日本の「処理済み汚染水」海洋放出に猛反発する中国の「ヤバすぎる矛盾」

日本の「処理済み汚染水」海洋放出に猛反発する中国の「ヤバすぎる矛盾」…国際世論が知らない「中国の真実」

7/11(火) 7:03配信

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現代ビジネス
来年中にも貯蔵容量が満杯に
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 東京電力・福島第一原子力発電所で発生している処理済みの汚染水を薄めて海に放出する計画について、国際原子力機関(IAEA)が先週火曜日(7月4日)、「国際的な安全基準に合致している」とお墨付きを与える報告書を公表したことを受けて、政府は8月にも海洋放出を開始する方針だ。

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 あの2011年の大事故以来、政府・東京電力がお粗末な対応を繰り返してきたこともあり、各方面から、今なお安全と安心の面から懸念の声が絶えない。

 しかし、処理済み汚染水はストロンチウムやセシウムなどの放射性物質を除去しており、除去できていないのはトリチウムだけである。このトリチウムは自然界にも存在し、基準値以下に濃度を薄めて海に放出することは国際的に認められている。実際に海外の原発でも行われているのだ。

 加えて、IAEAのグロッシ事務局長が「処理水の最後の一滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる」と述べ、政府・東京電力だけでは心許ない海洋放出の監視役を引き受けるとしており、安全と安心の面から信頼できる体制が確立できるとみてよいだろう。

 その一方で、汚染水の原発敷地内での貯蔵は、あの原発事故の処理費用を膨らませて、国民負担を押し上げてきた。しかも、タイムリミットが迫っており、来年中にも貯蔵容量が満杯になるとされている。

 こう考えてくれば、あの大事故が起き、事故処理を進めざるを得ない状況がある以上、海洋放出を容認する以外の選択肢がないのが現実と言わざるを得ない。

 とはいえ、放出開始の前に、今なお、執拗に計画に反対している中国政府ときっちり対話しておくことは必要だろう。政治的な意図をもって日本のクレディビリティ(信頼性)を貶めようとしているのならば姿勢を転じることはないかもしれないが、中国自身が自国の原発でトリチウムを含む排水を海洋放出している事実をきちんと指摘して、この問題の全体像を国際社会に幅広く知ってもらうことが重要ではないだろうか。

 まず、汚染水の処理をおさらいしておくと、政府・東電は、ここまで福島第一原発事故から12年以上にわたって、遅くて拙い対応を繰り返してきた。

安倍政権の対応
 この間、福島第一原発ではあの未曽有の原子力事故の結果、1~3号機の原子炉内にある燃料デブリの冷却に使った汚染水のほか、阿武隈山地の地下水脈から流れ込む大量の地下水の汚染もあり、大量の汚染水の発生が続いたのだ。さらに言えば、東電がタンクからの高濃度汚染水の漏えいを迅速に開示しないなど、いくつかの点で隠ぺいではないかと問題視された事案もあった。

 そして、事故から2年あまりが経過した2013年夏。ようやく、当時の安倍晋三総理は、東電任せにしていた対応を見直して「国として緊張感を持って、しっかりと対応していく必要がある」と方針転換を表明した。ところが、当時の茂木敏充・経済産業大臣(現自民党幹事長)が打ち出した具体策は、原発周辺への地下水の流入を防ぐ「凍土遮水壁」を建設するというものだった。建設には巨額の国費が投入されたものの、その効果は十分な検証が行われないままとなっている。完全に地下水の侵入を防ぐことができていないとされているにもかかわらず、その効果の実態は有耶無耶にされたのだ。

 結果として、原発の敷地内では、1000を超すタンクが所狭しとばかりに設置され、汚染水の貯蔵に充てられてきた。が、コストとスペースの両面から限界が近付いていた。

 一方で、老舗の民間シンクタンク「日本経済研究センター」が2019年春に公表した試算によると、福島第一原発事故の処理に必要な「廃炉・汚染水処理」の費用は実に51兆円と、その2年前の試算に比べて19兆円も膨張していた。

 そうした中で、凍土壁に代わって、増え続ける汚染水の処理策の切り札として浮上したのが、処理済みの汚染水を希釈して海洋に放出する策だった。具体的には、まず、ALPSと名付けられた多核種除去設備を使い、ストロンチウムやセシウムといった放射性物質の大半を国の規制基準を下回るまで取り除く。技術的に除去が難しいトリチウムの残った処理済みの汚染水は、約2か月かけて、放射性物質が十分に除去されているか確認する工程も設けられている。

