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古事記
稗田のアレイ、オオノヤスマロ
武田祐吉訳
目次
*** [#xf788b4f]
古事記 上の卷 序文がついています
序文
過去の時代(序文の第一段)
――古事記の成立の前提として、本文に記されている過去のこと...
わたくしヤスマロが申しあげます。
宇宙のはじめに當っては、すべてのはじめの物がまずできま...
ほんとにそうです。神々が賢木の枝に玉をかけ、スサノヲの...
古事記の企畫(序文の第二段)
――前半は天武天皇の御事蹟と徳行について述べる。後半、古來...
飛鳥の清原の大宮において天下をお治めになった天武天皇の...
ここにおいて天武天皇の仰せられましたことは「わたしが聞...
古事記の成立(序文の第三段)
――はじめに元明天皇の徳をたたえ、そのみこと令によって稗田...
謹んで思いまするに、今上天皇陛下(元明天皇)は、帝位に...
しかしながら古代にありましては、言葉も内容も共に素朴で...
和銅五年正月二十八日
正五位の上勳五等 太の朝臣ヤスマロ
一、イザナギのみこととイザナミのみこと
天地のはじめ
――世界のはじめにまず神々の出現したことを説く。これらの神...
昔、この世界の一番始めの時に、天で御出現になった神樣は...
以上の五神は、特別の天の神樣です。
それから次々に現われ出た神樣は、クニノトコタチの神、ト...
島々の生成
――神が生み出す形で國土の起原を語る。――
そこで天の神樣方の仰せで、イザナギのみこと・イザナミの...
そこでイザナギのみことが、イザナミの女神に「あなたのか...
かくて御二方で御相談になって、「今わたしたちの生んだ子...
神々の生成
――前と同じ形で萬物の起原を語る。火の神を生んでから水の神...
このように國々を生み終って、更に神々をお生みになりまし...
次にお生みになった神の名はトリノイハクスブネの神、この...
すべてイザナギ・イザナミのお二方の神が、共にお生みにな...
黄泉の國
――地下にくらい世界があって、魔物がいると考えられている。...
そこでイザナギのみことの仰せられるには、「わたしの最愛...
ここにイザナギのみことは、お佩きになっていた長い劒を拔...
殺されなさいましたカグツチの神の、頭に出現した神の名は...
イザナギのみことはお隱れになった女神にもう一度會いたい...
身禊
――みそぎの意義を語る。人生の災禍がこれによって拂われると...
イザナギのみことは黄泉の國からお還りになって、「わたし...
以上ヤソマガツヒの神からハヤスサノヲのみことまで十神は...
イザナギのみことはたいへんにお喜びになって、「わたしは...
二、天照らす大神とスサノヲのみこと
誓約
――暴風の神であり出雲系の英雄でもあるスサノヲのみことが、...
そこでスサノヲのみことが仰せになるには、「それなら天照...
天の岩戸
――祓によって暴風の神を放逐することを語る。はじめのスサノ...
そこでスサノヲのみことは、天照らす大神に申されるには「...
こういう次第で多くの神樣たちが天の世界の天のヤスの河の...
三、スサノヲのみこと
穀物の種
――穀物などの起原を説く插入説話である。日本書紀では、月の...
スサノヲのみことは、かようにして天の世界から逐われて、...
八俣の大蛇
――スサノヲのみことは、高天の原系統では暴風の神であり、亂...
かくてスサノヲのみことは逐い拂われて出雲の國の肥の河上...
かくしてスサノヲのみことは、宮を造るべき處を出雲の國で...
雲の叢り起つ出雲の國の宮殿。
妻と住むために宮殿をつくるのだ。
その宮殿よ。
というのです。そこでかのアシナヅチ・テナヅチの神をお呼び...
系譜
――スサノヲのみことの系譜を説き、大國主の神に結びつけてい...
そこでそのクシナダ姫と婚姻してお生みになった神樣は、ヤ...
四、大國主のみこと
兎と鰐
――これから出雲系の英雄大國主の神の神話になる。さまざまの...
この大國主のみことの兄弟は、澤山おいでになりました。し...
赤貝姫と蛤貝姫
――前の兎と鰐の話と共に、古代醫療の方法について語っている...
兎の言った通り、ヤガミ姫は大勢の神に答えて「わたくしは...
根の堅州國
――これも異郷説話の一つで、王子の求婚説話の形を採っている...
これをまた大勢の神が見て欺いて山に連れて行って、大きな...
そこで母の神が「これは、スサノヲのみことのおいでになる...
かくてお妃のスセリ姫は葬式の道具を持って泣きながらおい...
かのヤガミ姫は前の約束通りに婚姻なさいました。そのヤガ...
ヤチホコの神の歌物語
――長い歌の贈答を中心とした物語で、もと歌曲として歌い傳え...
このヤチホコの神(大國主のみこと)が、越の國のヌナカハ...
ヤチホコの神樣は、
方々の國で妻を求めかねて、
遠い遠い越の國に
賢い女がいると聞き
美しい女がいると聞いて
結婚にお出ましになり
結婚にお通いになり、
大刀の緒もまだ解かず
羽織をもまだ脱がずに、
娘さんの眠っておられる板戸を
押しゆすぶり立っていると
引き試みて立っていると、
青い山ではヌエが鳴いている。
野の鳥の雉は叫んでいる。
庭先でニワトリも鳴いている。
腹が立つさまに鳴く鳥だな
こんな鳥はやつつけてしまえ。
下におります走り使をする者の
事の語り傳えはかようでございます。
そこで、そのヌナカハ姫が、まだ戸を開けないで、家の内で...
ヤチホコの神樣、
萎れた草のような女のことですから
わたくしの心は漂う水鳥、
今こそわたくし鳥でも
後にはあなたの鳥になりましよう。
命長くお生き遊ばしませ。
下におります走り使をする者の
事の語り傳えはかようでございます。
青い山に日が隱れたら
眞暗な夜になりましよう。
朝のお日樣のようににこやかに來て
コウゾの綱のような白い腕、
泡雪のような若々しい胸を
そつと叩いて手をとりかわし
玉のような手をまわして
足を伸ばしてお休みなさいましようもの。
そんなにわびしい思いをなさいますな。
ヤチホコの神樣。
事の語り傳えは、かようでございます。
それで、その夜はお會いにならないで、翌晩お會いなさいま...
またその神のお妃スセリ姫のみことは、大變嫉妬深い方でご...
カラスオウギ色の黒い御衣服を
十分に身につけて、
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きも似合わしくない、
波うち寄せるそこに脱ぎ棄て、
翡翠色の青い御衣服を
十分に身につけて
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きもこれも似合わしくない、
波うち寄せるそこに脱ぎ棄て、
山畑に蒔いた茜草を舂いて
染料の木の汁で染めた衣服を
十分に身につけて、
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きもこれはよろしい。
睦しのわが妻よ、
鳥の群のようにわたしが群れて行ったら、
引いて行く鳥のようにわたしが引いて行ったら、
泣かないとあなたは云っても、
山地に立つ一本薄のように、
うなだれてあなたはお泣きになって、
朝の雨の霧に立つようだろう。
若草のようなわが妻よ。
事の語り傳えは、かようでございます。
そこで、そのお妃が、酒盃をお取りになり、立ち寄り捧げて...
ヤチホコの神樣、
わたくしの大國主樣。
あなたこそ男ですから
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている岬々に
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている埼ごとに
若草のような方をお持ちになりましよう。
わたくしは女のことですから
あなた以外に男は無く
あなた以外に夫はございません。
ふわりと垂れた織物の下で、
暖い衾の柔い下で、
白い衾のさやさやと鳴る下で、
泡雪のような若々しい胸を
コウゾの綱のような白い腕で、
そつと叩いて手をさしかわし
玉のような手を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)して
足をのばしてお休み遊ばせ。
おいしいお酒をお上り遊ばせ。
そこで盃を取り交して、手を懸け合って、今日までも鎭まっ...
系譜
――出雲系の、ある豪族の家系を語るもののようである。――
この大國主の神が、※形[#「匈/(胃-田)」、U+80F7、23...
大國主の神が、またカムヤタテ姫のみことと結婚して生んだ...
以上ヤシマジヌミの神からトホツヤマザキタラシの神までを...
スクナビコナの神
――オホアナムチのみこととしばしば竝んで語られるスクナビコ...
そこで大國主のみことが出雲の御大の御埼においでになった...
御諸山の神
――大和の三輪山にある大神神社の鎭坐の縁起である。――
そこで大國主のみことが心憂く思って仰せられたことは、「...
大年の神の系譜
――前に出たスサノヲのみことの系譜の中の大年の神の系譜で、...
オホトシの神が、カムイクスビの神の女のイノ姫と結婚して...
以上オホトシの神の子のオホクニミタマの神からオホツチの...
さてハヤマトの神が、オホゲツ姫の神と結婚して生んだ子は...
以上ハヤマトの神の子のワカヤマクヒの神からワカムロツナ...
五、天照らす大神と大國主のみこと
天若日子
――天若日子に關する部分は、語部などによって語られた物語の...
天照らす大神のお言葉で、「葦原の水穗の國は我が御子のマ...
そこで天照らす大神、タカミムスビの神が大勢の神にお尋ね...
この時アヂシキタカヒコネの神がおいでになって、天若日子...
天の世界の若い織姫の
首に懸けている珠の飾り、
その珠の飾りの大きい珠のような方、
谷二つ一度にお渡りになる
アヂシキタカヒコネの神でございます。
と歌いました。この歌は夷振です。
國讓り
――出雲の神が、託宣によって國を讓ったことを語る。出雲大社...
かように天若日子もだめだったので、天照らす大神の仰せに...
そこでこのお二方の神が出雲の國のイザサの小濱に降りつい...
そこで大國主のみことにお尋ねになったのは、「今あなたの...
そこで更に還って來てその大國主のみことに問われたことに...
六、ニニギのみこと
天降
――本來は、祭の庭に神の降下することを説くものと解せられる...
そこで天照らす大神、高木の神のお言葉で、太子オシホミミ...
ここにヒコホノニニギのみことが天からお降りになろうとす...
かくてアメノコヤネのみこと・フトダマのみこと・アメノウ...
猿女の君
――前にあったウズメのみことがサルタ彦の神を見顯す神話に接...
そこでアマツヒコホノニニギのみことに仰せになって、天上...
ここに仰せになるには「この處は海外に向って、カササの御...
ここにアメノウズメのみことに仰せられるには、「この御前...
ウズメのみことはサルタ彦の神を送ってから還って來て、悉...
木の花の咲くや姫
――人名に對する信仰が語られ、また古代の婚姻の風習から生じ...
さてヒコホノニニギのみことは、カササの御埼で美しい孃子...
かくして後に木の花の咲くや姫が參り出て申すには、「わた...
七、ヒコホホデミのみこと
海幸と山幸
――西方の海岸地帶に傳わった海神の宮訪問の神話で、異郷説話...
ニニギのみことの御子のうち、ホデリのみことは海幸彦とし...
そこでその弟が海邊に出て泣き患えておられた時に、シホツ...
依って教えた通り、すこしおいでになりましたところ、すべ...
ここにホヲリのみことは初めの事をお思いになって大きな溜...
かくして悉く海神の教えた通りにして鉤を返されました。そ...
トヨタマ姫
――前の説話の續きで、男が禁止を破ることによって、別離にな...
ここに海神の女、トヨタマ姫のみことが御自身で出ておいで...
赤い玉は緒までも光りますが、
白玉のような君のお姿は
貴いことです。
そこでその夫の君がお答えなさいました歌は、
水鳥の鴨が降り著く島で
契を結んだ私の妻は忘れられない。
世の終りまでも。
このヒコホホデミのみことは高千穗の宮に五百八十年おいで...
アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズのみことは、叔...
*** [#rdbae0ab]
古事記 中の卷
一、神武天皇
東征
――日向から發して大和にはいろうとして失敗することを語る。...
カムヤマトイハレ彦のみこと(神武天皇)、兄君のイツセの...
速吸の門
その國から上っておいでになる時に、龜の甲に乘って釣をし...
イツセのみこと
その國から上っておいでになる時に、難波の灣を經て河内の...
熊野から大和へ
――神話の要素の多い部分で、神話の成立過程も窺われる。――
カムヤマトイハレ彦のみことは、その土地から※(「廴+囘」...
ここにまた高木の神の御命令でお教えになるには、「天の神...
久米歌
――幾首かの久米歌に結びついている物語である。――
この時に宇陀にエウカシ・オトウカシという二人があります...
宇陀の高臺でシギの網を張る。
わたしが待っているシギは懸からないで
思いも寄らないタカが懸かった。
古妻が食物を乞うたら
ソバノキの實のように少しばかりを削ってやれ。
新しい妻が食物を乞うたら
イチサカキの實のように澤山に削ってやれ。
ええやつつけるぞ。ああよい氣味だ。
そのオトウカシは宇陀の水取等の祖先です。
次に、忍坂の大室においでになった時に、尾のある穴居の人...
