「有隣堂しか知らない世界」に電卓博士として出演した 758 「有隣堂しか知らない世界」はチャンネル登録者数が29万人。すごいですね。略称は「ゆうせか」で、視聴者は「ゆーりんちー」と呼ばれているそうです。 番組MCはR.B.ブッコローさんです。正直なミミズクさんで、ブッコローさんからは「シャープの王道の人から見たら『うちの会社って、電卓つくってたっけ』みたいなポジション?」というご質問もいただきました。(全く怒っていないです!)そこでわたしも、少数精鋭の電卓グループを代表して、会社員人生の約半分、15年以上にわたって電卓に関わってきた技師として、電卓の良さを率直にお伝えしてまいりました。 目次 有隣堂さんの運営する店舗の視察へ。お伺いしたのは横浜の伊勢佐木町本店、横浜・みなとみらい、東京・有楽町、東京・日本橋の4店舗です。 伊勢佐木町本店は4Fの事務用品売り場に電卓コーナーがありました。でも…目立ちません。シャープの電卓はクレジットカードタイプだけでした…。他のおしゃれな3店舗は、そもそも電卓コーナーがありません…。店選びを間違えたかもと反省。 画像 でもまあ残念ながら、その目論見は外れました。ブッコローさんが有隣堂の社員さんに「有隣堂って電卓売れてるんですか?」とたずねたところ、 返事は「置いてます」。 え、置いてます? 「きさまー!売れてるか売れてないか聞いてんだよ。置いてるか置いてないか、なんか聞いてない」と叫んだブッコローさんに、わたしも同感でございます。笑 電卓なくてもスマホでよくない? さらに「スマホ全盛期、電卓ならではの良さってあるんですか?」とおっしゃいます。 もちろん、、、 です! スマホは、電卓を使うためにアプリを立ち上げなければいけませんよね。電卓は、手にとって計算をすぐに始められます。 さらに、重要な会議に参加して、計算が必要なとき、スマホを取り出せますか? ブッコローさんも「あー。でも、それは・・・ちょっとあるぞ・・・?」と賛同してくださいましたので、少しは伝わったのでしょうか。ホッとしました。 会議でスマホをさわっていると、仕事なのか私用なのかわかりませんが、電卓なら疑われません。電卓で計算した結果を発表したら、数字に強いヤツというイメージもできて、上司からも「お、しっかりやってるな!」と褒められたりなんかして。まあ、これは半分冗談ですが、スマホが使いにくい場面でも電卓なら問題ありません。だから、うちの会社では重要な会議でスマホを使って計算する社員はいないと信じています、、、! スマホが持ち込めない世界 スマホが持ち込めない場所は他にもあります。 わたしが数十年前に通っていた大学の機械工学科は、工作機械を使う実習が多くありました。工作機械は、ちょっと当たっただけでも骨折したり、指が切断されたりします。注意が散漫になると思わぬケガをするので、作業中はスマホやパソコンを手元に置けません。計算をするときは電卓を使っていました。 化学の実験も同じです。劇薬を使うので、パソコンよりも電卓が向いています。工場や研究所もそうですね。万が一、劇薬を電卓にこぼしても、電卓ならそれほどお財布に響きません。 スマホ持ち込み禁止といえば、試験もそうです。スマホはインターネットにつないでカンニングができてしまいます。ところが、電卓なら持ち込みOKな資格試験もあります。「公認会計士」に「税理士」、「不動産鑑定士」など難易度がとても高い試験から、科学技術の資格としては最高峰の「技術士」、さらには「一級・二級建築士」の製図試験まで。「日商簿記検定試験」は電卓かそろばんを持ち込めるそうです。そろばん…渋いです。 電卓愛用者のいる世界 ゆうせか公開後、ゆーりんちーさんたちが投稿されたコメントを大変嬉しく拝見しました。電卓をご愛用いただいている方の声を聞ける機会も少なく、本当にコメントをくださった方ありがとうございました! 会計士です。いつもお世話になってます。 こちらこそ、お世話になっております! 相棒になれて幸せです! 良さを分かっていただき、ありがたいです! 進化した電卓あれこれ そして今から60年前の1964年。