が起きている。このままだと、地球の生態系は破壊され、災害が増大して人間生活は大きな悪影響を受ける。温暖化の原因となっているのは、化石燃料を燃やすことで発生するCO2であり、これを大幅に削減することが必要だ。パリ協定では2度以下に温度上昇を抑えることが国際合意され、日本政府はこれに向けて2050年までにCO2排出量を80%削減する。温暖化対策は待ったなしの状態である」。 ① 温暖化はゆっくりとしか起きていない。 温暖化の進行は、1990年に予言されていた速さ(100年で3度、誤差幅は2~5度)に比べると、ゆっくりとしている。温度上昇のペースは、せいぜい100年で1.5℃程度の速さであった。とくに、2000年以降2013年迄はハイエイタス(停滞)と呼ばれ、温度は上昇しなかった。その後エルニーニョ現象で温度はいったん上がったが、2017年、2018年にはまた下がった。 ② 温暖化は危険ではない 現在程度の速さの温暖化は、過去に自然変動で起きてきたものと大差ない。それに、過去100年に起きた温暖化では、何の被害もなく、人類は空前の繁栄を享受した。1990年ごろには、大西洋の海流大循環が激変するといった可能性も示唆されたが、これは起きそうにないことがその後の研究で解っている。あれこれの仮説が出されて心配されたけれども、よく検証すると、さほど温暖化は危険でないのだ。 ③ 温暖化は人為的CO2にもよるが、それ以外の要因も大きく、よく分かっていない。 化石燃料燃焼によるCO2などの温室効果ガス排出が温暖化の要因の一部であることは確かである。しかし、IPCCによる気候のシミュレーション(巨大な天気予報のようなもの)は、自身が認めているように科学的不確実性はとても大きい。人為的CO2による温暖化が起きたとされるのは1950年以降だが、それ以前にも地球は結構な速さで温暖化していた。欧州では小氷期といって氷河が発達した時期があり、それが後退し続けて現在に至っている注1)。海洋の内部変動か、太陽磁場の変動の気候への影響が大きな因子かもしれない。いずれにせよシミュレーションは、一連の過去の変化を全然再現できておらず、地球の気候の複雑さを表現できていない。したがって将来の予言も不確かである注2)。 ④ 大幅排出削減は待ったなしではない。 一連の物語は、結局はこの「待ったなし」を言うことが眼目である。そうしないと政府予算も研究予算もなかなか付かないからだ。しかし、科学的知見は分からないことだらけであるのに対して、じつは温暖化ではたいした被害は起きなかたし、今後についてもさしたる危険は迫っていないことも分かってきた。その一方で、大規模な排出削減というのは、大変な費用を伴うことははっきりしている。いまの日本は再生可能エネルギー導入の賦課金だけで年間2兆円を超え、これは電気料金に乗せて国民から徴収されている。 注1) 小氷期の欧州における猛烈な寒さについては(ヴォルフガング ベーリンガー, 2014) 注2) IPCCの気候シミュレーションは物理過程を表現できておらず、過去の気候も再現できておらず、従って将来予測能力は乏しい、とするものとして、(Mulargia, Visconti, & Geller, 2018)。これらのシミュレーションが、「CO2が原因で温暖化が起きている」という形に「チューニング」で教え込まれていることを明らかにしたものとして、(Hourdin et al., 2017)。チューニングが行われている証拠として、複数のモデルを比較すると、気候感度と放射強制力が反比例関係にあることが発見されている(Kiehl, 2007) Figure 1。これは、20世紀の温暖化が温室効果ガス(およびエアロゾル)によって実現するようにチューニングした結果である。“Note that the range in total anthropogenic forcing is slightly over a factor of 2, which is the same order as the uncertainty in climate sensitivity. These results explain to a large degree why models with such diverse climate sensitivities can all simulate the global anomaly in surface temperature. The magnitude of applied anthropogenic total forcing compensates for the model sensitivity 注3) いま人口に膾炙している「温暖化物語」が、温暖化の予測から、環境影響予測まで、殆ど全て誤りないし根拠が無いと論じるものとして、(Lindzen, 2016)(Lindzen, 2017)。著者のMIT Lindzen教授は気候科学研究の権威。 <参考文献> ・ Hourdin, F., Mauritsen, T., Gettelman, A., Golaz, J. C., Balaji, V., Duan, Q., … Williamson, D. (2017). The art and science of climate model tuning. Bulletin of the American Meteorological Society, 98(3), 589–602. https://doi.org/10.1175/BAMS-D-15-00135.1 ・ Kiehl, J. T. (2007). Twentieth century climate model response and climate sensitivity. Geophysical Research Letters, 34(22), L22710. https://doi.org/10.1029/2007GL031383 ・ Lindzen, R. (2016). GLOBAL WARMING and the irrelevance of science The Global Warming Policy Foundation. Retrieved June 5, 2019, from https://www.thegwpf.org/content/uploads/2016/04/Lindzen.pdf ・ Lindzen, R. (2017). Straight Talk About Climate Change. Academic Quest, 30, 419–432. ・ Mulargia, F., Visconti, G., & Geller, R. J. (2018, January 1). Scientific principles and public policy. Earth-Science Reviews. Elsevier. https://doi.org/10.1016/j.earscirev.2017.09.007 ・ ヴォルフガング ベーリンガー. (2014). 気候の文化史 氷期から地球温暖化まで. 丸善プラネット. NPO法人 国際環境経済研究所 |