忍坂の大きな土室に
大勢の人が入り込んだ。
よしや大勢の人がはいっていても
威勢のよい久米の人々が
瘤大刀の石大刀でもって
やつつけてしまうぞ。
威勢のよい久米の人々が
瘤大刀の石大刀でもって
そら今撃つがよいぞ。
かように歌って、刀を拔いて一時に打ち殺してしまいました。
その後、ナガスネ彦をお撃ちになろうとした時に、お歌いに...
威勢のよい久米の人々の
アワの畑には臭いニラが一本生えている。
その根のもとに、その芽をくつつけて
やつつけてしまうぞ。
また、
威勢のよい久米の人々の
垣本に植えたサンシヨウ、
口がひりひりして恨みを忘れかねる。
やつつけてしまうぞ。
また、
神風の吹く伊勢の海の
大きな石に這い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている
細螺のように這い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って
やつつけてしまうぞ。
また、エシキ、オトシキをお撃ちになりました時に、御軍の...
楯を竝べて射る、そのイナサの山の
樹の間から行き見守って
戰爭をすると腹が減った。
島にいる鵜を養う人々よ
すぐ助けに來てください。
最後にトミのナガスネ彦をお撃ちになりました。時にニギハ...
神の御子
――英雄や佳人などを、神が通って生ませた子だとすることは、...
はじめ日向の國においでになった時に、阿多の小椅の君の妹...
ある時七人の孃子が大和のタカサジ野で遊んでいる時に、こ...
大和の國のタカサジ野を
七人行く孃子たち、
その中の誰をお召しになります。
このイスケヨリ姫は、その時に孃子たちの前に立っておりま...
まあまあ一番先に立っている娘を妻にしましようよ。
ここにオホクメのみことが、天皇の仰せをそのイスケヨリ姫...
天地間の千人勝りの勇士だというに、どうして目に黥をしてい...
と歌いましたから、オホクメのみことが答えて歌うには、
お孃さんにすぐに逢おうと思って目に黥をしております。
と歌いました。かくてその孃子は「お仕え申しあげましよう」...
そのイスケヨリ姫のお家はサヰ河のほとりにありました。こ...
アシ原のアシの繁った小屋に
スゲの蓆を清らかに敷いて、
二人で寢たことだったね。
かくしてお生まれになった御子は、ヒコヤヰのみこと・カム...
タギシミミのみことの變
――自分の家の祖先は、天皇の兄に當るのだが、なぜ臣下となっ...
天皇がお隱れになってから、その庶兄のタギシミミのみこと...
サヰ河の方から雲が立ち起って、
畝傍山の樹の葉が騷いでいる。
風が吹き出しますよ。
畝傍山は晝は雲が動き、
夕暮になれば風が吹き出そうとして
樹の葉が騷いでいる。
そこで御子たちがお聞きになって、驚いてタギシミミを殺そ...
かくてカムヤヰミミのみことが弟のタケヌナカハミミのみこ...
二、綏靖天皇以後八代
綏靖天皇
――以下八代は、帝紀の部分だけで、本辭を含んでいない。この...
カムヌナカハミミのみこと(綏靖天皇)、大和の國の葛城の...
安寧天皇
シキツ彦タマデミのみこと(安寧天皇)、大和の片鹽の浮穴...
懿徳天皇
オホヤマト彦スキトモのみこと(懿徳天皇)、大和の輕の境...
孝昭天皇
ミマツ彦カヱシネのみこと(孝昭天皇)、大和の葛城の掖上...
孝安天皇
オホヤマトタラシ彦クニオシビトのみこと(孝安天皇)、大...
孝靈天皇
オホヤマトネコ彦フトニのみこと(孝靈天皇)、大和の黒田...
そこでオホヤマトネコ彦クニクルのみことは天下をお治めな...
孝元天皇
――タケシウチの宿禰の諸子をあげているのは豪族の祖先だから...
オホヤマトネコ彦クニクルのみこと(孝元天皇)、大和の輕...
開化天皇
ワカヤマトネコ彦オホビビのみこと(開化天皇)、大和の春...
三、崇神天皇
后妃と皇子女
――帝紀の前半と見られる部分である。――
イマキイリ彦イニヱのみこと(崇神天皇)、大和の師木の水...
この天皇は、木の國の造のアラカハトベの女のトホツアユメ...
美和の大物主
――三輪山説話として神婚説話の典型的な一つで神氏、鴨氏等の...
この天皇の御世に、流行病が盛んに起って、人民がほとんど...
このオホタタネコを神の子と知った次第は、上に述べたイク...
將軍の派遣
――いわゆる四道將軍の派遣の物語。但しヒコイマスの王を、日...
またこの御世に大彦のみことをば越の道に遣し、その子のタ...
御眞木入日子さまは、
御自分のみことを人知れず殺そうと、
背後の入口から行き違い
前の入口から行き違い
窺いているのも知らないで、
御眞木入日子さまは。
と歌いました。そこで大彦のみことが怪しいことを言うと思っ...
さて山城のワカラ河に行きました時に、果してタケハニヤス...
かくて大彦のみことは前のみこと令通りに越の國にまいりま...
四、垂仁天皇
后妃と皇子女
イクメイリ彦イサチのみこと(垂仁天皇)、大和の師木の玉...
その中でオホタラシ彦オシロワケのみことは、天下をお治め...
サホ彦の叛亂
――サホ彦は天皇を弑殺しようとした叛逆者であるが、その子孫...
この天皇、サホ姫を皇后になさいました時に、サホ姫のみこ...
そこで天皇は「わたしはあぶなく欺かれるところだった」と...
この時にその皇后は姙娠しておいでになり、またお愛し遊ば...
また天皇がその皇后に仰せられるには、「すべて子の名は母...
ホムチワケの御子
――種々の要素の結合している物語であるが、出雲の神のたたり...
かくてその御子をお連れ申し上げて遊ぶ有樣は、尾張の相津...
そこで天皇が御心配遊ばされてお寢みになっている時に、御...
かくて出雲の國においでになって、出雲の大神を拜み終って...
そこでその御子が一夜ヒナガ姫と結婚なさいました。その時...
丹波の四女王
――丹波地方に傳わった説話が取りあげられたものであろう。――
天皇はまたその皇后サホ姫の申し上げたままに、ミチノウシ...
時じくの香の木の實
――タヂマモリの子孫の家に傳えられた説話。――
また天皇、三宅の連等の祖先のタヂマモリを常世の國に遣し...
またその皇后ヒバス姫のみことの時に、石棺作りをお定めに...
五、景行天皇・成務天皇
景行天皇の后妃と皇子女
オホタラシ彦オシロワケの天皇(景行天皇)、大和の纏向の...
ここに天皇は、三野の國の造の祖先のオホネの王の女の兄姫...
ヤマトタケルのみことの西征
――英雄ヤマトタケルのみことの物語ははじまる。劇的な構成に...
天皇がヲウスのみことに仰せられるには「お前の兄はどうし...
そこで天皇は、その御子の亂暴な心を恐れて仰せられるには...
イヅモタケル
――日本書紀では、全然ヤマトタケルのみことと關係のない物語...
そこで出雲の國におはいりになって、そのイヅモタケルを撃...
雲の叢り立つ出雲のタケルが腰にした大刀は、
蔓を澤山卷いて刀の身が無くて、きのどくだ。
かように平定して、朝廷に還って御返事申し上げました。
ヤマトタケルのみことの東征
――諸氏の物語が結合したと見えるが、よくまとまって、美しい...
ここに天皇は、また續いてヤマトタケルのみことに、「東の...
かくて尾張の國においでになって、尾張の國の造の祖先のミ...
其處からおいでになって、走水の海をお渡りになった時にそ...
高い山の立つ相摸の國の野原で、
燃え立つ火の、その火の中に立って
わたくしをお尋ねになったわが君。
かくして七日過ぎての後に、そのお妃のお櫛が海濱に寄りま...
それからはいっておいでになって、悉く惡い蝦夷どもを平ら...
その國から越えて甲斐に出て、酒折の宮においでになった時...
常陸の新治・筑波を過ぎて幾夜寢たか。
ここにその火を燒いている老人が續いて、
日數重ねて、夜は九夜で日は十日でございます。
と歌いました。そこでその老人を譽めて、吾妻の國の造になさ...
かくてその國から信濃の國にお越えになって、そこで信濃の...
仰ぎ見る天の香具山
鋭い鎌のように横ぎる白鳥。
そのようなたおやかな弱腕を
抱こうとはわたしはするが、
寢ようとはわたしは思うが、
あなたの著ている打掛の裾に
月が出ているよ。
そこでミヤズ姫が、お歌にお答えしてお歌いなさいました。
照り輝く日のような御子樣
御威光すぐれたわたしの大君樣。
新しい年が來て過ぎて行けば、
新しい月は來て過ぎて行きます。
ほんとうにまああなた樣をお待ちいたしかねて
わたくしのきております打掛の裾に
月も出るでございましようよ。
そこで御結婚遊ばされて、その佩びておいでになった草薙の...
望郷の歌
――クニシノヒ歌の歌曲を中心として、英雄の悲壯な最後を語る...
そこで「この山の神は空手で取って見せる」と仰せになって...
其處からお立ちになって當藝の野の上においでになった時に...
尾張の國に眞直に向かっている
尾津の埼の
一本松よ。お前。
一本松が人だったら
大刀を佩かせようもの、着物を著せようもの、
一本松よ。お前。
其處からおいでになって、三重の村においでになった時に、...
其處からおいでになって、能煩野に行かれました時に、故郷...
大和は國の中の國だ。
重なり合っている青い垣、
山に圍まれている大和は美しいなあ。
命が無事だった人は、
大和の國の平群の山の
りつぱなカシの木の葉を
頭插にお插しなさい。お前たち。
とお歌いになりました。この歌は思國歌という名の歌です。ま...
なつかしのわが家の方から雲が立ち昇って來るわい。
これは片歌でございます。この時に、御病氣が非常に重くな...
孃子の床のほとりに
わたしの置いて來た良く切れる大刀、
あの大刀はなあ。
と歌い終って、お隱れになりました。そこで急使を上せて朝廷...
白鳥の陵
――大葬に歌われる歌曲を中心としている。白鳥には、神靈を感...
ここに大和においでになるお妃たちまた御子たちが皆下って...
周りの田の稻の莖に、
稻の莖に、
這い繞っているツルイモの蔓です。
しかるに其處から大きな白鳥になって天に飛んで、濱に向い...
小篠が原を行き惱む、
空中からは行かずに、歩いて行くのです。
また、海水にはいって、海水の中を骨を折っておいでになっ...
海の方から行けば行き惱む。
大河原の草のように、
海や河をさまよい行く。
また飛んで、其處の磯においで遊ばされた時の御歌、
濱の千鳥、濱からは行かずに磯傳いをする。
この四首の歌は皆そのお葬式に歌いました。それで今でもそ...
ヤマトタケルのみことの系譜
――實際あり得ない關係も記されている。――
このヤマトタケルのみことが、垂仁天皇の女、フタヂノイリ...
それでタラシナカツ彦のみことは天下をお治めなさいました...
このオホタラシ彦の天皇の御年百三十七歳、御陵は山の邊の...
成務天皇
――國縣の堺を定め、國の造、縣主を定め、地方行政の基礎が定...
ワカタラシ彦の天皇(成務天皇)、近江の國の志賀の高穴穗...
六、仲哀天皇
后妃と皇子女
タラシナカツ彦の天皇(仲哀天皇)、穴門の豐浦の宮また筑...
神功皇后
――御母はシラギ人天の日矛の系統で、シラギのことを知ってお...
皇后のオキナガタラシ姫のみこと(神功皇后)は神懸りをな...
そこで驚き恐懼して御大葬の宮殿にお遷し申し上げて、更に...
そこでタケシウチの宿禰が、「神樣、おそれ多いことですが...
そこで悉く神の教えた通りにして軍隊を整え、多くの船を竝...
鎭懷石と釣魚
かような事がまだ終りませんうちに、お腹の中の御子がお生...
また筑紫の松浦縣の玉島の里においでになって、その河の邊...
カゴサカの王とオシクマの王
――ある戰亂の武勇譚が、歌を插入して誇張されてゆく。――
オキナガタラシ姫のみことは、大和に還りお上りになる時に...
この時にオシクマの王は、難波の吉師部の祖先のイサヒの宿...
さあ君よ、
フルクマのために負傷するよりは、
カイツブリのいる琵琶の湖水に
潛り入ろうものを。
と歌って海にはいって死にました。
氣比の大神
――敦賀市の氣比神宮の神の名の由來。――
かくてタケシウチの宿禰がその太子をおつれ申し上げて禊を...
酒の座の歌曲
――酒宴の席に演奏される歌曲の説明。――
其處から還ってお上りになる時に、母君のオキナガタラシ姫...
