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5歳児の体から大人より大量のトリチウム検出…韓国、9年間の原発がん訴訟

5歳児の体から大人より大量のトリチウム検出…韓国、9年間の原発「がん訴訟」

登録:2023-09-27 11:15 修正:2023-10-01 07:19

[ハンギョレ21] 
618人ががんになった原発周辺村の住民の訴訟 
因果性の立証責任、住民に押しつけ…韓水原は何もせず
2023年9月7日、月城原発周辺地域移住対策委員会の座り込みテントで会ったオ・スンジャさん(74)が、首を囲むようにできた手術跡を見せている/パク・キヨン記者//ハンギョレ新聞

 「原告らの控訴をすべて棄却し、控訴費用は原告の負担とする」

 2023年8月30日午後、釜山市巨堤洞(プサンシ・コジェドン)の釜山高等裁判所457号法廷。判事(民事5部キム・ジュホ部長判事)の主文は短かったが、その余韻は長かった。小さな法廷のあちこちで一瞬ため息が漏れた。判事はすぐに次の事件の判決結果を読み上げ、傍聴客10人余りはぞろぞろと法廷を後にした。法廷の外で待っていた記者団も彼らと共に移動した。

 その後すぐに裁判所正門前で記者会見が開かれた。月城(ウォルソン)原発周辺地域移住対策委員会のファン・ブンヒ副会長(76)がマイクを握った。「住まいが原発に近いほど、そこで暮らしている期間が長いほど、多く被ばくしています。体に放射能が入り込んでいます。なのに、私たちの安全ではなくただ基準値を突き付けるのは、あまりにもひどい仕打ちではないですか。9年も裁判を引き延ばして、今回はきちんとした判断するのではという期待もありましたが、本当に言葉も出ないほど失望しました」

 今度は記者会見の司会を務めた「脱核釜山市民連帯」のカン・オンジュ執行委員がマイクを握った。「住民の体からトリチウムが検出されており、染色体に異常があります。数多くの証拠を提出しました。ところが因果関係がないと言われました。証拠になるようなものを韓国水力原子力(韓水原)は提出したことがありません。訴訟人団に立証責任を負わせているのです」

 この日の判決は、2015年2月に始まった「甲状腺がん共同訴訟」の2審だった。1年6カ月前の1審に続き、この日の2審でも彼らは敗訴した。原告は、国内の原子力発電所の放射能被ばくで甲状腺がんを患ったと主張する618人とその家族2882人。彼らは再び控訴する考えだ。

■ 「加害者が無害であることを証明しない限り、責任は免れない」

 始まりは「キュンド君一家訴訟」だった。同じ家に住む4人の大人のうち3人ががん患者で、またそこで生まれた子どものキュンド君には発達障害がある。一家は釜山市機張郡(キジャングン)と蔚山市蔚州郡(ウルサンシ・ウルチュグン)にまたがる古里(コリ)原発周辺で20年間暮らした。2012年7月、キュンド君の母親であるパク・クムソンさんは、原発が排出する放射線によって甲状腺がんが発病したと主張し、韓水原を相手取って2億ウォン(約2200万円)の慰謝料請求訴訟を起こした。パクさんは2014年10月、1審で韓水原に1500万ウォン(約165万円)の慰謝料の支給を命じる一部勝訴判決を言い渡された。この判決文で判事は、立証責任が誰にあるかが重要だと指摘した。

 「公害訴訟において、事実的な因果関係の存在に関して科学的に厳密な証明を被害者に求めることは、公害による司法的救済を事実上拒否する結果になりうる。加害企業が何らかの有害な原因物質を排出し、それが被害者に到達して損害が発生したとすれば、加害者側がそれが無害であることを証明できない限り、責任を免れないとみるのが社会の公平の観念に合致する」

 甲状腺がん共同訴訟は、この判決文から始まった。パク・クムソンさんの1審判決から2カ月後の同年12月から2016年11月まで、同じ主張の訴訟4件が相次いでなされた。原告は新ハヌル原発(慶尚北道蔚珍郡147人)と月城原発(慶尚北道慶州市陽南面94人)、古里原発(釜山機張郡と蔚山蔚州郡251人)、ハンビッ原発(全羅南道霊光郡126人)から直線距離15キロ以内の最隣接地域の住民であり、甲状腺がんを患った当事者とその家族だ。彼らは原発と平均7.4キロの距離で19.4年間暮らした。

 9月7日、月城原発広報館前の移住対策委の座り込みテントで会った住民のオ・スンジャさん(74)は、首全体を囲むようにできた切り傷を見せてくれた。2014年に診断された甲状腺がんの手術の跡だ。オさんのがんが見つかった時、すでにリンパ腺まで転移した状態だった。首の3分の2を切開する手術を受けた。オさんは1998年から、原発から5キロ離れた上羅里(サンラリ)に住んでいるが、2008年には娘が、2012年には息子が甲状腺がんの診断を受けた。オさんの声には金属性の音が混じっていた。

