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さよならLightningケーブル 数年で”時代遅れ”になったインターフェイスの足跡

10/10(火) 7:02配信
リアルサウンド
当時は大歓迎された「小型・リバーシブル・安全」

『iPhone 15 Pro』に備えられたUSB Type-C端子

 先日発表された『iPhone 15』はインターフェイスにUSB Type-Cを採用。2012年から使われていたLightningインターフェイスと"お別れ"することになった。ここではLightningという規格の足跡と、それに並走して普及していったUSB Type-Cという規格の関わりについて解説する。

【写真】いまだLightning端子が採用されており、充電方法も不便な『Magic Mouse』

 「Lightning」は2012年に発表の『iPhone 5』から採用された規格で、それまでiPhoneが利用していた30ピンの「Dock」を刷新するものだった。DockはiPodとMacを接続するために生まれた規格で、大型で表裏の区別がつきにくいという欠点があったが、Lightningはいずれの問題も解決していた。端子の小型化とリバーシブル接続の実現は、当時のユーザーに好意的に受け入れられた。

 LightningはiPhoneにとって、もう一つ大きな恩恵をもたらした。それは「MFi」の厳格化による社外製品の安全性の担保である。MFiはAppleが実施しているサードパーティ製アクセサリの認証プログラムで、このプログラムに準拠した製品にはAppleの認証を受けているという証明"MFiロゴ"を付与出来る。Dock時代からこの仕組みはあったものの、実際にはAppleの規格を逸脱した社外製サプライが氾濫しており、Lightningはこれに対する抜本的な対策ーー端子部分にチップを内蔵しており、MFiの認証を得られたサードパーティにはこのチップが提供されるーーを取り入れた規格だった。かくして2012年、iPhoneは「安心・安全」で「小型で便利」なインターフェイスを手に入れたのだ。

〈2年後に現れた大本命「USB Type-C」〉

 USBはもともとコンピュータにマウスやキーボード、プリンタなどの周辺機器を接続するために策定された規格であるが、取り回しの良さから様々な製品に採用されてきたが、このあたりの歴史については割愛する。

 USBは元来、ホストとデバイスを接続するために生まれた規格であり、これは親機と子機、という関係にも近い。USBケーブルというのはホスト(親機)に刺す端子とデバイス(子機)に刺す端子が別で、給電も一方通行で行われることを想定して作られたものだ。

 しかし、スマートフォンが普及するとこうした原則を適応するには不便で、つまりスマートフォンは充電・通信用にデバイス側の端子を持っているので、同じようにデバイスとして振る舞うカメラやプリンタなどを接続するには、「USB On-The-Go」という仕組みに対応した専用のケーブルを使う必要があった。端子の形もいくつか存在し、加えてこの時期にはデータ通信をオミットした「充電専用USBケーブル」というお行儀の悪いケーブルも流通していた。

 要するにUSBという一つの規格にいろんな用途が求められており、2010年代には大変煩雑な状況が生まれていた。ユーザは多種類のケーブルを使い分けることの煩雑さにうんざりしていたのだ。

 こうした状況を前段として2014年、USB Type-Cが発表された。その仕様は先進的で、端子は小型でリバーシブル接続に対応、そしてホストとデバイスの端子をいずれもUSB Type-Cに置き換えできるという画期的なものだった。またその2年前に策定されていたUSB PD(USBでの大規模な電源供給を実現する規格)にも対応し、すでに幅広く普及していたUSBの利便性を大きく向上することが期待された。「当初の想定活用範囲を越えた大規模な普及に対応する、新たな規格の策定」が実現したのだ。

 USB Type-C策定の翌年である2015年、AppleはUSB Type-Cポートを1機のみ備える『MacBook?』を発表、翌年2016年にはインターフェイスをUSB Type-C(ThunderBolt? 3)に一本化した『MacBook? Pro』を発表し、同規格の採用を急速に進めた。他社の例を見るとソニーは2016年、Xperiaのフラッグシップモデル「Xperia XZ」にUSB Type-Cを採用。モバイル、デスクトップを問わずコンピューティングの世界でUSB Type-Cは順調に普及し、2010年代後半にはスマートフォンも、コンピュータも、バッテリも、イヤフォンも、扇風機も1本のケーブルで接続・充電できる時代が到来し、つまりUSB Type-Cは大いに受け入れられた。

 そして数多の周辺機器が「とりあえずUSB Type-Cで繋げば動く」という世界では、USB Type-Cに対応していない機器の不便さが目立つことになる。そう、Lightningだ。誕生から5年ほどの時間でLightningはすでに時代遅れになっており、その後現在に至るまで、Appleの新iPhone発表会が近づくたびに「次こそはUSB Type-C採用か?」と語られるようになってしまったのだ。