東海道新幹線が開通し、東京オリンピックが開催され、富士山の山頂にレーダーが設置された年に、シャープ初の電卓が誕生しました。世界初のオールトランジスタ電卓「コンペット CS-10A」です。 画像 あれから60年、電卓は手のひらサイズに進化しました。ブッコローさんにも、そんなわが社の電卓あれこれを体験していただきました。 プロ御用達の「実務電卓」 ・高速早打ちはスマホの倍速 スマホの電卓アプリは画面を見ないと打てませんが、物理キーのある電卓は指の触覚でキーを押したことがわかります。スピードが重視される経理業務では、プロはノールックのタッチタイピングで電卓をタカタカタカタカッと連打します。このとき、電卓に求められるのは、プロの入力スピードに付いていくことです。 スマホの場合は、画面をタッチしてから約0.1秒後に反応します。つまり「1秒間に10回」入力できます。 それに対して電卓は「1秒間に16回」、高速早打ち機能がある実務電卓なら「1秒間に20回」入力しても処理できます。つまり、スマホの1.6〜2倍の速さでタカタカッと打っても付いていきます。 ゆうせかでは、ブッコローさんにスマホ電卓とリアル電卓で実演していただきました。 「1」と「2」を交互に、できるかぎり高速で「12121212…」と入力してもらいます。 画像 画像 ・2色成形キーは金太郎飴 画像 実務電卓の上位モデルに採用している「2色成形キー」なら、そのような心配はありません。写真は「3」のキーを半分に切ったものです。白と黒、2色のプラスチックでつくった数字が奥まで続いているので、キーの表面がすり減っても金太郎飴のように数字が現れ続ける構造になっています。ブッコローさんにも「これはいいことを知った…のか?」と多分、喜んでいただきました。 ・横から見るとわかる傾斜キー 画像 1つ1つのキーも、よーくご覧ください。指にフィットしやすいようにカーブをつけて真ん中をくぼませています。これが「シリンドリカルキー」です。 画像 社内で使う専門用語は、一般の人にわかりやすいように言い換えました。「嵌合かんごう」は「はめ込み」に、「摺動しゅうどう」はキーを押したときの「上下の動作」に、という具合です。 「スカルプチャーキー」「シリンドリカルキー」はカタログにも載せている用語なので、そのまま使おうと思ったのですが、有隣堂さんとの打ち合わせで「これも、わかりにくいんだ」と気づかされました。わたしも、まだまだ勉強中の身です。 ・プラスチックもゴムもあります ゆうせかではご紹介しませんでしたが、キーの材料にも種類があります。最近のシャープの主流は「プラスチックキー」です。プラスチックキーの下にはゴムが入っていて、ゴムの硬さを調整することで、軽く入るキー、押したときにクリック感のあるキーといった調整をしています。 「ゴムキー」は薄くできるので、薄型の電卓に使われます。操作したときの音がなく、静かなのが特徴です。 画像 ・静かな場所で使うならサイレントキー 静音構造で操作音が静かなキーもあります。キーには出っ張りがあって、その部分が筺体きょうたいに当たったときにカチッと音がするのですが、「サイレントキー」は出っ張りと筺体きょうたいの間にクッションになるモノを入れて、音が鳴りにくくなるようにしています。 画像 ローンや外貨預金の計算は「金融電卓」 ゆうせかの事前準備では、①月々の融資額を計算する、②返済までの月数を計算する、2パターンを用意していましたが、当日のブッコローさんの反応を見て、②の月数計算で説明することにしました。 お題は「100万円を利息6%で借りました。毎月5,100円返済すると、返済まで何カ月かかるでしょう」。ブッコローさんに入力してもらうと、答えは788カ月。65.7年ですね。ほとんど利息だけを返している状態です。 画像 画像 そんな計算ができるので、ブッコローさんも「いいこと知ったわァー…。コレおいくらなんですか?」と興味津々。ゆうせかで使ったEL-K632は税込4,378円です。この値段で人生が変わるかもしれませんね。 余談ですが、わたしの電卓人生で最も開発に苦労したのが、この金融電卓です。