空自F-35の基地をオーストラリアへ “遠さ”が武器になる理由 でも法的に問題ないの?

   2023.08.30 稲葉義泰(軍事ライター) 
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tags: ミリタリー, 軍用機, 戦闘機, F-35「ライトニングII」, 航空自衛隊, オーストラリア軍, 法律

日本はオーストラリアと安全保障上の協力関係を強化していますが、航空自衛隊の共同訓練に関するリリースを見ると、自衛隊機が今後、オーストラリアに展開する可能性がうかがえます。なぜ遠く離れた地に拠点を設けようとするのでしょうか。
航空自衛隊の戦闘機がオーストラリアに?

 2023年8月21日(月)から9月2日(土)まで、航空自衛隊がアメリカとオーストラリアへ航空機による機動展開訓練を実施しています。参加するのは最新鋭のステルス戦闘機「F-35A」が4機、空中給油・輸送機「KC-767」が1機、輸送機「C-130」が1機、「C-2」が2機です。

 近年、日本はオーストラリアと安全保障上の協力関係強化を推し進めています。今回の訓練も、もともとは2022年12月9日に行われた「日豪外務・防衛閣僚協議(日豪2+2)」の共同声明において合意されたもので、その目的は「安全保障・防衛協力を深化し(中略)より強化された相互運用性を構築する」こととされています。
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航空自衛隊のF-35A戦闘機(画像:航空自衛隊)。

 今回の訓練に関して、航空自衛隊の報道発表には気になる一文も明記されています。それが、「オーストラリア連邦へのローテーション展開及び国外共同訓練を見据えた機動展開能力の向上」という部分です。つまり、航空自衛隊の戦闘機などが今後、オーストラリアへ定期的に展開することになるというのです。その目的とは、いったい何なのでしょうか。
なんでそんな遠くに? それこそが利点

 日本からオーストラリアまでは、直線距離にして6000km以上離れています。しかし、その距離が逆に武器になると考えたのだと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は思います。それは、有事の際の避難拠点です。

 もし、台湾をめぐって中国軍が軍事侵攻を開始し、その介入を防ぐため日本にいるアメリカ軍や自衛隊の基地を攻撃したとします。この場合、航空自衛隊にとって最悪のケースは、保有する戦闘機や輸送機などを、地上にいる段階で弾道ミサイルや巡航ミサイルで破壊されてしまうことです。
法的な問題はあるのか

 こうなると、自衛隊の戦力は一気に低下し、中国空軍の戦闘機に南西諸島上空の優勢を奪われてしまいます。そこで、事前に一定の航空機を中国軍のミサイルが届かない場所に分散退避させておけば、地上で一気に戦力が撃破される心配はなくなります。平時から海外に一定の戦力を置いておくことで、少なくとも開戦時に、中国軍が航空自衛隊の戦力を壊滅することはできなくなります。

 つまり、オーストラリアは航空自衛隊にとっての聖域として機能することが考えられるのです。こうした動きを見据えてか、日本とオーストラリアの間では近年、双方の航空機同士の空中給油を円滑に行うための「日豪空中給油に関する覚書」や、部隊の相互訪問や相手国内での活動をしやすくする「日豪相互円滑化協定」などが結ばれています。

 ところで、日本の自衛隊が他国の拠点から活動することについて、法的な問題はないのでしょうか。

 従来の政府見解などを見返しても、憲法をはじめとした国内法上の問題は生じないと考えられているようです。では国際社会のルールである国際法上はどうでしょうか。この点については、伝統的な国際法上の「中立制度」の観点から見ていく必要があります。

 中立制度とは、戦争をすることがまだ違法とされていなかった時代に発展したものです。国家間で武力紛争が発生した場合、戦いを交えている国(交戦国)と、それ以外の国(中立国)という分類が自動的に行われ、中立国には交戦国を公平に扱うこと(公平義務)と、戦いに関わらないこと(不関与)が求められました。そのうえで、中立国にはいくつかの義務が課されたのですが、そのひとつに「防止義務」があります。これは、中立国の領域を交戦国が軍事目的で使用することを防止する義務です。

 となると、もしオーストラリアが中国との武力紛争に加わらず中立国となった場合、オーストラリアが自国軍の基地を自衛隊のために提供することは、この防止義務の観点から問題となるように見えます。有事の際に日本は、オーストラリア国内の基地を使用できなくなってしまうのでしょうか。
自衛隊への基地提供が問題とはならない理由

 実はこの中立義務は2023年現在、その内容が大きく揺らいでいます。かつては、戦争を行うこと自体は法的に禁止されていなかったため、すべての交戦国を公平に扱う公平義務が成立していました。ところが、現在では基本的に国家が武力を行使することが禁じられているため、それを破って違法に武力を行使した側と、それに対して自衛権を行使して合法的に武力を行使している側という区別が可能となりました。
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「日豪空中給油に関する覚書」への署名の様子(画像:航空自衛隊)。

 そのため、現在はこの公平義務が消滅し、自国の独自の判断に基づいて自衛権を行使している国を支援することが可能になったと考えられています。とはいえ、同じく自国の判断として中立国になることも禁止されているわけではありません。要するに、現在は自国が中立国となるかどうかを選択でき、オーストラリアがその選択しなければ、自衛隊による基地使用は問題ないという解釈になるのです。

 このように、交戦国でも中立国でもなく、交戦国の一方に対する支援を行う国を「非交戦国」といいますが、たとえば現在進行形で行われているロシアによるウクライナへの違法な侵攻に際して、ウクライナにさまざまな支援を行っている国々は、まさにこの非交戦国として説明されます。

 今回の機動展開訓練が示すように、日豪間の協力体制強化は今後もより一層強化されていくでしょう。その目的は、戦いを起こそうとすることではなく、逆に攻撃をしようという相手の考えをくじき、それを抑止することになることを忘れてはなりません。

【了】

(出典等)

2024-04-09 (火) 10:19:53
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