 「病院でも家族歴のためではないと言われました。ならば、何が原因でしょうか。手術してからは頭も回らず、いつもだるいです。言葉が思うように出てこなくて、相手が聞き取れない。電話に出たのに、声が出なくて受話器を投げて一人で泣いたこともありました。息子は午後3時頃になると誰かに首を絞められているようだと言っています」
2023年8月30日、釜山高等裁判所前で甲状腺がん共同訴訟の原告らが開いた記者会見の様子/聯合ニュース

 移住対策委副会長のファン・ブンヒさんも、2012年に甲状腺がんの診断を受けた。ファンさんは月城4号機のドームから1.2キロ離れた家で1986年から暮らしてきた。家を出るとすぐ原発が目に入る。「(原子炉から914メートルの『原発制限区域』の)境界線の内側に小学校も村もありました。1号機を建てて移住させて、2号機を建ててまた移住させて、そうやって私の家の目の前まですべて掌握していきました」

■ソウルの子どもたちの体にはないトリチウムがここでは全員検出

 ファンさんと移住対策委の住民たちは、2011年3月11日、日本の福島原発事故が起きるまで何も知らなかった。政府がやることだからと信頼し、ただ「きれいなエネルギー」「煙突のない電気工場」だと思っていた。福島原発事故が起きてからようやく、事故が起きなくても原発から放射能が出ることを知った。その前は疑問に思ったこともなく、誰も教えてくれなかったことだった。

 以前から村では白血病を患った子どもやがんで死亡するお年寄りも多かった。2014年8月に移住対策委を設置し、2015年に専門家の助けを借りて住民を相手にトリチウム内部被ばく検査を行った。その結果、検査した40人全員からトリチウムが検出された。その中には5~19歳の子どもと青少年9人が含まれていたが、体重16キロの5歳の子どもの体から成人より多い1リットル当たり17.3ベクレルのトリチウムが出た。その子はファンさんの孫だった。

 「『教育放送(EBS)』でドキュメンタリーを撮りたいと訪ねてきたことがありました。 それで頼みました。ここの子どもたちと原発と関係のない子どもたちの尿を検査して比較してほしいと。村の子ども5人とソウル仏光洞(プルグァンドン)のある保育園の子ども5人の尿検査を行ったところ、うちの子どもたちのみトリチウムが出ました。このような結果があると韓水原に話したのですが、基準値以下だから問題ないと言われました」

 基準値を下回る低線量でも、原発周辺地域の住民たちのように長期間続けて被ばくする場合、健康に影響があるというのが彼らの主張だ。移住対策委は、原発制限区域から追加で1キロを「緩衝区域」に設定し、希望する人に限り資産を処分してほしいと求めている。ほぼ10年間不動産が売れず、移住が不可能であるからだ。

 2015年から移住対策委員会に参加したキム・ジンソンさん(76)は、ここ陽南面羅兒里(ヤンナムミョン・ナアリ)で生まれ、ずっと慶州(キョンジュ)で暮らしてきた。羅兒里には1990年代半ば戻ってきて今も暮らしている。制限区域から50メートル離れたところに自宅がある。キムさんは2016年9月の慶州地震の時のことを今でも鮮明に覚えている。「生まれて初めてのことでした。その日、部屋で横になっていたら、あっという間に2回も1メートル以上横に揺れました。その時すぐに思ったのが『原子炉は安全だろうか、壊れたのではないか』でした」

 キムさんは生まれ育った慶州から離れなければならないと考えて移住対策委に参加している。「移住するならどこに行きたいか」と尋ねると、キムさんは「放射能や原子力と関係のないところ。(慶尚南道)梁山(ヤンサン)や(慶尚北道)永川(ヨンチョン)のように慶州から遠く離れたところだ」と答えた。

 「私たちは365日ここにいるから、放射能も累積した。バナナからも放射能が出ると言うけど、バナナを無理やり食べさせられるのと、食べたくて食べるのとは全く違う。また、原発が1つだった時と4つになった時とで制限区域の大きさが同じなんてあり得ない。(制限地域に)わずか1キロを追加して(そこに住んでいる人々を)移住させてほしいと言っているのに、法律がないという話を繰り返すだけ」

 2010年に羅兒里(ナアリ)に来た住民のキム・ミョンリさん(50、仮名)の子どもの体からも、トリチウムが検出された。不動産に家を売りに出しても何の連絡もなく、他の地域の不動産を当たったが、結果は同じだった。蔚山から来た不動産屋は家を見て「原発ドームが見えるからうちでは取り扱えない」と話した。

