令和6年度税制改正の大綱の概要

令和6年度税制改正の大綱の概要

(令和5年12月22日 閣議決定)

賃金上昇が物価高に追いついていない国民の負担を緩和し、物価上昇を十分に超える持続的な賃上げが行われる経済の実現を目指す観点から、所得税・個人住民税の定額減税の実施や、賃上げ促進税制の強化等を行う。また、資本蓄積の推進や生産性の向上により、供給力を強化するため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制を創設し、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化のための措置を講ずる。加えて、グローバル化を踏まえてプラットフォーム課税の導入等を行うとともに、地域経済や中堅・中小企業の活性化等の観点から、事業承継税制の特例措置に係る計画提出期限の延長や外形標準課税の適用対象法人の見直し等を行う。具体的には、Ⅰのとおり税制改正を行うものとする。

また、扶養控除等の見直しについてⅡのとおり決定し、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置についてⅢのとおり決定する。

Ⅰ令和6年度税制改正

個人所得課税

  所得税・個人住民税の定額減税

    令和6年分の所得税・令和6年度分の個人住民税について、納税者及び配偶者を含めた扶養親族1人につき、所得税3万円・個人住民税1万円を控除する。ただし、納税者の合計所得金額が1,805万円以下である場合に限る。

  ストックオプションの利便性向上

    スタートアップが付与したストックオプションの場合に、年間の権利行使価額の限度額を最大で3,600万円に引き上げる。

  住宅ローン控除の拡充(子育て支援税制の先行対応)

    住宅ローン控除について、令和6年限りの措置として、子育て世帯等に対し、借入限度額を、認定住宅は5,000万円、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円へと上乗せする。また、床面積要件を緩和する。

  森林環境譲与税に係る譲与基準の見直し

    これまでの譲与税の活用実績等を踏まえ、「私有林人工林面積」の譲与割合を5.5割(現行:5割)、「人口」の譲与割合を2.5割(現行:3割)とする。

資産課税

  土地に係る固定資産税等の負担調整措置

    宅地等及び農地の負担調整措置について、令和6年度から令和8年度までの間、商業地等に係る条例減額制度及び税負担急増土地に係る条例減額制度を含め、現行の負担調整措置の仕組みを継続する。

  法人版事業承継税制の特例措置に係る特例承継計画の提出期限の延長

    法人版事業承継税制の特例措置について、特例承継計画の提出期限を2年延長する。

法人課税

  賃上げ促進税制の強化

    従来の大企業向けの措置について、税額控除率の上乗せ措置(賃上げ4%以上に対して5%、5%以上に対して10%、7%以上に対して15%、プラチナくるみんやプラチナえるぼしの認定を受けている場合に5%等)等の見直しを行った上、その適用期限を3年延長する。

    従来の大企業のうち従業員数が2,000人以下の法人について、3%以上の賃上げを行ったときは、その10%の税額控除ができる中堅企業向けの措置を加える。この場合において、4%以上の賃上げを行ったときは15%、教育訓練費の増加割合が10%以上等であるときは5%、プラチナくるみんやえるぼし(3段階目)以上の認定を受けているときは5%を税額控除率に加算する。

    中小企業向けの措置について、教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置について、教育訓練費の増加割合が5%以上等である場合に適用できることとし、くるみんやえるぼし(2段階目)以上の認定を受けた場合に税額控除率に5%を加算する措置を加え、5年間の繰越控除制度を設けた上、その適用期限を3年延長する。

    法人事業税付加価値割における雇用者給与等支給額の対前年度増加額を付加価値額から控除する措置について、法人税の賃上げ促進税制の見直しに合わせ、適用要件等の見直しを行った上、その適用期限を3年延長する。

  中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充

    中小企業事業再編投資損失準備金制度について、複数回のM&Aを実施する場合において、その株式等の取得価額に90%又は100%を乗じた金額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できる措置を加える。

  戦略分野国内生産促進税制の創設

    産業競争力強化法(改正を前提)の認定事業適応事業者が、産業競争力基盤強化商品生産用資産の取得等をしたときは、その認定の日以後10年以内の日を含む各事業年度において、その産業競争力基盤強化商品生産用資産により生産された産業競争力基盤強化商品のうちその事業年度の対象期間において販売されたものの数量等に応じた金額の税額控除ができることとする。

  イノベーションボックス税制の創設

    国内で自ら研究開発した知的財産権(特許権、AI関連のプログラムの著作権)から生ずる譲渡所得、ライセンス所得のうち、最大30%の金額について、その事業年度において損金算入できることとする。

  第三者保有の暗号資産の期末時価評価課税からの除外

    譲渡についての制限その他の条件が付されている暗号資産の期末における評価額は、原価法または時価法のうちその法人が選定した評価方法により計算した金額とするほか、所要の措置を講ずる。

  交際費から除外される飲食費に係る見直し

    交際費等の損金不算入制度について、損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準を1人当たり5,000円以下から1万円以下に引き上げることとした上、その適用期限を3年延長する。

  外形標準課税の適用対象法人の見直し

    外形標準課税の対象法人について、現行基準を維持した上で、当分の間、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする。

    資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人等の100%子法人等のうち、資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする。

消費課税

  プラットフォーム課税の導入

    国外事業者がデジタルプラットフォームを介して国内向けに行うデジタルサービスについて、国外事業者の取引高が50億円超のプラットフォーム事業者を対象に、プラットフォーム事業者に消費税の納税義務を課す制度を導入する。