このお酒はわたくしのお酒ではございません。
お神酒の長官、常世の國においでになる
岩になって立っていらつしやるスクナビコナ樣が
祝って祝って祝い狂わせ
祝って祝って祝い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って
獻上して來たお酒なのですよ。
盃をかわかさずに召しあがれ。
かようにお歌いになってお酒を獻りました。その時にタケシ...
このお酒を釀造した人は、
その太鼓を臼に使って、
歌いながら作った故か、
舞いながら作った故か、
このお酒の
不思議に樂しいことでございます。
これは酒樂の歌でございます。
すべてタラシナカツ彦の天皇の御年は五十二歳、壬戌の年の...
七、應神天皇
后妃と皇子女
ホムダワケのみこと(應神天皇)、大和の輕島の明の宮にお...
オホヤマモリのみこととオホサザキのみこと
――天皇が、兄弟の御子に對してテストをされる。その結果弟が...
ここに天皇がオホヤマモリのみこととオホサザキのみことと...
葛野の歌
――國ほめの歌曲の一つ。――
或る時、天皇が近江の國へ越えてお出ましになりました時に...
葉の茂った葛野を見れば、
幾千も富み榮えた家居が見える、
國の中での良い處が見える。
蟹の歌
――蟹と鹿とは、古代の主要な食料であった。その蟹を材料とし...
かくて木幡の村においでになった時に、その道で美しい孃子...
この蟹はどこの蟹だ。
遠くの方の敦賀の蟹です。
横歩きをして何處へ行くのだ。
イチヂ島・ミ島について、
カイツブリのように水に潛って息をついて、
高低のあるササナミへの道を
まつすぐにわたしが行きますと、
木幡の道で出逢った孃子、
後姿は楯のようだ。
齒竝びは椎の子や菱の實のようだ。
櫟井の丸邇坂の土を
上の土はお色が赤い、
底の土は眞黒ゆえ
眞中のその中の土を
かぶりつく直火には當てずに
畫眉を濃く畫いて
お逢いになった御婦人、
このようにもとわたしの見たお孃さん、
あのようにもとわたしの見たお孃さんに、
思いのほかにも向かっていることです。
添っていることです。
かくて御結婚なすってお生みになった子がウヂの若郎子でご...
髮長姫
――酒宴で孃子を贈り、また孃子を得た喜びの歌曲。古く諸縣舞...
また天皇が、日向の國の諸縣の君の女の髮長姫が美しいとお...
さあお前たち、野蒜摘みに
蒜摘みにわたしの行く道の
香ばしい花橘の樹、
上の枝は鳥がいて枯らし
下の枝は人が取って枯らし、
三栗のような眞中の枝の
目立って見える紅顏のお孃さんを
さあ手に入れたら宜いでしよう。
また、
水のたまっている依網の池の
堰杙を打ってあったのを知らずに
ジュンサイを手繰って手の延びていたのを知らずに
氣のつかない事をして殘念だった。
かようにお歌いになって賜わりました。その孃子を賜わって...
遠い國の古波陀のお孃さんを、
雷鳴のように音高く聞いていたが、
わたしの妻としたことだった。
また、
遠い國の古波陀のお孃さんが、
爭わずにわたしの妻となったのは、
かわいい事さね。
國主歌
――吉野山中の土民の歌曲。――
また、吉野のクズどもがオホサザキのみことの佩びておいで...
天子樣の日の御子である
オホサザキ樣、
オホサザキ樣のお佩きになっている大刀は、
本は鋭く、切先は魂あり、
冬木のすがれの下の木のように
さやさやと鳴り渡る。
また吉野のカシの木のほとりに臼を作って、その臼でお酒を...
カシの木の原に横の廣い臼を作り
その臼に釀したお酒、
おいしそうに召し上がりませ、
わたしの父さん。
この歌は、クズどもが土地の産物を獻る時に、常に今でも歌...
文化の渡來
――大陸の文化の渡來した記憶がまとめて語られる。多くは朝鮮...
この御世に、海部・山部・山守部・伊勢部をお定めになりま...
また百濟の國王照古王が牡馬一疋・牝馬一疋をアチキシに付...
ススコリの釀したお酒にわたしは醉いましたよ。
平和なお酒、樂しいお酒にわたしは醉いましたよ。
かようにお歌いになっておいでになった時に、御杖で大坂の...
オホヤマモリのみこととウヂの若郎子
――オホヤマモリのみことを始祖と稱する山部の人々の傳えた物...
かくして天皇がお崩れになってから、オホサザキのみことは...
流れの早い宇治川の渡場に
棹を取るに早い人はわたしのなかまに來てくれ。
そこで河の邊に隱れた兵士が、あちこちから一時に起って矢...
流れの早い宇治川の渡場に
渡場に立っている梓弓とマユミの木、
切ろうと心には思うが
取ろうと心には思うが、
本の方では君を思い出し
末の方では妻を思い出し
いらだたしく其處で思い出し
かわいそうに其處で思い出し、
切らないで來た梓弓とマユミの木。
そのオホヤマモリのみことの屍體をば奈良山に葬りました。...
かくてオホサザキのみこととウヂの若郎子とお二方、おのお...
天の日矛
――異類婚姻説話の一つ、朝鮮系統のものである。終りに出石神...
また新羅の國王の子の天の日矛という者がありました。この...
その伺っていた賤の男がその玉を乞い取って、常に包んで腰...
そこで天の日矛がその妻の逃げたことを聞いて、追い渡って...
この天の日矛の持って渡って來た寶物は、玉つ寶という玉の...
秋山の下氷壯夫と春山の霞壯夫
――同じく異類婚姻説話であるが、前の物語に比してずつと日本...
ここに神の女、イヅシ孃子という神がありました。多くの神...
そこでその兄に「わたしはイヅシ孃子を得ました」と言う。...
系譜
――允恭天皇の皇后の出る系譜であり、後に繼體天皇が、この系...
このホムダの天皇の御子のワカノケフタマタの王が、その母...
*** [#v5255495]
古事記 下の卷
一、仁徳天皇
后妃と皇子女
オホサザキのみこと(仁徳天皇)、難波の高津の宮においで...
聖の御世
――撫民厚生の御事蹟を取りあつめている。聖の御世というのは...
この御世に大陸から來た秦人を使って、茨田の堤、茨田の御...
或る時、天皇、高山にお登りになって、四方を御覽になって...
吉備の黒日賣
――吉備氏の榮えるに至った由來の物語。――
皇后石の姫のみことは非常に嫉妬なさいました。それで天皇...
沖の方には小舟が續いている。
あれは愛しのあの子が
國へ歸るのだ。
皇后樣はこの歌をお聞きになって非常にお怒りになって、船...
ここに天皇は黒姫をお慕い遊ばされて、皇后樣に欺って、淡...
海の照り輝く難波の埼から
立ち出でて國々を見やれば、
アハ島やオノゴロ島
アヂマサの島も見える。
サケツ島も見える。
そこでその島から傳って吉備の國においでになりました。そ...
山の畑に蒔いた青菜も
吉備の人と一緒に摘むと
樂しいことだな。
天皇が京に上っておいでになります時に、黒姫の獻った歌は、
大和の方へ西風が吹き上げて
雲が離れるように離れていても
忘れは致しません。
また、
大和の方へ行くのは誰方樣でしよう。
地の下の水のように、心の底で物思いをして
行くのは誰方樣でしよう。
皇后石の姫のみこと
――靜歌の歌い返しと稱する歌曲にまつわる物語。それに鳥山の...
これより後に皇后樣が御宴をお開きになろうとして、柏の葉...
そこで皇后樣が非常に恨み、お怒りになって、御船に載せた...
山また山の山城川を
上流へとわたしが溯れば、
河のほとりに生い立っているサシブの木、
そのサシブの木の
その下に生い立っている
葉の廣い椿の大樹、
その椿の花のように輝いており
その椿の葉のように廣らかにおいでになる
わが陛下です。
それから山城から※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って、奈良...
山また山の山城川を
御殿の方へとわたしが溯れば、
うるわしの奈良山を過ぎ
青山の圍んでいる大和を過ぎ
わたしの見たいと思う處は、
葛城の高臺の御殿、
故郷の家のあたりです。
かように歌ってお還りになって、しばらく筒木の韓人のヌリ...
山城に追い附け、トリヤマよ。
追い附け、追い附け。最愛の我が妻に追い附いて逢えるだろう。
續いて丸邇の臣クチコを遣して、御歌をお送りになりました。
ミモロ山の高臺にある
オホヰコの原。
その名のような大豚の腹にある
向き合っている臟腑、せめて心だけなりと
思わないで居られようか。
またお歌い遊ばされました御歌、
山また山の山城の女が
木の柄のついた鍬で掘った大根、
その眞白な白い腕を
交わさずに來たなら、知らないとも云えようが。
このクチコの臣がこの御歌を申すおりしも雨が非常に降って...
山城の筒木の宮で
申し上げている兄上を見ると、
涙ぐまれて參ります。
そこで皇后樣がそのわけをお尋ねになる時に、「あれはわた...
そこでクチコの臣、その妹のクチ姫、またヌリノミが三人し...
山また山の山城の女が
木の柄のついた鍬で掘った大根、
そのようにざわざわとあなたが云うので、
見渡される樹の茂みのように
賑やかにやって來たのです。
この天皇と皇后樣とお歌いになった六首の歌は、靜歌の歌い...
ヤタの若郎女
――八田部の人々の傳承であろう。――
天皇、ヤタの若郎女をお慕いになって歌をお遣しになりまし...
ヤタの一本菅は、
子を持たずに荒れてしまうだろうが、
惜しい菅原だ。
言葉でこそ菅原というが、
惜しい清らかな女だ。
ヤタの若郎女のお返しの御歌は、
八田の一本菅はひとりで居りましても、
陛下が良いと仰せになるなら、ひとりでおりましても。
ハヤブサワケの王とメトリの王
――もと鳥のハヤブサとサザキとが女鳥を爭う形で、劇的に構成...
また天皇は、弟のハヤブサワケの王を媒人としてメトリの王...
メトリの女王の織っていらつしやる機は、
誰の料でしようかね。
メトリの王の御返事の歌、
大空高く飛ぶハヤブサワケの王のお羽織の料です。
それで天皇はその心を御承知になって、宮にお還りになりま...
雲雀は天に飛び翔ります。
大空高く飛ぶハヤブサワケの王樣、
サザキをお取り遊ばせ。
天皇はこの歌をお聞きになって、兵士を遣わしてお殺しにな...
梯子を立てたような、クラハシ山が嶮しいので、
岩に取り附きかねて、わたしの手をお取りになる。
また、
梯子を立てたようなクラハシ山は嶮しいけれど、
わが妻と登れば嶮しいとも思いません。
それから逃げて、宇陀のソニという處に行き到りました時に...
その時に將軍山部の大楯が、メトリの王の御手に纏いておい...
雁の卵
――御世の榮えを祝う歌曲。――
また或る時、天皇が御宴をお開きになろうとして、姫島にお...
わが大臣よ、
あなたは世にも長壽の人だ。
この日本の國に
雁が子を生んだのを聞いたことがあるか。
ここにタケシウチの宿禰は歌をもって語りました。
高く光り輝く日の御子樣、
よくこそお尋ねくださいました。
まことにもお尋ねくださいました。
わたくしこそはこの世の長壽の人間ですが、
この日本の國に
雁が子を生んだとはまだ聞いておりません。
かように申して、お琴を戴いて續けて歌いました。
陛下が初めてお聞き遊ばしますために
雁は子を生むのでございましよう。
これは壽歌の片歌です。
枯野という船
――琴の歌。――
この御世にウキ河の西の方に高い樹がありました。その樹の...
船のカラノで鹽を燒いて、
その餘りを琴に作って、
彈きなせば、鳴るユラの海峽の
海中の岩に觸れて立っている
海の木のようにさやさやと鳴り響く。
と歌いました。これは靜歌の歌い返しです。
この天皇は御年八十三歳、丁卯の年の八月十五日にお隱れな...
二、履中天皇・反正天皇
履中天皇とスミノエノナカツ王
――大和の漢氏、多治比部などの傳承の物語。――
御子のイザホワケの王(履中天皇)、大和のイハレの若櫻の...
はじめ難波の宮においでになった時に、大嘗の祭を遊ばされ...
タヂヒ野で寢ようと知ったなら
屏風をも持って來たものを。
寢ようと知ったなら。
ハニフ坂においでになって、難波の宮を遠望なさいましたと...
ハニフ坂にわたしが立って見れば、
盛んに燃える家々は
妻が家のあたりだ。
かくて二上山の大坂の山口においでになりました時に、一人...
大坂で逢った孃子。
道を問えば眞直にとはいわないで
當麻路を教えた。
それから上っておいでになって、石の上の神宮においで遊ば...
ここに皇弟ミヅハワケのみことが天皇の御許においでになり...
ここにおいて、天皇がアチの直を大藏の役人になされ、また...
反正天皇
弟のミヅハワケのみこと(反正天皇)、河内の多治比の柴垣...