 「韓水原に『あなたたちが騒いで状況を悪化させている』と言われ、最初はとんでもないと思っていましたが、最近はあの人たちの言う通りかもしれないという気がします。私も最初は放射能のせいで病気になるなんてありえないと思っていました。でも検査すればするほど、羅兒里はそうでした。近いところに長く住んでいれば、そうなるのです。原発近くには絶対住まない方がいいと思います」

 2015年8月、欧州放射線リスク委員会(ECRR)のクリストファー・バスビー代表が移住対策委員会の座り込み場を訪れたことがあった。甲状腺がん共同訴訟の証人として法廷に立つためだった。キム・ミョンリさんは「その時尋ねてみた。ほかの国には甲状腺がん患者の統計がないのかと。しかし、『ほかの国はこんなに(原発)近くに人が住んでいるケースはない。そのような統計自体が必要ない』という答えが返ってきた」と伝えた。

 キムさんは慶州地震の時、子どもを連れて家を出て吐含山トンネルまで車で移動した。町のトンネルは1車線なので、人が集まるとそのままここに閉じ込められるかもしれないと心配したからだ。ファン・ブンヒさん、オ・スンジャさん、キム・ジンソンさん、キム・ミョンリさんは、2016年の地震の時、皆同じ考えが頭をよぎったという。「原発は安全なのか」と。

■「安全」ではなく「分からない」が正確な表現

 韓国の原子力安全法は、人が住めない制限区域を原子炉の半径560メートルや700メートル(軽水炉)、914メートル(重水炉)に設定している。その区域では居住が禁止され、原子炉運営や教育・訓練目的の一時的滞在だけが許される。原発の最も近くに住んでいる住民たちは、この境界線のすぐ外で365日24時間を過ごしている。

 原発のある米国、カナダ、フランス、日本のような国々は、制限区域のほかに追加の緩衝区域を設けるか、住居地から遠く離れたところに原発を建設する。そのため、原発周辺の甲状腺がん患者がどれだけいるかを調査した事例もない。米国とベルギーでそれぞれ研究を行ったことがあるが、研究期間も短く、追跡調査がなされなかった。周辺の住民がほとんどいないため、韓国のような甲状腺がんをめぐる裁判もない。

 福島も第一原発の水素爆発の際、半径30キロ圏の住民を疎開させたが、当時の居住者は17万人に過ぎなかった。釜山(プサン)と蔚山(ウルサン)にまたがる古里(コリ)原発の半径30キロには340万人が住んでいる。6機以上の原発が集中している団地のうち、原発周辺に住んでいる人が世界で最も多いところだ。

 しかし韓国水力原子力(韓水原)は、原発と近いところに住民が住んでも被ばく量が基準値を超えていないため安全だ(がん発病との因果関係は不明)という言葉ばかりを繰り返している。「キュンド君一家訴訟1審」を除き、残りの裁判結果も全て韓水原のこの主張を認容した。果たしてそうだろうか。いくら長期間被ばくが続いても、基準値を超えなければ安全なのだろうか。

 通常100ミリシーベルト以上を「高線量」という。高線量放射線はがんとの関連性がはっきりしている。しかし、100ミリシーベルト未満の低線量については様々な議論がある。ここで「しきい値無し直線(LNT)モデル」を理解することが重要だ。これはいくら少ない線量の放射線でも、被ばくした場合、被ばく線量に比例してがん発生の危険度が高まることを意味する。グラフで表現すると、右上向の「直線」として現れ、階段のように曲がる区間がない(「しきい値」)。100ミリシーベルト未満区間で危険度が突然「0」に落ちるのではなく、絶えず0に近づいていくということだ。つまり、いくら小さな線量の放射線でも、被ばくすればこれに比例してがん発生の危険度が高まるとみる。

 甲状腺がん共同訴訟過程で原告側が申請した鑑定に対し、大韓職業環境医学会が2016年2月に返信した「低線量放射線への露出と甲状腺がん」の内容も同じ脈絡だ。

 大韓職業環境医学会は結論で「100ミリシーベルト以上の高線量放射線の被ばくによる確定的影響と発がん誘発についてはよく知られているが、100ミリシーベルト未満の低線量放射線の場合、そうではない。染色体の損傷は証明されたが、損傷の回復や発病に至るまで証明されていない部分が多い。20~100ミリシーベルト水準では比較的直線的な容量と反応関係を示すが、20ミリシーベルト未満は不確実だ」と指摘する。

 それと共に「ただし、最近の動物実験研究では低線量放射線の生体への影響が確認された研究が優勢だ。しきい値無しモデルよりさらに高い危険度を持つ『超線形モデル』(supra-linear model)が提起されたこともある」と付け加えた。