ローンの返済方法には、ありとあらゆるパターンがあります。開発過程であまりにも悩みすぎて、体重がみるみる減り、同僚には「最近ちょっとやつれてきたよ」と心配され、直属の上司は当時住んでいた寮に何度も様子を見に来てくれ、さらに上のチーフは「本当にまずいことがあったら相談するんだぞ」と声をかけてくれました。もし、後継機をつくることになっても、担当者は別の人に!と心から祈っております…。 理系の心をガッチリつかむ「関数電卓」 電卓の液晶に「分数」が表示されているのを見たことがありますか?関数電卓は、分数・√・Σなどの数学記号を含む数式を、教科書に書かれているとおりに表示できる電卓です。 サイン、コサイン、タンジェント。πもあります。ブッコローさんは「スッゲエじゃん…電卓に分数出てんの、初めて見た!」と大興奮。計算した後、「CHANGE」キーで「仮分数→小数→帯分数」に表示を変更する操作は、見た目の変化もあるし動画向きかな?と思って取り入れました。ブッコローさんには「帯分数とか懐すぎて…涙が出そうなんですけど」と泣いていただき感無量です。 主なユーザーは理工系の学生さんやわたしのようなエンジニア。最近は経済学や社会学、金融を勉強している方にもお使いいただいています。 ゆーりんちーさんたちのコメントでも、関数電卓は大人気でした。 統計を勉強してから関数電卓の虜になりました なんと嬉しいお言葉! 徹夜でレポート・・・わたしも学生時代を思い出します。 技術系のお仕事には必需品ですよね! 電卓が戦っている姿を想像して、誇らしい気持ちです。 ブッコローさんの一択「プリンタ電卓 」 ブッコローさんが唯一「欲しいのは、あれ。全国民が欲しいでしょ」と言ってくださったプリンタ電卓です。計算結果を紙に残せて、日本ではホテルのフロントや個人商店など使われる場所が限られていますが、海外ではわりとポピュラー。日本でいう確定申告をするときに、計算結果のエビデンスを付けろという決まりがあるらしく、重宝されているようです。 とはいえ、国内での需要が少ないので、ゆうせかでトークが持つか心配でした。そこで有隣堂さんが扱っている文具や食品を伝票計算の例題として用意しました。「ボールペン100円」、「ノート210円を2冊」。このあたりでブッコローさんが店員役となり即興コントがスタート。動画ではカットされましたが、とても楽しい時間を過ごせてわたしは大満足です。 プリンタがカチカチ動いて印字するところでは、ブッコローさんはキャアー!フホホホォーウ!最後は、紙が切りやすい位置までキーを押して紙を送るのですが、ブッコローさんが長く押しすぎて、「あぁーーーーーっ…」と二人で悲鳴をあげました。 画像 わたしの推しは「学校教育用電卓」 では少しよろしいでしょうか。次の2つの電卓の画像、何か違いがありませんか? 画像 カンマは下じゃなくて、上。これが普通の電卓です。 画像 画像 画像 実はカンマは、日本やアメリカは「下」ですが、ヨーロッパをはじめとする世界では「上」が多いようです。 日本が「下」になったのは、昭和27年、内閣官房長官が各省庁に通知した「公用文作成の要領」からだといわれます。「3桁ごとにカンマでくぎりなさい。カンマは下に書きなさい」。それが、やがて一般にも広まったそう。昭和27年は終戦から間もない頃。GHQの統治はこの年まで続いていました。おそらくアメリカへのいろんな忖度があったのでしょう。 それなのに日本の電卓メーカーは、シャープも含め、ほとんどがカンマを上に付けています。理由の一つは、海外に輸出するためではなかろうかと思っています。電卓は、日本よりも海外の方が、ものすごく需要が高いんです。特に教育分野で、日本の電卓は大いに活躍しています。 存在するのに使われないキーボタンたち ■クリア機能「C」 画像 ■メモリー機能 メモリー機能は、画面表示されているものと別の場所に記憶しておく機能で、「GT(グランドトータル)」と「M(メモリー)」の2種類があります。 ・「GT」 画像 たとえば「5×4」と「2×4」など複数の計算式の結果を累計したい時は、GTが便利です。 