天皇はワニのコゴトの臣の女のツノの郎女と結婚してお生み...
三、允恭天皇
后妃と皇子女
弟のヲアサヅマワクゴノスクネの王(允恭天皇)、大和の遠...
八十伴の緒の氏姓
――氏はその家の稱號であり、姓はその家の階級、種別であって...
初め天皇、帝位にお即きになろうとしました時に御辭退遊ば...
ここに天皇が天下の氏々の人々の、氏姓の誤っているのをお...
木梨の輕の太子
――幾章かの歌曲によって構成されている物語。輕部などの傳承...
天皇がお隱れになってから後に、キナシノカルの太子が帝位...
山田を作って、
山が高いので地の下に樋を通わせ、
そのように心の中でわたしの問い寄る妻、
心の中でわたしの泣いている妻を、
昨夜こそは我が手に入れたのだ。
これは志良宜歌です。また、
笹の葉に霰が音を立てる。
そのようにしつかりと共に寢た上は、
よしや君は別れても。
いとしの妻と寢たならば、
刈り取った薦草のように亂れるなら亂れてもよい。
寢てからはどうともなれ。
これは夷振の上歌です。
そこで官吏を始めとして天下の人たち、カルの太子に背いて...
大前小前宿禰の家の門のかげに
お立ち寄りなさい。
雨をやませて行きましよう。
ここにその大前小前の宿禰が、手を擧げ膝を打って舞い奏で...
宮人の足に附けた小鈴が
落ちてしまったと騷いでおります。
里人もそんなに騷がないでください。
この歌は宮人曲です。かように歌いながらやって來て申しま...
空飛ぶ雁、そのカルのお孃さん。
あんまり泣くと人が氣づくでしよう。
それでハサの山の鳩のように
忍び泣きに泣いています。
また歌われた歌は、
空飛ぶ雁、そのカルのお孃さん、
しつかりと寄って寢ていらつしやい
カルのお孃さん。
かくてそのカルの太子を伊豫の國の温泉に流しました。その...
空を飛ぶ鳥も使です。
鶴の聲が聞えるおりは、
わたしの事をお尋ねなさい。
この三首の歌は天田振です。また歌われた歌は、
わたしを島に放逐したら
船の片隅に乘って歸って來よう。
わたしの座席はしつかりと護っていてくれ。
言葉でこそ座席とはいうのだが、
わたしの妻を護っていてくれというのだ。
この歌は夷振の片下です。その時に衣通しの王が歌を獻りま...
夏の草は萎えます。そのあいねの濱の
蠣の貝殼に足をお蹈みなさいますな。
夜が明けてからいらつしやい。
後に戀しさに堪えかねて追っておいでになってお歌いになり...
おいで遊ばしてから日數が多くなりました。
ニワトコの木のように、お迎えに參りましよう。
お待ちしてはおりますまい。
かくて追っておいでになりました時に、太子がお待ちになっ...
隱れ國の泊瀬の山の
大きい高みには旗をおし立て
小さい高みには旗をおし立て、
おおよそにあなたの思い定めている
心盡しの妻こそは、ああ。
あの槻弓のように伏すにしても
梓の弓のように立つにしても
後も出會う心盡しの妻は、ああ。
またお歌い遊ばされた歌は、
隱れ國の泊瀬の川の
上流の瀬には清らかな柱を立て
下流の瀬にはりつぱな柱を立て、
清らかな柱には鏡を懸け
りつぱな柱には玉を懸け、
玉のようにわたしの思っている女、
鏡のようにわたしの思っている妻、
その人がいると言うのなら
家にも行きましよう、故郷をも慕いましよう。
かように歌って、ともにお隱れになりました。それでこの二...
四、安康天皇
マヨワの王の變
御子のアナホの御子(安康天皇)、石の上の穴穗の宮におい...
それから後に、天皇が神を祭って晝お寢みになりました。こ...
ここにオホハツセの王は、その時少年でおいでになりました...
また軍を起してツブラオホミの家をお圍みになりました。そ...
イチノベノオシハの王
――播磨の國のシジムの家に隱れていた二少年が見出されて、遂...
それから後に、近江の佐々紀の山の君の祖先のカラフクロが...
五、雄略天皇
后妃と皇子女
オホハツセノワカタケのみこと(雄略天皇)、大和の長谷の...
ワカクサカベの王
――以下、多くは歌を中心とした短篇の物語が、この天皇の御事...
初め皇后樣が河内の日下においでになった時に、天皇が日下...
この日下部の山と
向うの平群の山との
あちこちの山のあいだに
繁っている廣葉のりつぱなカシの樹、
その樹の根もとには繁った竹が生え、
末の方にはしつかりした竹が生え、
その繁った竹のように繁くも寢ず
しつかりした竹のようにしかとも寢ず
後にも寢ようと思う心づくしの妻は、ああ。
この歌をその姫の許に持たせてお遣りになりました。
引田部の赤猪子
――三輪山のほとりで語り傳えられた物語。――
また或る時、三輪河にお遊びにおいでになりました時に、河...
御諸山の御神木のカシの樹のもと、
そのカシのもとのように憚られるなあ、
カシ原のお孃さん。
またお歌いになりました御歌は、
引田の若い栗の木の原のように
若いうちに結婚したらよかった。
年を取ってしまったなあ。
かくて赤猪子の泣く涙に、著ておりました赤く染めた袖がす...
御諸山に玉垣を築いて、
築き殘して誰に頼みましよう。
お社の神主さん。
また歌いました歌、
日下江の入江に蓮が生えています。
その蓮の花のような若盛りの方は
うらやましいことでございます。
そこでその老女に物を澤山に賜わって、お歸しになりました...
吉野の宮
――吉野での物語二篇。――
天皇が吉野の宮においでになりました時に、吉野川のほとり...
椅子にいる神樣が御手ずから
彈かれる琴に舞を舞う女は
永久にいてほしいことだな。
それから吉野のアキヅ野においでになって獵をなさいます時...
吉野のヲムロが嶽に
猪がいると
陛下に申し上げたのは誰か。
天下を知ろしめす天皇は
猪を待つと椅子に御座遊ばされ
白い織物のお袖で裝うておられる
御手の肉に虻が取りつき
その虻を蜻蛉がはやく食い、
かようにして名を持とうと、
この大和の國を
蜻蛉島というのだ。
その時からして、その野をアキヅ野というのです。
葛城山
――葛城山に關する物語二篇。――
また或る時、天皇が葛城山の上にお登りになりました。とこ...
天下を知ろしめす天皇の
お射になりました猪の
手負い猪のくいつくのを恐れて
わたしの逃げ登った
岡の上のハンの木の枝よ。
また或る時、天皇が葛城山に登っておいでになる時に、百官...
春日のヲド姫と三重の采女
――三重の采女の物語を中に插んで前後に春日のヲド姫の物語が...
また天皇、丸邇のサツキの臣の女のヲド姫と結婚をしに春日...
お孃さんの隱れる岡を
じようぶな※(「金+且」、第3水準1-93-12)が澤山あったらよい...
鋤き撥ってしまうものを。
そこでその岡を金※(「金+且」、第3水準1-93-12)の岡と名づ...
また天皇が長谷の槻の大樹の下においでになって御酒宴を遊...
纏向の日代の宮は
朝日の照り渡る宮、
夕日の光のさす宮、
竹の根のみちている宮、
木の根の廣がっている宮です。
多くの土を築き堅めた宮で、
りつぱな材木の檜の御殿です。
その新酒をおあがりになる御殿に生い立っている
一杯に繁った槻の樹の枝は、
上の枝は天を背おっています。
中の枝は東國を背おっています。
下の枝は田舍を背おっています。
その上の枝の枝先の葉は
中の枝に落ちて觸れ合い、
中の枝の枝先の葉は
下の枝に落ちて觸れ合い、
下の枝の枝先の葉は、
衣服を三重に著る、その三重から來た子の
捧げているりつぱな酒盃に
浮いた脂のように落ち漬って、
水音もころころと、
これは誠に恐れ多いことでございます。
尊い日の御子樣。
事の語り傳えはかようでございます。
この歌を獻りましたから、その罪をお赦しになりました。そ...
大和の國のこの高町で
小高くある市の高臺の、
新酒をおあがりになる御殿に生い立っている
廣葉の清らかな椿の樹、
その葉のように廣らかにおいで遊ばされ
その花のように輝いておいで遊ばされる
尊い日の御子樣に
御酒をさしあげなさい。
事の語り傳えはかようでございます。
天皇のお歌いになりました御歌は、
宮廷に仕える人々は、
鶉のように頭巾を懸けて、
鶺鴒のように尾を振り合って
雀のように前に進んでいて
今日もまた酒宴をしているもようだ。
りつぱな宮廷の人々。
事の語り傳えはかようでございます。
この三首の歌は天語歌です。その御酒宴に三重の采女を譽め...
この御酒宴の日に、また春日のヲド姫が御酒を獻りました時...
水のしたたるようなそのお孃さんが、
銚子を持っていらつしやる。
銚子を持つならしつかり持っていらつしやい。
力を入れてしつかりと持っていらつしやい。
銚子を持っていらつしやるお孃さん。
これは宇岐歌です。ここにヲド姫の獻りました歌は、
天下を知ろしめす天皇の
朝戸にはお倚り立ち遊ばされ
夕戸にはお倚り立ち遊ばされる
脇息の下の
板にでもなりたいものです。あなた。
これは志都歌です。
天皇は御年百二十四歳、己巳の年の八月九日にお隱れになり...
六、清寧天皇・顯宗天皇・仁賢天皇
清寧天皇
御子のシラガノオホヤマトネコのみこと(清寧天皇)、大和...
シジムの新築祝い
――前に出たイチノベノオシハの王の物語の續きで山部氏によっ...
ここに山部の連小楯が播磨の國の長官に任命されました時に...
武士であるわが君のお佩きになっている大刀の柄に、赤い模樣...
と述べましたから、小楯が聞いて驚いて座席から落ちころんで...
歌垣
――日本書紀では、武烈天皇の太子時代のこととし、歌も多く相...
そこで天下をお治めなされようとしたほどに、平群の臣の祖...
御殿のちいさい方の出張りは、隅が曲っている。
かく歌って、その歌の末句を乞う時に、ヲケのみことのお歌...
大工が下手だったので隅が曲っているのだ。
シビがまた歌いますには、
王子樣の御心がのんびりしていて、
臣下の幾重にも圍った柴垣に
入り立たずにおられます。
ここに王子がまた歌いますには、
潮の寄る瀬の浪の碎けるところを見れば
遊んでいるシビ魚の傍に
妻が立っているのが見える。
シビがいよいよ怒って歌いますには、
王子樣の作った柴垣は、
節だらけに結び※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)してあって、
切れる柴垣の燒ける柴垣です。
ここに王子がまた歌いますには、
大きい魚の鮪を突く海人よ、
その魚が荒れたら心戀しいだろう。
鮪を突く鮪の臣よ。
かように歌って歌を掛け合い、夜をあかして別れました。翌...
ここでお二方の御子たちが互に天下をお讓りになって、オケ...
顯宗天皇
イザホワケの天皇の御子、イチノベノオシハの王の御子のヲ...
茅草の低い原や小谷を過ぎて
鈴のゆれて鳴る音がする。
置目がやって來るのだな。
ここに置目が「わたくしは大變年をとりましたから本國に歸...
置目よ、あの近江の置目よ、
明日からは山に隱れてしまって
見えなくなるだろうかね。
初め天皇が災難に逢って逃げておいでになった時に、その乾...
天皇、その父君をお殺しになったオホハツセの天皇を深くお...
仁賢天皇
――以下十代は、物語の部分が無く、もつぱら帝紀によっている...
ヲケの王の兄のオホケの王(仁賢天皇)、大和の石の上の廣...
七、武烈天皇以後九代
武烈天皇
ヲハツセノワカサザキのみこと(武烈天皇)、大和の長谷の...
繼體天皇
ホムダの王の五世の孫のヲホドのみこと(繼體天皇)、大和...
安閑天皇
御子のヒロクニオシタケカナヒの王(安閑天皇)、大和の勾...
宣化天皇
弟のタケヲヒロクニオシタテのみこと(宣化天皇)、大和の...
欽明天皇
弟のアメクニオシハルキヒロニハの天皇(欽明天皇)、大和...
敏達天皇
――岡本の宮で天下をお治めになったというのが、古事記中最新...
御子のヌナクラフトタマシキのみこと(敏達天皇)、大和の...
この天皇の御子たち合わせて十七王おいでになった中に、ヒ...
用明天皇
弟のタチバナノトヨヒのみこと(用明天皇)、大和の池の邊...
崇峻天皇
弟のハツセベノワカサザキの天皇(崇峻天皇)、大和の倉椅...
推古天皇
――古事記がここで終っているのは、その材料とした帝紀がここ...
妹のトヨミケカシギヤ姫のみこと(推古天皇)、大和の小治...