 要するに「安全」ではなく「分からない」のであり、さらに最近では動物研究などで、低線量放射線の生体への影響の因果関係が確認されると説明しているのだ。

 大韓職業環境医学会は2017年12月、原告の事実照会申請に対する返信でも「20~100ミリグレイ(グレイはシーベルトと類似した単位)区間は比較的直線的な容量反応関係を示すが、20ミリグレイ以下は不明だ」と答えた。

■原子力産業界の利害を代弁する「事実上のトリック」

 このような意見に裁判所と韓水原は目を向けない。「明確ではない」を「安全」と解釈する。韓国政府も同じだ。環境部は2023年5月31日、月城原発周辺の住民に対する健康調査結果を発表したが、「がん発生率が相対的に低かった」と発表した。同じ結果について脱核(反原子力)団体は環境部が結果を縮小・歪曲したと反論した。

 環境部が発表した調査結果は、月城原発の半径20キロ以内(慶州市陽南面、文武大王面、甘浦邑)の住民を対象にしたもの。ソウル大学医学部が2021年12月から1年間調査したが、その結果、この地域のがん発生は全国と比べて男性は88%、女性は82%だった。全国よりも低い。甲状腺がんは女性の場合原発周辺が全国より16%低く、男性は原発周辺が3%高かったが、環境部は「統計的に有意ではない」とした。住民874人の尿検査結果でも、トリチウムによる放射線露出量が年間0.00008ミリシーベルトであるため、法的基準(1ミリシーベルト)の1万分の1に過ぎないという。

 しかし脱核団体は、20キロではなく10キロ以内に居住する住民を対象にすべきだと指摘する。この場合、住民のがん発病率は全国より31%も高く、体内からトリチウムが検出され染色体が損傷した人も多数だと主張する。甲状腺がん共同訴訟市民支援団は8月24日、釜山市議会で環境部の発表に反論する記者会見を開いた。

 その内容によると、半径10キロ以内は半径10~20km区域に比べてがん発病率が44%も高かった。特に、原発から半径5キロ以内の住民960人の場合、尿検査で77.1%の740人からトリチウムが検出された。これらの平均検出量は1リットル当たり10.3ベクレルだが、特に原発に最も隣接した羅兒里の住民はこれより高い15.3ベクレルだった。ファン・ブンヒ氏の5歳の孫から出た検出量とほぼ同じ水準だ。

 また、同地域の住民34人の染色体標本調査で、半分近い(47.1%)16人の染色体に深刻な損傷がみられた。環境部は半径10キロ以内のデータを発表しなかった理由として「標本が少なすぎて統計的有意性がないため」としたが、「政府が原子力産業界の利害を代弁している」という批判が高まっている。

 実際、放射線被ばく基準などを定める国際放射線防護委員会(ICRP)も設立初期に遺伝学者を排除するなど、原子力産業界の観点に偏っているとの指摘がある。ICRPは1955年の国連放射線影響科学委員会が発足した当時、「放射線の人体影響のしきい値線量」(一定値以上でなければ意味がないという)を提示した放射線防護学者だけを集めた。遺伝学ではいくら少ない放射線量でも遺伝子変異を起こすとみなすためだ。

 日本の科学技術史研修者の中川保雄氏が書いた『放射線被曝の歴史』によると、「放射線保健物理学の創始者」と呼ばれるカール・モーガン氏の類似した証言が出てくる。モーガン氏は一時、核がもたらす明るい未来を確信していた学者で、ICRP設立初期に放射線の内部被ばくを扱った第2小委員会委員長を務めた。

 モーガン氏は1959年にICRPが内部被ばくを重視しない方針を決めたことで、委員会から退いたが、自叙伝『原子力開発の光と影-核開発者からの証言』で、放射能核種が体内組織に沈着する場合、人体に破壊的影響を与えるとし、「ICRPは原子力業界の支配から自由ではない」と主張した。中川氏も著書で「ICRPが被ばくの人体影響を測定するために行う複雑な計算は、内部被ばくと低線量被ばくの危険性を縮小する『トリック』」だと指摘した。

■ 「台風や地震が起きるたびにあらゆる神様に祈ります」

 ファン・ブンヒさんに福島原発の汚染水放出について聞いた。

 「私も専門家に聞いたことがあります。福島原発汚染水のトリチウムと月城原発のトリチウムは違うのかと。同じだそうです。日本のトリチウムについてはこれほど大騒ぎなのに、 国内のトリチウムについてはなぜ何も言わないのでしょう。石炭発電所は事故が起きたらその工場だけ取り壊せばいいのですが、原発は廃炉ができないじゃないですか。日本のような事故が起きたら私たちはどうしたらいいですか。文字通り災害です。台風が来るたびに、地震のたびに、あらゆる神様に祈るようなこんな生活からもう抜け出したいです」

釜山・慶州=パク・キヨン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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