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OJTとは

OJTとは

「OJT(On-The-Job Training)」とは、実際の職務現場において、業務を通して上司や先輩社員が部下の指導を行う、主に新入社員育成のための教育訓練のことをいいます。その歴史的背景を紐解いたうえで、現代社会における人材育成にこそ適した手法であるということについて、わかりやすく解説します。

本当の目標管理はドラッカーのMBO-S

五十嵐英憲:五十嵐コンサルタント(株)代表取締役 
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ドラッカーが目標管理に込めた思い

 目標管理は、ピーター・ドラッカーによって提唱されましたが、ドラッカーはそれを「MBO-S(Management by Objectives and Self-Control/マネジメント バイ オブジェクティブズ アンド セルフ・コントロール)」と表現しました。

 キーワードは、「マネジメント」「オブジェクティブズ(目標)」「セルフ・コントロール(自律統制)」の3つです。

 今回は、この3つのキーワードをもとに、本当の目標管理(以下、MBO-S)とはなにかを探っていきたいと思います。
マネジメントとは「人と仕事をうまく結び付ける」こと

 まず、「マネジメント」から見ていきましょう。

 一般に、マネジメントは「管理」と翻訳されますが、この言葉が問題です。

 そこには偉い人が部下を看視・監督するというにおいが漂います。

 また、管理と訳してしまうと、マネジメントの語源である「マネージ(Manage)」が持つ、「一見不可能と思われる事柄を、あれこれ工夫を凝らして、なんとか実現する」という意味が消されてしまいます。

 では、どう訳せばいいのか。

 やはり、語源に即して訳すべきでしょう。
 私はマネジメントを、「なんとかして、人と仕事をうまく結びつけること」と訳しています。

 仕事は決して楽なものではありません。一部の例外的な人は別として、大多数の人は、難しい仕事であればあるほど、尻込みしたり、あきらめの気持ちを抱いたりするものです。

 私などはその代表格で、放っておけばラクな方や安易なやり方へと流れてしまう性分です。

 小さい頃、「このままじゃ、おまえには一生“のめし”の人生が待っている!」と祖母からよく叱られたものです。“のめし”とは新潟県柏崎市地方の方言で、なまけものということ。

