日本版「緑の悪魔」に? 北欧製に決定した次期装輪装甲車 日本の産業救う可能性も

日本版「緑の悪魔」に? 北欧製に決定した次期装輪装甲車 日本の産業救う可能性も

2022.12.13 竹内 修(軍事ジャーナリスト)

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tags: 軍用車両, 96式装輪装甲車, 陸上自衛隊, 防衛省
陸上自衛隊が導入する次期装輪装甲車が、フィンランドのパトリア社が製造する「AMV XP」に決定しました。海外では高いブランド力を持つ同社の戦闘車両は、輸入するだけにとどまらず、日本の防衛産業を蘇らせる可能性もあります。

次期装輪装甲車に決定 北欧「パトリア」のAMV XPとは
 2022年12月9日、防衛省は陸上自衛隊が現用の96式装輪装甲車の後継として2023(令和5)年度から導入を計画している次期装輪装甲車に、フィンランドの総合防衛企業パトリアが開発した「AMV」を選定したと発表しました。なお、防衛省はAMVとしていますが、実際に提案されたのはAMVの発展改良型であるAMV XPのため、本稿ではAMV XPと表記します。

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防衛省が次期装輪装甲車として採用を決定したパトリアAMV XP(画像:防衛装備庁)。

 装輪装甲車(改)の開発中止(2018年)を受けて導入計画がスタートした次期装輪装甲車は、実際に試験用の車両を購入して評価試験を行い、メーカーと代理店からの提案と合わせて車種を選定するという、これまでにあまり例のない手法が採用されています。

 選定は二段階に分けて行われており、第一段階は機能・性能、後方支援に関する必須事項を評価し、一つでも必須事項を充足していなければ選外とする方式を採用していました。ここでAMV XPと、三菱重工業が提案した機動装甲車(試作車)のいずれも必須事項を充足していたと防衛省は発表しています。

 第二段階では「基本性能」に加えて整備や部品供給、国内防衛産業の関与などの「後方支援・生産基盤」、調達費と運用期間中のランニングコストなどの「経費」の3項目を評価して各項目ごとに100点満点で加点。防衛省は、基本性能と経費の両項目でAMVが機動装甲車を上回ったことから、AMV XPの採用に至ったと説明しています。

 この「基本性能」の評価において、AMV XPの評価点は機動装甲車のそれを大きく上回っていたと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は聞き及んでいます。

 筆者は機動装甲車の実物を見たことはないのですが、その原型であるMAV(Mitsubishi Armored Vehicle)は世界標準に達していると感じましたし、これまで日本が開発した装輪装甲車の中では最良のものだとも思っていました。このため基本性能の評価で大きな差がついたという話を聞いた時は正直驚きました。

 防衛省と陸上自衛隊がどのように提案を評価し、また陸上自衛隊がどのような試験を行ったのかはわかりませんが、防御力と乗員の生存性に対する評価がその差を生んだのではないかと筆者は推測しています。

ライセンス生産も? 外国の産業を振興させた実績をもつAMV
 AMV XPの原型であるAMVはアフガニスタンなどで実戦に投入されていますが、ポーランド軍がアフガニスタンに投入したAMVのポーランド生産型「KTOロソマク」はイスラム原理主義武装勢力から対戦車火器やIED(即席爆発物、地雷による攻撃を何度も受けているにもかかわらず、少ない損害で任務を継続し、イスラム原理主義武装勢力から「緑の悪魔」として恐れられたという逸話を残しています。

 そのAMVの改良版であるXPは、AMVのアフガニスタンやチャドにおける実戦の教訓を反映してさらなる防御力の強化を図った装甲車です。有事の際、真っ先に投入される装輪装甲車に高い防御力や乗員の生存性を求めた陸上自衛隊が、その点を高く評価したのではないかと筆者は思います。

 防衛省はAMV XPをフィンランドからの直輸入ではなく、ライセンス生産で導入する機会も追及していくと述べています。

 前出したポーランド陸軍のKTOロソマクは、ポーランド国内でライセンス生産されています。KTOロソマクを製造したロソマク社は近代的な装甲車両の製造経験を持っていませんでしたが、パトリアはAMVのライセンス生産にあたって広範な技術移転を行っており、その結果ロソマクはポーランド防衛産業の中でも屈指の技術力を持つ企業となっています。

 コンポーネントや部品の生産には120社を超えるポーランド企業が関与し、2012年の時点で国産化率94%を達成。AMVのライセンス生産はポーランドの防衛産業の維持と成長に大きく貢献したと言われています。

 UAE(アラブ首長国連邦)は数十両のAMVを導入していますが、このAMVはロソマクで最終組み立てが行われ、部品の製造にも同社の下請業者が携わっています。

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ポーランド陸軍がアフガニスタンに投入した「KTOロソマク」。パトリアAMVのポーランド生産車(画像:ポーランド国防省)。

めざせ「日本製AMV輸出」!?
 筆者が以前海外の展示会で話を聞いたパトリアのスタッフは、あくまでも可能性の一つであると断った上で、日本で製造されたAMV XPを輸出する道もあるのではないかと述べています。

 装甲車の国外移転は簡単なことではありませんし、そもそもフィンランド政府とパトリアがそのような提案を防衛省にしたのかも不明ですが、国外では高いブランド力を持ち、実戦で性能が実証されているAMV(AMV XP)の輸出は、残念ながら国外でのブランド力が低い日本が開発し、実戦で性能が実証されていない機動装甲車(MAV)よりも、成功する可能性が高いと筆者は思います。

 日本の防衛産業は危機的な状況にあり、フィンランド政府とパトリアがそれを許容するのであれば、AMV XPを輸出し、それを日本の防衛産業の維持・育成の手段として利用するのも「アリ」なのではないかと筆者は思います。

【了】


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