終了行:
古事記
稗田のアレイ、オオノヤスマロ
武田祐吉訳
目次
*** [#xf788b4f]
古事記 上の卷 序文がついています
序文
過去の時代(序文の第一段)
――古事記の成立の前提として、本文に記されている過去のこと...
わたくしヤスマロが申しあげます。
宇宙のはじめに當っては、すべてのはじめの物がまずできま...
ほんとにそうです。神々が賢木の枝に玉をかけ、スサノヲの...
古事記の企畫(序文の第二段)
――前半は天武天皇の御事蹟と徳行について述べる。後半、古來...
飛鳥の清原の大宮において天下をお治めになった天武天皇の...
ここにおいて天武天皇の仰せられましたことは「わたしが聞...
古事記の成立(序文の第三段)
――はじめに元明天皇の徳をたたえ、そのみこと令によって稗田...
謹んで思いまするに、今上天皇陛下(元明天皇)は、帝位に...
しかしながら古代にありましては、言葉も内容も共に素朴で...
和銅五年正月二十八日
正五位の上勳五等 太の朝臣ヤスマロ
一、イザナギのみこととイザナミのみこと
天地のはじめ
――世界のはじめにまず神々の出現したことを説く。これらの神...
昔、この世界の一番始めの時に、天で御出現になった神樣は...
以上の五神は、特別の天の神樣です。
それから次々に現われ出た神樣は、クニノトコタチの神、ト...
島々の生成
――神が生み出す形で國土の起原を語る。――
そこで天の神樣方の仰せで、イザナギのみこと・イザナミの...
そこでイザナギのみことが、イザナミの女神に「あなたのか...
かくて御二方で御相談になって、「今わたしたちの生んだ子...
神々の生成
――前と同じ形で萬物の起原を語る。火の神を生んでから水の神...
このように國々を生み終って、更に神々をお生みになりまし...
次にお生みになった神の名はトリノイハクスブネの神、この...
すべてイザナギ・イザナミのお二方の神が、共にお生みにな...
黄泉の國
――地下にくらい世界があって、魔物がいると考えられている。...
そこでイザナギのみことの仰せられるには、「わたしの最愛...
ここにイザナギのみことは、お佩きになっていた長い劒を拔...
殺されなさいましたカグツチの神の、頭に出現した神の名は...
イザナギのみことはお隱れになった女神にもう一度會いたい...
身禊
――みそぎの意義を語る。人生の災禍がこれによって拂われると...
イザナギのみことは黄泉の國からお還りになって、「わたし...
以上ヤソマガツヒの神からハヤスサノヲのみことまで十神は...
イザナギのみことはたいへんにお喜びになって、「わたしは...
二、天照らす大神とスサノヲのみこと
誓約
――暴風の神であり出雲系の英雄でもあるスサノヲのみことが、...
そこでスサノヲのみことが仰せになるには、「それなら天照...
天の岩戸
――祓によって暴風の神を放逐することを語る。はじめのスサノ...
そこでスサノヲのみことは、天照らす大神に申されるには「...
こういう次第で多くの神樣たちが天の世界の天のヤスの河の...
三、スサノヲのみこと
穀物の種
――穀物などの起原を説く插入説話である。日本書紀では、月の...
スサノヲのみことは、かようにして天の世界から逐われて、...
八俣の大蛇
――スサノヲのみことは、高天の原系統では暴風の神であり、亂...
かくてスサノヲのみことは逐い拂われて出雲の國の肥の河上...
かくしてスサノヲのみことは、宮を造るべき處を出雲の國で...
雲の叢り起つ出雲の國の宮殿。
妻と住むために宮殿をつくるのだ。
その宮殿よ。
というのです。そこでかのアシナヅチ・テナヅチの神をお呼び...
系譜
――スサノヲのみことの系譜を説き、大國主の神に結びつけてい...
そこでそのクシナダ姫と婚姻してお生みになった神樣は、ヤ...
四、大國主のみこと
兎と鰐
――これから出雲系の英雄大國主の神の神話になる。さまざまの...
この大國主のみことの兄弟は、澤山おいでになりました。し...
赤貝姫と蛤貝姫
――前の兎と鰐の話と共に、古代醫療の方法について語っている...
兎の言った通り、ヤガミ姫は大勢の神に答えて「わたくしは...
根の堅州國
――これも異郷説話の一つで、王子の求婚説話の形を採っている...
これをまた大勢の神が見て欺いて山に連れて行って、大きな...
そこで母の神が「これは、スサノヲのみことのおいでになる...
かくてお妃のスセリ姫は葬式の道具を持って泣きながらおい...
かのヤガミ姫は前の約束通りに婚姻なさいました。そのヤガ...
ヤチホコの神の歌物語
――長い歌の贈答を中心とした物語で、もと歌曲として歌い傳え...
このヤチホコの神(大國主のみこと)が、越の國のヌナカハ...
ヤチホコの神樣は、
方々の國で妻を求めかねて、
遠い遠い越の國に
賢い女がいると聞き
美しい女がいると聞いて
結婚にお出ましになり
結婚にお通いになり、
大刀の緒もまだ解かず
羽織をもまだ脱がずに、
娘さんの眠っておられる板戸を
押しゆすぶり立っていると
引き試みて立っていると、
青い山ではヌエが鳴いている。
野の鳥の雉は叫んでいる。
庭先でニワトリも鳴いている。
腹が立つさまに鳴く鳥だな
こんな鳥はやつつけてしまえ。
下におります走り使をする者の
事の語り傳えはかようでございます。
そこで、そのヌナカハ姫が、まだ戸を開けないで、家の内で...
ヤチホコの神樣、
萎れた草のような女のことですから
わたくしの心は漂う水鳥、
今こそわたくし鳥でも
後にはあなたの鳥になりましよう。
命長くお生き遊ばしませ。
下におります走り使をする者の
事の語り傳えはかようでございます。
青い山に日が隱れたら
眞暗な夜になりましよう。
朝のお日樣のようににこやかに來て
コウゾの綱のような白い腕、
泡雪のような若々しい胸を
そつと叩いて手をとりかわし
玉のような手をまわして
足を伸ばしてお休みなさいましようもの。
そんなにわびしい思いをなさいますな。
ヤチホコの神樣。
事の語り傳えは、かようでございます。
それで、その夜はお會いにならないで、翌晩お會いなさいま...
またその神のお妃スセリ姫のみことは、大變嫉妬深い方でご...
カラスオウギ色の黒い御衣服を
十分に身につけて、
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きも似合わしくない、
波うち寄せるそこに脱ぎ棄て、
翡翠色の青い御衣服を
十分に身につけて
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きもこれも似合わしくない、
波うち寄せるそこに脱ぎ棄て、
山畑に蒔いた茜草を舂いて
染料の木の汁で染めた衣服を
十分に身につけて、
水鳥のように胸を見る時、
羽敲きもこれはよろしい。
睦しのわが妻よ、
鳥の群のようにわたしが群れて行ったら、
引いて行く鳥のようにわたしが引いて行ったら、
泣かないとあなたは云っても、
山地に立つ一本薄のように、
うなだれてあなたはお泣きになって、
朝の雨の霧に立つようだろう。
若草のようなわが妻よ。
事の語り傳えは、かようでございます。
そこで、そのお妃が、酒盃をお取りになり、立ち寄り捧げて...
ヤチホコの神樣、
わたくしの大國主樣。
あなたこそ男ですから
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている岬々に
※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている埼ごとに
若草のような方をお持ちになりましよう。
わたくしは女のことですから
あなた以外に男は無く
あなた以外に夫はございません。
ふわりと垂れた織物の下で、
暖い衾の柔い下で、
白い衾のさやさやと鳴る下で、
泡雪のような若々しい胸を
コウゾの綱のような白い腕で、
そつと叩いて手をさしかわし
玉のような手を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)して
足をのばしてお休み遊ばせ。
おいしいお酒をお上り遊ばせ。
そこで盃を取り交して、手を懸け合って、今日までも鎭まっ...
系譜
――出雲系の、ある豪族の家系を語るもののようである。――
この大國主の神が、※形[#「匈/(胃-田)」、U+80F7、23...
大國主の神が、またカムヤタテ姫のみことと結婚して生んだ...
以上ヤシマジヌミの神からトホツヤマザキタラシの神までを...
スクナビコナの神
――オホアナムチのみこととしばしば竝んで語られるスクナビコ...
そこで大國主のみことが出雲の御大の御埼においでになった...
御諸山の神
――大和の三輪山にある大神神社の鎭坐の縁起である。――
そこで大國主のみことが心憂く思って仰せられたことは、「...
大年の神の系譜
――前に出たスサノヲのみことの系譜の中の大年の神の系譜で、...
オホトシの神が、カムイクスビの神の女のイノ姫と結婚して...
以上オホトシの神の子のオホクニミタマの神からオホツチの...
さてハヤマトの神が、オホゲツ姫の神と結婚して生んだ子は...
以上ハヤマトの神の子のワカヤマクヒの神からワカムロツナ...
五、天照らす大神と大國主のみこと
天若日子
――天若日子に關する部分は、語部などによって語られた物語の...
天照らす大神のお言葉で、「葦原の水穗の國は我が御子のマ...
そこで天照らす大神、タカミムスビの神が大勢の神にお尋ね...
この時アヂシキタカヒコネの神がおいでになって、天若日子...
天の世界の若い織姫の
首に懸けている珠の飾り、
その珠の飾りの大きい珠のような方、
谷二つ一度にお渡りになる
アヂシキタカヒコネの神でございます。
と歌いました。この歌は夷振です。
國讓り
――出雲の神が、託宣によって國を讓ったことを語る。出雲大社...
かように天若日子もだめだったので、天照らす大神の仰せに...
そこでこのお二方の神が出雲の國のイザサの小濱に降りつい...
そこで大國主のみことにお尋ねになったのは、「今あなたの...
そこで更に還って來てその大國主のみことに問われたことに...
六、ニニギのみこと
天降
――本來は、祭の庭に神の降下することを説くものと解せられる...
そこで天照らす大神、高木の神のお言葉で、太子オシホミミ...
ここにヒコホノニニギのみことが天からお降りになろうとす...
かくてアメノコヤネのみこと・フトダマのみこと・アメノウ...
猿女の君
――前にあったウズメのみことがサルタ彦の神を見顯す神話に接...
そこでアマツヒコホノニニギのみことに仰せになって、天上...
ここに仰せになるには「この處は海外に向って、カササの御...
ここにアメノウズメのみことに仰せられるには、「この御前...
ウズメのみことはサルタ彦の神を送ってから還って來て、悉...
木の花の咲くや姫
――人名に對する信仰が語られ、また古代の婚姻の風習から生じ...
さてヒコホノニニギのみことは、カササの御埼で美しい孃子...
かくして後に木の花の咲くや姫が參り出て申すには、「わた...
七、ヒコホホデミのみこと
海幸と山幸
――西方の海岸地帶に傳わった海神の宮訪問の神話で、異郷説話...
ニニギのみことの御子のうち、ホデリのみことは海幸彦とし...
そこでその弟が海邊に出て泣き患えておられた時に、シホツ...
依って教えた通り、すこしおいでになりましたところ、すべ...
ここにホヲリのみことは初めの事をお思いになって大きな溜...
かくして悉く海神の教えた通りにして鉤を返されました。そ...
トヨタマ姫
――前の説話の續きで、男が禁止を破ることによって、別離にな...
ここに海神の女、トヨタマ姫のみことが御自身で出ておいで...
赤い玉は緒までも光りますが、
白玉のような君のお姿は
貴いことです。
そこでその夫の君がお答えなさいました歌は、
水鳥の鴨が降り著く島で
契を結んだ私の妻は忘れられない。
世の終りまでも。
このヒコホホデミのみことは高千穗の宮に五百八十年おいで...
アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズのみことは、叔...
*** [#rdbae0ab]
古事記 中の卷
一、神武天皇
東征
――日向から發して大和にはいろうとして失敗することを語る。...
カムヤマトイハレ彦のみこと(神武天皇)、兄君のイツセの...
速吸の門
その國から上っておいでになる時に、龜の甲に乘って釣をし...
イツセのみこと
その國から上っておいでになる時に、難波の灣を經て河内の...
熊野から大和へ
――神話の要素の多い部分で、神話の成立過程も窺われる。――
カムヤマトイハレ彦のみことは、その土地から※(「廴+囘」...
ここにまた高木の神の御命令でお教えになるには、「天の神...
久米歌
――幾首かの久米歌に結びついている物語である。――
この時に宇陀にエウカシ・オトウカシという二人があります...
宇陀の高臺でシギの網を張る。
わたしが待っているシギは懸からないで
思いも寄らないタカが懸かった。
古妻が食物を乞うたら
ソバノキの實のように少しばかりを削ってやれ。
新しい妻が食物を乞うたら
イチサカキの實のように澤山に削ってやれ。
ええやつつけるぞ。ああよい氣味だ。
そのオトウカシは宇陀の水取等の祖先です。
次に、忍坂の大室においでになった時に、尾のある穴居の人...
