販売用不動産等及び固定資産の保有目的変更に関する会計処理
販売用不動産等及び固定資産の保有目的変更に関する会計処理
会計処理の方法、関連する開示についての解説
不動産を複数保有する会社においては、経済環境や不動産市況、更には企業再編や自社の組織変更等により不動産の保有目的を変更するケースがあります。 本稿では、販売用不動産等及び固定資産の保有目的変更に関する我が国における会計処理の方法、並びにこれに関連する開示について解説します。
1. 販売用不動産等と固定資産における一般的な会計処理
著者:有限責任監査法人トーマツ 高橋勇人(公認会計士)
企業が保有する販売用不動産等と固定資産に係る一般的な会計処理は以下のとおりと考えられる。
販売用不動産等 | 固定資産 | |
対象資産 | 販売目的で保有する不動産、仕掛不動産 | 販売目的ではなく継続的に会社で使用することを目的とした、建物・構築物・土地等の不動産 |
減価償却の方法 | 減価償却は行われない | 正規の減価償却が行われる(土地等の非償却性資産を除く) |
決算時における不動産の評価 | 「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準委員会 企業会計基準第9号)に従い評価が行われる | 「固定資産の減損に係る会計基準」(企業会計審議会)等に従い評価が行われる |
売却時の処理 | 一般的に売却額を売上高、売却時の帳簿価額を売上原価として計上 | 一般的に売却額と売却時の帳簿価額との差額を特別損益の区分に計上 |
このように、保有する不動産について、販売用不動産等として処理するか、固定資産として処理するかによって会計処理は異なる。そのため、企業が保有する不動産について会計処理を決定する際には、その不動産を取得する時点の保有目的や利用方針にしたがい、販売用不動産等とするか固定資産とするかを決定し、その後の会計処理は保有目的が変更されない限り、当初選択した会計処理を継続して適用することが必要である。
2. 販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更に関連する会計基準等
我が国における会計基準では、販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更そのものを規定したものはなく、関連する会計基準に準拠した会計処理が行われるものと考える。また、「販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会報告第69号 以下、「監査上の取扱い」という)において、これらの保有目的変更に関する監査上留意すべき事項が規定されている。
監査上の取扱いの「7.販売用不動産等及び固定資産の保有目的変更への対応」では以下のように規定されている(なお、①~④の番号および下線は筆者が付したものである)。
従来、販売目的で保有していた不動産を、合理的な理由に基づき賃貸事業目的あるいは自社使用目的で保有することに変更する場合には、保有目的の変更に該当するため、①企業会計基準第9号適用後の当該不動産の帳簿価額を流動資産としての販売用不動産等から固定資産としての投資不動産あるいは有形固定資産に振り替えることとなる。 また、これとは逆に、賃貸事業目的あるいは自社使用目的で保有していた不動産を、合理的な理由に基づき販売目的で保有することに変更する場合は、保有目的の変更自体が当該固定資産の減損の兆候に該当する可能性があるので、②「固定資産の減損に係る会計基準」に従い、減損の認識及び測定の手続を実施した後の帳簿価額により、固定資産から流動資産に振り替えることになる。また、流動資産としての販売用不動産等に振替後は、当然に企業会計基準第9号が適用されることに留意する。 監査人は、販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更に際しては、③変更時点において取締役会等によって承認された具体的かつ確実な事業計画が存在していることを確かめるとともに、その変更理由に経済的合理性があるか否かを検討する必要がある。 なお、販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更が、会社の財務諸表に重要な影響を与える場合は、④追加情報として、その旨及びその金額を貸借対照表に注記することが必要である。
このように、監査上の取扱いでは、「保有目的を変更した際の振替価額の決定」(①、②)、「保有目的変更の合理性の検討」(③)、及び「保有目的の変更を行った場合の注記」(④)について定めている。
3. 保有目的変更の合理性の検討
監査上の取扱いによると、販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更に関する会計処理に当たり、以下の事項を検討する必要があるとしており、企業においても内部統制の観点からこれらの検証結果を文書化しておく必要があると考えられる。
保有目的変更の妥当性の検証
取締役会等に承認された具体的かつ確実な事業計画の存在
変更理由の経済的合理性の有無
