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歴史学の方法に関連しそうな人たち(Historical)

Historical

歴史学の方法に関係しそうな人たち。

Author: KAWANISHI Yoshihiro
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A
Althusser (ルイ・アルチュセール:Louis ALTHUSSER, 1918-1990)

重層的決定論
マルクス主義で言う「土台」の経済一で上部構造(特にイデオロギー的国家装置)が決定するのではなく、上部構造は複合的重層的に決定するという見方。

イデオロギー的国家装置
公的な国家装置から比較的自立した、教会や学校やメディアなどの装置。

Amino (網野善彦:AMINO Yoshihiko, 1928-2004)

日本人
日本人とは、日本の国制化にある本来多様な人々のことを言うのであり、もともと〈日本人〉なる集団がいて、日本を形したわけではない。

Anderson (ベネディクト・アンダーソン:Benedict Richard O'Gorman ANDERSON, 1936- )

国民/民族の3つのパラドックス
国民/民族(Nation)をめぐる問題には3つのパラドックスを抱えている。

  • 国民の存在は近代国家によって立したものに過ぎないが、ナショナリストの目には古いものに見える。
  • すべての人はどこかの国家に属すのでナショナリティを持つのは普通のことなのに、自分達だけは別の国民性を持つのだと考える。
  • にもかかわらず、ナショナリズムをめぐる議論はまったく深まっていない。

想像の共同体
ナショナリズムに基づく共同性は、歴史的に構築された〈想像の共同体〉に他ならない。

Austin (ジョン・L・オースティン:John Langshaw AUSTIN, 1911-1960)

行為遂行的言(performative)
言語をすることは何らかの行為(約束・命令・警告など)であり、言語は真偽値ではなく、行為の評価の基準である適切性によって判断される。

言語行為論(speech act theory)
すべての言に関わる行為を3つに区分する。

  • 語行為(locutionary act)...語すること。「約束します」と言うこと。
  • 語内行為(illocutionary act)...語によって行う行為。「約束します」と約束すること。
  • 語媒介行為(perlocutionary act)...語を媒介として為される行為。「約束します」ということで手を安心させること。

慣習(convention)
行為遂行的言は慣習的でなければならない。特に語内行為は慣習的でなければ立しない。

【河西コメント】〈慣習〉という用語によって示されるのは、ソシュールの〈言語(ラング)〉に通じるものでもあり、同時にウィトゲンシュタインの〈規則〉に通じるものでもある。〈ラング〉との共通性は、「社会的なもの」である点。違点は、〈ラング〉が個人の内に留まるのに対し、〈慣習〉は互の同意を必要とするという点。〈規則〉との共通性は、互の同意を必要とする点。違点は、ウィトゲンシュタインの〈規則〉がその命名に反して「慣習的」或いは常に変更可能なものである(ことが重要である)のに対し、〈慣習〉はその命名に反して「規則的」或いは変更不可能なものである(オースティンには「変更可能なルール」という概念はない)点。「変更可能なルール」という意味では、むしろ〈慣習〉という語をそのままの意味で使うべきであろう。

B
Bakhtine (ミハエル・バフチン:Mikhail BAKHTINE, 1895-1975)

対話(dialogue)
言語は社会的に組織された人々の間での対話者の互作用の結果、つまり対話者の間においてはじめて立するという考え。

Balibar (エティエンヌ・バリバール:Etienne BALIBAR, 1942- )

ナショナリズム
ナショナリズムという概念は、決して単独では機能せず、常にある連鎖の一環をなしており、さらにその連鎖は市民意識や愛国心、ポピュリズム、民族主義、自民族中心主義、外国人嫌い、排外主義、帝国主義、感情的愛国主義といった様々な造語によって、絶えず豊饒化されている。

ナショナル・アイデンティティ
ナショナル・アイデンティティは常に投影のメカニズムによって駆動されている。「真のナショナルズ(自国民)」の人種的・文化的なアイデンティティなど可視的に求められないものである以上、ユダヤ人、メテク、移民、パキ、原住民、ブラックなどのような「偽のナショナルズ」に関する可視的なイメージや錯覚の表象から、自分たちのアイデンティティを捏造するほかは無いのである。その強迫症的な「ナショナルズ」の人種的な本質に関する詮索は究極的にはナチ的な優生学に行き着いてしまう。

Barraclough (バラクラフ:Geoffrey BARRACLOUGH, 1908- )

世界史
一国史はもはや、科学や技術やマスコミの達によって一体化する世界の実情にそぐわなくなっている。現在は、如何なる事件も如何なる分野も一国の枠の中で収まるものではなく、広域の歴史を記述する必要がある。

Barthes (ロラン・バルト:Roland BARTHES, 1915-1980)

シークエンス分析
物語の構要素(機能体)について、〈核〉と〈触媒〉に分け、分析する。

  • 核...物語の筋
  • 触媒...自然な展開を保証するための埋め草

【河西コメント】このような手法は、まったく「科学的」ではない。単に、分析の為にもとの文章を別の仕方で言い換えるというだけのことである。或いは、自らの解釈をより分かり易く示す為だけに、用意された単なる「記述法」である。もとより、そのことを認識してさえいれば、このようなルールは便利である。

指標
筋には関わらないが、物語の内容にとって重要な情報をもたらすもの。

エクリチュール
伝達の意味内容ではなく、伝達様式そのものに焦点を当てるタイプの言説。科学的な言説(伝達だけを目的とした言説)に対置される文学的言説。

作者の死
伝統的実証主義文学批判における、作者中心の批評を改め、読者中心の批評精神を重視すること。

【河西コメント】もちろん、作者中心が「古い愚かな考え」であり、読者中心が「しいすばらしい考え」であるなどと言ってはならない。このような転回は、「文学批評」という世界だけのものであり、「文学批評」が是で、「文献学」が非である、ということではない。しかしながら、〈意味〉は確かに読者の側が決めることが出来るので、まさにそうであるが故に、〈作品〉を通じては〈作者〉にたどり着くことは出来ない。

Becker (ハワード・ソール・ベッカー:Howard Saul BECKER, 1928- )

ラベリング理論
社会における逸脱行為(犯罪・非行・狂気等)は、人間の性質によって決まるのではなく、逸脱を定義し告する社会と、「逸脱者」のレッテルを貼られた者の互作用によって立する。

Benveniste (エミール・バンヴェニスト:Emile BENVENISTE, 1902-1976)

話行為の主体
人間の主体は話行為の主体のことである。「わたし」は「わたし」という度に、話し手を指示すると同時に、話行為の主体を産出する。かつ、「わたし」という時は、必ず対話者「あなた」がいる。一人称/二人称は、補的な概念である。

ディスクール(discours)/イストワール(histoire)

  • ディスクール...書き手が自らを話者として示すタイプのテクスト
  • イストワール...出来事が自ら語っているような非人称の叙述

遂行的言の一回性
行為遂行的言は、歴史的個人的であり、一回だけ行われる。反復することは無いことが特徴である。

Berlin (アイザリア・バーリン:Isaiah BERLIN, 1909-1997)

ナショナリズム
ナショナリズムとは、普通ならば寛容で平和的であるかもしれない国民意識が火のように燃え上がる状態のことである。それは、通常、傷―何らかの形態の集団的な屈辱―によって惹起されるようである。

Bernheim (エルンスト・ベルンハイム:Ernst BERNHEIM, 1850-1942)

歴史記述の方法
歴史記述の方法には3つある。

  • 物語風歴史(erzahlende Gesch.)...ホメロスのような叙述。
  • 教訓的実用的歴史(lehrhafte od. pragmatische Gesch.)...歴史上の事件から教訓を学び、その時代の政治に役立てようとする。
  • 展的生的歴史(entwickelnde od. genetische Gesch.)...人類普遍の歴史法則に基づき、人類展史を記述する。

Binford (ルイス・ビンフォード: Lewis Roberts BINFORD, 1930-)

考古学に関するミドルレンジセオリー

  • 歴史考古学
  • 実験考古学
  • 民族考古学

Bloom (ハロルド・ブルーム:Harold BLOOM, 1930- )

影響理論
複数のテクストの関係を、先行テクストと後続テクストの親子関係として捉え、親→子の家父長的体制において見るのではなく、後続テクスト(子)の反逆的な関係を称揚するライヴァル関係と見る、間テクスト性概念。

Bloomfield (レオナード・ブルームフィールド:Leonard BLOOMFIELD, 1887-1949)

意味の意味
「なんにせよ見かけは重要でない物事が、ヨリ重要な物事と密接な関係にあるとわかったとき、われわれは前者がけっきょく、『意味』("meaning")をもっているという。すなわち、それは後者―ヨリ重要な物事を『意味する』("means")のである。したがって、ことば話は、それ自身は些末で重要では無いが、それが意味("meaning")を有するがゆえに重要であるとわれわれはいう。」ブルームフィールド『言語』(三宅鴻・日野資純訳、大修館書店1971)

【河西コメント】つまり、〈意味〉というものがそこに存在するのではなく、「何か別のものを見出す」というまさにそのことが〈意味〉である。

Bourdieu (ピエール・ブルデュー:Pierre BOURDIEU, 1930-2002)

ハビトゥス
ある個人(行為者)の、階級や集団に特有な知覚、価値観、行動様式などの習慣的体系。合う個人のしゃべり方、仕草、表情、反応、身のこなし方、挨拶の仕方などをひっくるめた諸特徴の総体。

Braudel (フェルナン・ブローデル:Fernand BRAUDEL, 1902-1985)

アナール学派(annales)
歴史の基底にあって変化しない長期持続的なものに注目し、食物、住宅、衣料、ファッション、技術、貨幣、家族などの民衆の日常生活を描き出すことを重視する。

歴史の「時間」
歴史には3種類の時間がある。

  • 地理学的時間...自然条件や主要な交通路などのほとんど変化しない時間
  • 社会的時間...社会制度・文化文明の構造などの緩やかに変化していく時間
  • 個人的時間...軍事的・政治的事件などの短時間で急激に変化していく時間

生活の三層
人々の生活には以下の3層がある。

  • 物質生活...衣食住のような基本的な生存に関わる生活
  • 経済生活...物質生活を基礎とした商業・貿易などの生活
  • 資本主義...19世紀以降展してきた複雑な経済システム

Bremond (クロード・ブレモン:Claude BREMOND, 1929- )

ストーリー構造
ストーリーは、節目ごとの選択(読者によってであれ、作者によってであれ)によって、形作られる。いずれの選択の可能性も開かれているものとして、ストーリーは構造化されている。