 これは私だけでなく、おそらく、多くの人たちが多かれ少なかれ持っている、人間の本性に近いものなのではないかと思います。

 そんな本性を持つ人間が寄り集まって仕事をするのが会社です。

 会社は競合他社との熾烈な競争という宿命を背負っており、競争相手を上回る「顧客満足」をお客様に提供しなければ、たちまち傾いてしまいます。

 だから、経営陣は働く人々に、競争に打ち勝つような「難度の高い仕事」を要求します。

 しかし、その要求に、何の抵抗もなく、ごく自然に、肯定的な反応を示すのは一握りの鉄人であり、多くの人たちは躊躇するのが普通なのです。

 でも、それでは会社が困る。なんとかして、普通の人が自主的にチャレンジングな課題に取り組むようにしなければ……。

 そのための仕組み作りや働きかけの方法を必死になって考えて、試してみる、そういう役割が会社の中には必要になります。

 これがマネジメントという仕事の本質であり、この仕事に従事するのが経営者、あるいは職場のリーダーと呼ばれる人たちです。

 働く人、一人ひとりに力を最大限発揮してもらうにはどうしたらいいか。

 これがMBO-Sの問題意識なのです。

オブジェクティブズ(目標)の役割

 では、普通の人が困難な課題に取り組むために、それも意欲的、かつ責任感を持って取り組むために、経営者や職場のリーダーはどんな工夫や努力をしたらよいのでしょうか。

 大きく分けて、以下の2つの打ち手が必要です。

 1.チャレンジ目標の設定

 2.動機づけ

 普通の人は、ただ漫然と業務をこなすだけでは、自らの持てる力を存分に発揮することはできません。

 そこで、「オブジェクティブズ(目標)」の登場です。

 MBO-Sではこの目標をチャレンジ目標と呼びます。
チャレンジ目標の特徴は、「ギリギリ背伸びした目標」であるという点です。

 このさじ加減を間違えると、チャレンジ目標は天から降ってきたノルマになってしまいます。

 簡単すぎてもダメ、難しすぎてもダメ。

 達成できそうだという予感を伴った目標を創り出すのがコツであり、そのためには達成手段の検討が必須です。

 また、「自分で決めた」という納得感も必要です。

 他人が決めた目標では、やらされ感がいっぱいで、とても意欲的な取り組みや粘り強い目標達成活動などは期待できないからです。

 ドラッカーの理論をわかりやすく紹介したベストセラー小説『もしドラ』を例にとりましょう。

 『もしドラ』の主人公である女子マネージャーのみなみちゃんは、「野球部を甲子園に連れていく」という目標を立てました。これが野球部にとっても、部員にとっても、そして自分自身にとっても「大事なことだ」と考えたからです。

 それは「連れていきたい」という願望ではなく、連れて「いく」という強い決意の伴った目標でした。だから、何としてでも達成したい、と本気で考えていました。

 これはビジネスの世界では、「職場目標」に該当します。

 しかし、ほかの野球部員にはそんな思いは露のかけらもなく、「それは正直厳しいよ。うちの部員たちは、甲子園に出るために野球をやっているわけじゃないからね。体を鍛えたり、仲間を作ったり……」とシラけていました。

 つまり、職場目標をメンバーが「自分の目標」として受け入れていない状態だったのです。

 このままでは、リーダーは浮き上がってしまい、職場目標の達成は絶望的なものになってしまいます。

 メンバーは、やれそうなことだけを面白くもなさそうに淡々とこなす日々を送るでしょう。

 このように、職場のメンバーが目標にコミットできないという事態は必ずと言っていいほど起こります。

 そんな時にリーダーがしなければならないのはなにか。

 それは、「動機づけ」です。

 人間の心に存在する「なにかが欲しい」という気持ちや、「ああなりたい、こうあるべきだ」という思いに、なんらかの方法で刺激を与えて、ヤル気を高めること。
それを動機づけと呼びます。

 そしてこれが、3つめのキーワード「セルフ・コントロール(自己統制)」に繋がるのです。
ここまでのまとめ

 ここまでのおさらいをすると、

 1.本当の目標管理はドラッカーのMBO-S

 2.Mとはマネジメントで、会社と人をうまく結びつけること

 3.そのためにO「オブジェクティブズ(目標)」を使う

 4.チャレンジ目標はギリギリ背伸びした目標

 5.自分で決めたという納得感が大切

 6.目標へのコミットを高めるためにリーダーは効果的な「動機づけ」を行う必要がある

 7.セルフ・コントロール(自己統制)へ

 それではこれから、動機づけについてお話しして締めくくりたいと思います。

おカネ”も動機づけの一つ:外発的動機づけ

 もっともポピュラーな動機づけは、「おカネをやるから、目標を達成しろ」というものです。

 それを最近では「成果主義マネジメント」などと格調高い言葉で表現しますが、要は昔からある、金銭的欲求の刺激策の変形です。

 目の前に札束を積まれると、グラリと心が揺れるのが普通の人間のさがであり、いつの時代にも共通する、無視できない動機づけ策だと思います。

 また、「認められること」によって意欲が高まることも、広く知られた動機づけ策の成果です。

 価値ある人材と認められることは、金銭的報酬と同様に、洋の東西を問わず、時代を超えた、人間の意欲的行動の源泉です。

 もしも、「仕事はカネのためではない。もっと大切なことがあるだろう!」などとうそぶいて、世間の相場を大幅に下回る給料しか出そうとしない経営者や、メンバーの努力をちっとも評価せず、結果ばかりを問い詰めるようなリーダーがいるならば、そこで働く人々は意欲が湧かず、不幸な仕事人生を送ります。