画像 画像 計算では、最初に「CM(クリアメモリー)」でメモリーの内容をクリアしてから、入力します。最後に「RM(リコールメモリー)」を押して、メモリーの内容を呼び出します。 たとえば「5×4―2×4=」を計算してみます。 画像 電卓の原点、歴史的偉業に選ばれる 画像 そんな生い立ちもあり、わたしがシャープに入社したのは、コンペットが誕生してから34年後の1998年。当時はインターネットが盛り上がってきた時代です。Windows98とか懐かしいですよね。 それから月日は流れて2005年、ビッグニュースが飛び込んできました。「コンペット CS-10A」が「IEEEマイルストーン」に認定されたのです。 画像 そこに肩を並べるなんて、これほど名誉なことはありません。当時のわたしは電卓とは違う部署にいましたが、シャープの先輩方がつくったものが評価されたのがすごく嬉しかったことを覚えています。 シャープだけではありません。この受賞は、電卓につながる基礎研究をしている人、部品を開発するメーカーさん、いろいろな人たちの技術が積み重なっての受賞です。みんなが認められたようで、本当に嬉しかったなと当時を懐かしく思い出します。 電卓60周年のニューフェース 画像 ゆーりんちーさんたちのコメントには、簿記をやる人あるあるとして、キーの角を押すと電卓が反応せず計算ミスにつながるので「どこを押しても反応してくれるのは嬉しいよね」というご感想や、「パソコンを使いながら電卓を叩くと、もっさりした違和感があるんですが、このキーならスムーズに電卓を使えると思いますね」との声も見られました。ありがとうございます。 残念ながら電卓の国内需要は下がっていますが、電卓はなにものにも代え難いツールとして求められている地もあります。電卓60周年を迎えた現在、シャープの電卓は、国内より海外での売上比率の方が高くなっています。 欧州やアメリカなどの先進国では、普通科の授業で関数電卓が使われます。論理的な考え方を学ぶところに時間を割き、計算すれば答えが出るところは電卓でサッと済ませる、といった授業スタイルのようです。 また、新興国でも、工業力を高めるために科学者や技術者を増やすことが政策として重視されていて、学校の授業に電卓が取り入れられています。 EL-VM72 | 電卓 南アフリカでも大活躍! 南アフリカでは、現地の教育コンサルタントと協力して、学校への電卓普及に取り組んでいます。 画像 数字や数学記号、数式は、世界共通の言語です。五線譜に書かれた音符や奏でるメロディーと同じように国境の壁を越えていきます。 わたしたちシャープの電卓がきっかけになって、世界中の子どもたちが数学や科学への興味を持ってくれたら素晴らしいですよね。 そして、わたしと同じようなエンジニアや、電卓を相棒として使ってくださる方たちが、南アフリカにも、カナダにも、日本にも、もっと増えればいいなと思っています! 海外でも人気の関数電卓に限らず、電卓ってすごく息の長い商品なんです。学生の頃に買った電卓を、10年たっても使い続けているビジネスパーソンの方も多いようです。 長く使っていると、持ったときのサイズ感やボタンの配列、押し心地などが体になじんでくるんですね。そうやって大切に使ってくださるユーザーの皆さんには、本当に感謝しかありません。 「10年、20年使っていたら壊れてしまって、新しい物に買い替えたいんだけど、どれが自分の持っている電卓と一番近いですか?」というお問い合わせも、年に何回もあります。 新商品を開発するときは、どうしても新しい技術を入れたり、何かを変えたりしたくなるんですが、そうやって長く使ってくださる方がいらっしゃるので、昔から親しまれた特長はあえて変えず、でも使いやすさはできるだけ使いやすく、と心がけています。 そうして次の電卓も、また次の電卓も、シャープを選んでいただいて、100年、200年と歴史を紡いでいきたいと思っています。 2024-09-30 (月) 09:52:19
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