Brendal (ヴィゴ・ブレンダル:Viggo BRENDAL, 1887-1942)

論的構造主義
言語の分析に当たって言語の外部の概念を適用し、言語学以外の諸科学に依存することをためらわない立場。

極的形式/中立形式/複合形式/極的複合形式
あらゆるシステムを規定する関係の形式は、

  • ~か…か...極的形式
  • ~でもなく…でもない...中立形式
  • ~でもあり…でもある...複合形式
  • ~でもあり…でもある(どちらかといえば~)...極的複合形式

Burckhardt (ヤーコプ・クリストフ・ブルクハルト:Jacob Christoph BURCKHARDT, 1818-1897)

歴史における3つの力(Potenz)
歴史には以下の3つの力が働く。

  • 国家...政治的要求の表現
  • 宗教...形而上学的要求の表現
  • 文化...とにかく自的に立した全てのものの総体
    国家と宗教は、それぞれ当の国民に普遍的妥当性を要求する。文化は必ずしも普遍的であることはなく、強制的妥当性を要求しない。

C
Carnap (ルードルフ・カルナップ:Rudolf CARNAP, 1891-1970)

論理実証主義
一切の言明を以下の3つに分類する。

  • 経験的言明
  • 分析的言明
  • 擬似的言明
    従来の哲学的問題に対する言明は全て擬似的言明であり、学問としては排除されるべきものである。全ての学問的言明を経験的言明に純化・統一しようとする考え方。

経験的言明
直接検証できるものと間接的に検証できるものがある。直接検証し得ない言明Pは、Pとすでに検証済みの他の諸言明を組み合わせて演繹されてくる言明を直接検証することによってのみ間接的に検証される。

Carr (エドワード・H・カー:Edward Hallett CARR, 1892-1982)

歴史とは
歴史とは歴史家と事実との間の互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。」カー『歴史とは何か』1961(水幾太郎訳、岩波書店1962)

Chartier (ロジェ・シャルチエ:Roger CHARTIER, 1945- )

読書の実践形態(プラチック)
読書という行為は、読者によって、また時代によって、その形態が異なるものである。つまり、極めて「歴史的」な行為である。「読む」という能力に関しても、「識字率」や「書物の所有率」だけで表せるような単純なものでは無い。「読む」ことは可能だが「書く」ことは出来ない者(識字率は、署名によって統計が為される)、「書物」は所有していないが、瓦版や掲示などで、頻繁に「読む」ことを行っている者などである。また、出版社は、その読者層を意識して、それぞれの書物の体裁を用意してきた。これらを或いはテクストを通じて、或いは書物の流通を細かく追うことによって明らかにすることが必要である。

テクストの媒体としての書物
テクストは媒体としての書物がなければ存在し得ない。書物の形式が読者に与える影響は決して少なくない。また、著者が「書く」のはあくまで「テクスト」であり、「書物」を作るのではない。「書物」を作るのは、写字生・植字工・印刷機などである。ここに、「テクスト」の生から「書物」の生へいたる時間的空間的隔たりがあることを忘れてはならない。

Chomsky (ノーム・チョムスキー:Noam CHOMSKY, 1928- )

能力(competence)/運用(performance)
言語共同体の中で使われる文法を表現する能力(言語能力)とその実際の運用(言語運用)とを区別する。

【河西コメント】ソシュールの〈ラング/パロール〉の区別に対応する。ただし、ソシュールの〈ラング〉は、人間の内面にある「社会的なもの」であるのに対して、チョムスキーの〈能力〉は、あくまで人間の生得的な能力である。この違いは、実は大きなものではない。要するに人間が言語を操ることが出来るのは、生得的な能力によるのか、環境からの学習によるのかという議論である。当然、どちらも正しいと言うべきだし、どちらか一方だけによって人間が言語を操るわけではないことは明らかであろう。生文法では、学習の側面に光を当てにくい(より正確には、生文法にとっての「学習」とは子供の側が常に主役であり、「教える」側に目が向けられていない)、という批判があるが、まさにそのとおりである。「学習」の側面に光を当てたのは、ウィトゲンシュタインの〈規則〉であり、まさに彼は「教える」ということによって言語を説明しているのである。ソシュールの〈ラング〉は、そうした側面のいずれも強調せず、とにかく〈ラング〉というものがある、とだけ言っているので、その〈ラング〉が「能力」に基づくのか「学習」に基づくのかは問題にしていない。

文法(generative grammar)
言語獲得に関しては、人間は基本的な文法能力を生まれながらに習得していると考え(普遍文法Universal Grammar)、この普遍文法を基に、音韻・統語規則により変形されて、文法は生されるとする考え。普遍文法には、原理とパラメータがあり、パラメータのとる値によって諸言語の文法が異なるとする。

Xバー理論(X-bar theory)
普遍文法の原理。X'→αXで示され、ある句構造(名詞句など)Xは、その投射X'と、補部あるいは指定部といわれるαを持つという原理。日本語では、「名詞句(窓からの眺め)→後置詞句(窓から)+名詞(眺め)」「動詞句(りんごを食べる)→名詞句(りんご)+動詞(食べる)」「動詞句(駅から歩く)→後置詞句(駅から)+動詞(歩く)」「後置詞句(駅から)→名詞(駅)+後置詞(から)」など。

Collingwood (ロビン・ジョージ・コリングウッド:Robin George COLLINGWOOD, 1889-1943)

歴史とは
歴史というのは、歴史家がその歴史を研究しているところの思想が歴史家の心のうちに再現したものである。」コリングウッド『歴史の観念』1945(カー『歴史とは何か』による)

Croce (ベネデット・クローチェ:Benedetto CROCE, 1866-1952)

歴史とは
「すべて歴史的判断の基礎には実践的要求があるので、すべての歴史は「現代史」という性格を与えられる。なぜなら、叙述される事件が遠く離れた時代のものに見えても、実は、その歴史は現在の要求および状況―その内部に事件がこだましているのである―について語っているのであるから。」B. Croce "History as the Story of Liberty", 1941(カー『歴史とは何か』による)

Culler (ジョナサン・カラー:Jonathan CULLER, 1944- )

アプリケーション(application)
複数のテクストをすり合わせること。比較するのではなく、同一レベルに二つのテクストをおいた時にどのような読みの可能性が生じるかを検証する作業。

D
Dallenbach (リュシェン・デーレンバック:Lucien DALLENBACH)

間テクスト性の審級
間テクスト性は以下の審級が区別されなくてはならない。

  • 一般的な間テクスト性...作者Aのテクストaと作者Bのテクストbの関係
  • 制限的な間テクスト性...同一作者Aのテクストaとテクストbの関係
  • 自己的な間テクスト性...同一作者の同一テクストaとa'の関係

Danto (アーサー・コールマン・ダント:Arthur Coleman DANTO, 1924- )

物語文(narrative sentence)
物語における文章は、少なくとも2つの時間的に離れた出来事を指示し、そのうちの初期の出来事を記述する。この構造は通常行為を記述する全ての文に現れる。

理想的年代記(Ideal Chronicle)
あらゆる経験は、原因と結果、始まりと終わりという時間的に離れた出来事のかかわりによって得られる。(従って、全ての歴史は語り(物語)である。あらゆる価値判断による書き換えを免れない)。もし、客観的事実だけを記述することを理想とすれば、以下のような年代記作者を想定しなくてはならない。「すべての出来事が起こった瞬間にそれを知り、瞬時に書き留めることが出来る」。このようにして書かれた年代記は、歴史の様を呈したものではなくなる。

Darwin (チャールズ・ロバート・ダーウィン:Charles Robert DARWIN, 1809-1882)

自然選択説
どんな生物にも個体差があり、自然環境の中で増えると、生存競争がおこる。この結果、環境に適応したものが生き残る機会を得る。このようにして、環境に応じた個体差(変異)を持つものが残ることによって、生物は進化する。

【河西コメント】むしろ、我々は、「生き残ったもののことを「適応している」と呼ぶ」と言うべきである。

de Man (ポール・ド・マン:Paul DE MAN, 1919-1983)

読みの不可能性
テクストは常に両義的な表現や曖昧な統語構造などのシニフィアンとシニフィエの不一致をはらむ。読者は、読む際に1語1語の意味を順次決定済みとすることで、テクストの意味を固定的一義的なものにしようとするが、テクストの解消不能なアポリア性をかんがみれば、そのような読み方ではなく、矛盾を矛盾として受け入れるような読み方を志向する必要がある。

盲点/洞察
テクストの意味の決定不可能な性質にもかかわらず、読者が一義的な解釈を与えることによって、テクストには光の照らされない盲点が存在することになる。この盲点を意識化することで思いがけない洞察が生まれることになる。逆に鋭い洞察によってたな盲点を生むことにもなる。

Deleuze (ジル・ドゥルーズ:Gilles DELEUZE, 1925-1995)

リゾーム
西洋哲学の基本思想の二分法による樹形図構造に対する概念として、無方向、反系譜的、非序列的構造。

Derrida (ジャック・デリダ:Jacques DERRIDA, 1930-2004)

脱構築(deconstruction)
古代ギリシア以来の西洋哲学が、絶対的な知、理性の存在に疑いを向けることが無く、現前の形而上学にとらわれていると批判し、形而上学的な2項対立、音声中心主義、ロゴス中心主義を解体し、再構築しようという考え。哲学といえどもいかに言語の差延の動きにさらされているかを暴き出すことを目的とする。
脱構築(deconstruction)とは、ある議論に対して、議論の外部の定義を持ち出して反論するのではなく、あくまで議論の内部の定義に基づき、追及し、それがどこで内部的矛盾をきたし、自壊するのかを見届けること。手の土俵で手と同じ切り札を使ってゲームをするようなやり方。

差延(differance)
テクスト内における、テクストそのものからのずれ。違し、遅延すること。言語は常にシニフィアンとシニフィエの不一致を生じていくから、書き手がテクストを書く間にも、テクストそのものからのずれが生じる。
ラングという体系の中における、自身からのずれ。ラングという体系の自己差異化。システムの内部に内在し続けた場合、システムそのものに自己差異化を見出さねば、〈通時態〉は記述できない。そのような差異化の運動、あるいは戯れのこと。