忍坂の大きな土室に
大勢の人が入り込んだ。
よしや大勢の人がはいっていても
威勢のよい久米の人々が
瘤大刀の石大刀でもって
やつつけてしまうぞ。
威勢のよい久米の人々が
瘤大刀の石大刀でもって
そら今撃つがよいぞ。
かように歌って、刀を拔いて一時に打ち殺してしまいました。
その後、ナガスネ彦をお撃ちになろうとした時に、お歌いに...
威勢のよい久米の人々の
アワの畑には臭いニラが一本生えている。
その根のもとに、その芽をくつつけて
やつつけてしまうぞ。
また、
威勢のよい久米の人々の
垣本に植えたサンシヨウ、
口がひりひりして恨みを忘れかねる。
やつつけてしまうぞ。
また、
神風の吹く伊勢の海の
大きな石に這い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)っている
細螺のように這い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って
やつつけてしまうぞ。
また、エシキ、オトシキをお撃ちになりました時に、御軍の...
楯を竝べて射る、そのイナサの山の
樹の間から行き見守って
戰爭をすると腹が減った。
島にいる鵜を養う人々よ
すぐ助けに來てください。
最後にトミのナガスネ彦をお撃ちになりました。時にニギハ...
神の御子
――英雄や佳人などを、神が通って生ませた子だとすることは、...
はじめ日向の國においでになった時に、阿多の小椅の君の妹...
ある時七人の孃子が大和のタカサジ野で遊んでいる時に、こ...
大和の國のタカサジ野を
七人行く孃子たち、
その中の誰をお召しになります。
このイスケヨリ姫は、その時に孃子たちの前に立っておりま...
まあまあ一番先に立っている娘を妻にしましようよ。
ここにオホクメのみことが、天皇の仰せをそのイスケヨリ姫...
天地間の千人勝りの勇士だというに、どうして目に黥をしてい...
と歌いましたから、オホクメのみことが答えて歌うには、
お孃さんにすぐに逢おうと思って目に黥をしております。
と歌いました。かくてその孃子は「お仕え申しあげましよう」...
そのイスケヨリ姫のお家はサヰ河のほとりにありました。こ...
アシ原のアシの繁った小屋に
スゲの蓆を清らかに敷いて、
二人で寢たことだったね。
かくしてお生まれになった御子は、ヒコヤヰのみこと・カム...
タギシミミのみことの變
――自分の家の祖先は、天皇の兄に當るのだが、なぜ臣下となっ...
天皇がお隱れになってから、その庶兄のタギシミミのみこと...
サヰ河の方から雲が立ち起って、
畝傍山の樹の葉が騷いでいる。
風が吹き出しますよ。
畝傍山は晝は雲が動き、
夕暮になれば風が吹き出そうとして
樹の葉が騷いでいる。
そこで御子たちがお聞きになって、驚いてタギシミミを殺そ...
かくてカムヤヰミミのみことが弟のタケヌナカハミミのみこ...
二、綏靖天皇以後八代
綏靖天皇
――以下八代は、帝紀の部分だけで、本辭を含んでいない。この...
カムヌナカハミミのみこと(綏靖天皇)、大和の國の葛城の...
安寧天皇
シキツ彦タマデミのみこと(安寧天皇)、大和の片鹽の浮穴...
懿徳天皇
オホヤマト彦スキトモのみこと(懿徳天皇)、大和の輕の境...
孝昭天皇
ミマツ彦カヱシネのみこと(孝昭天皇)、大和の葛城の掖上...
孝安天皇
オホヤマトタラシ彦クニオシビトのみこと(孝安天皇)、大...
孝靈天皇
オホヤマトネコ彦フトニのみこと(孝靈天皇)、大和の黒田...
そこでオホヤマトネコ彦クニクルのみことは天下をお治めな...
孝元天皇
――タケシウチの宿禰の諸子をあげているのは豪族の祖先だから...
オホヤマトネコ彦クニクルのみこと(孝元天皇)、大和の輕...
開化天皇
ワカヤマトネコ彦オホビビのみこと(開化天皇)、大和の春...
三、崇神天皇
后妃と皇子女
――帝紀の前半と見られる部分である。――
イマキイリ彦イニヱのみこと(崇神天皇)、大和の師木の水...
この天皇は、木の國の造のアラカハトベの女のトホツアユメ...
美和の大物主
――三輪山説話として神婚説話の典型的な一つで神氏、鴨氏等の...
この天皇の御世に、流行病が盛んに起って、人民がほとんど...
このオホタタネコを神の子と知った次第は、上に述べたイク...
將軍の派遣
――いわゆる四道將軍の派遣の物語。但しヒコイマスの王を、日...
またこの御世に大彦のみことをば越の道に遣し、その子のタ...
御眞木入日子さまは、
御自分のみことを人知れず殺そうと、
背後の入口から行き違い
前の入口から行き違い
窺いているのも知らないで、
御眞木入日子さまは。
と歌いました。そこで大彦のみことが怪しいことを言うと思っ...
さて山城のワカラ河に行きました時に、果してタケハニヤス...
かくて大彦のみことは前のみこと令通りに越の國にまいりま...
四、垂仁天皇
后妃と皇子女
イクメイリ彦イサチのみこと(垂仁天皇)、大和の師木の玉...
その中でオホタラシ彦オシロワケのみことは、天下をお治め...
サホ彦の叛亂
――サホ彦は天皇を弑殺しようとした叛逆者であるが、その子孫...
この天皇、サホ姫を皇后になさいました時に、サホ姫のみこ...
そこで天皇は「わたしはあぶなく欺かれるところだった」と...
この時にその皇后は姙娠しておいでになり、またお愛し遊ば...
また天皇がその皇后に仰せられるには、「すべて子の名は母...
ホムチワケの御子
――種々の要素の結合している物語であるが、出雲の神のたたり...
かくてその御子をお連れ申し上げて遊ぶ有樣は、尾張の相津...
そこで天皇が御心配遊ばされてお寢みになっている時に、御...
かくて出雲の國においでになって、出雲の大神を拜み終って...
そこでその御子が一夜ヒナガ姫と結婚なさいました。その時...
丹波の四女王
――丹波地方に傳わった説話が取りあげられたものであろう。――
天皇はまたその皇后サホ姫の申し上げたままに、ミチノウシ...
時じくの香の木の實
――タヂマモリの子孫の家に傳えられた説話。――
また天皇、三宅の連等の祖先のタヂマモリを常世の國に遣し...
またその皇后ヒバス姫のみことの時に、石棺作りをお定めに...
五、景行天皇・成務天皇
景行天皇の后妃と皇子女
オホタラシ彦オシロワケの天皇(景行天皇)、大和の纏向の...
ここに天皇は、三野の國の造の祖先のオホネの王の女の兄姫...
ヤマトタケルのみことの西征
――英雄ヤマトタケルのみことの物語ははじまる。劇的な構成に...
天皇がヲウスのみことに仰せられるには「お前の兄はどうし...
そこで天皇は、その御子の亂暴な心を恐れて仰せられるには...
イヅモタケル
――日本書紀では、全然ヤマトタケルのみことと關係のない物語...
そこで出雲の國におはいりになって、そのイヅモタケルを撃...
雲の叢り立つ出雲のタケルが腰にした大刀は、
蔓を澤山卷いて刀の身が無くて、きのどくだ。
かように平定して、朝廷に還って御返事申し上げました。
ヤマトタケルのみことの東征
――諸氏の物語が結合したと見えるが、よくまとまって、美しい...
ここに天皇は、また續いてヤマトタケルのみことに、「東の...
かくて尾張の國においでになって、尾張の國の造の祖先のミ...
其處からおいでになって、走水の海をお渡りになった時にそ...
高い山の立つ相摸の國の野原で、
燃え立つ火の、その火の中に立って
わたくしをお尋ねになったわが君。
かくして七日過ぎての後に、そのお妃のお櫛が海濱に寄りま...
それからはいっておいでになって、悉く惡い蝦夷どもを平ら...
その國から越えて甲斐に出て、酒折の宮においでになった時...
常陸の新治・筑波を過ぎて幾夜寢たか。
ここにその火を燒いている老人が續いて、
日數重ねて、夜は九夜で日は十日でございます。
と歌いました。そこでその老人を譽めて、吾妻の國の造になさ...
かくてその國から信濃の國にお越えになって、そこで信濃の...
仰ぎ見る天の香具山
鋭い鎌のように横ぎる白鳥。
そのようなたおやかな弱腕を
抱こうとはわたしはするが、
寢ようとはわたしは思うが、
あなたの著ている打掛の裾に
月が出ているよ。
そこでミヤズ姫が、お歌にお答えしてお歌いなさいました。
照り輝く日のような御子樣
御威光すぐれたわたしの大君樣。
新しい年が來て過ぎて行けば、
新しい月は來て過ぎて行きます。
ほんとうにまああなた樣をお待ちいたしかねて
わたくしのきております打掛の裾に
月も出るでございましようよ。
そこで御結婚遊ばされて、その佩びておいでになった草薙の...
望郷の歌
――クニシノヒ歌の歌曲を中心として、英雄の悲壯な最後を語る...
そこで「この山の神は空手で取って見せる」と仰せになって...
其處からお立ちになって當藝の野の上においでになった時に...
尾張の國に眞直に向かっている
尾津の埼の
一本松よ。お前。
一本松が人だったら
大刀を佩かせようもの、着物を著せようもの、
一本松よ。お前。
其處からおいでになって、三重の村においでになった時に、...
其處からおいでになって、能煩野に行かれました時に、故郷...
大和は國の中の國だ。
重なり合っている青い垣、
山に圍まれている大和は美しいなあ。
命が無事だった人は、
大和の國の平群の山の
りつぱなカシの木の葉を
頭插にお插しなさい。お前たち。
とお歌いになりました。この歌は思國歌という名の歌です。ま...
なつかしのわが家の方から雲が立ち昇って來るわい。
これは片歌でございます。この時に、御病氣が非常に重くな...
孃子の床のほとりに
わたしの置いて來た良く切れる大刀、
あの大刀はなあ。
と歌い終って、お隱れになりました。そこで急使を上せて朝廷...
白鳥の陵
――大葬に歌われる歌曲を中心としている。白鳥には、神靈を感...
ここに大和においでになるお妃たちまた御子たちが皆下って...
周りの田の稻の莖に、
稻の莖に、
這い繞っているツルイモの蔓です。
しかるに其處から大きな白鳥になって天に飛んで、濱に向い...
小篠が原を行き惱む、
空中からは行かずに、歩いて行くのです。
また、海水にはいって、海水の中を骨を折っておいでになっ...
海の方から行けば行き惱む。
大河原の草のように、
海や河をさまよい行く。
また飛んで、其處の磯においで遊ばされた時の御歌、
濱の千鳥、濱からは行かずに磯傳いをする。
この四首の歌は皆そのお葬式に歌いました。それで今でもそ...
ヤマトタケルのみことの系譜
――實際あり得ない關係も記されている。――
このヤマトタケルのみことが、垂仁天皇の女、フタヂノイリ...
それでタラシナカツ彦のみことは天下をお治めなさいました...
このオホタラシ彦の天皇の御年百三十七歳、御陵は山の邊の...
成務天皇
――國縣の堺を定め、國の造、縣主を定め、地方行政の基礎が定...
ワカタラシ彦の天皇(成務天皇)、近江の國の志賀の高穴穗...
六、仲哀天皇
后妃と皇子女
タラシナカツ彦の天皇(仲哀天皇)、穴門の豐浦の宮また筑...
神功皇后
――御母はシラギ人天の日矛の系統で、シラギのことを知ってお...
皇后のオキナガタラシ姫のみこと(神功皇后)は神懸りをな...
そこで驚き恐懼して御大葬の宮殿にお遷し申し上げて、更に...
そこでタケシウチの宿禰が、「神樣、おそれ多いことですが...
そこで悉く神の教えた通りにして軍隊を整え、多くの船を竝...
鎭懷石と釣魚
かような事がまだ終りませんうちに、お腹の中の御子がお生...
また筑紫の松浦縣の玉島の里においでになって、その河の邊...
カゴサカの王とオシクマの王
――ある戰亂の武勇譚が、歌を插入して誇張されてゆく。――
オキナガタラシ姫のみことは、大和に還りお上りになる時に...
この時にオシクマの王は、難波の吉師部の祖先のイサヒの宿...
さあ君よ、
フルクマのために負傷するよりは、
カイツブリのいる琵琶の湖水に
潛り入ろうものを。
と歌って海にはいって死にました。
氣比の大神
――敦賀市の氣比神宮の神の名の由來。――
かくてタケシウチの宿禰がその太子をおつれ申し上げて禊を...
酒の座の歌曲
――酒宴の席に演奏される歌曲の説明。――
其處から還ってお上りになる時に、母君のオキナガタラシ姫...
