『欧州合衆国』をできるだけ早く実現へ」 ポーランドのワレサ元大統領インタビュー詳細

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1996年4月、「連帯」発祥の地であるグダニスク造船所に復職し、仕事場に立つワレサ氏(ロイター)
1996年4月、「連帯」発祥の地であるグダニスク造船所に復職し、仕事場に立つワレサ氏(ロイター)
 1980年代末の東欧革命の先駆けとなったポーランド民主化の立役者、同国のレフ・ワレサ元大統領(74)が産経新聞との単独インタビューに応じた。インタビューの主な一問一答は次の通り。(ポーランド北部グダニスク 宮下日出男)

「グローバル化で新たな時代への過渡期」

 --欧米では、大衆迎合主義(ポピュリズム)やトランプ米政権誕生などで、「自国第一」に警戒が強い

 「世界は今、人も情報も自由に行き交うグローバル化で新たな時代への過渡期にある。だが、それがどんな時代になるか見えず、解決策も見つかっていない。そういうときはナショナリズムや極端な右翼・左翼といった古い思想が出てくるもの。ただ、社会が変化を期待し、答えを探し求めていることの表れであり、いいとも悪いともいえない」

 --社会が変化を求める背景は

 「もう共産主義体制に戻ることはできないが、今の資本主義にも問題がある。私は今もよくストライキが起こるような地域に呼ばれ、人々と議論する。その際に聞くのは『こんな民主主義や資本主義なら望まなかった』という言葉だ。激しい経済競争の結果、資本家が90%の財産を有し、社会全体が残り10%しか持たないような状況への不満だ」

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 --どう対処すべきか

 「政治家だけで解決できず、資本家も巻き込むことが必要だ。ポピュリズム勢力は私たちの意に沿わない主張をするが、私たちを目覚めさせた。彼らの問題認識には正しい面もある。ただ、解決法が間違っており、私たちがより良い解決法を示さねばならない。できなければ、また革命が起こるかもしれない」

 --冷戦後、米国中心だった国際秩序が揺れている

 「冷戦時代より今の方が危険だ。当時は米ソ2大国が互いに監視し、管理することで世界の安全が保たれた。だが、今はかつてのキリスト教や共産主義などのイデオロギーのように(国々を結び付ける)『共通の基盤』が失われた。中国を含む各国がグローバル化への対処を独自の考えに基づき目指している。新たな時代の『共通の基盤』をつくらねばならない」

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「制限が増えれば自由を奪われたように感じる」

 --どうすべきか。欧州も英国の欧州連合(EU)離脱で揺れ、東欧も難民分担策への反対などでEUと対立が目立つ

 「車を運転するにも交通量が増えれば、交通規則が必要になる。制限が増えれば、自由を奪われたように感じる。今のEUはそうした不満がたまり、ポピュリズムが生じた形だ。だが、(東欧など)私たちは(加盟により)それに賛成した。権利には義務が伴う。自由に対する責任をもっと明確にし、『欧州合衆国』をできるだけ早く実現する方向で取り組むべきだ」

 --トランプ米政権にどう向き合うか。米国は欧州の不可欠なパートナーだ

 「米国が今も世界を率いる立場であるのは間違いない。特に軍事面では。ただ、経済分野でその立場は弱まり、道徳的にはリーダーといえなくなった。だからEUは欧州合衆国のようにまとまり、米国と話し合いができるようにならねばならない。そうすれば中国とも話し合える」

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中国はいずれ完全に開かれた自由な国に」

 --中国はグローバル化の“牽引役”を自負するが、法の支配など価値観の共有をめぐり、懸念もある

 「今の世界はもう誰も別々に生活することはできない。いいか悪いかの問題でなく、中国なしにグローバル世界もありえない。そのため米欧から中国に『どうすべきか』とそろって説く必要がある。そうでなければ、米ドルを蓄え、経済力をつけた中国は米欧と対話をしないままになる」

 「確かに中国は共産党独裁を続けているが、いずれ完全に開かれた自由な国にならざるをえない。ただ、(かつて共産主義体制から民主化した)ポーランドのような“普通乗用車”は時速200キロで走れるが、中国という“大型トラック”が同じ速度で走れば危険。他の車は逃げるしかない。速度を落とし、安全に経済を成長させ、自由に向かうよう働きかけるべきだ」

 --ロシアとの関係は。ウクライナ危機後、東欧は特に脅威を受けている

 「ロシアについて忘れてならないのは、これまで自由がなかった国ということだ。だから考え方が西欧に比べて何十年も遅れている。ただロシアとは(国際的課題への対処で)さまざまな協力の可能性があり、世界にとってもロシアが必要。ロシアが変化できるように欧米が連帯を示し、対話することが重要だ。今は各国ばらばらでプーチン大統領を利している。ロシアのためにも、私たちのためにもならない」