 ではなぜ、Appleは2023年まで引っ張ってiPhoneのインターフェイスをLightningに据え置いたのだろうか? そしてなぜ今、Lightningを手放したのだろうか? 次項ではこれを推測してみよう。
AppleがLightningを手放さなかった理由

 AppleがLightningを手放さなかった理由はいくつかあるだろうが、一つには前項にて語った「MFi」の存在が挙げられる。USB Type-Cを採用することは、自社の策定した規格に基づく認証された安全なサプライを提供することとは相反する。「自由」と「安全」はある程度トレードオフの関係を持っており、すでに確立されていたLightningのエコシステムを捨ててUSB Type-Cを採用することには大きなリスクがあったはずだ。

 もう一つには無線通信技術の進化により、一般的な用途における有線接続のデータ転送が以前ほど重要ではなくなってきた、というのもあるだろう。Wi-Fiの転送速度は2013年の時点で3Gbps(300MB/s)を超えており、これを利用したAirdropによるデータ転送もできるため、Lightningのような有線接続の技術を革新をすることにメリットがあまりなかったのではないかと思う。

 また個人的には、当時のAppleは将来的にIPhoneの接続ポートそのものを無くしたかったのではないかと推察している。ポートがなくなれば防水化のハードルは大きく下がるし、内部設計も楽になるだろう。無接点充電機能を持つ現在のiPhoneを見ているとそんな気がしてならない。

 ちなみに時々「Lightningは転送速度がUSB2.0で遅い(から廃止された)」という言説を見るが、これは正確ではない。2017年に発売されたiPad ProはLightningを備えているが、これはUSB 3.0(USB 3.2 Gen 1)に対応しており5Gbpsの転送速度と高速充電の機能を持っていた(ただ、それでも当時の水準から見ても遅いのは事実で、加えてこの後iPadは順にUSB Type-Cを採用することになるのだが……)。別途コントローラを用意すればUSB 3.xに準拠するLightningポートを作ること自体は可能だということだ。

 逆になぜ、AppleはこのタイミングでLightningを手放し、USB Type-Cを採用したのだろうか。一番直接的な理由はEUの法案改正だろう。

 EUは2021年9月、スマートフォンに代表されるデバイスの充電端子をUSB Type-Cに義務付ける法案を可決し、2024年12月28日からEUで販売されるデバイスにはUSB Type-Cの採用が義務付けられることとなった。BBCが報じたEUの声明によれば、こうした規格の統一により「不必要な充電器の購入にかかる費用を年間最大2億5000万ユーロ(約396億円)節約でき、廃棄物を年間1万1000トン削減できる」という。

 EUは2014年にもスマートフォンの充電規格としてMicro USBを採用するなど、以前より充電端子の標準化を進めている(ちなみに2014年のAppleにはこの策定に合意しつつも「Lightning - Micro USBアダプター」を販売することでこの策定を実質無視し、Lightningを続投した過去がある)。Appleは今回の「USB Type-C統一法案」にも反対しつつ、採択後には遵守するとし、ついにLightningを手放すに至った。

 思うに2014年と2023年ではAppleの環境問題に対するスタンスが大きく進歩しており、EUの勧告を無視できなかったのだろう。今回の新製品発表で通底して「環境への配慮」が語られていたことも印象的だ。

 『iPhone 15 Pro』に採用されたSoC「A17 Pro」はSoC内にUSB Type-Cコントローラーを搭載しており、USB 3準拠の10Gbpsでの転送が可能とされている。大量のRAW画像やApple ProRes?フォーマットの動画など、大容量のコンテンツを転送するには非常に便利に使えるはずだ。

 さて、ここまでLightningインターフェイスとUSB Type-Cの関わりを早足に振り返ってみた。現在Lightningは一部のiPhone・iPad、そしてMacの周辺機器である「Magic Mouse」、「Magic Keyboard」、「Magic Trackpad」を有線接続するためのインターフェイスとしてその姿を残している。こうした接続がかつてはUSBの役割だったことを考えると、その用途は現在逆転しており不思議な気持ちになる。いずれLightningはこれからもMacの近くにその姿を残すのだろうか? 私はその最後を見届けるつもりでいるが、一つだけ要望があるとするならば、Magic Mouseの充電方法だけは今からでも変えてほしいと思うのである。

白石倖介

2024-04-09 (火) 10:18:36
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Last-modified: 2024-04-09 (火) 10:18:36