このお酒はわたくしのお酒ではございません。
お神酒の長官、常世の國においでになる
岩になって立っていらつしやるスクナビコナ樣が
祝って祝って祝い狂わせ
祝って祝って祝い※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って
獻上して來たお酒なのですよ。
盃をかわかさずに召しあがれ。
かようにお歌いになってお酒を獻りました。その時にタケシ...
このお酒を釀造した人は、
その太鼓を臼に使って、
歌いながら作った故か、
舞いながら作った故か、
このお酒の
不思議に樂しいことでございます。
これは酒樂の歌でございます。
すべてタラシナカツ彦の天皇の御年は五十二歳、壬戌の年の...
七、應神天皇
后妃と皇子女
ホムダワケのみこと(應神天皇)、大和の輕島の明の宮にお...
オホヤマモリのみこととオホサザキのみこと
――天皇が、兄弟の御子に對してテストをされる。その結果弟が...
ここに天皇がオホヤマモリのみこととオホサザキのみことと...
葛野の歌
――國ほめの歌曲の一つ。――
或る時、天皇が近江の國へ越えてお出ましになりました時に...
葉の茂った葛野を見れば、
幾千も富み榮えた家居が見える、
國の中での良い處が見える。
蟹の歌
――蟹と鹿とは、古代の主要な食料であった。その蟹を材料とし...
かくて木幡の村においでになった時に、その道で美しい孃子...
この蟹はどこの蟹だ。
遠くの方の敦賀の蟹です。
横歩きをして何處へ行くのだ。
イチヂ島・ミ島について、
カイツブリのように水に潛って息をついて、
高低のあるササナミへの道を
まつすぐにわたしが行きますと、
木幡の道で出逢った孃子、
後姿は楯のようだ。
齒竝びは椎の子や菱の實のようだ。
櫟井の丸邇坂の土を
上の土はお色が赤い、
底の土は眞黒ゆえ
眞中のその中の土を
かぶりつく直火には當てずに
畫眉を濃く畫いて
お逢いになった御婦人、
このようにもとわたしの見たお孃さん、
あのようにもとわたしの見たお孃さんに、
思いのほかにも向かっていることです。
添っていることです。
かくて御結婚なすってお生みになった子がウヂの若郎子でご...
髮長姫
――酒宴で孃子を贈り、また孃子を得た喜びの歌曲。古く諸縣舞...
また天皇が、日向の國の諸縣の君の女の髮長姫が美しいとお...
さあお前たち、野蒜摘みに
蒜摘みにわたしの行く道の
香ばしい花橘の樹、
上の枝は鳥がいて枯らし
下の枝は人が取って枯らし、
三栗のような眞中の枝の
目立って見える紅顏のお孃さんを
さあ手に入れたら宜いでしよう。
また、
水のたまっている依網の池の
堰杙を打ってあったのを知らずに
ジュンサイを手繰って手の延びていたのを知らずに
氣のつかない事をして殘念だった。
かようにお歌いになって賜わりました。その孃子を賜わって...
遠い國の古波陀のお孃さんを、
雷鳴のように音高く聞いていたが、
わたしの妻としたことだった。
また、
遠い國の古波陀のお孃さんが、
爭わずにわたしの妻となったのは、
かわいい事さね。
國主歌
――吉野山中の土民の歌曲。――
また、吉野のクズどもがオホサザキのみことの佩びておいで...
天子樣の日の御子である
オホサザキ樣、
オホサザキ樣のお佩きになっている大刀は、
本は鋭く、切先は魂あり、
冬木のすがれの下の木のように
さやさやと鳴り渡る。
また吉野のカシの木のほとりに臼を作って、その臼でお酒を...
カシの木の原に横の廣い臼を作り
その臼に釀したお酒、
おいしそうに召し上がりませ、
わたしの父さん。
この歌は、クズどもが土地の産物を獻る時に、常に今でも歌...
文化の渡來
――大陸の文化の渡來した記憶がまとめて語られる。多くは朝鮮...
この御世に、海部・山部・山守部・伊勢部をお定めになりま...
また百濟の國王照古王が牡馬一疋・牝馬一疋をアチキシに付...
ススコリの釀したお酒にわたしは醉いましたよ。
平和なお酒、樂しいお酒にわたしは醉いましたよ。
かようにお歌いになっておいでになった時に、御杖で大坂の...
オホヤマモリのみこととウヂの若郎子
――オホヤマモリのみことを始祖と稱する山部の人々の傳えた物...
かくして天皇がお崩れになってから、オホサザキのみことは...
流れの早い宇治川の渡場に
棹を取るに早い人はわたしのなかまに來てくれ。
そこで河の邊に隱れた兵士が、あちこちから一時に起って矢...
流れの早い宇治川の渡場に
渡場に立っている梓弓とマユミの木、
切ろうと心には思うが
取ろうと心には思うが、
本の方では君を思い出し
末の方では妻を思い出し
いらだたしく其處で思い出し
かわいそうに其處で思い出し、
切らないで來た梓弓とマユミの木。
そのオホヤマモリのみことの屍體をば奈良山に葬りました。...
かくてオホサザキのみこととウヂの若郎子とお二方、おのお...
天の日矛
――異類婚姻説話の一つ、朝鮮系統のものである。終りに出石神...
また新羅の國王の子の天の日矛という者がありました。この...
その伺っていた賤の男がその玉を乞い取って、常に包んで腰...
そこで天の日矛がその妻の逃げたことを聞いて、追い渡って...
この天の日矛の持って渡って來た寶物は、玉つ寶という玉の...
秋山の下氷壯夫と春山の霞壯夫
――同じく異類婚姻説話であるが、前の物語に比してずつと日本...
ここに神の女、イヅシ孃子という神がありました。多くの神...
そこでその兄に「わたしはイヅシ孃子を得ました」と言う。...
系譜
――允恭天皇の皇后の出る系譜であり、後に繼體天皇が、この系...
このホムダの天皇の御子のワカノケフタマタの王が、その母...
*** [#v5255495]
古事記 下の卷
一、仁徳天皇
后妃と皇子女
オホサザキのみこと(仁徳天皇)、難波の高津の宮においで...
聖の御世
――撫民厚生の御事蹟を取りあつめている。聖の御世というのは...
この御世に大陸から來た秦人を使って、茨田の堤、茨田の御...
或る時、天皇、高山にお登りになって、四方を御覽になって...
吉備の黒日賣
――吉備氏の榮えるに至った由來の物語。――
皇后石の姫のみことは非常に嫉妬なさいました。それで天皇...
沖の方には小舟が續いている。
あれは愛しのあの子が
國へ歸るのだ。
皇后樣はこの歌をお聞きになって非常にお怒りになって、船...
ここに天皇は黒姫をお慕い遊ばされて、皇后樣に欺って、淡...
海の照り輝く難波の埼から
立ち出でて國々を見やれば、
アハ島やオノゴロ島
アヂマサの島も見える。
サケツ島も見える。
そこでその島から傳って吉備の國においでになりました。そ...
山の畑に蒔いた青菜も
吉備の人と一緒に摘むと
樂しいことだな。
天皇が京に上っておいでになります時に、黒姫の獻った歌は、
大和の方へ西風が吹き上げて
雲が離れるように離れていても
忘れは致しません。
また、
大和の方へ行くのは誰方樣でしよう。
地の下の水のように、心の底で物思いをして
行くのは誰方樣でしよう。
皇后石の姫のみこと
――靜歌の歌い返しと稱する歌曲にまつわる物語。それに鳥山の...
これより後に皇后樣が御宴をお開きになろうとして、柏の葉...
そこで皇后樣が非常に恨み、お怒りになって、御船に載せた...
山また山の山城川を
上流へとわたしが溯れば、
河のほとりに生い立っているサシブの木、
そのサシブの木の
その下に生い立っている
葉の廣い椿の大樹、
その椿の花のように輝いており
その椿の葉のように廣らかにおいでになる
わが陛下です。
それから山城から※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)って、奈良...
山また山の山城川を
御殿の方へとわたしが溯れば、
うるわしの奈良山を過ぎ
青山の圍んでいる大和を過ぎ
わたしの見たいと思う處は、
葛城の高臺の御殿、
故郷の家のあたりです。
かように歌ってお還りになって、しばらく筒木の韓人のヌリ...
山城に追い附け、トリヤマよ。
追い附け、追い附け。最愛の我が妻に追い附いて逢えるだろう。
續いて丸邇の臣クチコを遣して、御歌をお送りになりました。
ミモロ山の高臺にある
オホヰコの原。
その名のような大豚の腹にある
向き合っている臟腑、せめて心だけなりと
思わないで居られようか。
またお歌い遊ばされました御歌、
山また山の山城の女が
木の柄のついた鍬で掘った大根、
その眞白な白い腕を
交わさずに來たなら、知らないとも云えようが。
このクチコの臣がこの御歌を申すおりしも雨が非常に降って...
山城の筒木の宮で
申し上げている兄上を見ると、
涙ぐまれて參ります。
そこで皇后樣がそのわけをお尋ねになる時に、「あれはわた...
そこでクチコの臣、その妹のクチ姫、またヌリノミが三人し...
山また山の山城の女が
木の柄のついた鍬で掘った大根、
そのようにざわざわとあなたが云うので、
見渡される樹の茂みのように
賑やかにやって來たのです。
この天皇と皇后樣とお歌いになった六首の歌は、靜歌の歌い...
ヤタの若郎女
――八田部の人々の傳承であろう。――
天皇、ヤタの若郎女をお慕いになって歌をお遣しになりまし...
ヤタの一本菅は、
子を持たずに荒れてしまうだろうが、
惜しい菅原だ。
言葉でこそ菅原というが、
惜しい清らかな女だ。
ヤタの若郎女のお返しの御歌は、
八田の一本菅はひとりで居りましても、
陛下が良いと仰せになるなら、ひとりでおりましても。
ハヤブサワケの王とメトリの王
――もと鳥のハヤブサとサザキとが女鳥を爭う形で、劇的に構成...
また天皇は、弟のハヤブサワケの王を媒人としてメトリの王...
メトリの女王の織っていらつしやる機は、
誰の料でしようかね。
メトリの王の御返事の歌、
大空高く飛ぶハヤブサワケの王のお羽織の料です。
それで天皇はその心を御承知になって、宮にお還りになりま...
雲雀は天に飛び翔ります。
大空高く飛ぶハヤブサワケの王樣、
サザキをお取り遊ばせ。
天皇はこの歌をお聞きになって、兵士を遣わしてお殺しにな...
梯子を立てたような、クラハシ山が嶮しいので、
岩に取り附きかねて、わたしの手をお取りになる。
また、
梯子を立てたようなクラハシ山は嶮しいけれど、
わが妻と登れば嶮しいとも思いません。
それから逃げて、宇陀のソニという處に行き到りました時に...
その時に將軍山部の大楯が、メトリの王の御手に纏いておい...
雁の卵
――御世の榮えを祝う歌曲。――
また或る時、天皇が御宴をお開きになろうとして、姫島にお...
わが大臣よ、
あなたは世にも長壽の人だ。
この日本の國に
雁が子を生んだのを聞いたことがあるか。
ここにタケシウチの宿禰は歌をもって語りました。
高く光り輝く日の御子樣、
よくこそお尋ねくださいました。
まことにもお尋ねくださいました。
わたくしこそはこの世の長壽の人間ですが、
この日本の國に
雁が子を生んだとはまだ聞いておりません。
かように申して、お琴を戴いて續けて歌いました。
陛下が初めてお聞き遊ばしますために
雁は子を生むのでございましよう。
これは壽歌の片歌です。
枯野という船
――琴の歌。――
この御世にウキ河の西の方に高い樹がありました。その樹の...
船のカラノで鹽を燒いて、
その餘りを琴に作って、
彈きなせば、鳴るユラの海峽の
海中の岩に觸れて立っている
海の木のようにさやさやと鳴り響く。
と歌いました。これは靜歌の歌い返しです。
この天皇は御年八十三歳、丁卯の年の八月十五日にお隱れな...
二、履中天皇・反正天皇
履中天皇とスミノエノナカツ王
――大和の漢氏、多治比部などの傳承の物語。――
御子のイザホワケの王(履中天皇)、大和のイハレの若櫻の...
はじめ難波の宮においでになった時に、大嘗の祭を遊ばされ...
タヂヒ野で寢ようと知ったなら
屏風をも持って來たものを。
寢ようと知ったなら。
ハニフ坂においでになって、難波の宮を遠望なさいましたと...
ハニフ坂にわたしが立って見れば、
盛んに燃える家々は
妻が家のあたりだ。
かくて二上山の大坂の山口においでになりました時に、一人...
大坂で逢った孃子。
道を問えば眞直にとはいわないで
當麻路を教えた。
それから上っておいでになって、石の上の神宮においで遊ば...
ここに皇弟ミヅハワケのみことが天皇の御許においでになり...
ここにおいて、天皇がアチの直を大藏の役人になされ、また...
反正天皇
弟のミヅハワケのみこと(反正天皇)、河内の多治比の柴垣...