韓国は軟化
尹錫悦 pihoto by gettyimages

 そのうえで、処理済み汚染水を希釈施設に移し、この施設では、海水で処理済み汚染水を100倍に薄める。これにより、トリチウムの濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満に下げるのだ。この濃度は、世界保健機関(WHO)が定めている飲料水の基準の7分の1程度という。

 そして、海底トンネルを通じて沖合1キロメートルの海面下12メートル地点に設けた放出口から処理済み汚染水を投棄する。

 最後に、処理済み汚染水の放出量にも上限を設けており、1日あたりの最大放出量は500立方メートルに定められている。年換算で、トリチウムの放出量を22兆ベクレル未満に設定してあるのだ。

 放出口の周辺に設置したモニタリングポイントで、海水に含まれるトリチウム濃度を計測し続ける仕組みも構築している。

 前述の通り、IAEAはこれらの仕組みについて「国際的な安全基準に合致している」とお墨付きを与える報告書を公表した。加えて、原子力規制委員会も7月7日付で一連の設備に使用前の検査に「合格」したことを示す終了証を東電に交付した。この結果、政府による放出に向けた安全性の評価作業は全て完了、具体的な放出日程の調整を進める段階に辿り着いた。

 ここまでくれば、処理済み汚染水の海洋放出を進めるのは当然だろう。そもそも、福島第一原発事故を起こしてしまった以上、やむを得ない対応と言わざるを得ない。

 残された課題は、風評被害を懸念して反対姿勢を崩していない地元・福島県の漁業者らの理解を得ることだ。丁寧な説明と対応が求められている。

 世界に目を転じると、日本の処理済み汚染水を巡る対応に、米国は早くから好意的で、支持する姿勢を明確にしてきた。IAEAの報告書が公表された日の翌日にあたる7月5日にも、国務省は、計画を「科学的根拠に基づく透明性の高いプロセスを実施してきた」と評価したうえで、報告書を「歓迎する」との声明を発表した。

 韓国も尹錫悦政権の発足以来、態度を軟化させてきた。やはり5日は、「IAEAの発表を尊重する」との立場を表明、反対姿勢を続ける最大野党「共に民主党」と一線を画している。

 だが、中国は執拗に反対を唱えている。中国外務省の汪文斌副報道局長は7月6日の記者会見で、「(日本は)国際社会と十分な協議をしていない。身勝手で傲慢だ」と日本政府の計画を批判。この前日にも「日本は核汚染水の放出計画の強行をやめ、責任ある方法で処理するよう改めて強く求める」「国民の健康と食品の安全を確保するため、海洋環境の監視や輸入水産品などの検査を強化する」と述べ、日本からの農水産物の輸入検査を強化する構えを見せた。

 香港政府トップの李家超・行政長官も7日、訪問先の中国貴州省で行った会見で、処理済み汚染水が海に放出された場合「リスクの高い地域の海産物や農産品の輸入禁止を検討している」と、新たなに農産品の禁輸にも言及。日本をけん制した。

 さらに、ロシア外務省のザハロワ情報局長は6日の記者会見で、処理済み汚染水の放出について「中国と共に透明性を求め、IAEAだけでなく、主に極東地域の全ての関係国への情報提供を求める」と述べている。

 これらの国々の批判に対し、IAEAのグロッシ事務局長は7日に都内で開いた記者会見で、「希釈して海中に分散されるので国境を越えた影響はほとんどない」「(含まれるトリチウムは)基準値を下回っており、無視できるほどの量だ」との認識を示すとともに、IAEAは放出開始後も福島原発に職員を置き、監視を続けると述べている。

 IAEAのこうした見解を丁寧に説明するなど、今一度、批判を続ける中国としっかり対話をすることは必要だろう。

 そして、その過程で、中国の原発がトリチウムを含んだ排水を海洋放出していることを指摘すべきだろう。例えば、紅沿河原発は2021年のトリチウムの海洋放出が90兆ベクレルと、すでに紹介した福島第一原発の年間計画22兆ベクレル未満を上回っていたとされている。

 つまり、自国のトリチウムを含む排水の海洋への大量放出の事実を棚上げして、日本批判を続ける中国の主張の矛盾を国際世論に幅広く知って貰うべきだと、筆者は考えている。

町田 徹(経済ジャーナリスト)


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