1億年以上も遡る地球「最古の生命」を日本人が発見

1億年以上も遡る地球「最古の生命」を日本人が発見

石田雅彦 | フリーランスライター、編集者

9/28(木) 2:02

(ペイレスイメージズ/アフロ)

 地球が誕生したのは、45億4000万年前(±5000万年)とされている。生命誕生はその後、数億年経ってからだろう。この最初の生命から連綿と進化し、我々人類にまで至ったとすれば、地球上にいる全ての生命の共通の先祖、ということになる。

 この共通先祖のことを通称ルカ(LUCA、last universal common ancestor)と言うが、これまでわかっていた最古の生命は、約38億1000万年前とされてきた(※1)。この生命が発見されたのは37~38億年前と年代決定されたグリーンランドのイスア表成岩帯で、イスア表成岩帯の枕状溶岩の調査から、そのころにはすでにプレートテクトニクスが起こっていたこともわかっている(※2)。

 上記の通り、最古の生命が38億1000万年と発表されたのは1999年だが、これまでこの記録を塗り替える証拠は見つかっていなかった。最初の生命の存在を示す証拠は非常に少ない。なぜなら、その当時(原始生代、約40~36億年前)の岩石がごくわずかしか発見されておらず、保存状態も悪いからだ。

カナダからの最初の生命

 だが、日本人研究者による調査で、この記録が1億年以上もさかのぼることができる可能性が明らかになった。

 2017年9月27日付の英国の科学雑誌『nature』によれば、東京大学の小宮剛らの研究グループがカナダ北東部にある北ラブラドル地域のサグレック岩体で出土した最古の変成堆積岩として知られる約39億5000万年前の岩石に含まれる炭質物(グラファイト、graphite、石墨)を調べたところ、この炭質物が生物起源のものであることがわかった、という(※3)。

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地球最古の生命が発見されたサグレック岩体のあるカナダ・ラブラドル半島の位置。

 小宮らは、サグレック岩体から出土した堆積岩を詳細に分析し、泥質岩(炭質物)と炭酸塩岩、それぞれの濃度と炭素同位体組成を測定した(※4)。その結果、炭質物の結晶化温度と母岩の変成温度がほぼ一致していることがわかり、このことによりこの炭質物が後の時代の異物混入によって生じたものではなく、これが地球最初の生命の痕跡である、とした。同時にこれは、これまで発見されてきた中で最古の表成岩ということにもなる。

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観察した堆積岩の泥質岩(炭質物)と炭酸塩岩。まず炭酸塩岩の炭素同位体を求め、それを基準にして泥質岩(炭質物)中の有機物の炭素同位体と比較した。小宮研究室のHPより小宮剛准教授の許可を得て転載。

──今回、発見された炭質物はグラファイト(graphite、鉛筆などの黒鉛、石墨)に近いのか。

小宮「私としては炭質物と表記したいところだが、専門家の間ではより正確にはグラファイトであろうということで論文ではグラファイトにしてある。炭質物と表現するには炭素以外のものがほとんど抜け、純粋な炭素に近いものだ」

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カナダ・ラブラドル半島で調査中の小宮ら研究グループ。小宮研究室のHPより小宮剛准教授の許可を得て転載。

生命誕生の謎が明らかに

──最古の生命はどんなものと想像するか。また、今回よりさらに昔へさかのぼることができるか。

小宮「より詳細な研究はこれからだ。今回は炭素だけだが、窒素や鉄などの他の元素の同位体やその炭質物に伴う金属元素などを分析することで、より詳細に生物種を特定できると考えている。現在知られている中で最古の表成岩は本地域(サグレック岩体)だ。(これまでの最古の生命が発見されたグリーンランドの)イスアはサグレックより若いから難しいかもしれないが、実は他にも隠れた表成岩がある。そこにも生命の痕跡があるかもしれない」

──地球に最初に生命(LUCA)が誕生したのは、地球起源か宇宙起源かどちらと考えるか。

小宮「地球を研究している者としては、地球に起源があって欲しいが、実証するのはなかなか難しいだろう。私は、物質学的に地球科学を研究するスタンスで、実際に地球の物を探索し、当時の環境や(プレート)テクトニクスなどを調べている。そういう面では、岩石試料の残されていない、生命の起源に関する研究は難しいが、やはり物証を目指している」

 地球が誕生してからの5億年間(約40億年前まで)ほどを冥王代(めいおうだい、Hadean eon)と言うが、小宮らが発見した生命もこの年代に含まれる。生命誕生にはいくつか仮説があるが、大きく地球起源説と地球外(宇宙)起源説に分けられ、前者の仮説には海の存在が必要だろう。小宮らはグリーンランド・イスア表成岩帯の枕状溶岩の調査で、38億年前には海洋がすでに存在していたことも明らかにしているが、地球生命誕生の謎が今回の発見からわかるかもしれない。

※1:Minik T. Rosing, "13C-depleted carbon microparticles in > 3700-Ma sea-floor sedimentary rocks from West Greenland." Science, Vol.283, 674-676, 1999

※2:Shigenori Maruyama, Tsuyoshi Komiya, "The Oldest Pillow Lavas, 3.8-3.7 Ga from the Isua Supracrustal Belt, SW Greenland: Plate Tectonics Had Already Begun by 3.8 Ga." 地学雑誌、120号、第5号、869-876、2011

※3:"Fossils: Evidence for life in 3.95-billion-year-old rocks."nature, 28, Sep, 2017

※4:分析に炭酸塩の炭素同位体組成の測定という方法が出てくるが、これはどういう意味か。

小宮「炭素には、CaCO3の炭素、そしてグラファイトまたは有機物(仮にCH2O)の炭素が存在する。前者は海洋からCa2+ +2HCO3- = CaCO3 + CO2 + H2Oのように無機的に生じたものだ。こちらの炭素同位体( CaCO3の炭素)はおおむね海水の無機炭素(HCO3-)と同じになる。一方、生物はその海洋中の無機炭素HCO3-やCO2を用いて有機物を作る。その時に13Cに比べて12Cを選択的に取り込むので、正確には海水中の無機炭素と生物の有機物の炭素同位体の差が取り込んだ時の炭素の同位体分別となる。また、海洋の無機炭素の炭素同位体も変動しているかもしれないからその推定も必要だ。今回は炭酸塩岩中の炭酸塩の炭素同位体を分析することで、海洋の無機炭素の炭素同位体比を決め、それとグラファイト(有機物)の炭素同位体と比較した」

石田雅彦
フリーランスライター、編集者

北海道生まれ、医科学修士(MMSc)、横浜市立大学・共同研究員(循環制御医学教室)。近代映画社を経て独立、醍醐味エンタープライズ(編プロ)代表。ネットメディア編集長、紙媒体の商業誌編集長など経験あり。個人としては自然科学から社会科学まで多様な著述活動を行っている。法政大学経済学部・横浜市立大学大学院医学研究科卒。著書に『恐竜大接近』(集英社、監修:小畠郁生)、『遺伝子・ゲノム最前線』(扶桑社、監修:和田昭允)、『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』(ポプラ社)、『季節の実用語』(アカシック)、『プレミアム戸建賃貸資産活用術』(ダイヤモンド社)、『おんな城主 井伊直虎』(アスペクト)など。