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税務調査の遡及年数

税務調査の遡及年数

夏の盛りになり、税務調査の最盛期を迎えました。
すでに調査予定の連絡がきている事務所も多いようです。

さて今回の有料メルマガは、税務調査で何年遡るのか、
法的論拠と実務上の対応の両面から考えてみたいと思います。

まず、国税通則法第70条に規定されている
「国税の更正、決定等の期間制限」=除斥期間から説明したいと思います。

その前に1点あらかじめ説明しておきますと、
国税通則法第70条は「更正に関する除斥期間」を定めているのであって、
調査における修正申告の提出期間と関連性がないと思われるかもしれません。

しかしそれは誤りで、あくまでも税務調査は、課税庁の指摘に対して
納得できないのであれば、最後は(増額)更正になります。
ということは、「更正に関する除斥期間」=税務調査で応じなければ
ならない修正申告書の提出期間、と解釈することができるのです。

国税通則法第70条を整理すると下記のようになります。

①原則:個人は3年・法人は5年
②特例:「偽りその他の行為があった場合」は7年
その他:減額更正等は5年の規定があります

そこでまず、絶対に覚えておいて欲しいことは、
②に該当しなければ、個人は3年、法人は5年しか
遡って(増額)更正することができないという事実です。

「偽りその他の行為」がないにもかかわらず、
非違項目があるという理由だけで、「7年分修正申告書を
提出してください」と要請してくる調査官がいますが、
これは突っぱねてください。確かに法律上、
「偽りその他の行為」がなくても、修正申告書を
7年遡って提出することはできます。しかし、
更正が3年もしくは5年しかできないにもかかわらず、
それ以上の年分の修正申告書を提出する必要などないのです。
このような要請があった場合は、「修正申告しないので
更正してください。更正なら除斥期間があるでしょう」
と言いきることができるのです。

さてここで問題になるのが、「偽りその他の行為」とは
具体的に何なのか?ということです。

ここで混同しやすいのは、重加算税の規定と何が違うのか?です。
両方の条文を確認してみましょう。

国税通則法第68条第1項(重加算税)
第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者が
その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき
事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、
又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、
当該納税者に対し、政令で定めるところにより、
過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に
係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に
100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する。

国税通則法第70条第5項(更正期間が7年になる場合)
偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、
若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての
更正決定等又は偽りその他不正の行為により当該課税期間において
生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を
提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の
金額についての更正は、前各項の規定にかかわらず、
次の各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、当該各号に定める
期限又は日から7年を経過する日まですることができる。

ここでいったん要点だけを整理しましょう。

重加算税の賦課要件は、
「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装」していたこと。

7年遡及される要件は、
「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ」
るような行為をしていたこと。

このような違いがありますが、まずざっくり認識していただきたいのは、
「偽りその他不正の行為」はかなり広い概念で、
その中にある狭い概念で「隠ぺいまたは仮装」があるということです。

ということは、重加算税が賦課されなくても、
7年遡及されるケースが理論上あり得るということです。
(実務上、ほとんどないかと思いますが)

また逆に、重加算税が賦課されるのであれば
7年遡及されるということでもあります。
(後で述べますが7年遡及しなければならないわけではありません)

重加算税は、「隠ぺいまたは仮装」が要件になりますが、
この具体的な例示(あくまでも例示で限定列挙ではありません)は
国税庁のホームページに公表されています。

「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」

「申告所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」

一方「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れようとする意図をもった、
「社会通念上不正と認められる一切の行為」を指しています。

また、重加算税と7年の遡及では取扱いがまったく違う
ポイントがあることに気をつけてください。

重加算税は、「隠ぺいまたは仮装」行為をして
税額を不当に減少させた部分についてのみ賦課されます。
当然ながら、否認指摘を受けた中で、重加算税の対象部分と
そうでない部分があるのです。

しかし、7年遡及するかしないかは全く違っていて、
「偽りその他不正の行為」は一部であったとしても、
それ以外の部分もすべて7年遡及されるのです。
一部だけ7年遡及というのは存在しません。

平成2年4月27日の裁決「偽りその他不正の行為によりその税額を
免れていた部分のみならずその他の部分についても、その法定申告期限から
7年を経過する日まで更正できるとした事例」が有名です。

http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0701010000.html
の裁決事例集 No.39 - 30頁です。

要旨は下記になります。

国税通則法第70条第5項の規定は、「偽りその他不正の行為」によって
国税の全部若しくは一部を免れた納税者がある場合、これに対して
適正な課税を行うことができるように、同条第1項各号に掲げる更正
又は賦課決定の除斥期間を同項の規定にかかわらず7年とすることを
定めたものであるが、「偽りその他不正の行為」によって免れた税額に
相当する部分のみにその適用範囲が限られるものではないと解されている。
そうすると、「偽りその他不正の行為」によりその税額を免れていた
本件リベート収入のみならず「偽りその他不正の行為」に基づかずに
その税額を免れていた本件給与についても、その法定申告期限から
7年を経過する日まで更正できることは明らかである。

さて、ここまで法律の根拠を書いてきましたが、
きちんと頭の中が整理されているでしょうか?

ここからは実務上の話を書きたいと思います。
通常、個人・法人の税務調査は3年で予定が入ります。
調査の過程でたいした否認事項が出てこなければ
そのまま3年で終わることでしょう。

問題になるのは、調査官が「不正」だと言い始めたときです。
ここで交渉すべき順序は、

①重加算税ではないと主張する

※これは上記の事務運営指針で反論することが効果的です

②重加算税であったとしても、遡及年分は3年だと交渉する

あくまでも法律上は、「偽りその他不正の行為」があった場合
7年遡及することが「できる」のであって、
7年遡及「しなければならない」わけではありません。

正直申し上げて、調査で何年遡及するのかは、
調査官でも明確な基準を持ち合わせていません。
もちろん、「不正」があれば7年遡及、というのは
わかっていますが、それだけの基準です。
では「不正」かどうか、際どい場合はどうするのか?

交渉する基準は、
①否認指摘を受けている金額
②否認指摘内容が留保かどうか
によって変わってきますし、調査官によっても
対応がバラバラなところでもあります。

私がお伝えしたいのは、3年を超えた遡及を言い始めたら、
ダメもとでもしょうがないので、遡及年分を短くするように
絶対に交渉してみてください、ということです。

重加算税が賦課させているにもかかわらず、交渉して3年で
おさめた案件を私は数多く知っています。
実務上は、交渉で何とかなることが多い部分なのです。