【河西コメント】このような考えは、ソシュールの〈通時態〉概念を無視することによって、或いは〈ラング〉を共同体的なものと誤解することによって生じる。ソシュールにとって〈通時態〉とは、常に〈交通〉の関係で捉えられるべきものであり、そもそもシステムの内部に閉じこもる必要など無い。〈ラング〉とはあくまで〈聴く主体〉という「一つの人間」の内部にあるものであり、〈交通〉つまり他者との関わりによって言語は変化するのである。デリダの〈差延〉は、単にそうしたメカニズムをシステムの内部だけで記述することであり、結局は神秘主義的な形而上学であるし、柄谷行人の批判する「独我論」である。

Donnellan (キース・セドウィック・ドネラン:Keith Sedgwick DONNELLAN, 1931- )

遮断(block)
架空の人物、虚構の登場人物は、固有名の指示の因果連鎖において、必ず連鎖が遮断されることになる。これにより虚構の言述と現実の言述を区別することができる。

E
Eagleton (テリー・イーグルトン:Terry EAGLETON, 1934- )

ポストモダニズム批判
ラカン・フーコー・ドゥルーズ・デリダなどに端をするポストモダニズムは、次第に大衆化され、歪曲・単純化を繰り返した結果、矛盾に満ち、弊害を生むものとなっている。啓蒙主義の否定に始まるポストモダニズムは、対性・懐疑・決定論的諦めを特徴とする。普遍に対して差異を、単一性に対して複数性を、中心に対して辺を、真実に対して虚構を、一論に対して多論を強調し、絶対的に肯定する姿勢は、まさに、2項対立の図式である。また、対性を強調するにもかかわらず、自らの主張のためには、権力・暴力・西洋中心主義の烙印を躊躇なく突きつける。これは、ポストモダニズムを妄信するものの、一論である。

Eco (ウンベルト・エーコ:Umberto ECO, 1932- )

開かれた作品
造形芸術、視覚芸術、音楽などを含む全ての芸術作品は、解釈が読者に開かれた記号の体系である。

Engels (フリードリヒ・エンゲルス:Friedlich ENGELS, 1820-1895)

史的唯物論
物質的生活の生産にあたって人々の間に生産のための人間関係(生産関係)が立するが、これは個人の意思から独立した客観的なものである。生産関係の総体が社会の経済的構造をなし、その上に法律、国家、イデオロギーなどの上部構造が聳え立つ。生産力の展はある段階で生産関係と矛盾するようになり、ここに社会革命の時期が始まる、とする歴史観。

Erikson (エリック・エリクソン:Erik Homburger ERIKSON, 1902- )

8つの達段階と危機
人間の達を以下の段階における危機の問題として捉える。

  • 乳児期(口唇期)...基本的信頼←→不信
  • 早期幼児期(肛門期)...自律性←→恥・疑惑
  • 後期幼児期(男根期・エディプス期)...積極性←→罪悪感
  • 学童期(潜在期)...生産性←→劣等感
  • 青年期...同一性←→同一性拡散
  • 早期人期...親密性←→孤立
  • 人期(壮年期)...生殖性←→停滞
  • 老年期...統合性←→絶望

青年期と自我同一性(Identity)の確立
青年期には、急激な身体達と第二次性徴、知能の達により、自我が目覚め、自分自身を対象として問い直すということが出来るようになっていく。自我同一性とは、自分とは何かという自己定義が出来ている状態を言う。

F
Feuerbach (ルートヴィヒ・フォイエルバッハ:Ludwig Andreas FEUERBACH, 1804-1872)

人間主義
神の本質は「人間」である。神が全能であると言われるのは、実は人間、個々の人間ではなく類としての人間が、全能だからである。神とは人間の本質が外化されたものに他ならない。神学は人間学に解消されるべきであるとする考え。

Fish (スタンリー・フィッシュ:Stanley FISH)

読者反応批評
文学における批評とは、読者の反応を記すことである、とし、テクストに読者がいかに反応しているかを記述する文学批評。読者は、一定の解釈戦略を共有する解釈共同体に属しているとする。

Foerster (ハインツ=フォン・フェルスター:Heinz-von FOERSTER)

固有値(Eigenwert)
システムの諸作動が回帰的ネットワークを形する中で、一時的に安定した状態が達され、それが以後の作動の出点として用いられるようになった状態のこと。

無差別的コード化の命題
ある神経細胞の刺激状態は、強さだけをコード化するのであって、刺戟原因をコード化しはしないというテーゼ。

Foucault (ミシェル・フーコー:Michel FOUCAULT, 1926-1984)

エピステーメ(episteme)
ある時代を支配し、規定している全体的な「知」。

ディスクール(discours)
フーコーのディスクールの概念は、以下の3段階のうちのひとつ。

  • 言表(enonce)...実際に述べられたもの、書かれているもの
  • ディスクール(discours)...言表を生み出す背景
  • ディスクール化の体制(regime discoursif)...ディスクールを生み出す社会的な構造体系

権力と知の共犯関係
「権力は知を産み出す。(それは単に、知が権力に奉仕するが故に権力は知を促進するとか、あるいは、知が有用であるが故に権力は知を援用するということにとどまらない)。権力と知は、直接的にお互いを含んでいる。知の一領野を関的に構することなしに権力関係は存在しないし、同時に、権力諸関係を前提せずかつ構しないような知も、存在しない。」フーコー『監獄の誕生』1975(田村俶訳、潮社1977)

Frege (ゴットロブ・フレーゲ:Gottolob FREGE, 1848-1925)

哲学的論理学
哲学的論理学を形する三つの原理は以下のとおり。

  • 反心理主義...心理的なものを論理的なものから、主観的なものを客観的なものから切り離して考えること。
  • 文脈原理...語の意味を文脈のなかで問い、文脈から切り離して問うてはならないこと。
  • 概念と対象との関係を常に念頭に置くこと。

意味と指示
意味と指示は別のものとし、意味に含まれる要素を3つに分ける。

  • 指示(Bedeutung)...文が指し示すもの。意味とはまったく別のもの。
  • 意義(Sinn)...意味のうち、文の真理値に関わるもの。
  • 潤色(Farbung)...文の真理値には関わりの無い表現の違い。
  • 力(Kraft)...同じ文を主張、命令、疑問などに使い分ける時の違い。

Freud (ジグムント・フロイト:Sigmund FREUD, 1856-1939)

精神分析(psycoanalyse)
患者との対話により、患者の失錯・言い間違い・記憶違い・夢などから、患者の潜在的な領域における無意識の影響を読み取るという療法。

【河西コメント】精神分析を本当に行なうのは、分析者ではなく患者自身である。だからフロイトにとって最初の分析対象は自分自身だった。要するに精神分析とは、患者の内面に入り込んでいくような分析手法などではなく、あくまで患者が自分自身の内面を見るための対話の手法である。

無意識(inconscient)
失錯・言い間違い・変形などを通じて、意識の底にあると考えられるもの。無意識の領域には、それ自体では接近することは出来ず、失錯・変形といった形で表象化されることを通じてのみ近づくことが出来る。

原始言語の反的意味(Gegesinn der Ulwrote)
言語学者K.アーベル(K.Abel)の1884年の著書『原始言語の反的意味』によるという(フロイト「原始言語の反的意味について」1910)。古代の言語には、ひとつの語の中に対立する意味を併せ持つものがあるという説。たとえば、エジプト語kenは「強い」「弱い」の意味を併せ持つ。使用の際には誤解を生じないように、身振りと言葉の調子を変える。文書においては決定詞というそれ自体は音しない絵を書き添える。後代になって「弱い」はkanという別の語に派生した。
フロイトは夢における「対立」の現れ方は、「一致」の場合と同じ扱いを受け、対立する要素がしばしば同じ顕在要素を通じて表現されるとした。

G
Gadamer (ハンス=ゲオルグ・ガダマー:Hans-Georg GADAMER, 1900-2002)

解釈学(Hermoneutik)
経験一般の言語性と歴史性は、人間存在の有限性の所以であるだけでなく、あらゆる理解の理解可能性の条件として機能している。近代啓蒙主義が貶めてきた「伝統」や「先入見」は理解に不可欠の先行構造として復権されなくてはならない。「伝統」「先入見」による「影響作用史」にさらされて初めて理解のプロセスは可能となる。

Geertz (クリフォード・ギアツ:Clifford GEETZ, 1926- )

国家の概念
国家(State)には、本来、3つの意味が含まれている。

  • エステイト(estate)...地位、身分、状態
  • ステイトゥリネス(stateliness)...威厳
  • ステイトクラフト(statecraft)...政治手腕、君臨・支配の技術や仕組み
    近代政治思想上の「国家」は専らステイトクラフトを中心に考えられてきた。つまり、エステイトやステイトゥリネス中心の「国家」像がステイトクラフト中心の「国家」像に移行することが近代化と考えられてきたが、これは、誤った認識である。

劇場国家
3つの国家概念が分かちがたく組み合わさっている国家。

Gellner (エルンスト・ゲルナー:Ernst GELLNER, 1925- )

ナショナリズム
ナショナリズムとは、政治的な単位と民族的な単位が一致しなければならないと主張する政治的原理である。

Genette (ジェラルド・ジュネット:Gerard GENETTE, 1930- )

物語論(ナラトロジー、narratologie)
物語のテクスト分析の際の基本概念。

  • 物語言説(レシ)...テクストそのもの
  • 物語内容(イストワール)...話の内容
  • 物語行為(ナラシオン)...語るという行為
    上記の物語言説と他の二つとの関係を扱う。
    その下位範疇として以下を扱う。
  • 時間...順序・持続(速度)・頻度を扱う範疇
  • 叙法...物語情報の制御の仕方(距離・パースペクティヴ)を扱う範疇
  • 態...語り手に関する問題(語りの時間・語りの水準・語りの人称)を扱う範疇

パランプセスト
書いてある文字を消してたに重ね書きされた羊皮紙。あるテクストに先行するテクストの変形操作のありようを研究する。

  • 上層テクスト(hypertext)...変形を行っている後続テクスト
  • 下層テクスト(hypotext)...変形される先行テクスト

パラテクスト
書物の本文(狭義のテクスト)以外の、テクストの読解に影響を与えうる全てのもの。タイトル、序文、献辞、あとがき、挿絵、作者の雑誌でのインタヴューなどの全て。

Ginzburg (カルロ・ギンズブルグ:Carlo GINZBURG)

ポストモダン歴史学とナチズム
言語派=ポストモダン歴史学の立場を推し進め、歴史史料のテクストの「真実」と「虚構」の対立を解体する試みを推し進めていくと、結果的には、歴史の物語化、美学化を政治的に利用するナチズムと却って親和的なロジックを構してしまう、という批判。

Goux (ジャン=ジョセフ・グー:Jean-Joseph GOUX, 1943- )

