電動キックボード「異様なスピードの規制緩和」の是非

電動キックボード「異様なスピードの規制緩和」の是非…自転車の規制強化が進む一方で

7/27(木) 8:33配信
現代ビジネス
実際に乗ってみると

筆者撮影

 運転者が板状の車体に立って乗り、胸の高さのハンドルを器用に操って、車道を駆け抜ける電動キックボードを目にすることが多くなった。

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 7月1日の道路交通法改正で、「運転免許不要、ヘルメット努力義務」と規制緩和されたので、今後、普及が進むだろう。これまで原付自転車と同じく免許証が必要でヘルメット着用が義務だった。

 普及に伴って、電動キックボードのシェアリングサービスを提供する業者が、警察署や行政と提携して、交通ルールをレクチャーし、安全な走行法を伝える「安全講習会」を開催することが多くなった。

 筆者もシェアリングサービスの「LUUP」(東京都千代田区)が、7月22日(土)、23(日)にパシフィコ横浜で開催した講習会に行ってみた。「利用ガイドブック」をもらって説明を受け、ヘルメットを着用して試乗する。

 数歩、足で蹴り出してアクセルレバーを押すと車体が加速する。免許なしでも乗れる車体の要件は時速20キロ以下だが、それでも意外にスピード感がある。また車輪が小さく立ち乗りなので重心が高い。

 その分、原付を含む自転車に比べて安定性に欠けるのは否めない。走行する電動キックボードを見て感じる不安定さは、乗っても同じだった。
セグウェイと比較すると

セグウェイの開発者であるディーン・ケーメン氏とセグウェイ/photo by gettyimages

 電動キックボードの普及に向けた道交法改正は、自民党商工族と業界団体との二人三脚によってなされた。LUUP社長の岡井大輝氏(30)が中心となって、’19年5月28日、マイクロモビリティ推進協議会(岡井代表)が設立された。

 マイクロモビリティとは、公共交通機関と家や会社との間をつなぐラストワンマイルの交通手段のことで、電動キックボード、シニアカー、電動車いす、電動アシスト自転車などがある。

 協議会設立の3日後の5月31日、自民党本部において、モビリティと交通の新時代を創る議員の会(MaaS=Mobility as a Service推進議連)が設立された。会長に就いたのは甘利明前党幹事長で、直系の山際大志郎前経済財政担当相が座長を務めた。

 設立趣意書では、「運転手不足などを原因とする公共交通サービスの低下で地域住民や高齢者などの移動が社会的課題になっており、そうしたモビリティサービスの普及を促進する」としている。

 両者は連携して警察庁、国土交通省、経済産業省などへの根回しを行い、国会対策も進めて、立ち上げからわずか4年で道交法改正に漕ぎ着けた。

 そのスピード感は、同じ立ち乗りで’01年に登場したセグウェイとの比較で明らかだろう。’01年に登場し、「未来の乗り物」と言われたが、実証実験を重ねても道交法は改正されず、公道走行は認められなかった。

 既に米セグウェイは’20年に生産を中止。セグウェイジャパンは電動キックボードにシフトしており、マイクロモビリティ推進協議会にも参加している。

 セグウェイが公道走行を認められない理由は明確にされなかったが、日本は新しい乗り物にはそれだけ保守的だった。とくに、立ち乗りの重心の高さによる不安定さが嫌われた。
自転車は規制強化の一途

 それに比べると電動キックボードは、「移動に生じている社会的課題の解決」に加え、MaaS議連は、’20年6月に発表した規制緩和に向けた「提言」のなかで、「電動キックボードが欧米を中心に手軽な交通手段として急速に普及している点」を挙げている。

 つまり電動キックボードは、ラストワンマイルの課題を解消する欧米並のモビリティサービスを展開する手段として期待され、普及のために規制緩和された。

 ただ、その前提条件に間違いがある。欧州ではむしろ電動キックボードは規制強化の方向だ。フランスでは事故多発を受けて電動キックボードの歩道走行がまず禁止され、今年4月にはパリ市で住民投票が行われ、レンタルサービスが廃止となった。

 イギリスでは免許を持っている18歳以上しか乗車できないし、ロンドンの道路を走行できるのは、時速12.5マイルに制限されたレンタルサービスのみである。

 ロンドン在住の著述家の谷本真由美氏が規制緩和後、Twitterに<やめれー!! ! 危ないよ。イギリスや欧州は死亡事故発生で規制しているのに何で日本は逆方向なんじゃ!! >と投稿し、話題を集めた。

 実は、自転車は規制強化の方向にある。今年4月の道交法改正で全年齢のヘルメット着用が努力義務となった。おかげで一時はヘルメット不足に陥ったが、警察庁はさらに取り締まりを強化する。
安易な規制緩和ではなかったか

 7月3日に通達された「組織運営上の重点課題」のなかに、自転車その他の小型モビリティ対策強化があげられており、「各都道府県警察は、警察署における交通部門と地域部門の連携を抜本的に強化するなど自転車や特定小型原動付自転車等の指導取り締まりを実質的に強化する」とある。

 「特定小型原動付自転車というのが電動キックボードのことです。自転車で規制強化、電動キックボードで規制緩和というのは矛盾ですが、飲酒運転の禁止、新交通ルールの徹底などを通じて自転車トータルの監視体制を強化します」(警察庁関係者)

 当然のことながら普及に伴い事故は増える。7月に入って、飲酒運転でのトラックとの衝突事故(7月6日大阪)、同じく飲酒運転でのタクシーとの衝突事故(7月7日東京)、車道から歩道に乗り上げての児童との接触事故(16日神奈川)などが報告されている。

 やがて死亡を含む重大事故なども考えられるし、その際は「安易な規制緩和ではなかったか」といった論議が交わされそうだ。

伊藤 博敏(ジャーナリスト)

  • シティサイクル、電動アシスト自転車の速度は約4~20km/h(平均15km/h)
    小径車(ミニベロ)で、平均速度は20~25km/h
    クロスバイク、マウンテンバイクは、平均速度18~25km/h
    ロードバイクは、平均速度20~30km/h
    特定小型原動付自転車の制限速度以上にスピードが出る、自転車に規制がかかっても、不思議では無いのでは?
    自転車も特定小型原動付自転車も同列でなにか問題でも?
    セグウェイについては、操作方法が今までとは全く別物で、崖から転落したという事実も。立ち乗りで「同じ」とはいかないのでは。
    「危険な運転はしない」「交通ルールを守る」事が重要で、セグウェイだろうが、自転車だろうが、特定小型原動付自転車だろうが、飲酒運転すれば衝突事故のリスクは上がり、注意を怠り車道から歩道に乗り上げれば歩行者に接触するでしょ。
    現に自転車の事故は減らないし。 -- 0513 2023-07-28 (金) 13:49:44

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