中国の常軌を逸した「日本叩き」…自国の「汚染水」には沈黙し、日本のみを非難する姑息な手法をどう考えるべきか

8/30(水) 6:04配信

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現代ビジネス
中国外交部HPより

 日本政府は、8月24日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出を開始した。科学的データに基づき、またIAEA(国際原子力機関)のお墨付きを得た上での決定である。その後の海水のモニタリング調査でも、数値が計測できないくらいに問題のない状態である。

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 ところが、中国政府は、「核汚染水」と称して問題化し、日本からの水産物を全面禁輸したのみならず、中国国内での加工や調理を行うことも禁じた。また、中国からの抗議電話が日本に殺到し、公的な機関でもない民間の商店などに被害が相次いでいる。青島では、日本人学校が投石される被害も出ている。常軌を逸したこの反応の裏には何があるのだろうかーー。

海洋放出に至るまでの経緯
 2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所が大事故を起こした。1986年4月のチェルノブイリ原発事故以来の深刻な事故で、炉心融解(メルトダウン)という事態になった。

 今年の4月15日にドイツは全ての原発を停止したが、その政策の発端はこの事故である。福島第一原発事故を受けて、当時のメルケル政権は、その時点で稼働していた17基の原発のうち、古い原発7基と事故停止中の1基を稼働停止にし、残り9基も2022年末までに段階的に廃炉にする方針を決めた。ところが、ウクライナ戦争によって電力危機が生じたため、実施時期が昨年末から今年の春まで延期されたのである。

 福島では、事故によって、放射性物質が広く放出されたが、その後、除染作業が進み、帰還困難地域も少しずつ減少している。今は、廃炉作業が行われているが、完了は20~30年後になると見られている。

 原子炉の中には核燃料(燃料デブリ)があり、これを常に水で冷却しているが、原子炉建屋には雨水や地下水も流入するため、冷却に必要な分以上の水が溜まってしまう。放射性物質で汚染されたこの水をどこに、そしてどのようにして捨てるかが問題なのである。

 そこで、先ずはこの汚染水から放射性物質を多核種除去設備(ALPS、アルプス)によって除去する。セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、コバルトなど、ほとんどが除去できるが、トリチウムだけは除去できない。

そもそもトリチウムとは何か
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 ALPSで処理した後の水(これを処理水と呼び、汚染水とは呼ばないようにしている)は、トリチウム濃度を1リットルあたり1500ベクレル未満まで海水に薄めてから放出されるが、これは国の安全基準の40分の1であり、WHOの飲料水水質ガイドラインの7分の1である。

 IAEA(国際原子力機関)も、処理水の海洋放出は科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うものと評価している。

 トリチウム(三重水素)は水素の一種で放射線を出す放射性元素で、自然界にも存在するが、原発の運転や核実験によっても生じる。トリチウムは、酸素と結びついたトリチウム水として、海水、淡水のほか、雨水や水道水などに普通に存在しているし、われわれの体内にも常に数十ベクレルのトリチウムが存在している。

 トリチウムの人体への健康影響は、セシウムの約700分の1であり、食品については影響の考慮は不必要なので、食品の基準値の規制対象にはなっていない。また、人や魚介類に取り込まれたトリチウムは、水と同様に速やかに対外に排出され、体内に蓄積されたり、濃縮されたりはしない。

 処理水は、約1000基の貯蔵タンクに保管されるが、全容量は137万㎥である。東京ドームに水を貯めると124万㎥なので、その量の多さが想像できる。2023年2月現在で、既に132万㎥メートルまで埋まっており、今年の夏~秋頃には満杯になると見られていたので、今、海洋放出を開始したのである。

 ちなみに、中国も原発の処理水を海洋放出しているが、その中のトリチウムの量は、日本の6.5倍にものぼる。年間の処理水の量を見ると、福島は22兆ベクレル、中国では、紅沿河原発が90兆ベクレル(2021年)、泰山第三原発が143兆ベクレル(2020年)、寧徳原発が102兆ベクレル(2021年)である。

