ロシアが日本に報復 歴史持ち出し「日本帝国は世界征服を企んだ」

2023.10.13

ジェームズ・ブラウン

テンプル大学ジャパンキャンパス 政治学上級准教授兼国際関係学科コーディネーター

プーチン政権は、歴史教科書を報復の武器にする(写真:SPUTNIK via ロイター)

ロシアが日本を攻める武器として歴史教科書を使い始めた。今年9月から導入した新たな教科書は、「日本は戦争犯罪を認めようとしない米国の傀儡(かいらい)政権」との印象を学生たちに与えるものだ。ウクライナ侵攻を非難し、対ロ制裁を続ける日本に対する報復であることは明らかだ。

 歴史問題はこれまで何十年もの間、日本と中国、および日本と韓国との関係に摩擦を生じさせてきた。さらに最近、日本とロシアとの関係においても歴史問題が注目され始めている。

 ロシア政府が、日本を批判するための道具として歴史を利用し始めたのだ。ロシアがウクライナに侵攻し、日本がウクライナ支援を決めると、駐日ロシア大使館はこれを非難して、公式SNSに「日本は100年も経たぬ間に2度もナチス政権を支持する挙に出ました」と投稿した。さらに2022年12月、日本が新たな国家安全保障戦略を発表すると、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、日本は平和的発展を放棄し「無制限の軍事化の道に戻った」と批判した。

 この傾向は23年に入っても続いている。ロシア国営メディアが9月、日本がかつてアイヌ民族に対してジェノサイド(民族大量虐殺)を行ったと主張する記事を掲載した。「北海道は日本の領土ではなく、アイヌとの度重なる戦闘を経て奪った植民地である」という。さらに、ロシア政府は9月3日を「軍国主義日本への勝利と第2次世界大戦終結の日」に改名すると決定した。これまでは、第2次大戦終結の日とだけ位置づけていた。

 日本が続ける対ロ制裁への報復としてロシアがこれらの行動を取ったのは明らかだ。そして、この「歴史戦争」において、ロシア政府は教科書を武器として利用し始めた。
歴史教科書を武器化するクレムリン

 9月の新学年開始に伴い、ロシア政府は4冊の新しい教科書を導入した。これらは、10年生と11年生にロシア史と世界史を教えるために使用する。日本と異なりロシアでは、すべての学校が同じ教科書を使用する。したがって、これらの新しい教科書は、ロシア全国の16~17歳の学生、約65万人が使用することになる。

 新しい教科書の執筆陣筆頭はウラジミール・メジンスキー氏である。同氏は歴史家ではなく、広報の出身だ。04年に、プーチン大統領が率いる統一ロシアから立候補して国会議員となり、12~20年に文化大臣を務めた。現在はプーチン大統領の側近として働いている。

 メジンスキー氏は保守的な愛国者として知られる。同氏の考えによれば、歴史教科書の役割は事実を中立的に伝えることではなく、愛国的な物語(ナラティブ)を普及させることである。「自分の国と国民を愛していれば、彼らが描く物語は常に前向きなものになるだろう」と発言している。

 予想されたとおり、メジンスキー氏らが書いた新しい教科書は、ロシアの歴史と、同国政府が挙げた成果について、非常に好意的な印象を学生たちに植え付けるよう編集されている。従来の教科書と異なり、スターリンを賢明で実行力のある指導者として描いた。また、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を正当化すべく、歴史を操作するプロパガンダを数十ページにわたって掲載している。

 他方、米国に関しては、世界の覇権を維持しようとしているが、長期的な衰退に向かっていると主張する。それとは対照的に、中国との関係は肯定的に描いている。例えば、日中戦争の最中、中国共産党に対してソ連が実施した軍事援助を誇らしげに強調する。当時、ソ連は700人のパイロットを含む要員を中国に派遣した。

「123万トンの放射性水を太平洋に放出」

 日本に関する記述は、従来の教科書に比べて大幅に増加した。そして、そのほぼすべてが、日本が取った行動を否定的に表現している。記述の中には、事実に即したものもあれば、事実に反するプロパガンダ的な内容もある。ただし、いずれも日本のイメージをネガティブなものにする作用を持つと考えられる。

2024-04-09 (火) 10:19:01
&deco(gray,12){a:12 t:1 y:4};

トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2024-04-09 (火) 10:19:01