象徴秩序の生プロセス
商品の交換プロセスにおける貨幣という一般等価物の存在が、超的第三項として他の交換関係を取り持つ媒介者となるように、他のあらゆる交換システムにおいて、象徴秩序が立するには、超的一般等価物の生が不可欠である。

象徴化能力
現実に存在するありとあらゆる差異・変化の中から、不変のもの・同一のものを取り出す能力。異質なものから同一なものを作り出してしまう能力。

Gramsci (アントニオ・グラムシ:Antonio GRAMSCI, 1891-1937)

ヘゲモニー(hegemony)
日常的な権力が作動する様子。マルクス主義の直線的、一方通行的権力関係ではなく、社会的権力の立過程では、矛盾・対立・共犯などの関係が常に渦巻いている。

Greenblatt (スティーヴン・グリーンブラット:Stephen GREENBLATT)

歴史主義文学批評(new historicism)
歴史的な事象や、政治、経済、哲学、芸術全般などのあらゆる領域のテクストを文学テクストと横並びにし、そこから浮かび上がる共通のパラダイムを浮かび上がらせようとする文学批評。したがって、歴史を一義的に表象するような特権的テクストも、超的な視点から歴史を叙述する特権的分析者も想定し得ないことになる。

Greimas (アルジルダス・ジュリアン・グレマス:Algirdas Julien GREIMAS, 1917-1992)

構造意味論
意味作用は、差異を知覚することに他ならない。差異を知覚するとは、二つの辞項間の関係を捉え、それを何らかの仕方で結びつけることを意味する。二つの辞項の関係は、同一性と差異において現れる。この関係は、辞項の表現(シニフィアン)と内容(シニフィエ)の両方においてなされる。関係の仕方は以下の3つ。

  • 矛盾関係...白と非白の関係。同時に現前できない。
  • 対立関係...白と黒の関係。一方が現前すれば必ず他方も現前する。
  • 含意関係...白と非黒の関係。一方が他方を前提しあう。

行為項分析
プロップ、スーリオの分析を受け、3組の対の行為項を定める。

  • 主体/客体...願望・探索の主体/対象
  • 送り手/受け手...価値の決定者乃至審判者/受益者乃至裁かれる者
  • 補助者/反対者...主体の援助者/敵対者

Grice (ポール・グライス:H. Paul GRICE, 1913-1988)

言語使用における意図
話者は、以下のことを知っている。

  • 話の内容が話者にとって何らかの意味があること。
  • 話の手がその話に何らかの意味があることを了承すること。
  • 手が話の内容を理解すること。

H
Hall (スチュアート・ホール:Stuart HALL, 1932- )

オーディエンス
視聴者。メッセージを主体的に読み、そこから自らの生にかかわる意味を紡ぎ出す。オーディエンス研究は、様々なオーディエンスの行う読みの間の社会的意味をめぐる鬩ぎ合いの場の研究。

エンコーディング(記号化、encoding)/デコーディング(復号化、decoding)
メディアを介してやり取りされるメッセージは、まず話者によって記号化され、受話者によって比較的自立的に復号化される。メッセージの意味は記号化・復号化の工程を経てはじめて創出される。
デコーディングは、自立的に行われるが、各々のデコーディングの果物としての読みは、エンコーディング過程で付与された意図と無関係ではなく、また果物としての読み同士も互いに関して無干渉ではあり得ない。

【河西コメント】こうした読み同士の鬩ぎ合いの関係は、言語そのものを変えていく〈力〉になりうるという点で、ソシュールの〈交通〉、サピアの〈偏流〉、ウィトゲンシュタインの〈規則〉の問題と接している。

オーディエンスの採り得る位置
デコーディングするオーディエンスは、エンコードの意図に対して、以下の位置を採る。

  • 支配的な位置...エンコードの意図とでコードの読みがほぼ一致。
  • 交渉的な位置...エンコードの意図や支配的な読みを大枠で認めつつ独自の読みを部分的に試みる。
  • 対抗的な位置...エンコードの意図や支配的な読みに対立する独自の読みを実践。

Hegel (G・W・F・ヘーゲル:George Wilhelm Friedrich HEGEL, 1770-1831)

弁証法(Dialektik)
物事の対立・矛盾を克服し、統一し、乗りえることによって、より高次の結論に達しようとする考え方。

歴史哲学
絶対的な知の体系の存在を根拠に、人間は歴史の末に絶対的な理性に基づく展過程にいたると考える歴史観。

Hirschberg (ダニエル・S・ハーシュバーグ:Daniel S. HIRSCHBERG)

最長共通部分列(Longest Common Subsequence)
文書比較を行う問題は、2つの文書A,Bの最長共通部分(LCS Longest Common Subsequence)、または最短編集距離(SED Shortest Edit Distance)を求める問題と等価である。つまり、2つの文書の共通部分が最も多くなる場合を取り出し、それによって、類似性を算出する。

Hjelmslev (ルイ・イェルムスレウ:Louis HJELMSLEV, 1899-1965)

内在的構造主義
言語学以外の諸科学(論理学、心理学等)によって提供される諸概念に依拠せずに、もっぱら言語学的観点に基づいて、言語内の形式=関係の観点から言語を研究する立場。

融即的対立関係(opposition participative)
言語を構する対立関係は、プラスとマイナスの二項を生み出すのではなく、明確な項とそれを含みこむ項とを生み出す関係である。

  • A...明確な項(内括項)
  • A + non A...不明確な項(外括項)

Husserl (エドムンド・フッサール:Edmund HUSSERL, 1859-1938)

現象学
人は存在そのものを言い当てることは出来ないが、存在の意味を言い当てることが出来る。哲学の対象は存在そのものではなく存在の意味を対象とすべきだとする立場。

論的自我
意味を読み取る主体のこと。

I
Iser (ウォルフガング・イーザー:Wolfgang ISER, 1926- )

レパートリィ(repertory)
虚構文学において読者が世界を構築する為の諸要素。実話であればそのほとんどははじめから著者と読者が共有しているものであってテクストには現れない。これらの諸要素のうち選択されたものは前景に、それ以外は背景となって読者に映る。

Ishigami (石上英一:ISHIGAMI Eiichi, 1946- )

古代史料テクスト構造
古代史料は、歴史的情報過程を時間順行方向に移動する歴史情報の現実態である。また、歴史情報伝達行動における伝達対象でもある。したがって、たとえば文献史料であれば、歴史現象に基づき原本が生され、写本が派生し、さらに写本から、版本・刊本・複製が生じる。ここから、古代史料テクストの2つの状態を区別できる。

  • テクスト生過程状態
  • テクスト生終了状態

テクスト生過程状態の構造

  • 追記構造...あるテクストに追記を施すことによってたなテクストを生する。単純追記・塊状追記・分散追記がある。
  • 派生構造...同一内容、もしくは変更を加えた内容のたなテクストが派生する構造。

テクスト生終了状態の構造

  • 時間変数
  • 階層・順序変数
  • 真偽値・二項対立値
  • 統「文」構造

【河西コメント】おそらく、生過程状態と生終了状態の区別は、〈共時態〉〈通時態〉の区別に置き換えられる。史料学にとっての史料とは、歴史的なものであるが故に、テクスト自体が常に変更可能であるから、テクスト生に終了ということはない。言い換えれば、分析対象のテクストの静止した構造を観察するのが〈共時態〉であり、そのテクストの生過程を記述するのが〈通時態〉である、と言えるだろう。石上の指摘で重要なのは、〈通時態〉に当たるべき生過程を、テクストの構造中に見出しうるということであり、〈共時態〉に当たるべき生終了状態においても、「時間」が重要な要素である、という点である。

Itagaki (板垣雄三:ITAGAKI Yuzo, 1931- )

n地域
埋め込まれた差別体制の重層構造を拡大的に再生産する力(P)に抵抗して、差別の克服と連帯の獲得をめざす民族運動(Q)が生じ、次にこれへの対応的・対抗的な楔として打ち込まれることになる政治的・イデオロギー的組織化としての民族主義(R)がQと拮抗することにより、P×R対Qという抗争が展開する場のこと。一小村落或いはより小規模の地域(論理上、最小の地域は個人)から、大きくとれば人類的・地球大的規模の地域までをn地域としてとりうる。

J
Jackendoff (ジャッケンドフ:Ray S. JACKENDOFF)

概念構造(conceptual structure)
言語構造を音韻構造、統語構造、概念構造に分ける。このうち、音韻構造はヤコブソンにより、統語構造はチョムスキーにより理論化されている。概念構造はいくつかの原子語(primitive)を持つ。

  • 概念範疇(物体・場所・経路・行為・出来事・方法・量など)
  • 関数(BE関数・GO関数・CAUSE関数など)
    これらを組み合わせることによって文の意味を表示する。
    例) あそこにカメラがある。
    [stateBE([thingCAMERA],[placeTHERE])]
    大文字は個別言語ではなく意味概念を表す。BE(α,β)は、関数。「αはβにある」を示す。
    小文字は概念範疇を表す。

【河西コメント】これは、単に別の言語を作しているだけである。

Jakobson (ロマン・ヤコブソン:Roman JAKOBSON, 1896-1982)

言語活動の六機能
言語コミュニケーションを構する6つの要素と、そのうちのどれを強調するかによる6つの機能のモデル。

  • 信者...心情的機能
  • コンテクスト...指示機能
  • メッセージ...詩的機能
  • 接触...交話的機能
  • コード...メタ言語的機能
  • 受信者...動能的機能

James (ウィリアム・ジェイムズ:William JAMES, 1842-1910)

プラグマティズム(pragmatism)
真理は、人間の意識経験、認識を超えたところに厳然と存在するのではなく、人間の実生活をよく導き、実りある豊かな効果をもたらすものこそが真理であるとする考え。

Jauss (ハンス・ルーベルト・ヤウス:Hans Robert JAUSS)

受容理論
文学研究における読者の役割を重視し、作品はそれ自体で立するのではなく、読者の読みによってはじめて姿を現すものであるとする。

  • 作者の時代
  • 作品の時代
  • 読者の時代

Johnson (バーバラ・ジョンソン:Barbara JOHNSON, 1947- )

批評的差異(critical difference)
テクストの内的差異。

Jung (カール・グスタフ・ユング:Carl Gustav JUNG, 1875-1961)