 自国の処理水については沈黙し、日本を非難するという余りにも姑息な手法である。

 以上に説明してきたような内容を、政府はもっと内外に発信し、英語のみならず、中国語、ハングルなどで懇切丁寧に説明すべきである。広報戦略で日本は負けている。

低迷が続く中国経済
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 北朝鮮が軍事偵察衛星の打ち上げを試みた件をめぐり、8月25日に開かれた国連安保理の緊急会合で、北朝鮮や中国は日本の処理水海洋放出を厳しく批判した。

 そもそも安保理決議違反の衛星打ち上げと処理水の問題は全く次元が異なり、言及すること自体が難癖をつけているとしか言えない。日米韓3ヵ国による中国や北朝鮮の封じ込めに反発するのは理解できるが、それへの対抗措置として処理水問題を取り上げるのは筋が悪い。

 汚染水の処理は、今後30年以上も続く話であり、中国は、日本産の水産物の禁輸をこれから30年以上も続けるのであろうか。拳を振り上げるときには、振り下げる条件とタイミングをきちんと計算しておかなければならない。

 ところが、今回はそのような計算もないようで、愚策としか言いようがない。習近平や王毅が関わらない形で政策決定が行われるはずはないが、二人の顔が見えない。習近平にしては、慎重熟慮した結果とは思えない。禁輸措置は、誰の得にもならないからである。

 日本の漁業関係者には大きな打撃であるが、中国でも日本の水産物輸入で生計を立てている人がたくさんいる。中国政府は彼らに補償などを与えないであろう。中国の経済には何のプラスもない。習近平政権の舵取りに異変が生じているのではないか。

 中国経済は不調である。4~6月期の実質GDP成長率は、前期比年率で+3.2%であり、1~3月期の同+9.1%から大幅に低下している。企業の景況感も悪化している。

 この不振の原因は、まずは個人消費の低迷であり、旅行需要も落ちている。団体旅行の解禁で、日本に来る中国人の爆買いに期待したいところだが、その期待はかなえられそうもない。

迫り来る不動産危機
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 次は、不動産業の業績悪化である。

 中国のGDPの4分の1を占める不動産業の4~6月期のGDPは、前年同期比マイナス1.2%となっている。48兆円の負債を抱える不動産大手の「恒大集団」が、8月18日、ニューヨークの裁判所にアメリカ連邦破産法15条の適用を申請した。また、最大手の「碧桂園」は、8月10日、今年前半の最終利益が1兆円前後の赤字に転落するという見通しを示し、米ドル建て社債の利払いができないとした。

 バブルが崩壊した30年前の日本の再現である。日本政府が総量規制を講じ、加熱した不動産投資を抑えた。その結果、バブルが潰れ、今に続くデフレ、不況、沈滞の原因となったのである。

 習近平政権は、現在、同じような政策を採用し、不動産会社に借り入れ上限を設けた。多額の借金でマンション開発を続けてきた不動産会社は、建設工事を継続することができなくなり、新たに売却する物件がなくなり、多額の負債を抱えることになった。また、代金を払ったにもかかわらず、新築マンションを入手できなくなった多くの国民の不満が爆発している。住宅販売の低迷が続く。

 さらに、輸出入も落ち込んでいる。また、1~6月の対中直接投資は、前年同期比マイナス9.6%(ドル建て換算)と減少している。今年の経済成長率目標は5.0%であるが、これが実現できるかどうかは微妙である。

 言論の自由という観点からも、習近平政権は毛沢東時代に逆戻りしたかのように締め付けを強めている。

 中国社会には閉塞感が漲っている。国民の不満への“ガス抜き”として、処理水問題で日本叩きを実行しているようにしかみえない。

 ・・・・・

 関連記事『中国はなぜ「日本叩き」にここまで必死なのか…? ALPS処理水放出に“過剰反応”する「5つの理由」』でも、ヒステリックな中国の対応について、詳しく解説しています。

舛添 要一

(出典等)

2024-04-09 (火) 10:19:03
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Last-modified: 2024-04-09 (火) 10:19:03