0o0dグッ

内部自治に関する規制の見直し

内部自治に関する規制の見直し
株式会社有限会社とを一つの会社類型(株式会社)として統合」の頁で述べたとおり、新会社法は、株式会社有限会社を統合して、株式会社に一本化することに伴って、有限会社法を廃止したうえで、取締役の人数制限や取締役会・監査役の設置義務のない株式会社を認めた。すなわち、内部自治に関する規制、特に機関設計に関する規制を大幅に緩和した。

【商法】

会社の規模により規制されていた。

1.大会社(資本の額5億円以上または負債200億円以上)
取締役+監査役会+会計監査人を設置しなければならない(監査役会設置会社)。
または
取締役会+三委員会+会計監査人を設置しなければならない(委員会等設置会社)。

2.中会社(資本の額1億円超かつ負債200億円未満)
取締役会+監査役を設置しなければならない。

3.みなし大会社(中会社のうち、大会社に関する規定の適用を受ける旨の定款の定めを設けた会社
大会社と同様。

4.小会社(資本の額1億円以下かつ負債200億円未満)
取締役会+(会計監査権限に限定した)監査役を設置しなければならない。

【改正の背景】

会社の規模とその機関設計とは必ずしも直結するものではない。

すなわち、中小企業については、「家族的経営のものから、将来の株式公開を見据えたいわゆるベンチャー企業」まで、また、大会社についても、「株式を公開することによって、多数の株主の変動が頻繁に生ずる会社から、株式の譲渡を制限することによって、株主数も少なく、その変動がほとんど予定されていない会社」まで、様々な実態の会社が存在していることから、会社の規模のみを基準として、一律にある機関設計を強制することは相当でない。

特に、中小企業については、任意に大会社と同様の機関設計を採用することを敢えて法で禁じなければならない合理的な理由は見出しがたい。また、大会社についても、株式の譲渡制限がある大会社については、株式を公開している大会社と比して、その機関設計を一定程度簡素化することを認めても差し支えない。

会社法

原則として、各会社は、株主総会および取締役以外の各機関等(取締役会、監査役監査役会、会計参与、会計監査人または三委員会等)を任意に設置できる(326条2項)。

ただし、①すべての種類の株式につき株式の譲渡制限制度を採用しておらず、株主が不特定多数となる可能性がある「公開会社」や、②会社債権者の数が多数に上ることが想定される「大会社」については、一定限度の厳格な会社形態を採用することを義務づける必要がある。

すなわち、

①「すべての株式会社」には、「株主総会」のほか、「取締役」を設置しなければならない(326条1項)。

②「公開会社」には、「取締役会」(業務執行機関)を設置しなければならない(327条1項)。

③「取締役会」を設置する場合には、「監査役監査役会も含む)」または「三委員会等」(業務監査・監督機関)のいずれかを設置しなければならない(327条2項本文、つまり、取締役会を設置しない場合には、監査役会および三委員会等を設置することができない)。ただし、株式譲渡制限会社において、「会計参与」(後掲)設置する場合には、この限りではない(327条2項但書)。

監査役監査役会も含む)と三委員会等とをともに設置することはできない(327条4項)。

⑤「大会社」には、「会計監査人」(会計監査・監督機関)を設置しなければならない(328条)。

⑥「会計監査人」(会計監査・監督機関)を設置するには、「監査役監査役会を含む)」または「三委員会等」(業務監査・監督機関)のいずれかを設置しなければならない(327条3項、328条1項)。

また、特に中小会社の計算書類の適正性を確保するため、公認会計士または税理士の資格を有する者を「会計参与」(取締役等と共同して計算書類を作成する役員)として設置することを可能とする制度を創設した(374条)。会計参与は、株式会社の規模にかかわらず、任意に設置することができる機関であり(326条2項)、計算書類の作成だけでなく、会社とは別に計算書類を保存し、株主や債権者に開示する義務を負っている(378条)。

以上を踏まえると、新会社法のもとでは、以下のような機関設計の選択肢が考えられる。

1.公開会社
(1)大会社
①取締役会(327条1項)+監査役会(327条2項本文)+会計監査人(328条)
②取締役会(327条1項)+三委員会(327条2項本文)+会計監査人(328条)
*会計参与の設置は任意。

(2)中小会社
①取締役会(327条1項)+監査役(327条2項本文)
②取締役会(327条1項)+監査役会(327条2項本文)
③取締役会(327条1項)+監査役(327条2項本文)+会計監査人
④取締役会(327条1項)+監査役会(327条2項本文)+会計監査人
⑤取締役会(327条1項)+三委員会(327条2項本文)+会計監査人
*会計参与の設置は任意。

2.株式譲渡制限会社
(1)大会社
①取締役+監査役(327条3項)+会計監査人(328条)
②取締役会+監査役(327条2項本文)+会計監査人(328条)
③取締役会+監査役会(327条2項本文)+会計監査人(328条)
④取締役会+三委員会(327条2項本文)+会計監査人(328条)
*会計参与の設置は任意。

(2)中小会社
①取締役
②取締役+監査役
③取締役+監査役(327条3項)+会計監査人
④取締役会+会計参与(327条2項但書)
⑤取締役会+監査役(327条2項本文)
⑥取締役会+監査役会(327条2項本文)
⑦取締役会+監査役(327条2項本文)+会計監査人
⑧取締役会+監査役会(327条2項本文)+会計監査人
⑨取締役会+三委員会(327条2項本文)+会計監査人
*④以外の場合には、会計参与の設置は任意。

 以上のとおり、「公開会社」や株式譲渡制限会社であっても「大会社」は従前どおり規制が厳しいが、「中小会社株式譲渡制限会社」は柔軟な機関設計が可能となる。

そこで、例えば、将来株式の公開を目指すようなベンチャー企業の場合、設立当初は、取締役会を設置せず、取締役数名のみを設置し、資金調達が必要な段階や、上場の準備に入った段階で、監査役監査役会を設置するとともに、会計参与を設置するなど、会社の成長段階に応じた機関設計が可能となる。

なお、株式会社がどのような機関構成を採用しているかについては、株主のみならず、当該株式会社と取引をしようとする者や債権者にとっても重要な関心事であるため、各会社が、選択した機関構成を登記により開示しなければならない(911条3項15号~22号)。

もっとも、株式譲渡制限会社において定款で監査権限を会計に関するものに限ること(389条)は、必ずしも取引先等に必要な情報ではないので、登記事項とされていない。