型(archetype)
人間の無意識の中には、人間に共通の様(普遍的無意識)が複数存在する。神話やおとぎ話に反映されていることがあるとする。

  • 影(shadow)...その個人にとって生きられなかった半面。個人が受容しがたいものと思っている心的内容。
  • 太母(グレートマザー)...慈しみ、呑込む。産み出して死に還すような存在。
  • アニマ/アニムス...男性が持つ女性像がアニマ、女性が持つ男性像がアニムス
  • 仮面(ペルソナ)...社会的役割。
  • 自己(self)...意識と無意識を含みこんだ心の全体
  • 老賢者
  • トリックスター

【河西コメント】普遍的無意識という概念は、人間そのものの共通性というよりは、多数の人間を分析してきた分析者の側で見出される共通性のことであり、無意味であるとは言わないまでも、絶対的なものと見なすべきではない。

K
Kabashima (樺島忠夫:KABASHIMA Tadao, 1927- )

樺島の法則
素材テクストの延べ語数の品詞構比率を名詞(N)の比率を基準にして、その比率の小さいものから大きいものへと並べると、その他の品詞構比率は一定の分布の傾向を示す。つまり、ある素材テクストの名詞の比率がわかれば、他の品詞の比率は以下の近似式で算出できる。

  • 形容詞(M)の比率...M=45.67-0.60N
  • 接続詞(I)の比率...logI=11.67-6.56logN
  • 動詞(V)の比率...V=100-(N+M+I)

Karatani (柄谷行人:KARATANI Kojin, 1941- )

教える立場
ソシュール以来の言語学が寄って立つ立場は「話す立場」のようではあるが、実際は、「聴く立場」である。なぜなら、「話す」という行為自体に「聴く」行為が含まれており、実質は自分の話す声を聴く立場である。これに対して「教える立場」は、そうではなく、意味の了承を行うことができない「他者」を前提とする立場である。

Kripke (ソール・A・クリプキ:Saul Aaron KRIPKE, 1940- )

指示の因果説(causal theory of reference)
固有名の指示内容は、最初の命名儀式から現在まで連なる因果連鎖の結果である。固有名の使用者は、その知識如何に関わらず、因果連鎖の存在に支えられて、直接に当の対象を指示する。

Krippendorff (クラウス・クリッペンドルフ:Klaus KRIPPENDORFF, 1932- )

内容分析
「内容分析とは、データをもとにそこから(それが組み込まれた)文脈に関して再現可能で(replicable)かつ妥当な(valid)推論を行うための一つの調査技法である。」
歴史家もまた決して単なる資料の収集家にとどまるものではない。彼らの関心を引くのは、利用可能なテクストによって、過去の出来事を象徴的に再構する試みである。(中略)しかし、人はとくに歴史家のことを考えて手紙や本、遺品その他の記録を保存しているわけではないから、解答はどうしても間接的方法によって見出されなければならない。(中略)したがって、彼らが常に、資料を適切な歴史的文脈の中に位置づけることを要求するのは当然である。一度この文脈の素描が完すると、数多くの情報は切れはしからの推論によって、細部の隙間も埋めることができる。歴史家のとる方法は、次々と関係の網の目をつくりだすことによって、最初に提起した問題の解決を図ろうとするものである。観察できない領域において次第に確実性が増していくのは、まさしく推論による過程であり、内容分析の場合と同様である。」クリッペンドルフ『メッセージ分析の技法』1980(三上俊治、椎野信雄、橋良明訳、勁草書房1989)

Kristeva (ジュリア・クリステヴァ:Julia KRISTEVA, 1941- )

意味生分析(semanalyse)
言語活動を行ううえで、言語体系という生産様式に則ってテクストは日常的に生産される。この「生産されたもの」と「生産活動」を以下のように位置づける。

  • フェノ=テクスト...現象としてのテクスト、表層テクスト
  • ジェノ=テクスト...生としてのテクスト。テクストの生過程そのもの

ル・セミオティック
ル・サンボリック(→ラカン)のなかに噴出してくる「掻き乱すもの」「言葉に表現されえないもの」。欲動的でさまざまな言語活動上の変形を行う。

間テクスト性(intertextualite)、転位(transposition)
目の前のテクストとは別のテクストの存在によって、はじめてそのテクストが機能すること。
「あらゆるテクストは引用のモザイクとして構築されている。テクストはすべて、もうひとつの別なテクストを吸収、変形したものである。」クリステヴァ『記号の解体学―セメイオチケ1』1969(原田邦夫訳、せりか書房1983)

【河西コメント】クリステヴァの〈間テクスト性〉という用語は、あくまで〈聴く主体〉における〈意味〉の変形の場を言うためのものであり、物質的な意味でのテクスト(書物)に、このような作用があるわけではない。別のテクストの吸収、変形は、テクストなるものの内部で起っているのではなく、あくまで〈聴く主体〉の内面で起っている。ただ、クリステヴァの用語では、〈テクスト〉そのものが、〈聴く主体〉の内面にあるものであり、必ずしも物質的な書物や文字の集まりのようなもののことではない。要するにクリステヴァは、常に〈聴く主体〉の内面に留まり続けることで、意味生を分析しているのである。

L
Lacan (ジャック・ラカン:Jacques LACAN, 1901-1981)

テクストの無意識
精神分析において無意識を読むことが出来るのは、患者の話を聞いている時だけである。患者の話に巻き込まれることによってはじめて無意識を読むことが出来る。読むという行為は、読み手が読むというだけではなく、読まれる、すなわちテクストの世界に巻き込まれることである。

想像界(リマジネール、l'imaginele)/象徴界(ル・サンボリック、le symbolique)
精神の表象世界を以下のように分ける。

  • 想像界...類同原理に支配された、鏡像段階の無意識構造
  • 象徴界...エディプス・コンプレックスの完と言語の獲得後の言語的な無意識構造

Langlois & Seingobos (ラングロア & セニョボス :Charles Victor LANGLOIS, 1863-1929 & Charles SEINGOBOS, 1854-1942)

歴史と史料
歴史は史料で作られる。史料とは、むかしの人間が残した思想や行動の跡である。…史料がなければ歴史はない、ということである。」ラングロアとセニョボス『歴史学研究入門』(八本木浄訳、校倉書房1989)

Lejeune (フィリップ・ルジュンヌ:Philippe LEJEUNE, 1938- )

自伝契約
自伝というジャンルをり立たせている文学的慣習。

Levi-Strauss (クロード・レヴィ=ストロース:Claude LEVI-STRAUSS, 1908- )

構造人類
民族の風習・伝承を個別的な特徴によって記述するのではなく、表装の現象を組織化する潜在的な内部構造を抽出する手法。

Levinas (エマニュエル・レヴィナス:Emmanuel LEVINAS, 1906-1996)

他者性(l'alterite)
「コミュニケーションに挫折という文字が、あるいは非本来性という文字が刻印されているのは、コミュニケーションを融合として追求しているからである。二性は統一性ないし単一性に転じるはずであり、社会的関係は合一を持って完する、という考えが出点となっているのだ。」
「コミュニケーションの挫折認識の挫折とみなされているのだが、その際、認識の功がまさに他者の隣接性、他者の近さを廃棄してしまうという点は無視されている。」レヴィナス『固有名』(合田正人訳、みすず書房1944)

Levy-Bruhl (リュシェン・レヴィ=ブリュール:Lucien LEVY-BRUHL, 1857-1939)

融即律(loi de participation)
未開人の思考は、文明人の思考とは異質の前論理に支配されており、原始心性の集団表象では、物体と現象はそれ自身でもあり、それ以外でもありえるという融即律に支配されているとする。

Libby (ウィラード・リビー:Willard Frank LIBBY, 1908-1980)

放射性炭素法(14C炭素法)
放射性炭素と呼ばれる炭素(C)の同位体14Cを用い、年代を測定する方法。

Luhmann (ニクラス・ルーマン:Niklas LUHMANN, 1927-1998)

システム/環境
ルーマンにとってシステムとは、常に環境から区別される存在としてそこに存在しているものである。システムそれ自体がそれ自身で定義されるようなものとして存在しているのではなく、あくまで環境と区別される「閉じた体系」のことをシステムという。

複雑性
複雑性とは、〈完全な/選択的な〉関連付けの差異によって定義されるものである。

コミュニケーション
コミュニケーションは、指示可能な客観的対象として存在するものではなく、次の区別の選択性が統一されたものとして定義されるようなものである。

  • 情報(Information)...事実確認的(constative)な側面
  • 伝達(Vermittelung)...行為遂行的(performative)な側面
  • 理解(Verstenhen)...上記の差異を観察すること

M
Maruyama (丸山圭三郎:MARUYAMA Keizaburou, 1933-1993)

『講義』のソシュールと「原資料」のソシュール
ソシュール言語学のバイブルである『一般言語学講義』は、ソシュールがジュネーヴにて行った3回の講義の内容を弟子のバイイとセシュエが学生のノートと、講義メモをもとにまとめたものである。その後、『講義』の「原資料」が見され、ゴデルとエングラーは、これを文献学的に調査し、『講義』のソシュールが必ずしも「原資料」のソシュールを伝えていないことを明らかにした。丸山は「原資料」を分析し、「原資料」のソシュールは構造主義以上の徹底した「反実体論」「関係論」を展開し、文化記号学、人類学をも見据えた思想家である、とする。

Marx (カール・マルクス:Karl MARX, 1818-1883)

価値形態
ある量の商品Aの価値は、ある量の商品Bの使用価値で表示されると言った場合の商品と商品の関係。貨幣形態に先立つ、中心の無い商品の関係。

交通(Verkehr)
「ある地方でえられた生産諸力、ことに諸明が、以後の展に影響を及ぼすかどうかは、もっぱら交通の拡大いかんによる。直接の近隣をえうる交通が、まだまったく存在しないかぎり、どの明も地方ごとにされなくてはならない。」マルクス&エンゲルス『版ドイツ・イデオロギー』(花崎平訳、合同出版1966)

【河西コメント】マルクス、エンゲルスの言う〈交通〉の概念は、ソシュールのそれと結び付けることが出来る。もちろん、ソシュールは経済学の概念を借りてきたのであり、そういう意味で、どちらが起源であるとか、ということは必要の無いことである。

Maturana & Varela (マトゥラーナ & ヴァレラ:Humberto R. MATURANA, 1928- & Francisco J. VARELA, 1945- )

オートポイエーシス
素が構素を産出する産出(変形・破壊)過程のネットワークとして有機的に構されたシステム。このとき構素は、変換と互作用を通じて、自己を産出するプロセス(関係)のネットワークを絶えず生産し実現する。また、ネットワーク(機械)を空間に具体的な単位体として構し、またその空間内において構素は、ネットワークを実現する位的領域を特定することによって自らが存在する。