    あわせて、国外事業者により行われる事業者免税点制度や簡易課税制度を利用した租税回避を防止するため、必要な制度の見直しを行う。

  外国人旅行者向け免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し

    外国人旅行者向け免税制度については、制度が不正に利用されている現状を踏まえ、出国時に税関において免税購入物品の持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度へ見直す。制度の詳細については、外国人旅行者の利便性の向上や免税店の事務負担の軽減に十分配慮しつつ、空港等での混雑防止の確保を前提として、令和7年度税制改正において結論を得る。

  航空機燃料譲与税に係る譲与基準の見直し

    着陸料に代えて、新たな譲与基準として「航空機の重量×着陸回数(延べ重量)」及び「旅客数」を用いる。また、延べ重量及び旅客数については、空港対策に関する財政需要との対応性を考慮し、必要な減額・増額補正を行う。

国際課税

  グローバル・ミニマム課税への対応

    令和5年度税制改正で法制化した所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)について、経済協力開発機構(OECD)によるガイダンスや国際的な議論の内容を踏まえた制度の明確化等の観点からの見直しを行う。

  非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等

    OECDにおいて策定された暗号資産等報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)に基づき、租税条約等により各国税務当局と自動的に交換するため、国内の暗号資産取引業者等に対し非居住者の暗号資産に係る取引情報等を税務当局に報告することを義務付ける制度を整備する。

納税環境整備

  GビズIDとの連携によるe-Taxの利便性の向上

    法人が、GビズID(一定の認証レベルを有するものに限る。)を用いてe-Taxにより申請等を行う場合には、その申請等を行う際の電子署名等を要しないこととする。

  更正の請求に係る隠蔽・仮装行為に対する重加算税制度の整備

    隠蔽・仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合を重加算税の適用対象に加える。

  不正申告を行った株式会社の役員等に対する徴収手続の整備

    偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等(株式会社の発行済株式の50%超を有し、偽りその他不正の行為をした者等に限る。)は、株式会社等から徴収不足となるときに限り、株式会社等から移転した一定の財産の価額を限度として、その国税の第二次納税義務を負うこととする。

  地方公金に係るeLTAX経由での納付

    eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じた電子納付の対象に地方税以外の地方公金を追加することとし、地方税共同機構の業務に公金収納事務を追加する。

関税

  暫定税率等の適用期限の延長等

    令和5年度末に適用期限の到来する暫定税率(411品目)の適用期限を1年延長する等の措置を講ずる。

  輸入手続の利便性向上

    特例輸入者による特例申告の納期限延長において必須とされている担保について、関税の保全のために必要があると認められる場合にのみ提供を求めることとする。

扶養控除等の見直し

児童手当については、所得制限が撤廃されるとともに、支給期間について高校生年代まで延長されることとなる。

これを踏まえ、16歳から18歳までの扶養控除について、15歳以下の取扱いとのバランスを踏まえつつ、高校生年代は子育て世帯において教育費等の支出がかさむ時期であることに鑑み、現行の一般部分(国税38万円、地方税33万円)に代えて、かつて高校実質無償化に伴い廃止された特定扶養親族に対する控除の上乗せ部分(国税25万円、地方税12万円)を復元し、高校生年代に支給される児童手当と合わせ、全ての子育て世帯に対する実質的な支援を拡充しつつ、所得階層間の支援の平準化を図ることを目指す。

さらに、扶養控除の見直しにより、課税総所得金額や税額等が変化することで、所得税又は個人住民税におけるこれらの金額等を活用している社会保障制度や教育等の給付や負担の水準に関して不利益が生じないよう、当該制度等の所管府省において適切な措置を講じるとともに、独自に事業を実施している地方公共団体においても適切な措置が講じられるようにする必要がある。

具体的には、各府省庁において、今回の扶養控除の見直しにより影響を受ける所管制度等を網羅的に把握し、課税総所得金額や税額等が変化することによる各制度上の不利益が生じないよう適切な対応を行うとともに、各地方公共団体において独自に実施している事業についても同様に適切な対応を行うよう周知するなど所要の対応を行う必要がある。

扶養控除の見直しについては、令和7年度税制改正において、これらの状況等を確認することを前提に、令和6年10月からの児童手当の支給期間の延長が満年度化した後の令和8年分以降の所得税と令和9年度分以降の個人住民税の適用について結論を得る。

ひとり親控除について、とりわけ困難な境遇に置かれているひとり親の自立支援を進める観点から、対象となるひとり親の所得要件について、現行の合計所得金額500万円以下を1,000万円以下に引き上げる。

また、ひとり親の子育てにかかる負担の状況を踏まえ、ひとり親控除の所得税の控除額について、現行の35万円を38万円に引き上げる。合わせて、個人住民税の控除額について、現行の30万円を33万円に引き上げる。

こうした見直しについて、令和8年分以降の所得税と令和9年度分以降の個人住民税の適用について扶養控除の見直しと合わせて結論を得る。

Ⅲ防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組む。なお、たばこ税については、加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている。同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に沿って税負担差を解消することとし、この課税の適正化による増収を防衛財源に活用する。その上で、国税のたばこ税率を引き上げることとし、課税の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとする。

あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとする。

財務省ホームページ