「インボイス残業」させない請求書の効率化

「インボイス残業」させない請求書の効率化法、紙・PDF混在の洪水を乗り切る

玄 忠雄
日経クロステック／日経コンピュータ
2023.09.12
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全4817文字

　2023年10月1日に始まる「インボイス制度（適格請求書等保存方式）」では、準備が不足すると現場から経理部門まで想定しなかった負荷が降りかかる恐れがある。インボイスは適用税率や税額の明細を明示した請求書や納品書などを指し、「適格請求書発行事業者」として登録した事業者が発行する。制度施行の前後で変わる点を押さえ、取るべき対策をデジタル中心に3回にわたって解説する。第1回の本稿では、請求書を巡る業務上の変更点を説明する。「インボイス残業」にならない備えはできているか、確認してもらいたい。

　2023年10月末、印刷事業を手掛けるA社の経理部は想定外の業務に見舞われていた。月次の請求書類の起票締め切り日が近くなり、インボイス（適格請求書）の要件を満たさない請求書や支払いが次々と出てきたからだ。

　取引先B社の請求書は記載された事業者の登録番号が誤っており、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で検索しても一致しなかった。C社からの請求書は消費税の計算方法に明らかな誤りがあり、「総額表示方式」になっていない。経理部の担当者は営業担当と共にB社やC社に連絡を取り、請求書を修正して再発行するよう求めた。入金は修正した請求書を確認してからだと伝えると、両社の担当者は渋った。しかし受け入れてもらうほかはない。

　請求書がない取引にも見落としがあった。例えば、既に交わした契約に基づき、請求書なしで毎月入金している取引だ。営業部門や制作部門が利用するクラウドサービスなどのサブスクリプション（定額課金）型契約を10月末まで見逃していた。営業など現場部門に対し、サービス事業者に急ぎ問い合わせてインボイスに該当する支払い証明を入手するよう指示をした。

　同じころ、A社の社長は制作部門の責任者らと経営への影響を精査する緊急会議を開いた。チラシなどの制作外注先にはフリーランスを含め、年間売上高1000万円以下の事業者で納税義務がなかった「免税事業者」が多くいる。免税事業者とは同じ料金で取引の継続を決めていた。10月に入って免税事業者と課税転換する免税事業者がおよそ半数ずつと判明し、試算すると損益への影響が小さくないことが分かった。いまA社は印刷料への価格転嫁など、急な事業戦略の練り直しを迫られている――。
負荷増で経理は月1～2日分の残業も

　消費税を正確に徴収するためのインボイス制度が2023年10月1日に始まると、企業ではどのようなことが起こり得るのか。A社は架空の事例だが、取引先も含めて事前の準備が不十分ならば起こり得るシナリオだ。

　インボイス制度は大きく「売り手」と「買い手」の2つの業務で対応が必要になる。売り手が請求書の形でインボイスを発行し、買い手が受領するケースが多い。このうち事務負担が大きく、企業での対策が遅れがちだと関係者が指摘するのが、受領側だ。受け取ったインボイスの記載事項が正しいかを確認し、誤りがあれば発行元に修正と出し直しを求めるなど、手間がかかる作業が発生するからだ。

インボイスの様式例。新たに確認が必要になるのは、主に適格請求書発行事業者（課税事業者が登録できる）の登録番号と、消費税計算が総額表示方式で記載されているか。厳密には登録番号が正しく、税計算も正しいことを確認する必要がある
（画像：日経クロステック）
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　インボイス制度が始まると、記載事項を満たした請求書を受領しないと仕入れ代金に上乗せされた消費税の控除が認められなくなる。

　請求書処理クラウドサービスなどを提供するLayerXの試算によれば、インボイス制度への対応により経理部門は職員1人当たり月1～2営業日分の業務負担が増えるという。日本全体での業務量増加は月1.4億時間に相当するといい、業務負担を軽減する外注やデジタル活用がなければ「インボイス残業」が発生しかねない状況だ。

　請求書は、取引先ごとに郵送で紙の書類が届いたり、メールなどでPDFファイルとして送られたりして、異なる形式が混在する。記載の様式も様々だ。これらを「現場と経理部門の間で、誰がどこまで確認するのか、デジタルでどう効率化するかが業務設計のポイントだ」とミロク情報サービス（MJS）セミナー・教育グループの清水直美副部長は指摘する。うまく体制を整備できれば、現場と経理部門共に業務負担を増やさず、本来業務に集中する働き方を実践できる。

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　印刷業を営むA社では請求書を巡り、想定外の混乱があったーー。消費税を正確に徴収するための「インボイス制度（適格請求書等保存方式）」が2023年10月1日に始まると企業でどのようなことが起こり得るのか。請求書を実際に受け取ったらどうすればいいのか解説する。

（出典等）