McLuhan (マーシャル・マクルーハン:Marshall MCLUHAN, 1911-1980)

印刷術
印刷術の普及により、近代人は均質で線条的な理解を強いられるようになった。活字によって、世界は均質な記号によって、均質な空間と理解されるようになったとする。

Merton (ロバート・キング・マートン:Robert King MERTON, 1910-)

ミドルレンジセオリー(middle range theory)
具体的なフィールド調査のデータと高度に抽象的な社会理論とを媒介する領域の理論。

Mill (ジョン・スチュアート・ミル:John Stuart MILL, 1806-1873)

固有名詞
固有名詞は、対象の名に過ぎず、一切の内包をもたない。したがって、固有名詞には「意味」は無い。

Monod (ジャック・モノー:Jacques MONOD, 1910-1976)

生命生の偶然性
地球上に生命が生する可能性は、ほとんどゼロに等しい。しかし、事実として生した。
「〈宇宙〉は生命をはらんでいなかったし、生物圏は人間をはらんではいなかった」(『偶然と必然』渡辺格・村上光彦訳、みすず書房、1972)

Montelius (モンテリウス:Gustaf Oscar Augustin MONTELIUS, 1843-1921)

形式学(typology)
考古学は個々の遺物に認められる属性(attribute)に基づいて纏めた形式(type)によってなされなければならない。

【河西コメント】〈形式/遺物〉の区別は、自然科学における〈種/個体〉の区別に近い。言語学においては〈ラング/パロール〉〈能力/運用〉の区別として意識されているものに近い。文献学においては〈テクスト/書物〉の区別といっても良い。〈形式〉と同じことを構造主義者は〈構造〉と呼ぶだろうし、〈体系=システム〉と呼んでもよい。そもそも〈概念/事象〉を区別することは、理論化にとって不可欠なことである。

Morris (チャールズ・ウィリアム・モリス:Charles William MORRIS, 1901-1979)

言語の記号論的分析
言語とは、以下の3つの規則によって規定される記号媒体の互主観的な集合体である。

  • 統辞論的(syntactical)
  • 意味論的(semantical)
  • 語用論的(pragmatical)

N
Nelson (テッド・ネルソン:Theodor Holm NELSON, 1937- )

ハイパーテクスト
複数のテクストが、順番に関わらず、互にリンクされているようなテクスト形態。ザナドゥと呼ばれる未完のプロダクトで構想されていたシステム。後のWWW(World Wide Web)においてハイパーテクストのシステムは実現される。

Nietzsche (フリードリヒ・ニーチェ:Friedrich NIETZSCHE, 1844-1900)

概念の形
すべての概念は、等しからざるものを等置することによって、生するのである。一枚の木の葉が他の一枚と全く等しいということが決してないのが確実であるように、木の葉という概念が、木の葉の個性的な差異性を任意に脱落させ、種々の違点を忘却することによって形されたものであることは、確実なのであって、このようにして今やその概念は、現実のさまざまな木の葉のほかに自然のうちには「木の葉」そのものとでも言い得るような何かが存在するかのような観念を呼びおこすのである。
(フリードリヒ・ニーチェ「哲学者に関する著作のための準備草案」(遺稿)渡辺二郎訳[『哲学者の書』ニーチェ全集3、ちくま学芸文庫、一九九四年、三百五十二~三百五十三ページ])

文献学批判
文献学は教育施設(ギムナジウム)の最高権威として存在しており、古典を「正しく」読むことの学問である。根本は読み書きの授業なので、正しさとはその時代の価値観における正しさであり、古典をその時代の価値観で読むということに他ならない。文献学に必要なのは、古典から古き別の価値観を見出し、その価値観で現在を見ることである。

Noe (野家啓一:NOE Keiichi, 1949- )

物語行為論
口承伝承としての、物語るという行為は、すでに特定の作者が存在しない状態であり、「作者の死」「話者の死」を前提とする。すでに「起源」は失われており、また「語る」行為によってテクストの同一化が図られないが「テロス(作品の完)」は存在しない。従って、物語るとは「話行為」「(小説などの)文学作品」とのいずれとも異なる行為である。

O
Oguma (小熊英二:OGUMA Eiji, 1962-)

単一民族神話の起源
日本民族が単一民族である、という想は、戦後になってから定着した。戦前は、混合民族説のほうが主流だった。混合民族説は、国体思想と共に、戦前の日本の拡大思想を跡付けた。戦前と戦後の思想は、その根底にある「他者への忌避」という点においては、変わるところは無い。

Ohno (大野:OHNO Susumu, 1919- )

大野の法則
素材テクストの異なり語数の品詞構比率の法則。
任意の三作品甲乙丙の各語彙について、名詞の構比をそれぞれX0、x、X1とし、それ以外のしかるべき品詞の構比をY0、y、Y1とすれば、以下の関係が近似的にり立つ。

  • (y-Y0)/(Y1-Y0)=(x-X0)/(X1-X0)

P
Peirce (チャールズ・サンダース・パース:Charles Sanders PEIRCE, 1839-1914)

記号
記号Xと指示される対象Yとのあり方により記号を3つに分類する。

  • アイコン(icon)...ある点において対象と類似するもの。
  • インデックス(index)...対象を直接的物理的に表す様式。
  • シンボル(symbol)...対象と慣習的に結びつくもの。

Pickering (ピッカリング:M. PICKERING)

分析者の再帰的態度
知的言説の物語性・権力性を自覚し、分析者自身の位置を問い直すという自己再帰的な態度を採るということは、文化や社会の連関についての考察が持つ困難に対する出来合いの解決策を提供するものではない。たかだか、自らが立てた問い自体を問いにかけるべく促すことで、解釈上の詭弁やイデオロギー的共犯に陥ることを防いでくれるだけである。ポストモダン歴史学や厳格な構築主義、カルチュラルスタディーズが「知的言説の物語性・権力性を自覚し、分析者自身の位置を問い直すという自己再帰的な態度」を態度の問題でなく方法論の問題としたことへの批判。

Prince (ジェラルド・プリンス:Gerald PRINCE)

物語文法
文法を、物語の解釈に応用する考え。

語られる手(narrataire / narratee)
テクストの「語り手」が語るのはテクスト外部の「読み手」だけではなく、テクスト内部の特定のイメージを負った「人たち」でもある。この特定の「語られる手」のこと。テクストの分析により、この「語られる手」をある程度浮き彫りにすることが可能。

Propp (ウラジミール・プロップ:Vladimir PROPP, 1895-1970)

(物語における)機能
物語において登場人物の果たす役割。以下の基本テーゼがある。

  • 昔話の恒常的不変要素は人物たちの機能である。
  • この機能の数は有限(しかも少数)である。
  • 機能の継起順序は常に同一である。
  • あらゆる昔話がその構造の点では1つのタイプに属する。

R
Ranke (レオポルド・フォン・ランケ:Leopold von RANKE, 1795-1886)

歴史主義(歴史実証主義)
人類の精神的な「進歩」は存在せず、各時代において無限に多様な独自性を持つ。従って、ある時代を次の時代の前段階と見ることは出来ないとし、絶対的な価値観によって歴史を見ることを拒否する立場。厳密な史料批判と実証主義を要求し、近代実証主義歴史学の基礎を形作ったが、一方、対主義であり、現実逃避的或いは日和見的との批判を受ける。

Recoeur (ポール・リクール:Paul RECOEUR, 1913- )

物語的理解
物語とは行動のミメーシスであり、筋であり、出来事の組み立てである。出来事の組み立ては物語的論理を形し、人は人間の行為を物語的論理において説明し、理解するような理解のこと。

物語的自己同一性
私とは誰か、という問いに答えることは、すなわち、誕生から死に至る生涯にわたって、同一人物であることを証明するのは、人生を首尾一貫した物語として語ることによってである。このようにして手にする自己同一性のこと。

Riffaterre (ミハエル・リファテール:Michael RIFFATERRE, 1924- )

文体
「語連続のある要素に対して読者の注意を否応なく喚起する浮彫り」リファテール『文体論序説』(福井芳男・宮原信・今井美訳、朝日出版社1978)
テクストにおいて、読者が何らかの刺戟を受ける刺戟因の総称。

原=読者(archi-lectur)
テクストを読み刺戟因をすくい上げる為の道具としての「読者」の総計。文体見の為の道具に過ぎない。これに頼ることによって、以下の誤りを生じる可能性がある。

  • 付け足しによる誤り...過去において規範的だった要素が現在の読者にとって異常な要素として映ってしまう場合
  • 見落としによる誤り...過去において逸脱的だった要素が現在の読者にとって慣用的な文脈に埋没して異常と見なされない場合

非文法性(ungrammaticality)
「原=読者」が順調な思考の流れを断ち切られ、解釈行為が足止めを食わされる箇所にこそ、間テクスト的要素が紛れ込んでいる可能性が高いこと。

Rostow (ウォルト・ホイットマン・ロストウ:Walt Whitman ROSTOW, 1916- )

長経済史学
経済長を基準とし、伝統的社会(traditional society)/過渡的社会(preconditions for take-off)/離陸(take-off)/熟段階(drive to maturity, maturity)/高度大衆消費時代(high mass consumption)という展段階を設定する。離陸の時代において急激に経済は長し、展するという歴史観。

Russell (バートランド・ラッセル:Bertrand RUSSELL, 1872-1970)

表示理論(theory of denoting)
変項xに対し、命題関数C(x)とすると、everything、nothing、somethingという表示句の最も基本的なものは、次のように解釈できる。

  • C(everything)...C(x)は常に真である。...(x)C(x)
  • C(nothing)...「C(x)は偽である」は常に真である。...(x)-C(x)
  • C(something)...「「C(x)は偽である」は常に真である」は偽である。...(∃x)C(x)

記述理論(theory of description)
「チャールズ二世の父は処刑された」を例に取ると、それは以下のように書くことが出来る。

  • xはチャールズ二世を子に持ち、かつ、「もしyがチャールズ二世を子にもつなら、yはxと同一である」はyに関して常に真である、以上のことはxに関して常に偽ではない。
  • (∃x)(Bx & (y)(もしByならy=x) & Ex)...Bxは「xはチャールズ二世をもうけた」を、Exは「xは処刑された」を示す。

論理的原子論
分析の結果、世界のあらゆるものは個人的、刹那的な感覚の束と見なす考え。

S
Said (エドワード・W・サイード:Edward W. SAID, 1935-2004)

