電子帳簿保存法の猶予期間が廃止され宥恕措置恒久化へ!電子保存は必要ない?

電子帳簿保存法の猶予期間が廃止され宥恕措置恒久化へ!電子保存は必要ない?

2023.08.07

令和5年度税制改正大綱が2022年12月に閣議決定されました。電子帳簿保存制度について見直しが盛り込まれ、2023年末まであった電子帳簿保存移行の猶予期間が廃止されたのです。これは宥恕措置が恒久化されたことを意味します。では、電子保存移行の必要はもはやないということでしょうか。
電子帳簿保存法の猶予期間とは?

改正電子帳簿保存法の内容を踏まえ、そのうえで電子帳簿保存法の猶予期間についておさらいします。
改正電子帳簿保存法の概要

電子帳簿保存法が改正され2022年1月より施行されました。
紙での保存が義務づけられていた税務関係の帳簿書類について、紙のスキャンデータを含む電子データでの保存を可能にするものです。また電子データで授受した取引書類を電子データのまま保存することを義務づけました。

本改正では、紙での保存・管理がもたらす事業者の事務負担を軽減することが目的とされています。しかし、事業者の利便性を考慮した法改正でありながら、コンピューターソフト・スキャナー導入費用の負担、電子データ化がむしろ手間になる可能性、保存要件に関する法知識が要求されることなどの利便性に反しうる問題点も指摘されてきました。
「宥恕措置」の内容

改正電子帳簿保存法の2022年1月完全施行に向け、大企業は準備を進めてきたものの、対応が間に合わないケースも多数あるようです。また、中小企業では制度認知も不十分な状況が施行前にありました。そのため、令和4年度税制改正で2年間の猶予期間の宥恕措置が定められたのです。

2023年末までは、やむを得ない事情があれば電子取引データの書面出力での保存が引き続き許容されることになりました。なお、この「やむを得ない事情」は「ワークフロー整備が間に合わなかった」「保存システムを整備する意向はある」などの理由を、税務調査に対して説明できてはじめて認められます。
税制改正大綱により宥恕措置が終了?

令和5年度税制改正大綱により、宥恕措置は適用期限の2023年末に廃止されることになりました。
しかし実は、宥恕措置が予定通り終わって電子取引データの電子データ保存がいよいよ現実に義務化されるということではありません。これはどういうことでしょうか。
令和5年度税制改正大綱の概要

令和5年度税制改正大綱で見直される新しい電子帳簿保存制度の規定は、2024年1月1日以降の電子取引について適用されます。その内容は、税務関係帳簿書類の保存義務者が行う電子取引について、電子帳簿保存法の保存要件を満たして電子データ保存ができなくても、相当の理由があれば保存要件を満たさない保存の仕方でかまわないというものです。その場合、従来通り電子取引データの書面出力保存も認められます。

2023年末までの宥恕措置とほぼ変わらないものですが、重要なのが適用期間が制限されていないという違いです。またこの猶予措置を受けるためには、税務調査などの際に出力書面を提示・提出することだけでなく、求めに応じて電子取引データ自体をダウンロードできるようにしておくことも新たに必要になりました。
「相当の理由」という猶予措置の適用要件も、これまでの宥恕措置の「やむを得ない事情」よりは表現が緩和されていることが注目されます。
「終了」ではなく「恒久化」へ

これまでの宥恕措置は、電子帳簿保存法の財務省令附則のなかで付加的な経過措置として定められていました。ところが今回の税制改正では猶予措置が財務省令本則に定められる見込みで、経過措置という位置づけではありません。

実質的には、これまでの宥恕措置に定められていた適用期限を取り払うものです。つまり、今回新しく規定される猶予措置はこれまでの宥恕措置の恒久化という性格を持っています。
2024年以降も紙ベース保存が可能に

これまで電子取引データをプリントアウトして紙ベースで保存してきた事業者にとっては、宥恕措置が実質的に恒久化されたことで迫る期限がなくなり、一安心かもしれません。

新たな猶予措置には、前述のように「相当の理由」という適用要件があります。しかし、少なくともこれまでと同じように保存システム整備が間に合わないと説明できる事業者は2024年以降も紙ベースの保存を継続できるでしょう。
電子保存への移行はしなくてもいい?

今回の宥恕措置恒久化によって電子取引データの電子保存管理に移行する必要がなくなったと考えてもよいのでしょうか。結論としては、まだそう言い切ることは難しいといえます。
電子化・DXの潮流は依然止まらない

電子データ化・デジタル化による事務の省力化の流れはとどまることを知りません。企業内バックオフィスのIT化はもとより、企業間の垣根を越えた次元でDXが今後進展していくでしょう。現在本格的なDXに乗り出していない小中規模の事業者の多くも、いずれはこの流れに乗ることになるはずです。この流れにいつまでも乗らないでいることは、短期的には負担の抑制になるとしても中長期的には他社との間に遅れを取り続ける危険を孕みます。

電子帳簿保存法の趣旨は税務帳簿書類保存の事務負担の軽減です。これは電子保存が短期的な負担を課すものだとしても、中長期的に事務負担軽減につながることを前提としています。
現在各企業が競って取り組んでいるのが事務コスト削減です。税務帳簿書類の電子保存もそれにかなう取り組みになります。いずれは各企業が自ら進んで電子保存管理に移行していくと考えられるのです。
「焦る必要はなくなった」と考えよう

新たな猶予措置は期限のない恒久的規定にされたとはいえ、あくまで「猶予措置」です。また電子保存ができない「相当の理由」の要件も、保存システムをいずれ整備することを前提とした「相当の理由」を求めるものと考えるが素直でしょう。

今回の電子帳簿保存制度の改正により、事業者が対応のためにいたずらに焦る必要はなくなりました。しかし、電子帳簿保存法が電子データ保存の義務化を放棄したと考えることまではできません。

電子帳簿保存法が期待するDXによる事務省力化の利益はいずれ自社にもたらされます。そのことを見据え、税務帳簿書類の電子保存への対応を今後もなお継続して取り組むのが賢明な方策だといえるでしょう。
まとめ

2023年末に終わるはずだった電子帳簿保存法の電子取引の電子データ保存義務の猶予は、実質的に恒久化されました。期限が迫っていた中、胸をなでおろした各企業の実務担当者の方も少なくないでしょう。

しかし、今回措置恒久化が定められたことは、税務帳簿書類保存の電子化をあきらめてよいというメッセージではありません。むしろ、規模を問わずあらゆる企業が時間をかけてでも、しっかりと電子化に取り組むことを期待するメッセージと受け取るのが適切です。焦って拙速になることなく他の業務とのバランスも考慮して、帳簿書類保存の電子化を粛々と進めることが期待されるようになったといえるでしょう。


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