したがって、不動産の振替に関する具体的な事業計画が作成され、これが取締役会等の企業の意思決定ルールにしたがった承認を得ていること、その変更および理由の経済的合理性が必要となる。具体的に留意すべきポイントについては以下の表を参照されたい。
振替前
振替後
留意すべきポイント
販売用
不動産
→
固定
資産
・当初取得時から保有目的変更までの使用状況
・変更後の保有目的(賃貸事業目的、自社使用目的等)が、企業や該当不動産の状況と整合しているか
・簿価切下げによる棚卸評価損計上の回避を目的とした振替ではないか
・販売による営業利益の増額を目的とした含み損を抱えた資産の振替ではないか
固定
資産
→
販売用
不動産
・不動産を販売するための不動産開発計画の存在とその実現可能性
・販売のための営業活動の実態
・保有目的の変更から販売見込までの期間
・減価償却の停止を目的とした振替ではないか
・販売による営業利益の増額を目的とした含み益を抱えた資産の振替ではないか
特に、該当不動産の当初取得時点から保有目的の変更までの期間が短い場合や、保有目的の変更から売却までの期間が短い場合などには、変更理由の経済的合理性に関する判断を慎重に行う必要があると考えられる。
4. 保有目的を変更した際の振替価額の決定及び損失の会計処理
保有目的の変更理由が妥当と判断された場合、次に振替価額を決定する必要があるが、振替後の帳簿価額の決定方法と、これに伴い生じた損失の会計処理は以下となる。
振替前
振替後
振替後の帳簿価額
損失の会計処理
販売用
不動産
→
固定
資産
「棚卸資産の評価に関する会計基準」に従い算定した帳簿価額
※1
発生した損失は売上原価とするが、重要な事業部門の廃止等の臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには特別損失に計上する(「棚卸資産の評価に関する会計基準」第17項)。
固定
資産
→
販売用
不動産
「固定資産の減損に係る会計基準」に従い、減損の認識及び測定の手続を実施した後の帳簿価額
※2
発生した損失は減損損失として特別損失に計上する(「固定資産の減損に係る会計基準」四-2)。
5. 保有目的の変更を行った場合の注記
監査上の取扱いでは、「販売用不動産等及び固定資産の保有目的の変更が、会社の財務諸表に重要な影響を与える場合は、追加情報として、その旨及びその金額を貸借対照表に注記することが必要である。」とされている。
また「財務諸表等規則」において追加情報の注記を規定する第8条の5では、「この規則において特に定める注記のほか、利害関係人が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する適正な判断を行うために必要と認められる事項があるときは、当該事項を注記しなければならない。」されており、「連結財務諸表規則」の第15条でも同様の規定がある(このほか、四半期財務諸表等規則第22条や四半期連結財務諸表規則第14条も同様の規定がある)。
そのため、販売用不動産等や固定資産の保有目的の変更が会社の財務諸表に重要な影響があると判断される場合は必要な注記を行うこととなる。
そこで、注記事例を示すと以下のとおりである(以下の例示は、EDINET開示書類における実際の開示を参考に、筆者が作成したものである)。
・注記例1
【追加情報】
有形固定資産から販売用不動産への振替
保有目的の変更により、有形固定資産の一部を販売用不動産に振替いたしました。その内容は以下のとおりであります。
建物及び構築物 X,XXX千円
土地 X,XXX 〃
計 X,XXX千円
・注記例2
【追加情報】
保有目的の変更
当連結会計年度において保有不動産の使途変更が生じたのを契機に保有不動産の保有目的の変更を行った結果、「建物及び構築物」から「販売用不動産」へX,XXX百万円、「土地」から「販売用不動産」へX,XXX百万円を振替えております。
6. 参考文献、注釈
参考文献
・販売用不動産等の評価に関する監査上の取扱い(日本公認会計士協会 監査・保証実務委員会報告第69号)
・棚卸資産の評価に関する会計基準(企業会計基準委員会 企業会計基準第9号)
・固定資産の減損に係る会計基準(企業会計審議会)、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第6号)
・『Q&A業種別会計実務13・不動産』(中央経済社2014年 トーマツ建設・不動産インダストリーグループ著)
※1
保有目的変更時における正味売却価額が取得価額よりも下落している場合には、正味売却価額をもって貸借対照表価額とする。販売用不動産等の正味売却価額は以下の算式により計算される。
販売用不動産の正味売却価額
=
販売見込額
-
販売経費等見込額
開発事業等支出金の正味売却価額
=
完成後販売
見込額
-
(造成・建築工事原価今後発生
見込額+販売経費等見込額)
※2
保有目的変更時において、減損損失を認識するかどうかの判定により減損損失の測定が必要と判断される場合には、回収可能価額(資産の正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額)をもって貸借対照表価額とする。
(なお、本文中の意見に関わる部分は執筆者の私見であり、デロイト トーマツグループの公式見解ではない)