オリエンタリズム(orientalism)
東洋についてかかれた西欧のオリエント研究が、西欧の視点から東洋を制御/分析可能な他者である「オリエント」として表象する知の体系。

Sapir (エドワード・サピア:Edward SAPIR, 1884-1939)

偏流(drift)
言語の使用における変化は、個々の主体の意識を超えて、ある一定の方向へ言語や文化を突き動かしていく流れ(偏流)によってなされる。

【河西コメント】ソシュールの言う、〈通時態〉における〈交通〉に近い概念であると考えられる。しかしながら、その「流れ」は、むしろ「後から見出される」と言うべきだろう。要するに、言語の〈意味〉はしたほうではなく受け取ったほうが決めるので、「対話」のうちに話者の意図する〈意味〉と受話者の受け取る〈意味〉とに微妙ながら差異が生じる。この差異がソシュールの言う〈交通〉によって生じる〈力〉であり、これが(多くの場合はすぐに立ち消えてしまうものの)一つの潮流のように言語や文化を動かしていくように見える事態が必ず起る。その流れは、当事者には見えないものであるが、「後から見出すことの出来る」ものである。それがサピアの言う〈偏流(ドリフト)〉であると言えるだろう。

Sartre (ジャン・ポール・サルトル:Jean Paul SARTRE, 1905-1980)

志向性(intentionnalite)
意識は何ものかについての意識であるとする概念。
論的自我(私)が、意識に統一と個性を与えるのではなく、意識が「私」の統一と個性化を与えるとする。

即自存在(etre en soi)/対自存在(etre pour soi)
事物、心像の存在の仕方は以下の2つがある。

  • 即自存在...「私」の自性に関係なくあるがままに惰性的に存在するもの
  • 対自存在...「私の意識」が意識することによってのみ存在できる存在

Sausurre (フェルディナン・ド・ソシュール:Ferdinand de SAUSURRE, 1857-1913)

ラング(langue)/パロール(parole)
言語の社会的な規則、辞書、文法的側面をラングとし、その実際の使用であるパロールと区別する。

【河西コメント】ソシュールのラングは、〈聴く主体〉の中にある「社会的なもの」であって、共同体的なものではない。〈ラング〉は、その言語を話す人すべてが共通で持っているようなものではなく、1人の〈聴く主体〉の内面にあるものなので、当然、同じ言語を話す人の間でも、〈ラング〉には個人差がある。もちろん、それは、当事者同士では認識できないような些細な差異である。この差異によって言語は変化するのだと言っていい。

シニフィアン(signifiant)/シニフィエ(signifie)/シーニュ(signe)
言葉は何かを指し示す為の道具ではなく、言葉自体に表現(シニフィアン=意味するもの)と意味(シニフィエ=意味されるところのもの)があり、両者が不可分な形で結びついたものを記号(シーニュ)とする。

共時態(syncronie)/通時態(diaclonie)
言語学における同時共存の「状態」の静態的研究(=共時態)と時間の中で継起する現象の「変化」の歴史的研究(=通時態)の区別。
「〈共時態〉とは、「語る主体の意識」に問うことによって取りだされる言語(ラング)の静止状態のことで、これは恣意的価値のシステムを構している。恣意的価値のシステムというのは、いいかえれば、否定的な関係体としての記号のシステム、表意的差異(=対立)のシステムということと別ではない。それにたいして、〈通時態〉とは、「語る主体の意識」を逃れ去り、主体の無意識のうちに、時間のなかで生起する出来事の場である。」(立川健二、山田広昭『現代言語論』)

【河西コメント】共時態は、〈語る主体=聴く主体〉の意識の中にあるラングの静止状態。決して「共同体」ではない。通時態はむしろ、ラングの「個体差」による〈交通〉の〈力〉によって変化する事態。

交通(intercourse)
あらゆる人間の集団にはたらく2種類の力がある。

  • 郷土の力(force du clocher)...ある集団の内部で凝縮され、集団の言語や慣習を特殊化していく力。
  • 交通の力(force du l'intercourse)...ある集団と他の集団のかかわりの中で、言語や慣習を均等化する力。

【河西コメント】我々は、この〈力〉を集団だけに限定する必要は無い。当然、「個人」においても働くと見るべきである。いずれの〈力〉も、「個人」間の〈ラング〉の差異によって生するものであり、その現の仕方には、内輪の方向へ「特殊化」していく場合と、より広い範囲へと「均等化」する場合とがある、というのがソシュールの〈交通〉概念であると言える。

Schmidt (ジークフリード・シュミット:Siegfried J. SCHMIDT)

文学現象
文学を広い社会的コミュニケーションとして捉え、以下のようにモデル化する。

  • 文学創作行為...創作活動
  • 文学媒介行為...出版社、書籍流通、取次、図書館など
  • 文学受容行為...読書、観劇、映画鑑賞など
  • 文学加工行為...批評、翻訳、映画化など

Scott (ジョーン・スコット:John SCOTT, 1949- )

フェニミズム歴史

Searle (ジョン・R・サール:John R. SEARLE, 1932- )

語内行為の分類
全ての言説に含まれる行為である語内行為を以下のように分類する。

  • 確言
  • 命令
  • 約束
  • 表出
  • 宣言
    また、これらの行為の立条件として4つの規則がある。
  • 本質規則...行為の本質的なルール。
  • 事前規則...行為の前に立していなければならない条件。
  • 命題内容規則...表現される命題に関する規則。
  • 誠実性規則...行為者に求められる責任、条件。

Serres (ミシェル・セール:Michel SERRES, 1930- )

パラジット
一見するとシステムの淀みない作動を妨げるように見える外的な寄食者=ノイズ(パラジット、parasite)がむしろシステムの作動を支えている。

Slobin (ダン・アイザック・スロービン:Dan Isaac SLOBIN, 1939- )

話す為の思考(thinking for speaking)
話をする為には特別なオンライン的な考え方があり、それは話している個別の言語によって影響される。子供は母語の文法的な特徴に導かれ、自分の考えを言葉にするようになる。人間は個別言語の範囲に出しか話をすることは出来ず、言語は客観的な事実のコーディングシステムではない。

Souriau (エティエンヌ・スーリオ:Etienne SOURIAU, 1892-1979)

(演劇における)機能
演劇における登場人物の機能は以下の6つ。

  • 獅子座...一定の方向を与えられた主題の力
  • 太陽...善乃至価値の代表者
  • 地球...善を潜在的に受けるもの
  • 火星...反対者
  • 天秤座...善の配当者である審判者
  • 月...獅子座の力を強める援助者

Spengler (オズワルド・シュペングラー:Oswald SPENGLER, 1880-1936)

没落
西洋文明を始め、全ての文明は必ず没落するという歴史観。

Sperber & Wilson (スペルベル & ウィルソン:Dan SPERBER, 1942- & Deirdre WILSON, 1941- )

関連性理論(relevance theory)
話解釈は、以下の2段階からなる。

  • 文法(言語能力)による可能な複数個の仮説を形する段階
  • 語用論能力を用い、仮設を評価し、特定の仮説を採用して話しての意図した解釈を同定する段階
    解釈仮説の評価に当たっては、最適な関連性を持つものを採用する。最適な関連性とは、以下の条件を満たすもの。
  • その話が聞き手の注意を惹くのに値する十分な認知的効果を獲得する。
  • その効果を得る為に聞き手に課される処理労力はそれほど大きくない。

【河西コメント】結局、〈意味〉そのものがそこにあるのではなく、このような条件で〈意味〉を見出すのだ、ということである。

Spitzer (レオ・シュピッツァー:Leo SPITZER, 1887-1960)

エティモン
作品の有する全ての要素を類縁付け、説明する共通分母。作品の凝集原理である創作者の精神と見なされるもの。

文献学的円環法(philological circle)
作品の再読吟味により、作品を支配する美的・心理的印象、効果を感じ取り、次に、体系的に検出した言語的特徴が効果の触に関係しているかを確認していく方法。

Spivak (ガヤトリ・C・スピヴァック:Gayatri Chakravorty SPIVAK, 1942- )

認識論の暴力
エスニシティ・人種・女性などの概念は、言説それ自体が西洋・男性中心的に構築されたものであり、そのような概念を創出したそもそもの知の体系についての問いはめ排除されている。したがって、サバルタン(下層農民や労働者、女性、貧民、被差別民などの社会の従属的な立場の人々)の言説を代弁し表象すること自体にすでに権力構造が内在している。

Stevens (スタンリー・スミス・スティーヴンス:Stanley Smith STEVENS, 1906-1973)

数値の尺度

  • 名義尺度(nominal scale)...分類されたカテゴリーに名義的に付与された数値
  • 序数尺度(ordinal scale)...量を比較できる数値の順序を扱う場合
  • 距離尺度(interval scale, equal unit scale)...数値間の間隔に加法性がり立つ場合
  • 比例尺度(ratio scale)...距離尺度である上に、絶対零点を持っている場合

Stirner (マックス・シュティルナー:Max STIRNER, 1806-1856)

階級と諸個人
「彼はキリスト教徒である」「彼は人間である」など、「何」が問題とされる命題では、主語に対してより普遍的な概念が述語の位置に立つが、それでは主語(主体)が何であるかをあるがままに言い尽くすことは出来ない。また、普遍的述語規定を行うのは、社会、他者、国家である。

T
Tatsukawa (立川健二:TATSUKAWA Kenji, 1958- )

誘惑(seduction)
ソシュール以来の言語学は「聴く立場」に立つ議論である。「聴く立場」とは意味を了承する立場である。しかしコミュニケーション、あるいは交通は、対称的な話し手と聞き手の関係ではない。意味を了承するのはあくまで聞き手であって、話し手は意味を読み取ることが出来ない不安に悩まされるのである。交通の非対称な関係を考えれば、言語学は「誘惑する立場」からの研究が必要である。

【河西コメント】立川の興味は、言語の「社会性」よりもむしろ〈聴く主体〉の内部、或いは〈誘惑する主体〉の内部における変化の記述にむけられているように見える。もちろん、それも一つの立場であるが、その場合「独我論」に進み易いという危惧はいだいておく必要があるだろう。

Thomzen (トムゼン:Christian Jugensen THOMZEN, 1788-1865)

三時代法(three age system)
古物を材質によって分類。

  • 石器時代
  • 青銅器時代
  • 鉄器時代

Thorndyke (ソーンダイク:P. W. THORNDYKE)