 結果として、会社の業績向上も望めないでしょう。

 そうならないように、経営者やリーダーは処遇改善や、メンバーの認められたいという気持ちの充足行動を強化することが必要です。

 しかし、その種の動機づけは主導権を経営者やリーダーが多分に握っており、メンバーの立場からすると、「他者から与えられるヤル気」です。

 こうした動機づけを「外発的動機づけ」と呼びます。

自分で自分に与える精神的報酬:内発的動機づけ

 外発的動機づけは、他者が与えることをやめると、急速にしぼんでしまうヤル気です。

 そうさせまいと、経営者やリーダーが外発的動機づけの強化に走っても、おのずと限界というものがあるでしょう。

 与える側も、与え続けることにエネルギーを奪われ過ぎて、疲れ果ててしまいます。そこで、もう一つ、「内発的」という別の種類の動機づけが必要になります。
これは、「その目標を達成することは、自分にとってものすごく意味あることだ」という納得感や、「自分の役割として、どうしても達成せねばならぬ目標だ」という責任感を自分の中で創り出す行為です。

 女子マネージャーのみなみちゃんの「野球部を甲子園に連れていく」という強い決意の伴った目標は、こうした納得感や責任感を自ら育んだ結果です。

 では、どのような育み方をしたのでしょうか。それは『もしドラ』の物語を読んでのお楽しみ、ということにいたしましょう。

 内発的動機づけは、納得感や責任感だけに限りません。目標達成プロセスで、「あっ、そうだったのか!」という気づきや「やったぁ~」という達成感を味わうことも内発的動機づけの一つです。

 さらには、チャレンジ目標の達成活動に本気になって取り組むと、「仕事に自信ができた。自分は仕事ができる人間だ」という「自己成長の手応え」も得られます。これもまた、内発的動機づけの一つです。
他者にできることは「支援」のみ

 このように、内発的動機づけは「自分で自分に与える精神的報酬」によってヤル気を出す世界であり、動機づけの主導権は当事者が握っています。

 他者にできることは「支援」です。

 たとえば、『もしドラ』には、「お見舞い面談(病気で入院したマネージャーがお見舞いに来た部員と野球部のあり方などを話し合う)」という方法で、マネージャーが野球部員一人ひとりの悩みや欲求、あるいは価値観(自分が大切にしている生きざま)を聴き出す場面が出てきます。

 面談の目的は、リーダーが、メンバーのニーズに応えた働きかけをするための「ニーズの収集」ですが、私は読みながら、これはメンバーにとっても意味ある面談なのだと直感しました。

 おそらく、メンバーはリーダーの質問に答えながら、無意識の自問自答をするでしょう。「自分のやりたいことは何なのか」、「今まで、何に価値を置いて生きてきたのだろうか」と。

 そして、自分の欲求や価値観に照らして、「今、自分は何をなすべきか?」と思いを膨らます人も稀ではないと思います。

 ああ、こういう面談をすることも、内発的動機づけの支援行動の一つなのだ。そんな思いを巡らしながら、その場面を何回も読みました。
セルフ・コントロールとはなにか

 外発的動機づけと内発的動機づけは、両方とも大事な動機づけなのですが、MBO-Sではとくに内発的動機づけの必要性を強調します。

 外発よりも内発が、より持続可能なヤル気を生むと考えるからです。

 私はドラッカーの「セルフ・コントロール」という言葉を、「内発的動機づけによる意欲的、かつ自律的な行動」と解釈し、内発的動機づけの面積拡大を研修などでは訴えています。

 ではここで、MBO-Sをキーワードを使って再度まとめてみましょう。

 「マネジメント」を目的とし、

 道具として「オブジェクティブズ(目標)」を使う。

 リーダーは動機づけを行って、メンバーそれぞれを「セルフ・コントロール(自己統制)」の状態で仕事に取り組むように支援する。

 すると目標へのコミットが高まり、業績は伸び、働く人も金銭的にも精神的にも充足できるようになる。

 以上、かなり駆け足で、MBO-Sの概要を見てきました。

 人と仕事をうまく結びつけるためにはチャレンジ目標が必要であり、目標設定や達成活動に際してはセルフ・コントロールの力を最大限に引き出すこと。

 MBO-Sのコンセプトは以上です。でも、本当に、普通の人がセルフ・コントロール状態になれるのか。MBO-Sは理想論ではないのか・・・・・・。

 次回は、赤字続きの中小企業を9ヵ月で黒字に持っていったストーリーを参考に「目標管理は理想論なのか?」について論じていきたいと思います。