天皇はワニのコゴトの臣の女のツノの郎女と結婚してお生み...
三、允恭天皇
后妃と皇子女
弟のヲアサヅマワクゴノスクネの王(允恭天皇)、大和の遠...
八十伴の緒の氏姓
――氏はその家の稱號であり、姓はその家の階級、種別であって...
初め天皇、帝位にお即きになろうとしました時に御辭退遊ば...
ここに天皇が天下の氏々の人々の、氏姓の誤っているのをお...
木梨の輕の太子
――幾章かの歌曲によって構成されている物語。輕部などの傳承...
天皇がお隱れになってから後に、キナシノカルの太子が帝位...
山田を作って、
山が高いので地の下に樋を通わせ、
そのように心の中でわたしの問い寄る妻、
心の中でわたしの泣いている妻を、
昨夜こそは我が手に入れたのだ。
これは志良宜歌です。また、
笹の葉に霰が音を立てる。
そのようにしつかりと共に寢た上は、
よしや君は別れても。
いとしの妻と寢たならば、
刈り取った薦草のように亂れるなら亂れてもよい。
寢てからはどうともなれ。
これは夷振の上歌です。
そこで官吏を始めとして天下の人たち、カルの太子に背いて...
大前小前宿禰の家の門のかげに
お立ち寄りなさい。
雨をやませて行きましよう。
ここにその大前小前の宿禰が、手を擧げ膝を打って舞い奏で...
宮人の足に附けた小鈴が
落ちてしまったと騷いでおります。
里人もそんなに騷がないでください。
この歌は宮人曲です。かように歌いながらやって來て申しま...
空飛ぶ雁、そのカルのお孃さん。
あんまり泣くと人が氣づくでしよう。
それでハサの山の鳩のように
忍び泣きに泣いています。
また歌われた歌は、
空飛ぶ雁、そのカルのお孃さん、
しつかりと寄って寢ていらつしやい
カルのお孃さん。
かくてそのカルの太子を伊豫の國の温泉に流しました。その...
空を飛ぶ鳥も使です。
鶴の聲が聞えるおりは、
わたしの事をお尋ねなさい。
この三首の歌は天田振です。また歌われた歌は、
わたしを島に放逐したら
船の片隅に乘って歸って來よう。
わたしの座席はしつかりと護っていてくれ。
言葉でこそ座席とはいうのだが、
わたしの妻を護っていてくれというのだ。
この歌は夷振の片下です。その時に衣通しの王が歌を獻りま...
夏の草は萎えます。そのあいねの濱の
蠣の貝殼に足をお蹈みなさいますな。
夜が明けてからいらつしやい。
後に戀しさに堪えかねて追っておいでになってお歌いになり...
おいで遊ばしてから日數が多くなりました。
ニワトコの木のように、お迎えに參りましよう。
お待ちしてはおりますまい。
かくて追っておいでになりました時に、太子がお待ちになっ...
隱れ國の泊瀬の山の
大きい高みには旗をおし立て
小さい高みには旗をおし立て、
おおよそにあなたの思い定めている
心盡しの妻こそは、ああ。
あの槻弓のように伏すにしても
梓の弓のように立つにしても
後も出會う心盡しの妻は、ああ。
またお歌い遊ばされた歌は、
隱れ國の泊瀬の川の
上流の瀬には清らかな柱を立て
下流の瀬にはりつぱな柱を立て、
清らかな柱には鏡を懸け
りつぱな柱には玉を懸け、
玉のようにわたしの思っている女、
鏡のようにわたしの思っている妻、
その人がいると言うのなら
家にも行きましよう、故郷をも慕いましよう。
かように歌って、ともにお隱れになりました。それでこの二...
四、安康天皇
マヨワの王の變
御子のアナホの御子(安康天皇)、石の上の穴穗の宮におい...
それから後に、天皇が神を祭って晝お寢みになりました。こ...
ここにオホハツセの王は、その時少年でおいでになりました...
また軍を起してツブラオホミの家をお圍みになりました。そ...
イチノベノオシハの王
――播磨の國のシジムの家に隱れていた二少年が見出されて、遂...
それから後に、近江の佐々紀の山の君の祖先のカラフクロが...
五、雄略天皇
后妃と皇子女
オホハツセノワカタケのみこと(雄略天皇)、大和の長谷の...
ワカクサカベの王
――以下、多くは歌を中心とした短篇の物語が、この天皇の御事...
初め皇后樣が河内の日下においでになった時に、天皇が日下...
この日下部の山と
向うの平群の山との
あちこちの山のあいだに
繁っている廣葉のりつぱなカシの樹、
その樹の根もとには繁った竹が生え、
末の方にはしつかりした竹が生え、
その繁った竹のように繁くも寢ず
しつかりした竹のようにしかとも寢ず
後にも寢ようと思う心づくしの妻は、ああ。
この歌をその姫の許に持たせてお遣りになりました。
引田部の赤猪子
――三輪山のほとりで語り傳えられた物語。――
また或る時、三輪河にお遊びにおいでになりました時に、河...
御諸山の御神木のカシの樹のもと、
そのカシのもとのように憚られるなあ、
カシ原のお孃さん。
またお歌いになりました御歌は、
引田の若い栗の木の原のように
若いうちに結婚したらよかった。
年を取ってしまったなあ。
かくて赤猪子の泣く涙に、著ておりました赤く染めた袖がす...
御諸山に玉垣を築いて、
築き殘して誰に頼みましよう。
お社の神主さん。
また歌いました歌、
日下江の入江に蓮が生えています。
その蓮の花のような若盛りの方は
うらやましいことでございます。
そこでその老女に物を澤山に賜わって、お歸しになりました...
吉野の宮
――吉野での物語二篇。――
天皇が吉野の宮においでになりました時に、吉野川のほとり...
椅子にいる神樣が御手ずから
彈かれる琴に舞を舞う女は
永久にいてほしいことだな。
それから吉野のアキヅ野においでになって獵をなさいます時...
吉野のヲムロが嶽に
猪がいると
陛下に申し上げたのは誰か。
天下を知ろしめす天皇は
猪を待つと椅子に御座遊ばされ
白い織物のお袖で裝うておられる
御手の肉に虻が取りつき
その虻を蜻蛉がはやく食い、
かようにして名を持とうと、
この大和の國を
蜻蛉島というのだ。
その時からして、その野をアキヅ野というのです。
葛城山
――葛城山に關する物語二篇。――
また或る時、天皇が葛城山の上にお登りになりました。とこ...
天下を知ろしめす天皇の
お射になりました猪の
手負い猪のくいつくのを恐れて
わたしの逃げ登った
岡の上のハンの木の枝よ。
また或る時、天皇が葛城山に登っておいでになる時に、百官...
春日のヲド姫と三重の采女
――三重の采女の物語を中に插んで前後に春日のヲド姫の物語が...
また天皇、丸邇のサツキの臣の女のヲド姫と結婚をしに春日...
お孃さんの隱れる岡を
じようぶな※(「金+且」、第3水準1-93-12)が澤山あったらよい...
鋤き撥ってしまうものを。
そこでその岡を金※(「金+且」、第3水準1-93-12)の岡と名づ...
また天皇が長谷の槻の大樹の下においでになって御酒宴を遊...
纏向の日代の宮は
朝日の照り渡る宮、
夕日の光のさす宮、
竹の根のみちている宮、
木の根の廣がっている宮です。
多くの土を築き堅めた宮で、
りつぱな材木の檜の御殿です。
その新酒をおあがりになる御殿に生い立っている
一杯に繁った槻の樹の枝は、
上の枝は天を背おっています。
中の枝は東國を背おっています。
下の枝は田舍を背おっています。
その上の枝の枝先の葉は
中の枝に落ちて觸れ合い、
中の枝の枝先の葉は
下の枝に落ちて觸れ合い、
下の枝の枝先の葉は、
衣服を三重に著る、その三重から來た子の
捧げているりつぱな酒盃に
浮いた脂のように落ち漬って、
水音もころころと、
これは誠に恐れ多いことでございます。
尊い日の御子樣。
事の語り傳えはかようでございます。
この歌を獻りましたから、その罪をお赦しになりました。そ...
大和の國のこの高町で
小高くある市の高臺の、
新酒をおあがりになる御殿に生い立っている
廣葉の清らかな椿の樹、
その葉のように廣らかにおいで遊ばされ
その花のように輝いておいで遊ばされる
尊い日の御子樣に
御酒をさしあげなさい。
事の語り傳えはかようでございます。
天皇のお歌いになりました御歌は、
宮廷に仕える人々は、
鶉のように頭巾を懸けて、
鶺鴒のように尾を振り合って
雀のように前に進んでいて
今日もまた酒宴をしているもようだ。
りつぱな宮廷の人々。
事の語り傳えはかようでございます。
この三首の歌は天語歌です。その御酒宴に三重の采女を譽め...
この御酒宴の日に、また春日のヲド姫が御酒を獻りました時...
水のしたたるようなそのお孃さんが、
銚子を持っていらつしやる。
銚子を持つならしつかり持っていらつしやい。
力を入れてしつかりと持っていらつしやい。
銚子を持っていらつしやるお孃さん。
これは宇岐歌です。ここにヲド姫の獻りました歌は、
天下を知ろしめす天皇の
朝戸にはお倚り立ち遊ばされ
夕戸にはお倚り立ち遊ばされる
脇息の下の
板にでもなりたいものです。あなた。
これは志都歌です。
天皇は御年百二十四歳、己巳の年の八月九日にお隱れになり...
六、清寧天皇・顯宗天皇・仁賢天皇
清寧天皇
御子のシラガノオホヤマトネコのみこと(清寧天皇)、大和...
シジムの新築祝い
――前に出たイチノベノオシハの王の物語の續きで山部氏によっ...
ここに山部の連小楯が播磨の國の長官に任命されました時に...
武士であるわが君のお佩きになっている大刀の柄に、赤い模樣...
と述べましたから、小楯が聞いて驚いて座席から落ちころんで...
歌垣
――日本書紀では、武烈天皇の太子時代のこととし、歌も多く相...
そこで天下をお治めなされようとしたほどに、平群の臣の祖...
御殿のちいさい方の出張りは、隅が曲っている。
かく歌って、その歌の末句を乞う時に、ヲケのみことのお歌...
大工が下手だったので隅が曲っているのだ。
シビがまた歌いますには、
王子樣の御心がのんびりしていて、
臣下の幾重にも圍った柴垣に
入り立たずにおられます。
ここに王子がまた歌いますには、
潮の寄る瀬の浪の碎けるところを見れば
遊んでいるシビ魚の傍に
妻が立っているのが見える。
シビがいよいよ怒って歌いますには、
王子樣の作った柴垣は、
節だらけに結び※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)してあって、
切れる柴垣の燒ける柴垣です。
ここに王子がまた歌いますには、
大きい魚の鮪を突く海人よ、
その魚が荒れたら心戀しいだろう。
鮪を突く鮪の臣よ。
かように歌って歌を掛け合い、夜をあかして別れました。翌...
ここでお二方の御子たちが互に天下をお讓りになって、オケ...
顯宗天皇
イザホワケの天皇の御子、イチノベノオシハの王の御子のヲ...
茅草の低い原や小谷を過ぎて
鈴のゆれて鳴る音がする。
置目がやって來るのだな。
ここに置目が「わたくしは大變年をとりましたから本國に歸...
置目よ、あの近江の置目よ、
明日からは山に隱れてしまって
見えなくなるだろうかね。
初め天皇が災難に逢って逃げておいでになった時に、その乾...
天皇、その父君をお殺しになったオホハツセの天皇を深くお...
仁賢天皇
――以下十代は、物語の部分が無く、もつぱら帝紀によっている...
ヲケの王の兄のオホケの王(仁賢天皇)、大和の石の上の廣...
七、武烈天皇以後九代
武烈天皇
ヲハツセノワカサザキのみこと(武烈天皇)、大和の長谷の...
繼體天皇
ホムダの王の五世の孫のヲホドのみこと(繼體天皇)、大和...
安閑天皇
御子のヒロクニオシタケカナヒの王(安閑天皇)、大和の勾...
宣化天皇
弟のタケヲヒロクニオシタテのみこと(宣化天皇)、大和の...
欽明天皇
弟のアメクニオシハルキヒロニハの天皇(欽明天皇)、大和...
敏達天皇
――岡本の宮で天下をお治めになったというのが、古事記中最新...
御子のヌナクラフトタマシキのみこと(敏達天皇)、大和の...
この天皇の御子たち合わせて十七王おいでになった中に、ヒ...
用明天皇
弟のタチバナノトヨヒのみこと(用明天皇)、大和の池の邊...
崇峻天皇
弟のハツセベノワカサザキの天皇(崇峻天皇)、大和の倉椅...
推古天皇
――古事記がここで終っているのは、その材料とした帝紀がここ...
妹のトヨミケカシギヤ姫のみこと(推古天皇)、大和の小治...
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