物語文法
物語理解の際の心的な枠組みとしての物語文法。分構造を生する「統語規則」と意味表現を決定する「意味解釈規則」とに分かれる。

Toyama (外山滋比古:TOYAMA Shigehiko, 1923- )

古典化
作品は作者が作る、と言われるが、作者は古典を作ることは出来ない。古典を作るのは後生である。文学作品は後生からの改変、改修、歪曲、改作を受け容れることによって、古典として生きながらえることが出来る。

Toynbee (アーノルド・ジョゼフ・トインビー:Arnold Joseph TOYNBEE, 1889-1975)

文明
歴史展の基本単位は、国家ではなく文明である。

挑戦と応戦(challenge and response)
文明は生/熟/老衰/衰退の運命をたどる。これらの文明が生き残る為の条件。

Tsuda (津田左右吉:TSUDA Soukichi, 1873-1961)

歴史の矛盾性
歴史家は、二つの矛盾する立場に共に立たなければならない。

  • 史実を現在の事実としてみる立場…あらゆる史実は、その時においては現在の事実であり、あらゆる概念は歴史事実から帰納されなければならない。結果をめ知ることは出来ない。
  • 歴史を過去としてみる立場…現在から振り返って過去を見る立場。結果をめ知っていなければならない。

歴史学における概念の拒否
歴史学において、国家や民族などに対してめ〈概念〉を以って検討を始めるべきではない。そうした〈概念〉は、常に変わっていくものであり、それはあくまで史料から導かねばならない。

【河西コメント】これは主に「マルクス主義」或いは「唯物史観」に向けられた批判である。しかし、こうした〈概念〉の拒否は、実はヴェーバーも言っていることであり、ニーチェが文献学を非難した点でもある。

Turing (アラン・マジスン・チューリング:Alan Mathison TURING, 1912-1954)

チューリング・テスト
もし、人間と機械とに同じように問いかけてみて、人間と機械の回答が区別できないとすれば、その機械は「思考している」と見なしてかまわない。

U
Ueno (上野千鶴子:UENO Chidzuko, 1948- )

ジェンダー・ヒストリー
従来の歴史学に対するジェンダー・ヒストリーのインパクトは以下のとおり。

  • 文書史料中心主義への挑戦...公文書自体が権力によって構された表象である。
  • 学問の客観性、中立性神話への挑戦...客観性とは強者のルールである。
  • オーラル・ヒストリー、口承の歴史証言の方法論的挑戦...文字化されない歴史の、当事者の記憶と語りに留意する。

【河西コメント】この批判は、「修正主義」或いは固定化した三流の文献史学者に向けられたもので、実は、歴史学の方法にとって、ごく当たり前のことである。

V
Valery (ポール・ヴァレリー:Paul VALERY, 1871-1945)

自我の内的差異
「自分に話す、この奇妙で直接的な機能はわれわれの<自我>に対する観念の粗雑さ、心理学的表記の不十分さを証拠立てている。どういう風にして彼は、自分に何かを言えるのか?いったい『自我』とは誰なのか、語り手なのか、聞き手なのか、泉なのか、飲む人なのか。」
「『私が』『私に』話すのである以上、前の『私』は後の『私』が知らないことを知っているということになる。内部状態の差異というものが存在するのである。」P. Valery "Cahiers" I, 1973(立川健二・山田広昭『現代言語理論』による)

van Dijk & Kintsch (ヴァンダイク & キンチ:Teun Adrianus VAN DIJK, 1943- & Walter KINTSCH, 1932- )

文章理解
文章が理解されるまでには以下の3種の表象が構される。

  • 表層的記憶...単語や文の意味についての記憶
  • 命題的記憶...文章全体の展開構造の記憶
  • 状況モデルやメンタルモデルなどの所謂記憶表象

意味表象の構
「言語使用者は文章の産出と理解の双方において、同一の、あるいは類似のレベル・単位・カテゴリー・ルール・方略を用いていないとは考えられない。」T. A. van Dijk & W. Kintsch "Strategies of discourse comprehension", 1983(内田伸子「談話過程」、大津由紀雄編『認知心理学3言語』による)

Vidal-Naquet (ピエール・ヴィダール=ナケ:Pierre VIDAL-NAQUET, 1930- )

歴史と物語
「いっさいが言説を通過せざるをえないということは分かりました。しかし、それをこえたところに、あるいはこれ以前のところに、これには還しえないなにものか、よかれあしかれ、わたしがなおも現実と呼びつづけたいものがあるのでした。この現実がなくては、どのようにしてフィクションと歴史の区別はつけられるのでしょうか。」(ギンズブルグ「ジャスト・ワン・ウィットネス」、フリードランダー編『アウシュヴィッツと表象の限界』、未来社1994所収より)

Vogt (ジョセフ・フォークト:Joseph VOGT, 1895- )

世界史
世界史という分野は20世紀になってから生まれてきたものである。それは、自分たちの小世界が他の世界と並存しているというだけでなく、他の小世界との互関係が自分たちの小世界の運命を決めているという認識が生まれて始めて課題として認識されたものである。

W
Wallerstein (イマニュエル・ウォーラーステイン:Immanuel Maurice WALLERSTEIN, 1930- )

世界システム(world-system)
歴史上存在した世界システムを以下の2つに分類する。

  • 帝国...システム全体が1つに統合されているタイプの世界システム。古代諸帝国や中国歴代王朝など
  • 世界経済(world-economy)...経済的には大規模な分業体制を取っているが、政治的には統合されていないタイプの世界システム。具体的には近代の西欧を中核とした資本主義的なシステム
    世界システムは、このような包括的な概念である。が、ウォラーステインはじめ、諸論者が問題にするのは、近代世界システムとして、「近代の西欧を中核とした資本主義的なシステム」だけを取り上げる。

中核/縁/半
世界経済における経済状況により、地域は以下の3つに区分される。

  • 中核...システムの分業体制により経済余剰の大半を握る。
  • 縁(peripheral)...経済的に中核に従属させられている。
  • 縁...中核と縁の中間。
    ウォラーステイン理論においては、中核から半縁への降下、縁から中核への上昇などの動的な関係が特徴的。

覇権(ヘゲモニー、hegemony)
中核諸国の1国が圧倒的な経済力を有し、他を寄せ付けない状態。17世紀中期のオランダ、19世紀のイギリス、20世紀中期のアメリカ

Watanabe (渡辺仁:WATANABE Hitoshi, 1919- )

考古学者のアプローチ

  • モード1...資料の記載に終わり、その解釈を通じて遺物をめぐる主体の行動の実体と意味を探ることには消極的。
  • モード2...用途や機能という分野への興味はあるが、科学的解釈の方法論をもたないので当て推量か小説的推理になる。
  • モード3...科学的アプローチによる遺物情報の人類学的理論化を目指す。

Weber (マックス・ヴェーバー:Max WEBER, 1864-1920)

理念型(idealtypus)
歴史認識にあたって、一定の視点を持ち、その視点から現実のある要素を一面的に強調することで、仮説的概念を構し、これによって現実を分析する。静的モデルになりやすく、歴史学というよりむしろ社会学的。

White (ヘイドン・ホワイト:Hayden WHITE, 1928- )

歴史のプロット化
歴史を記述する場合、必ず、何らかの価値基準によりプロットされる。

メタヒストリー(meta-history)
歴史の記述は、言語論的転回(20世紀の哲学の対象における事実そのものから言語への転回)後の認識論のなかで、客観的記述が行えると考えるのは間違いである。歴史記述は必ず価値を含んだ、修辞的なものとなる。こうした歴史家たちの言説の修辞性を暴き出すこと。

Whorf (ベンジャミン・リー・ウォーフ:Benjamin Lee WHORF, 1897-1934)

サピア-ウォーフ仮説/言語対性仮説(Sapir-Whorf hypothesis/linguistic relativity hypothesis)
人は言語によって世界を認識し、概念化するため、言語の違いが思考に影響を及ぼすという仮説。心理学的には、ほぼ否定されている。

  • 強い仮説...言語がそのまま思考であるという主張
  • 弱い仮説...言語の性質が思考に影響を及ぼすという主張
    色の再認実験では効果が認められたが、記憶実験の精緻化効果に過ぎないという見方もある。

Wittfogel (カール・アウグスト・ウィットフォーゲル:Karl August WITTFOGEL, 1896-)

水利社会論
灌漑の存否や規模の大小によって社会組織や国家の形態が異なるとする。

Wittgenstein (ルードウィヒ・ウィトゲンシュタイン:Ludwig WITTGENSTEIN, 1889-1951)

言語ゲーム論
多様な「言語と言語の織り込まれた諸活動の総体」として捉える理論。語(表現)の意味を問う代わりに、語(表現)はいかなる時に使用可能(不可能)なのかを問い、その使用の役割・有用性を問う。結果、言語が言語として立するのは、恣意的な社会の規則のゲームであり、しかも、その規則はゲームの最中にも変化していくものだという考え。

【河西コメント】〈規則〉という語が、変更不可能な固定的なものであるという誤解を与えるとすれば、〈慣習〉という語のほうがふさわしいかもしれない。

ウィトゲンシュタインの懐疑論者
始めから〈規則〉なるものが存在したから、コミュニケーションが立したのではなく、コミュニケーションが立した後に、事後的に〈規則〉は見出されるのだという考え。

Y
Yuge (弓削達:YUGE Tooru, 1924- )

存在としての歴史/ロゴスとしての歴史
歴史学を精神的な生産活動と見なし、歴史を以下の二つに区別する。

  • 存在としての歴史...全ての人間の生活の総体。生産の素材。史料。
  • ロゴスとしての歴史...史料を基に人間の歴史を創造したもの。製品。加工されたもの。

Yule (ユール:George Udny YULE, 1871-1951)

K特性値
語彙の豊かさを示す統計値。

Z
Zipf (ジョージ・キングスレイ・ジップ:George Kingsley ZIPF)

ジップの法則
語の使用率分布において、使用度数(f)と度数順位(r)の積は一定(C)であるとする法則。近似はあまりよくない。

Zizek (スラヴォイ・ジジェク:Slavoj ZIZEK)

普遍性
「重要な点は、普遍性を参照するということは、語りそのものにもともと備わっている以上、避けられないということだ。我々が話す瞬間に、一種の普遍的な次が常に関わってくるのだ。そこで、なすべきことは、我々は個別の立場からしか話していないと主張する、あるいはそれを公然と認めることではなく、他ならぬ<普遍>のどうしようもない複数性を認めることなのだ。」ジジェク『仮想化しきれない残余』1996(松浦俊輔訳、青土社1997)